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5話 暗がりに沈んだ心
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鳥の鳴き声に目を覚まし、ナルガは起き上がった。
すっかり日が昇って、明るくなっている。モノクロの景色をぼんやり眺め、ナルガは昨日の事を思い出した。
……ハローに助けられるとは、思ってなかったな。
ぼんやりしていると、外で話し声が聞こえた。蹄の音も、家の前で聞こえる。
ナルガは青ざめ、扉の隙間から様子をうかがった。
そこにはハローと、王国軍の兵士が二人、立っていた。
「魔王軍の残党を見ていないか?」
「最後の四天王、ナルガが未だ見つかっていない。恐らくどこかに潜伏しているはずなのだが、心当たりがあったら教えてほしい」
兵士はハローにそう尋ねていた。彼のすぐ後ろには、その四天王の一人が隠れている。
まずい、気付かれたらおしまいだ。ナルガは手で口を塞ぎ、身を縮こませた。
「さぁ、見てないな」
ハローはナルガを庇い、嘘を吐いた。
ナルガは息を呑みつつ、事の次第を見守った。
「ちっ、ここも外れか……一体どこへ身を隠しているんだ」
「領内の端っこまで捜索してるのに目撃情報すらないなら、別の国へ逃げているかもしれないな。協力感謝する」
兵士を見送って、ハローは戻ってきた。
「やぁ、起きたんだな。安心して、追手は追い払ったよ」
「……二度も助けられたな」
「当たり前さ。俺がどんな人間か、君ならよく知っているだろう」
「ああ、そうだな。敵だろうと構わず救いの手を差し伸べる、底なしのお人よしだ」
ハローは十年前と、全く変わっていない。彼の手を借り、ナルガは立ち上がった。
「朝飯作ったんだ、食べよう」
ハローは野菜スープとパンを出してくれた。だけど、食べても味がしない。スープは白湯を飲んでいるようだし、パンはおがくずのようで、半分も食べきれずに残してしまった。
心が生きるのを拒むかのようだった。それでもハローは怒らず、
「昨日の今日だもんな、疲れてちゃ喉も通らないさ。俺仕事行ってくるよ、昼には一度戻ってくるから、待っててくれ」
どこまでも優しく、ナルガを受け入れてくれる。ハローは荷物を担いで出かけて行った。
ナルガは隅に座り込み、膝を抱えてじっとしていた。辛い記憶を思い出したかのように、左足が今さらズキズキと痛みだす。魔王の死を思い出し、彼女は唇を噛み締めた。
彼女の心は、完全に閉ざされていた。
すっかり日が昇って、明るくなっている。モノクロの景色をぼんやり眺め、ナルガは昨日の事を思い出した。
……ハローに助けられるとは、思ってなかったな。
ぼんやりしていると、外で話し声が聞こえた。蹄の音も、家の前で聞こえる。
ナルガは青ざめ、扉の隙間から様子をうかがった。
そこにはハローと、王国軍の兵士が二人、立っていた。
「魔王軍の残党を見ていないか?」
「最後の四天王、ナルガが未だ見つかっていない。恐らくどこかに潜伏しているはずなのだが、心当たりがあったら教えてほしい」
兵士はハローにそう尋ねていた。彼のすぐ後ろには、その四天王の一人が隠れている。
まずい、気付かれたらおしまいだ。ナルガは手で口を塞ぎ、身を縮こませた。
「さぁ、見てないな」
ハローはナルガを庇い、嘘を吐いた。
ナルガは息を呑みつつ、事の次第を見守った。
「ちっ、ここも外れか……一体どこへ身を隠しているんだ」
「領内の端っこまで捜索してるのに目撃情報すらないなら、別の国へ逃げているかもしれないな。協力感謝する」
兵士を見送って、ハローは戻ってきた。
「やぁ、起きたんだな。安心して、追手は追い払ったよ」
「……二度も助けられたな」
「当たり前さ。俺がどんな人間か、君ならよく知っているだろう」
「ああ、そうだな。敵だろうと構わず救いの手を差し伸べる、底なしのお人よしだ」
ハローは十年前と、全く変わっていない。彼の手を借り、ナルガは立ち上がった。
「朝飯作ったんだ、食べよう」
ハローは野菜スープとパンを出してくれた。だけど、食べても味がしない。スープは白湯を飲んでいるようだし、パンはおがくずのようで、半分も食べきれずに残してしまった。
心が生きるのを拒むかのようだった。それでもハローは怒らず、
「昨日の今日だもんな、疲れてちゃ喉も通らないさ。俺仕事行ってくるよ、昼には一度戻ってくるから、待っててくれ」
どこまでも優しく、ナルガを受け入れてくれる。ハローは荷物を担いで出かけて行った。
ナルガは隅に座り込み、膝を抱えてじっとしていた。辛い記憶を思い出したかのように、左足が今さらズキズキと痛みだす。魔王の死を思い出し、彼女は唇を噛み締めた。
彼女の心は、完全に閉ざされていた。
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