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1部

4話 心が壊れた者達

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 雨は激しくなっており、二人の声をかき消してくれる。これなら、誰にも話を聞かれないだろう。



「僕が許可するまでナルガを家から出すなよ。今王国軍は魔王軍の残党を追っている、昨日の時点で隣の村まで捜索網が広がっているそうだ。でも人手が足りないから、一週間待てば捜索網は解除されると思う」



「そこまで匿えば、ナルガは助かるんだな」

「保障はしないぞ。言っとくが、僕は最低限の事しかしないからな。お前の我儘で死にたくないんでね」

「それだけでもいいよ、手伝ってくれてありがとう」

「お前って奴は……んで、感想は」

「なんの?」

「十年越しに意中の女を連れ込んだ感想だよ」



 ハローは口をもごつかせた。

 勇者だった頃、ハローは何度も彼女と剣を交えた。その中であろうことか、ハローはナルガに対し、恋心を抱いてしまったのだ。

 当時のハローは対話を重んじる男だった。剣を抜くのは最後の手段で、どんな相手にも必ず、言葉を重ねる事から始めた。



 中でもナルガはハローの対話に幾度となく応じた、唯一の相手だ。



 時には正面から、時には剣を交えながら。彼女の生い立ちや、生きる目的、様々な事を聞いて、彼女と触れ合ってきた。

 彼女の高潔さに触れる内、ハローはナルガに惹かれるようになった。彼女の内情を知ってからは、顔を見る度に彼女を意識するようになって、最終的に異性として見るようになってしまったのである。



「敵の女に入れ込んで、二十七になってもなお純潔を貫くとはね。ピュア過ぎて眩しいよ」

「エドだって二十九なのに独身のままだろ」

「うるせ。惚れた女と再会出来て嬉しいのは分かるけど、くれぐれも調子に乗るなよ。ナルガはこの国に居場所がない、一つでも行動を間違えれば彼女を殺す事になる」

「分かっているよ、ナルガはなんとしても守る。絶対に守る。守らなきゃ、ならないんだ」



 一瞬、ハローの目から光が消えた。ハローの状態を不安に思いつつ、エドウィンは去っていった。



「お腹空いてないか? 簡単な物でよければ作る……よ?」



 ハローが戻ると、ナルガは座ったまま眠っていた。

 目の下には酷い隈がある、殆ど眠れてなかったのだろう。寝顔も苦痛に満ちていた。

 ハローはナルガをベッドに寝かせ、額を撫でた。



「大丈夫、俺が居る。もう敵同士じゃないんだ。何があろうと俺が、君を守るから……」
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