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92話 復活のアイカ

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 サンドヴィレッジの騒動を収めた後、ハワードガールズと合流した俺様はある物を用意していた。
 先のダンジョンで手にしていた、呪いの宝珠だ。こいつはそのままでは到底使い物にならない代物だが、俺様の手にかかればアイカの新たなコアにできるのさ。
 ミトラスもミニサイズになって同行し、心配そうに見つめている。任せておけよ、複製のサロメを倒したから、俺様もあいつのスキルが使えるのさ。

「色男、もうちょっとだけ聖剣を使わせてもらうぜ」
『構わないさ。俺とサロメは相性がいい、必ずアイカを救う力となるだろう』
「そいつは重畳。んじゃ、やるぜ!」

 聖剣エーデルワイスを通して、サロメのスキル【魂の浄化】を発動する。あらゆる穢れを取り払い、潜在能力を引き出す聖獣のスキル。こいつを使えば宝珠の呪いを払い、加えてアイカが望んでいた力も得られるようになるのさ。
 解呪が終わり、コアのよどみが消えた。あとはこいつをアイカにはめてやれば、万事解決さ。

「魔力の充填はお前さんがやりな。友達、助けるんだろ?」
―きゅっ!

 アイカのコアにミトラスの魔力が補充されていく。言っておくが、エルマーが作ったコアとはちょいと仕様が違うぜ。一回魔力を充填すればコアが永遠に魔力を作り続けるよう改造してやったからな。

「あれ、確かコアに思考機能があったはずだけど、記憶とかは大丈夫なの?」
「問題ない、【魂の浄化】の力で記憶も戻しておいたからよ」
「つくづく規格外ですね。あ、目を覚ましましたよ」

 アマンダたんに支えられながら、アイカが体を起こした。目をこすって、ぼんやりと部屋を見渡していた。

「ん……あ、れ……ここ……アイカの……?」
「Good morning、コーヒーでも飲むか?」
「おじさん……? それに、ミトラスも……アイカ、確かエルマーに、壊されて……!」
「災難だったな、けどもう大丈夫だ。ほれ見ろ、お前さんの命は確かに戻っているだろう? お前さんの心も元通りだろう? ミトラスがお前さんを助けてくれたんだ」
―きゅ、きゅきゅ?

 ミトラスが違うって首を振ってるが、間違っちゃいないだろう。お前さんが魔力を込めなきゃアイカは目覚めなかったんだ、この子が助かったのは紛れもなくお前さんの手柄だよ。

「……ミトラス、アイカを……助けてくれたんだ……ごめんね、アイカね、ずっと謝らないとって、思ってたことがあるんだ。今まで、ずっと攻撃して、ごめんね……アイカの我儘でずっと、いじめてきて、ごめんね……アイカ、ひどい子だよね……」
―きゅっ、きゅううっ
「優しいね、ミトラス……どうして、そんなにアイカにかまってくれるの?」
「んなもん決まってんだろ、友人だからだ」

 いい加減まどろっこしかったからな、俺様直々に教えてやるか。

「お前さんはずっとミトラスとぶつかってきただろう、そいつを通してミトラスはお前さんに友情を感じていたんだよ。だからずっとお前さんを見守ってきたし、助けるために力を分け与えたんだ。お前さんは自分を独りだと言っていたが、ずっと傍にいたんだよ。お前さんをずっと思い続けていた友がな」

 アイカは驚きの表情を隠せないでいる。さらにサプライズでもくれてやるか、実はこっそりハワードガールズに頼んでおいたんだよな。
 アイカを外に連れ出すと、そこにゃあサンドヴィレッジの住民どもが集まっている。事が収まったらアイカの家に来るよう伝えていたのさ。

「アイカ、無事だったのか?」
「急に怪物みたいになったから驚いたよ。でも今は元に戻ったんだね」
「一人で抱え込まないで、何かあったら頼りなよ」
「そうそう! アイカもこのサンドヴィレッジの一員なんだから」

 口々に出るのはアイカを気遣う言葉ばかり。どうだちび助、お前さんが俯いて見えなかっただけで、望んでいたものはずーっと傍にあったんだ。
 嘆く前に、上を向きな。宝物ってのは、案外手元にあるんだからな。

「皆、アイカを心配してくれてたの? アイカ、心無いのに、皆、アイカを心配してくれてたの……?」

 言った途端、アイカの頬に一筋のしずくが伝った。
 驚き、目に手をやるアイカ。目からは、涙がこぼれ落ちていた。
 サロメのスキル、【魂の浄化】は呪いを打ち破るだけじゃない。アイカの心を守るための力も備えてくれたのさ。
 涙を流す。アイカが望んでいた、自身の心を示す証をな。

  ◇◇◇
 
「もう行っちゃうの?」
「ああ、先約がいるもんでね」

 出立の準備を終えた俺様達は、アイカに見送られながら、サンドヴィレッジを立とうとしていた。
 エルマーは炎の聖獣を捕えようとしている。「ハワード・ロックになる」なんて意味不明な目標を立ててな。
 フウリちゃんを悲しませ、数多の精霊を殺し、挙句アイカの心を弄んだ。そう思うと、マーリンちゃんを助けたのも気持ちが悪くなってくる。
 そんな奴が「神の加護」を持ったらどうなるのか、容易に想像できる。強大な力に伴う責任を理解していない奴に、あの力を振るわせるわけにはいかねぇな。

「これ以上、エルマーの手で泣かせる女を増やすわけにはいかねぇんだ。だから俺様は止めなくちゃならねぇんだよ、最強の賢者として、イカれたコスプレイヤーの凶行をな」
「そっか……でも、おじさんなら大丈夫だよ。だっておじさんは、アイカを救ってくれたし、ミトラスとの約束も守ってくれた。そんな人なら絶対、絶対エルマーを止めることができるよ」
「あんがとよ、子供でも女からの応援は嬉しいもんさ。アイカはここでミトラスと待っていな、数日後には新聞に賢者ハワードの大手柄の一面がでかでかと載るからよ。スクラップすんの、忘れんなよ♪」
―きゅっ♪

 アイカとミトラスを撫でてやる。ミトラスは随分嬉しそうだが、アイカは少し不満そうだな。
 んー、もしかして、もしかしちゃったりする? うーむ、俺様ロリコンではないんだよなぁ。

「俺様に惚れたのかい?」
「……うん、そうみたい。だっておじさん、頼りになりすぎるから。一緒に居て暗い気持ちがなくなるし、約束、絶対守ってくれるし……それに、かっこいいから」
「へっ、見る目があるねぇ。だが残念な事に、お前さんは俺様の対象外だ。どれだけアピールされても、俺様のハートが揺らぐことはない。だからよ、お前さんはお前さんだけの相手を見つけな。今のアイカなら大丈夫だ、必ず見つけられるさ」
「ん……信じる、おじさんの言葉なら、アイカ、信じられる……」

 悔しい気持ちを必死に抑え込んで、健気なもんだ。俺様ってば、やっぱ罪な男だぜ。
 なぁんて達観していたらだ。ミトラスがアイカに魔力を与えて大人の姿にした。したらばだ。俺様の頬にアイカのキスが。
 したら、俺様の義手に紋章が浮かび上がる。召喚術の紋章か。

「これでアイカは、おじさんの眷属だ。加護のないゴーレムだが、アイカにも出来る事はあるはずだ。必要とあらば、いつでも呼んでくれ。アイカも必ず、役に立ってみせる」
―きゅきゅっ!

 ミトラスも頷いて、俺様の義手に魔力を流し込む。そしたらだ、

【スキル【心鏡の幻影】獲得】

 頭の中にアナウンスが聞こえてくる。わざわざスキルをプレゼントしてくれたのか。

「お前さんの、そのシャチの姿を形作っているスキルのようだな。相手に見せたい幻影を作り出すスキルか。あんがとよ、凄い便利なスキルだ」
―きゅっ♪
「二人から貰った力、ありがたく使わせてもらうぜ。んでもって、必ずエルマーを止めてやる。お前らがくれたこの力で、必ずな!」

 絶対に果たされる約束を結んで、俺様達は旅立った。エルマーが向かった、最後の聖獣が居る場所。ボルケーノカントリーへ。
 奴の拠点跡から手に入れた、時の止まった懐中時計を握りしめる。この壊れた時計を見ていると、エルマーの胸の内を表しているように思えて仕方がねぇ。

「まぁったく、あんたと居ると本当にトラブルが絶えないわね。結局エルマーとの喧嘩も大事になりそうだしさ」
「なんて文句言いながら、リサちゃんも楽しそうじゃない?」
「まぁねー。なんだかんだあんたのバカ騒ぎに付き合うのも嫌いじゃないし、どこまでもついて行ってやろうじゃない。エルマーが何しようとしてんのかも気になるしさ」
「「疑似・神の加護」に、ハワードになりたいという意味不明な目的……なぜそうまで貴方にこだわっているのか、その理由もまだわかっていませんしね」
「その答えは、ボルケーノカントリーに待っているんだろうさ。エルマーの奴が口下手なら、拳で語ってやるまでよ。んでもって、この賢者直々に教えてやるさ。俺様の持つ力の意味と、最強の肩書の重みをな」

 ハワードの名を語るのがどれだけ深く、重く、苦しい事か。本人様から教えてやる。
 自分自身を生きるのを諦めた、どうしようもないファック野郎にな。
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