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87話 聖獣からの依頼
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「それでそれで! 勇者カインはどうなったの!?」
コーヒーとケバブを楽しみつつ、アイカに冒険譚を語る俺様。今話しているのはカインが勇者と呼ばれるようになった事件だ。
「おう、ザルーガ地下洞窟に入り込んだ悪魔王に苦戦したんだが、あいつは見事討伐したんだ。勿論俺様やヨハン、コハクの援護あってのもんだ」
「そうなんだー。その悪魔王を倒してカインは勇者って呼ばれるようになったんだね」
「ああ。三年前、あいつが十五歳の頃だ。そいつをもって所有者の刻印も消したんだが、あいつ「師匠とくっつきたいから消さないで」とか泣きついてさぁ」
「勇者って甘えん坊さんなんだね」
「未だに俺様が恋しくてたまらないんだよ。何が悲しくて男に惚れられなきゃならねぇんだか」
「けどおじさん嬉しそうだよ」
「あいつの事は俺様もLikeだからな、慕われるのは悪くないさ。……そのころから四人で結婚しようとかぬかし始めたのには驚かされたがね」
「ほえ? 男の人同士で結婚できるの?」
「一応アザレアならできるな、珍しくその辺の法律がある国だからよ」
「ふーん。それでおじさんはするの?」
「誰がするかい、俺様はいたってノーマルだ」
「性癖は十分アブノーマルだと思いますけど」
「アマンダたん、ちょっとお静かに」
時々アマンダたんが合いの手を入れてくれるから、会話も弾む弾む。アイカも勇者と賢者の冒険譚で元気が出たみたいだな。
「んくんく……コーヒー美味しいね、砂糖とミルクが入ってていい匂いがするよ」
「俺様が淹れたんだから当然だ、勿論、ケバブも俺様お手製だぜ」
「ハワードは性格はともかく、料理も上手だから。期待していいよ」
「一言多いんじゃなぁいリサちゃあん?」
「何よ、間違った事言ってる?」
「おいおーい、俺様ほどの人格者捕まえて酷い事言ってくれたじゃなぁい」
「でもおじさん女の人のお風呂見てたよね? それっていい事なの?」
「悪い事だなうん、リサちゃんは間違ってなかったわ」
「はい論破ー」
「あはは、おじさんって面白いね」
「コメディアンとしても一流なんでね。それより、元気が戻ったな」
「うん、おじさんのお話が面白かったから。……ありがと」
アイカは小さくうつむいて、ちびちびとコーヒーを飲み始める。
「ねぇアイカ、どうしてさっき心がないなんて言ったの? 私にはちゃんとあるように見えるんだけど」
「……アイカはね、ゴーレムなんだよ。だから心なんてない。エルマーがそう言ってたんだ」
「あんなのの言う事なんて真に受けなくていいんだよ」
「アイカね、お姉さんがどうしてそんなに必死になるのか、よく分からないんだ」
アイカの手が震えだした。
「お姉さんだけじゃないよ。おじさんがどうしてそんなに楽しそうにしているのか、サンドヴィレッジの人たちがどうしてアイカをかまってくれるのか。アイカには全然分からないんだ。でもお返事しないと、またエルマーみたいに無視されるかもしれないから……頑張って笑って、明るくしてたの。けどそれだけじゃ、アイカの役割がないから……いつか見放されるのが怖くて……」
「んで、自分の役割としてミトラスとの戦いを選んだわけだ。ああやって聖獣相手にはしゃげば、人の目は引けるからな」
「ですが、そんな事をしていてはいずれアイカさんも危険な目に合ってしまいますが」
「いいの、それで。アイカはみんなと違って、加護もない、心もない。だから、壊れたっていいの。誰の気持ちもわからないままだから、アイカはもう、いなくなりたいの」
そう言い、目をこする。アイカは乾いた笑みを浮かべた。
「ほら、涙が出ない。アイカもアイカの事が、辛いのか苦しいのか分からない。アイカの事も分からないんだから、他の人の気持ちなんか分かるわけない。もう、考えたくないんだ」
「そうかい。ま、お前さんがそう思うんなら、そうなんだろうよ」
「ちょっとハワード、少しは考えなさいよ」
「いいんだよお姉さん。……アイカは、みんなが持っている物を何も持ってない。せめて加護だけでもって、思ってたんだけど……それもできそうにないし……」
「んま、お前さんがそう感じているなら俺様から言う事は何もねぇさ。だがな、一つ人生の先輩としてアドバイスさせてもらうぜ。今お前さんが抱いている「気持ち」、それだけは忘れるな。加護があろうが、心がなかろうが、「気持ち」だけはお前だけが持つ物だ。そいつまで無くしたら、アイカって存在自体もなくなっちまう。それだけは、忘れるなよ」
「……うん、ありがとおじさん」
とりあえず今日はこの辺で帰る事にし、俺らはアイカ邸を後にした。
アイカの奴、随分こじれたもんを抱えていたもんだ。エルマーが与えたもんを律儀に背負いやがって、健気にも程があるだろうよ。
「ねぇハワード、あの子って本当に心がないのかな。私はそう思えないんだけど、気にするようなことじゃないよね」
「俺様や君にはそうでなくとも、当人には重要な事なんだろう。感じ方は人それぞれだからな」
「では、貴方はアイカさんについてどう思っていますか?」
「エルマーに捨てられたショックを未だに引きずってんだろうな。実年齢五歳だろ? 生みの親に裏切られ、捨てられたのなら、そりゃあ心に傷を負うさ。そのせいで自分の事がわからなくなっちまったんだろうよ。
あいつはまだ子供だ、誰かが傍で守っていないとならない。なのにエルマーは失敗作扱いしてほっぽり出したんだ。なまじそいつを理解しているから、余計苦しいんだろうな。
周りが何を思っているのか分からないからこそ、孤独を感じてんだろう。無理に明るくして、どうにか周りに合わせて。それで心の均衡をつけているんだ」
「けど皆から好かれてるんだし、私達から見れば些細な事だと思うんだけどな……」
「ですが当人には重要な事なのでしょう。感じ方は人それぞれですから」
「アマンダたんの言う通りさ。はー……エルマーの野郎、面倒なもん残しやがってからに。って事でアマンダたん、俺様の心の均衡を保つために……おっぱい揉ませてくんない?」
「はいよろこんで♡ なんて言うわけないでしょう?」
はいアマンダたんからげんこついただきました☆ ……後頭部ぶん殴られたから、顔面から地面に倒れちまったよ。あとリサちゃん、頭踏んづけないでくれるかい?
「あんたなぁ、状況読まずにセクハラすんじゃないわよ。埋めるわよ?」
「もう埋まってんですけど。どうすんだこれ、このままじゃ温泉卵ならぬ温泉ハワードが出来上がっちゃうよ」
「ならとっとと出てきては?」
「出てきたらお尻さわせてくれる?」
「死ね変態」
倒れているおっさんにリサちゃんハンマー直撃。俺様を杭にして家でも建てるつもりかい。
「まー冗談はさておいてと」
「平然と起き上がりやがった……どんだけツッコミ入れてもマジめげないわねこいつ……」
「ハワードですから仕方ありませんよ。それで、今後の予定はいかがなさるのですか?」
「んー……あとで考えるさぁ。二人は先に戻っててくんない? 俺様、夜酒を買いに行ってるからさ」
「かしこまりました」
「変な所行って金するんじゃないわよー?」
二人と別れた所で、ため息をつく。そんなに催促すんなよ、今行くからさ。
「サンドヴィレッジから外れた所か、OK、ご招待に預かろうじゃない。お土産に酒を用意してんだろうな、期待してるぜ」
◇◇◇
約束の場所へ向かうと、クライアントが待っていた。
地の聖獣ミトラス、そのヌシが俺様の前に現れた。
―きゅきゅーっ!
「よく超音波が聞き取れたって? 当たり前だろ、俺様の耳はロバの耳よりいいからな」
アイカ邸を出てから、ミトラスが超音波で呼びつけてきたんだ。近づいたりしたらアイカに気付かれちまうからな。
―きゅきゅっ、きゅきゅーっ!
「はいはいそう叫ぶなよ。心配しなくてもお前さんの話は聞いてやるさ」
―きゅきゅきゅーっ!
ミトラスは嬉しそうに頷くと、砂の中から瓶を出してきた。こいつはビールか、土産のつもりのようだな、ありがたく貰っとくか。
「お前さんが俺様を呼びつけた理由は分かっている、アイカの事だろう?」
―きゅっ!
「アイカの事情は聞いといた。確かにあいつは随分孤独に苛んでいるようだな、んで、そんな子供に対しお前さんは何を求める。俺様に何を頼もうってんだい?」
―きゅきゅ……きゅっ。
「ま、だろうな。アイカの心を救ってくれか。確かにお前さんとアイカは意思疎通ができないし、下手に出たら却ってあいつの心を傷つけかねない。俺様が対処すんのが一番手っ取り早いわな」
―きゅっ!
「お前さんを殺そうと挑んでくる奴だってのに、どうしてそんな必死になるんだかね」
―きゅきゅきゅっ!
「へへ、俺様にしては野暮な事を聞いちまったか。すまねぇな」
ミトラスにしてみれば、アイカは自分と積極的にかかわって遊んでくれる、大事な友達なんだろうよ。
同じ物事でも、人によってとらえ方は違う。アイカにしてみれば戦いのようでも、ミトラスにとってはじゃれついているようなもんだ。
その結果、ミトラスは随分アイカに懐いているんだ。そしてアイカを親友だと思って、心から心配しているんだよ。
やぁれやれ、俺様、お涙頂戴劇は大嫌いなんだがなぁ。
ミトラスが持ってきたビールを一気に飲み干し、一息つく。呆気にとられている聖獣に空っぽの瓶を掲げて、
「俺様は聖獣とゴーレム娘の友情なんざ正直な所どうでもいいんだ。お前さんの頼みを受ける義理もない。だが……残念な事に俺様は前金としてビールを飲んじまった、食い逃げしたら賢者の名が廃れちまう」
―きゅきゅ……?
「仕方ねぇから受けてやるよ、聖獣ミトラス。お前が大事に思っている親友アイカは、この賢者ハワードが救ってやる。依頼を達成したら、もう一本こいつを奢れよ」
―きゅきゅ……! きゅきゅーっ♡
ミトラスは大喜びではしゃぎ、俺様の頬にキスして来やがった。性別不明なのにキスしてくんな、喜んでいいんだかわからねぇだろうが。
「ともあれ、俺様に任せておけばNo problemだぜシャチのお客さん。理由を知りたいかい?」
―きゅ?
「なぜなら、俺がハワード・ロックだからだ」
コーヒーとケバブを楽しみつつ、アイカに冒険譚を語る俺様。今話しているのはカインが勇者と呼ばれるようになった事件だ。
「おう、ザルーガ地下洞窟に入り込んだ悪魔王に苦戦したんだが、あいつは見事討伐したんだ。勿論俺様やヨハン、コハクの援護あってのもんだ」
「そうなんだー。その悪魔王を倒してカインは勇者って呼ばれるようになったんだね」
「ああ。三年前、あいつが十五歳の頃だ。そいつをもって所有者の刻印も消したんだが、あいつ「師匠とくっつきたいから消さないで」とか泣きついてさぁ」
「勇者って甘えん坊さんなんだね」
「未だに俺様が恋しくてたまらないんだよ。何が悲しくて男に惚れられなきゃならねぇんだか」
「けどおじさん嬉しそうだよ」
「あいつの事は俺様もLikeだからな、慕われるのは悪くないさ。……そのころから四人で結婚しようとかぬかし始めたのには驚かされたがね」
「ほえ? 男の人同士で結婚できるの?」
「一応アザレアならできるな、珍しくその辺の法律がある国だからよ」
「ふーん。それでおじさんはするの?」
「誰がするかい、俺様はいたってノーマルだ」
「性癖は十分アブノーマルだと思いますけど」
「アマンダたん、ちょっとお静かに」
時々アマンダたんが合いの手を入れてくれるから、会話も弾む弾む。アイカも勇者と賢者の冒険譚で元気が出たみたいだな。
「んくんく……コーヒー美味しいね、砂糖とミルクが入ってていい匂いがするよ」
「俺様が淹れたんだから当然だ、勿論、ケバブも俺様お手製だぜ」
「ハワードは性格はともかく、料理も上手だから。期待していいよ」
「一言多いんじゃなぁいリサちゃあん?」
「何よ、間違った事言ってる?」
「おいおーい、俺様ほどの人格者捕まえて酷い事言ってくれたじゃなぁい」
「でもおじさん女の人のお風呂見てたよね? それっていい事なの?」
「悪い事だなうん、リサちゃんは間違ってなかったわ」
「はい論破ー」
「あはは、おじさんって面白いね」
「コメディアンとしても一流なんでね。それより、元気が戻ったな」
「うん、おじさんのお話が面白かったから。……ありがと」
アイカは小さくうつむいて、ちびちびとコーヒーを飲み始める。
「ねぇアイカ、どうしてさっき心がないなんて言ったの? 私にはちゃんとあるように見えるんだけど」
「……アイカはね、ゴーレムなんだよ。だから心なんてない。エルマーがそう言ってたんだ」
「あんなのの言う事なんて真に受けなくていいんだよ」
「アイカね、お姉さんがどうしてそんなに必死になるのか、よく分からないんだ」
アイカの手が震えだした。
「お姉さんだけじゃないよ。おじさんがどうしてそんなに楽しそうにしているのか、サンドヴィレッジの人たちがどうしてアイカをかまってくれるのか。アイカには全然分からないんだ。でもお返事しないと、またエルマーみたいに無視されるかもしれないから……頑張って笑って、明るくしてたの。けどそれだけじゃ、アイカの役割がないから……いつか見放されるのが怖くて……」
「んで、自分の役割としてミトラスとの戦いを選んだわけだ。ああやって聖獣相手にはしゃげば、人の目は引けるからな」
「ですが、そんな事をしていてはいずれアイカさんも危険な目に合ってしまいますが」
「いいの、それで。アイカはみんなと違って、加護もない、心もない。だから、壊れたっていいの。誰の気持ちもわからないままだから、アイカはもう、いなくなりたいの」
そう言い、目をこする。アイカは乾いた笑みを浮かべた。
「ほら、涙が出ない。アイカもアイカの事が、辛いのか苦しいのか分からない。アイカの事も分からないんだから、他の人の気持ちなんか分かるわけない。もう、考えたくないんだ」
「そうかい。ま、お前さんがそう思うんなら、そうなんだろうよ」
「ちょっとハワード、少しは考えなさいよ」
「いいんだよお姉さん。……アイカは、みんなが持っている物を何も持ってない。せめて加護だけでもって、思ってたんだけど……それもできそうにないし……」
「んま、お前さんがそう感じているなら俺様から言う事は何もねぇさ。だがな、一つ人生の先輩としてアドバイスさせてもらうぜ。今お前さんが抱いている「気持ち」、それだけは忘れるな。加護があろうが、心がなかろうが、「気持ち」だけはお前だけが持つ物だ。そいつまで無くしたら、アイカって存在自体もなくなっちまう。それだけは、忘れるなよ」
「……うん、ありがとおじさん」
とりあえず今日はこの辺で帰る事にし、俺らはアイカ邸を後にした。
アイカの奴、随分こじれたもんを抱えていたもんだ。エルマーが与えたもんを律儀に背負いやがって、健気にも程があるだろうよ。
「ねぇハワード、あの子って本当に心がないのかな。私はそう思えないんだけど、気にするようなことじゃないよね」
「俺様や君にはそうでなくとも、当人には重要な事なんだろう。感じ方は人それぞれだからな」
「では、貴方はアイカさんについてどう思っていますか?」
「エルマーに捨てられたショックを未だに引きずってんだろうな。実年齢五歳だろ? 生みの親に裏切られ、捨てられたのなら、そりゃあ心に傷を負うさ。そのせいで自分の事がわからなくなっちまったんだろうよ。
あいつはまだ子供だ、誰かが傍で守っていないとならない。なのにエルマーは失敗作扱いしてほっぽり出したんだ。なまじそいつを理解しているから、余計苦しいんだろうな。
周りが何を思っているのか分からないからこそ、孤独を感じてんだろう。無理に明るくして、どうにか周りに合わせて。それで心の均衡をつけているんだ」
「けど皆から好かれてるんだし、私達から見れば些細な事だと思うんだけどな……」
「ですが当人には重要な事なのでしょう。感じ方は人それぞれですから」
「アマンダたんの言う通りさ。はー……エルマーの野郎、面倒なもん残しやがってからに。って事でアマンダたん、俺様の心の均衡を保つために……おっぱい揉ませてくんない?」
「はいよろこんで♡ なんて言うわけないでしょう?」
はいアマンダたんからげんこついただきました☆ ……後頭部ぶん殴られたから、顔面から地面に倒れちまったよ。あとリサちゃん、頭踏んづけないでくれるかい?
「あんたなぁ、状況読まずにセクハラすんじゃないわよ。埋めるわよ?」
「もう埋まってんですけど。どうすんだこれ、このままじゃ温泉卵ならぬ温泉ハワードが出来上がっちゃうよ」
「ならとっとと出てきては?」
「出てきたらお尻さわせてくれる?」
「死ね変態」
倒れているおっさんにリサちゃんハンマー直撃。俺様を杭にして家でも建てるつもりかい。
「まー冗談はさておいてと」
「平然と起き上がりやがった……どんだけツッコミ入れてもマジめげないわねこいつ……」
「ハワードですから仕方ありませんよ。それで、今後の予定はいかがなさるのですか?」
「んー……あとで考えるさぁ。二人は先に戻っててくんない? 俺様、夜酒を買いに行ってるからさ」
「かしこまりました」
「変な所行って金するんじゃないわよー?」
二人と別れた所で、ため息をつく。そんなに催促すんなよ、今行くからさ。
「サンドヴィレッジから外れた所か、OK、ご招待に預かろうじゃない。お土産に酒を用意してんだろうな、期待してるぜ」
◇◇◇
約束の場所へ向かうと、クライアントが待っていた。
地の聖獣ミトラス、そのヌシが俺様の前に現れた。
―きゅきゅーっ!
「よく超音波が聞き取れたって? 当たり前だろ、俺様の耳はロバの耳よりいいからな」
アイカ邸を出てから、ミトラスが超音波で呼びつけてきたんだ。近づいたりしたらアイカに気付かれちまうからな。
―きゅきゅっ、きゅきゅーっ!
「はいはいそう叫ぶなよ。心配しなくてもお前さんの話は聞いてやるさ」
―きゅきゅきゅーっ!
ミトラスは嬉しそうに頷くと、砂の中から瓶を出してきた。こいつはビールか、土産のつもりのようだな、ありがたく貰っとくか。
「お前さんが俺様を呼びつけた理由は分かっている、アイカの事だろう?」
―きゅっ!
「アイカの事情は聞いといた。確かにあいつは随分孤独に苛んでいるようだな、んで、そんな子供に対しお前さんは何を求める。俺様に何を頼もうってんだい?」
―きゅきゅ……きゅっ。
「ま、だろうな。アイカの心を救ってくれか。確かにお前さんとアイカは意思疎通ができないし、下手に出たら却ってあいつの心を傷つけかねない。俺様が対処すんのが一番手っ取り早いわな」
―きゅっ!
「お前さんを殺そうと挑んでくる奴だってのに、どうしてそんな必死になるんだかね」
―きゅきゅきゅっ!
「へへ、俺様にしては野暮な事を聞いちまったか。すまねぇな」
ミトラスにしてみれば、アイカは自分と積極的にかかわって遊んでくれる、大事な友達なんだろうよ。
同じ物事でも、人によってとらえ方は違う。アイカにしてみれば戦いのようでも、ミトラスにとってはじゃれついているようなもんだ。
その結果、ミトラスは随分アイカに懐いているんだ。そしてアイカを親友だと思って、心から心配しているんだよ。
やぁれやれ、俺様、お涙頂戴劇は大嫌いなんだがなぁ。
ミトラスが持ってきたビールを一気に飲み干し、一息つく。呆気にとられている聖獣に空っぽの瓶を掲げて、
「俺様は聖獣とゴーレム娘の友情なんざ正直な所どうでもいいんだ。お前さんの頼みを受ける義理もない。だが……残念な事に俺様は前金としてビールを飲んじまった、食い逃げしたら賢者の名が廃れちまう」
―きゅきゅ……?
「仕方ねぇから受けてやるよ、聖獣ミトラス。お前が大事に思っている親友アイカは、この賢者ハワードが救ってやる。依頼を達成したら、もう一本こいつを奢れよ」
―きゅきゅ……! きゅきゅーっ♡
ミトラスは大喜びではしゃぎ、俺様の頬にキスして来やがった。性別不明なのにキスしてくんな、喜んでいいんだかわからねぇだろうが。
「ともあれ、俺様に任せておけばNo problemだぜシャチのお客さん。理由を知りたいかい?」
―きゅ?
「なぜなら、俺がハワード・ロックだからだ」
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