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77話 恋のキューピットも悪くない

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 鬼畜外道な街長は取り押さえられ、豚箱にぶち込まれた。さんざんっぱら女を虐げてきた報いだ、残った寿命全部をかけて償うことだな。
 騒動の熱も冷めてきて、エルマーと話す時間を作れた。さてと、事情聴取させてもらいますかね。

「お前、最初から俺様を利用して儀式を潰すつもりだったんだな」
「おっと、ばれましたか。前々から気に入らない伝統でしたのでね、どうにかして壊そうと思っていたところへ貴方が入国したのです。これは是非ともご協力していただこうと思いまして」
「はん、いけしゃあしゃあと言うもんだぜ。てめぇが自分の思う通りに進ませるため、俺様を誘導したわけか。この賢者を手玉に取るとはやるじゃねぇか」
「ですが私が介入せずとも同じ結果になったでしょう。女性を犠牲にするような儀式を貴方が放っておくわけがない。私はハワード・ロックの正義に従ったまでです」
『じゃが、余計に貴様が分からなくなったの。一体貴様は何がしたいのじゃ? 何を目的として行動しているのじゃ』

「私の行動理由はただ一つですよ。ハワード・ロックになりたい、これが私の原点です」
「俺様になりたいだぁ? んなもん無理に決まってんだろ、この世にハワード・ロックはただ一人だけ。もちろん敬愛のエルマーも一人だけだ。それが分からない奴じゃないだろ」
「いいえ、私は私になる事は出来ません。今のままではハワード・ロックになれないのも分かっています。ですので、もうしばらく私に付き合ってもらえますか。より貴方を知り、近づくために。そしてガーベラに貴方の名声を広げるために」
「けっ、男と付き合う趣味はねぇよ。女の子とのお突き合いなら別だがね」
「それは残念。そろそろ話題を変えましょう、私だけにかかりっきりは出来ませんし」
「ああ、まだ聞きたい事はある。サロメの本体はどうした? またテンペストの時みたいにやらかしたんじゃねぇだろうな?」

「いいえ、今回は何も。そもそもサロメ自体が戦いに向いていませんからね」
「んん? どゆこと? だってレベル700もある聖獣でしょ、強いんじゃないの?」
「あのねリサちゃん、実はサロメって攻撃スキルを一個も持たない、おとなしい聖獣なんだよ。ステータスもレベルに反して低くてね、ヨハン一人でも捕まえられるくらいなんだ」
「性格は非常に温厚で、回復魔法のスキルしか持っていないのです。なのであのコピーではハワードに勝つどころか、傷一つつける事も出来ません。ただのハリボテなのです」
「街長なのにそんな事も知らなかったなんて……何が歴史ある伝統よ、自分が大事な歴史を忘れてんじゃない」
「私としても、雇い主の愚かさにはため息しか出ませんね。ああ、安心してください。今回はサロメと話したうえでコピーを作りました。事が終わったら呼ぶ約束をしていますので、しばしお待ちを」

 エルマーは湖に飛び込んでサロメを呼びに行った。なんか勝手に仲間面してんだけど。

「あいつって悪人なのかな。いや、フウリにした事を忘れたわけじゃないんだけど……」
『わらわもよく分からなくなったの、悪逆非道を平気で行いながら、人助けを進んで行う。カインに聞いた通り、謎の多い冒険者じゃ』
「カインだと? 今あいつエアロタウンにいるのか」
『うむ、しばし滞在して汝の課題を考えると言っていたの』
「そうか……きちんと俺様の課題を理解しているようだな」

 すぐに追いついたらてめぇの成長につながらねぇ。今はしっかり考えな、俺様がエアロタウンでやった事をしっかりかみしめてな。

「お待たせしました、もうすぐきますよ、サロメが」

 エルマーが戻ってくるなり、湖に巨影が映った。
 そしたら爆発音とともに、サファイアのように美しい藍色の体毛を持つマンモスが飛び出してきやがった。
 禍々しかったコピーと違って、とても綺麗なマンモスだ。心なしか周囲の空気も澄んでいるように見える。こいつが水の聖獣サロメの姿なんだな。

―ぱおーん!
「やっぱ鳴き声は可愛いのな」
「うん、なんか愛嬌あるって言うか……目も円らだし、もふもふだし……」
「私も初めてサロメ様を見ましたけど、こんなに綺麗なゾウさんだったんですね」
「ハワード、りんごをあげてみてもいいですか?」

 出てくるなりレディのハートを鷲掴みかい。やっぱもふもふは正義なのなぁ。

―ぷお……ぱおっ
「Oh、俺様に鼻擦り付けてどうしたんだい? キスはレディからしか受け付けてないぜ」
―ぱおぱおっ♪
『どうやら、汝がマーリンを守った事に礼を言っておるようじゃな』
「ほー、やっぱ聖獣は賢いな。古の勇者が見込んだ奴なだけはあるぜ」
―ぷおー♪
「おーよしよし、かわいいやつだ。どうやら、俺様に来て欲しい場所があるようじゃないか」
―ぱおっ!

「それでは、この先の事は貴方に一任いたします。私はここで失礼しますよ」
「なぜハワードに責任を押し付けるのですか?」
「賢者でなければ対応できない案件ですので。では、私はここで失礼させていただきますよ」
「Hey! 手土産もなしにバイビーかい? そいつは失礼すぎやしねぇか」
「サンドヴィレッジ、次はそちらでお待ちしています。そこでなら、もう少し長くお話できるかと」

 それだけ残してエルマーは転移しちまった。ミステリアスすぎる奴だぜ。

「あいつの事は放っておくか、それよりサロメだ。俺様に見せたいものがあるようだが、リゾートにでも連れて行ってくれるのかい?」
―ぷおっ

 サロメは俺様達とマーリンちゃんを背に乗せ、湖の底へ連れて行った。
 そこにゃあサロメが入れるくらいの洞窟がぽっかりと開いており、奥へ連れていかれるとそこには……。

「Wow、女エルフの集落はっけーん♪」

 そう、結構な人数のエルフちゃん達が生活していたのだ♡

「え、えっ? 男の人?」
「どうして、何があったんですかサロメ様」
「おやー? 随分狼狽えて、男を見るのが久しぶりそうな感じ。まぁ、背景考えれば当然か」
「もうわかったの?」
「今まで生贄にされてきた子達だろ? サロメは儀式で女の子が沈められる度、救出してきたんだ。んで、この子らを保護できる奴が来た、エルマーにそう言われて俺様をここへ連れてきたんだろう」
―ぷおっ! ぱおぱお。

『うむうむ……十年おきに女の人が落ちてくるから助けていたそうじゃ。地上にいると危ないと判断して、ここでかくまっていたようじゃの』
「姿を見せなくなったのも、この方々の保護に注力していたからのようですね」
「だろうな。ま、安心しろよ。もう地上に危険はない。この子らを戻しても大丈夫だ」

 という事で彼女らに事情を説明する。そしたら心底ほっとしたような顔で胸をなでおろしていた。

「あ……」
「どうしたんだい?」
「いえ、今また、声が……それにとても、近いです」
「ああ、確かに近いな。はっきりと聞こえたぜ」
「賢者様も聞こえたのですか?」
「レイクシティに入ってからずっとね。恐らく、「神の加護」を持っているからだろうな」

 声はこっちにこいと呼び続けている。さてと、色男と対面しにいこうか。
 マーリンちゃんを連れて奥へ行くと、鳥の巣のような籠が見えてきた。中には何も入っていない……だけども、強い魔力を感じるぜ。

『待っていた、よく来てくれたなマーリン。そして賢者ハワード、彼女を助けてくれて感謝する』
「美女絡みの依頼だったから受けたまでさ。とっとと姿を見せろよ、古の勇者様」
「勇者、さま?」
『ああ、今すぐに行く』

 瞬間、俺様の前に古びた剣が現れた。浮島に刺さっていた、勇者の剣だ。
 その剣から男の幻影が現れる。青い髪をした、鎧姿の精悍な顔立ちの男だ。

「あなたは、確か本で読みました……ザンドラ湖に聖剣を残した勇者……アーサー様」
『そうだ。肉体は滅びたが、魂だけは剣に保存し、思念体として生き続けていたんだ。これまで姿を見せられず、君には寂しい思いをさせてしまった。本当に、申し訳ない』

 アーサーは深々と首を垂れた。マーリンちゃんはおろおろして、

「あの、お顔を上げてください。それよりも、あの声は勇者様の、なんですよね? どうして私なんかに、ずっとお声を?」
『ああ……すまない賢者、代弁してくれ。口にするのがその、気恥ずかしい』
「シャイな奴だぜ。あのねマーリンちゃん、君はアーサーの恋人の転生者なんだよ」

 この地に剣を置いた勇者アーサーにゃ、エルフの恋人がいたと聞く。
 彼女は亡くなったそうだが、魂は回り回って転生を果たした。そいつがマーリンちゃんってわけさ。
 んでもって俺様は、レイクシティに来てから頼まれていたのさ。マーリンちゃんを助けてくれとな。

「君はずっとアーサーに見守られていたんだ。愛した女が来るのをずっと待ち続けていた、一途にもほどがある勇者様にな」
『君が転生したのを知った時、俺はとても喜んだよ。きっとこの世界の誰よりも、君が生まれた事を喜んだ自信がある。君に会えて、本当にうれしいよ』
「……私が聞こえていたのは、励ましの声でした。貴方がずっと、傍で支えていてくれたのですね」

 呆れるくらいまっすぐな男だぜ、どっかの弟子によく似てやがる。

『だがこのままでは、俺は君に触れることができない。だからこそ、「神の加護」を持つ者に出会えてよかった。賢者ハワード、力を貸してくれるか?』
「いいぜ、乗り掛かった舟だ。都合の良い事に、俺様はテンペストの力も持っているからな。お前さんのやりたい事も実現できるだろうよ」
「何をなさるんです?」
「アーサーの復活」

 テンペスト、お前の力を貸してもらうぞ。エルマーのコピーを倒したから、俺様も聖獣のスキルを使えるようになっているのさ。

「聖剣も借りるぞ、その方が効果的だからな」
『「神の加護」を持つ賢者なら、この剣も使いこなせるな。頼む』
「はいよ……【生命の旋風】、発動!」

 剣を握って籠の中にスキルを使うと、周囲の魔力が集まってきた。そいつをコントロールしていくと、やがて籠の中に赤ん坊が現れた。
 どうやら、勇者アーサーが生前に仕掛けを施していたようだ。「神の加護」を持った者が魔力を込めれば、新しい肉体が生み出される仕掛けをな。サロメには、そいつを迎えに来させる役割も与えていたってわけか。

「テンペストのスキルで頑丈な体と、エルフ張りの寿命も持たせてやったぜ。マーリンちゃんのための特別サービスだ、お代はいらねぇよ」
『すまない、賢者ハワード。あとは、この子に……』

 アーサーが手をかざすと、赤ん坊に魂がこもった。アーサーの魂だ。
 同時に泣き出す赤ん坊。今まさに俺様達は、勇者の転生に立ち会ったわけだ。

「抱き上げてやりなよ、マーリンちゃん」
『俺からも頼む。俺はずっと、君を待っていた。ほかでもない、君に抱き上げてほしいんだ』
「……はいっ!」

 マーリンちゃんが抱き上げるなり、赤ん坊は笑って手を伸ばした。
 どれだけの時間がかかったか分からないが、千年もの時間を経て、勇者と勇者の愛したエルフが再会を果たしたんだ。

「たまにゃあ、野郎の依頼も受けてみるもんだな」

 恋のキューピット役も、嫌いじゃないからよ。
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