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76話 賢者の逆鱗

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「いよっし! どーよ新装備の威力!」
「流石だぜリサちゃん、俺様も大満足の一撃だ」

 木陰から飛び出してきたリサちゃんが会心の笑みを見せた。俺様は改めて、義手に加えられた武器を見てみた。
 掌に小さな水晶玉が装備されている。様々な魔石を使って作り上げた、魔力を集約し光線として打ち出す武器だ。
 サロメのコピー体はどてっぱらに大穴を空けている。俺様の莫大な魔力を前提に作られているから、威力はお墨付きさ。

「その名もリサちゃんキャノンVer零! あんた程の魔力があれば弾切れは絶対起こさないわ、遠慮なくガンガン撃っちゃいなさい!」
「Thanks Buddy! けどそのネーミングはハイセンスすぎるから魔導砲に改名させてくれ」

 ハードボイルドが使うにゃフリルが付きすぎた名前だぜ、おっさんのメイド服姿でも見たいのかい?

「名前はさておき、マーリンちゃんを連れて下がってくれ。この地に救済の手を差し伸べて、最高のハッピーエンドに導くからな!」
「了解、さ、はやくこっちに」
「はいっ。賢者様、どうかご武運を」
「運なら既に向いてるさ、勝利の女神達がついてくれているのだから」

 さーて、終わらせるとするか。勇者の名を語る茶番をな。
 軽く話している間に、サロメの体は治っていた。エルマーの奴が治したんだろう。
 そうでなきゃ面白くないぜ、折角リサちゃんが作ってくれたアクセサリーなんだ、一発で終わったらつまらないだろう。

「そうだ! キャバ嬢の名刺をもらってたんだ、丁度祭りのクライマックスだし、ゲストで呼ぶとしよう」
「おや? 貴方が訪れた街々にキャバクラなんてあったでしょうか?」
「安心しな、お前さんも知っているキャストだからよ」



『我に刻まれし風の意志よ 自由なる翼を持ちて光臨せよ!』
 


 詠唱と共に地面を殴り、魔法陣を生み出す。すると一陣の風と共に美しき精霊が現れ、街中に清らかな風を吹き荒らした。
 ざわめく民衆の前で、精霊が俺様に寄り添ってくる。再会できて俺様も嬉しいぜ。

「来てくれてありがとよ、フウリちゃん」
『わらわは汝と契約した身じゃ、いくらでも声をかけるがよい。しかしまぁ、サロメの相手とは。珍妙な場面で呼んだものじゃのう』
「折角君と踊るんだ、相応しい舞台が必要だろう?」
『憎い演出じゃのう。できればもっとゆっくり話したかったのじゃが……汝と共に居られる貴重な時間、たっぷり堪能するとしよう』
「Lets’enjoy! 手始めにGalleryには一歩引いてもらおうかな」

 フウリちゃんは頷くなり、風で船を押し返した。近づきすぎると怪我するぜオーディエンスども。

「客は客らしく、特等席で眺めてな」

 サロメに掌を向け、レーザーを連射する。瞬く間に蜂の巣へなっていくが、エルマーがすぐに治しちまう。
 術者が居るから面白い小細工が出来るもんだぜ。さーてどうするか。

「フウリちゃん、風の道を作れるかい?」
『お安い御用、任せるがよい』

 フウリちゃんが手を翳すなり、俺様の体が浮き上がった。二人で空を飛び回りながら、観衆どもに投げキッス。どうだい、粋な演出だろう?

「こいつはおまけだ、とっときな」
 【影魔法】でもう一回花びらを散らしてやる。フウリちゃんの風に乗って舞う光景は幻想的だぜ。
「ふむ、でしたら私も……サロメ」
―ぱおーむ!

 したらだ、エルマーの奴がサロメに水を吹かせて雨を降らせた。快晴の日差しが降り注ぐ中で振る雨か、中々洒落てるじゃないか。

「エルマー! 何をしている、さっさとそいつを殺せ!」
「まぁまぁ。ハワードのエンターテイメントを見れる機会など中々ないのです、この機会に乗らないでいつのるのですか?」
「き、貴様ぁ!」
『……奴は何をしておるのじゃ? ハワードと敵対しているのではないのか?』
「ちこーっと事情が複雑なのさ。しかしまぁ、遊び心のあるやつだ。なんなら殴り合いじゃなくて、エンタメ勝負でケリつけようか?」
「ふふ、負けませんよ」

 って事で突然始まるマジックショー対決。俺様とエルマーで様々なマジックを披露し、観衆達を盛り上げる。気づけば暗い空気は消え去って、あちこちで歓声が沸く明るい空気に満ちていた。

『ってなんじゃあこのやり合い、真面目にやらんかお前ら!』
「私達は真面目ですよ?」
「エルマー相手にゃこれでいいのさ、本当の敵は別に居るからよ」
「いつまで遊んでいるつもりだエルマー! もうよい、ワシがやる!!」

 テオドアジジイがサロメに飛びつき、エルマーを落とした。
 興奮した様子で俺様を見下ろし、凶悪な笑みを浮かべる。

「相手が賢者ハワードであろうと……サロメのコピーが居れば倒せる! 勇者様への儀式を邪魔した罰だ、無様に死ぬがいい!」
「勇者が生贄なんて必要な儀式を求めていると思ってんのか? 目の前で自分が愛した女と同じ種族が死ぬのを見せつけられる儀式なんざ、男なら断じてごめんだぜ」

 古の勇者さんよ、同じ「神の加護」を持つ者として……俺様が代わりにぶっ倒してやるよ。
 てめぇの名を語って女を弄ぶ、心の底からろくでもないファックな老害ジジイをな!

「潰せサロメ! 賢者の名を語る不届き者を今すぐ殺すのだ!」
―ぱおーん!
『おめでたい奴じゃ、愛玩動物一匹で駆除できるような男ではないぞ。なぜならこやつは……ハワード・ロックなのじゃから』
「Exactly! そんじゃ、身の程をしらん時代遅れのクソジジイに引導を渡してやるか!」

 義手を突き出して魔力の球体を作ると、フウリちゃんが手を添える。風の魔力が加わって、金属音のような甲高い音が響き始めた。
 大気を震撼させ、テオドアが驚愕する。そのコピーサロメを生贄にするなら、お前の大好きな儀式にぴったりだろう?

「Its grand finale!」

 レーザーを発射し、サロメが寸前で回避する。勢いあまって天まで届き、雲が一瞬で消え去った。
 回避したと思ってテオドアがにやりとする。俺ちゃんもついつい、笑っちまった。
 何しろあのレーザーは、回避不能の攻撃だからだ。
 刹那遅れて、サロメの体が見えない刃で切り刻まれていく。あのレーザーは風の魔力を周囲にまき散らしながら飛んでいてな、そいつに触れただけで体が真っ二つにされるのさ。

「ばかな、かすめただけでサロメが……やられるだと!? え、エルマー! なんとかしろ!」
「無理ですね。諦めて降りたほうがいい、死にますよ」
「ぐっ……おんのれぇ!」

 テオドアが飛び降りるなり、サロメが完全にチリとなり、風と共に消え去った。所詮は魂無きコピー、俺様に一矢報いる事すらできない雑魚敵にすぎないのさ。

「さて、年貢の納め時だぜ。素直にお縄を頂戴しな」
「ぐぬ……何をぬかしている、逮捕されるのは貴様の方だ! レイクシティの神聖なる儀式に泥を塗りおって、この代償をどう償うつもりだ!」
「悪いが既に手は回っていてな。お前さんが長年積み重ねてきた物を街の連中に見せてやろうか」

 丁度主賓も来たようだしな、化けの皮をはがしてやるよ、人喰いエルフ。

「おまたせしました。救助に少々時間がかかってしまい申し訳ありません」
「おーアマンダたーん! むしろいいタイミングだよ、バッチグー♪」

 アマンダたんが輸送用の大型船に乗ってやってきた。それに乗っているのは、ぼろ布みたいな粗末な服を着た女エルフ達。全員傷だらけで、中には焼き印を押されている子もいた。
 街人どもは首をかしげて見ているが、ジジイは顔が青ざめている。あの子達がお前のやってきた罪の数だよ。

『ハワード、あのエルフはなんじゃ?』
「このジジイが隠していた奴隷だよ。街の郊外、人目に付かない場所に牢を作ってやがってな。そこに収容していたんだ」
「な……なぜ、あの場所を……!?」
「賢者だから分かったのさ。お前は商人から幾人ものエルフを買い取っては監禁し、酷い虐待を加えていたんだろう? きちんと証拠は押さえているぜ」

 空中に霧を発生させた後、指を鳴らして、リサちゃん作のメモリアルオーブを起動する。したらだ。

『死にたくなければいい声で鳴け! 誰の慈悲で生かされていると思っている!』
『傷が痛むか? なら薬を塗ってやろう、染みるだろうが、遠慮なく叫ぶといい』
『お前に名誉ある印を刻んでやろう、さぁ喜んで鏝を受け入れろ!』

 霧のスクリーンに浮かび上がったのは、女の子達に非道を加えるテオドアの姿だ。アマンダたんに頼んで撮っておいたのさ。

『ほー……これはまたいい趣味じゃのう。折角ならば街人全員に見せてやったらどうじゃ?』
「よろしくフウリちゃん」

 って事でフウリちゃんにスクリーンを動かしてもらう。これで街人全員にクソジジイのハレンチな性癖が暴露されるな、あー恥ずかしー。

「こ、こ、こんなのはでっちあげだ! 勇者様の御霊に応え続けてきたワシがこんな真似をするはずが……! そ、そう! ワシはただ奴隷となった同胞を保護していただけで!」
「なら女の子達にインタビューしてやろうか? 本当に手厚く保護していたのか、本人たちに聞けば分かる事だからな」
「ちなみに、彼女達への脅しは一切無効ですよ。勇者パーティの賢者ハワードの前でそのような小細工が通用するはずがありませんからね」
「そゆこと」

 事前に彼女達には話をしてあるんでね、俺様が必ず守ると。今更ジジイの威嚇なんざ通用しねぇさ。

「この儀式とやらもお前が作り上げたもんだろう。勇者の名を語って女を溺死させ、その死にざまを見るためのな。伝統も歴史もただの建前、お前の下劣な殺人快楽を満たすための道具にすぎない。お前はただの殺人鬼。そうだろう?」
「ぐ……が……! エルマー! 何とかしろ、ワシは雇い主だぞ! この状況をなんとかするのも仕事だろう!」
「ああ、すみません。私が受けたのは儀式の防衛であって、テオドア氏の護衛は依頼外です。残念ながらお助けする事は出来ませんねぇ」
「なんだと貴様!? う、訴えるぞ!?」
「どうぞご自由に、いつでも受けて立ちますよ」
「話し合いは終わったな、チェックメイトだ。諦めて出頭しな」
「は……はは……終わり? ワシの愉しみが、終わり? こんな所で? は、ははは……へはははは! ハワード・ロックめがぁぁぁっ! ただで済むと思うなよぉぉぉっ!」

 杖に仕込んでいた剣を抜き、アマンダへ斬りかかっていく。虚を突かれたのか、アマンダは身動きが取れずにいた。

「貴様の女も道連れだぁぁっ! 女を殺す愉悦が味わえなくなるならせめて、賢者の女をぉぉぉっ!」
「……てめぇ、誰の女に手を出してんだ?」
 調子に乗ったジャーク野郎の首根っこを掴む。お前は今、踏み込んではならない一線を越えたな。
「賢者の逆鱗に気安く触れたんだ、当然覚悟はできているんだろう?」
「あ……ひ……ひぃぃ……!」
「……You cunt!」

 テオドアを思い切り殴り飛ばし、湖に叩き込む。エルフのクソジジイが無様に浮き上がり、偽りの歴史に終止符が打たれた。

「恐くなかったか?」
「驚きましたけど、恐くはありません。そもそも、恐がる必要なんてありませんから。傍に貴方がずっといますので」
「だろーね。そういやカインも昔同じ事言ってたっけなぁ、いやー俺様の頼り甲斐ってばすんばらしー♪」
「それはもう。ですが」

 アマンダは俺様の腕をつまんだ。

「今だけは……私だけのハワードで居てください」
「OK、君の我儘とあらば、喜んで」

  ◇◇◇

「…………」
「あー……なんつーか、ごめん。あいつ毎回女を口説いておきながらさぁ……」
「いえ、良いんです。なんとなく、分かっていた事なので。賢者様はとても、優しい方です。だからこそ苦しんでいる人を放っておけない……そんな人なのでしょう?」
「ん。スケベ親父であるけれど、そこは絶対ブレない奴だから」
「なら……諦めも付きます。大丈夫です。私は……?」
「どしたん?」
「今、声が。またあの声が、聞こえたんです」
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