勇者パーティを引退したのに、勇者が連れ戻そうと追いかけ回してくるんだが

歩く、歩く。

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55話 勇者パーティ再集結?

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 派手な喧嘩をしたせいで、飛空艇は完全に機能停止し墜落した。
 まぁ俺達なら余裕で脱出できるんだがね。一息にジャンプして戻るとするさ。
 見下ろせば、王国軍の船が出ている。後始末はあいつらに任せておけばいいだろう。頭は潰したし、もうザナドゥはおしまいだ。

 カインと共にラドラへ帰るなり、ヨハンとコハクが走ってくる。でもって、そのまま俺様に抱き着いてきやがった。コハクは頬にキスしてくれるし、ヨハンは泣いて喜んでくれるし、賢者冥利に尽きる奴らだぜ。

「ハワードさん! やっと会えた、なんで私達を避けてきたの? 酷いじゃない! 大好きな人に会えない苦しみ、分からないとは言わせないんだから!」
「あんたがいないせいで僕達、というより僕がどれだけ苦労してきたかわかってるのか? もう絶対離さないからなこの頼れるロクデナシ!」
「ええい離せい、コハクはともかくヨハンはべたつくんじゃねっての。俺様に会えて嬉しいのは分かるが、興奮しすぎだ」

「だって師匠をようやく捕まえる事が出来ましたもの……これで勇者パーティ再結成ですね! というわけでデートしましょう師匠!」
「お前はそればっかりか。どいつもこいつも甘えたがりで、困っちまうぜったくよぉ」
「でしたら、少しは困った顔をされてはいかがですか? そんな嬉しそうに緩んだ顔では説得力に欠けますよ」

 アマンダたんを先頭に、ぞろぞろと集まってくる。俺様そんなにへらへらしてたかしらね、こいつらに会えて嬉しいのは確かだけどな。

「しかし驚きだよ。信じていたけれども、こうもあっさり塔の魔人を倒してしまうとは。やはり凄いな貴公たちは、私なんかでは、とても追いつけそうにない」
「また自分を低めているのかい? 感心しないぜセピアちゃん」
「別に低めていないさ、むしろ勇気づけられた。……ありがとうハワード、貴方のおかげで私は頑張れるようになった」

 セピアちゃんは俺の胸にしなだれてくる。こんな甘えてくる彼女なんて、初めて見たぜ。

「甘え上手になったもんだ、前より魅力的になったぜ」
「そ、そうか? いや、貴方が頼ってもよいと言うから、つい……」
「俺様は大歓迎だ。だけどいいのかな? この状況で抱き着いちまって。人目あるよ?」

 セピアちゃんは真っ赤になって離れちゃった。あーあ、余計な一言いうもんじゃねーぜ。

「と、とにかくだ! 協力感謝する、勇者パーティ。貴公たちのお陰でザナドゥを壊滅させることができた。改めて、お礼を言わせてくれ」
「流石の活躍でしたハワード氏! それと、姉様を救っていただいて本当にありがとうございます」
「なぁに、俺様にとっちゃ簡単な仕事だったよ。何しろ俺様は世界最強の賢者、ハワード・ロックなんだからなっ」

「はいはい、自慢話はもういいから。それよりさ、皆でお祝いしない? 勇者パーティは再結成したし、ザナドゥも居なくなった。こんなにおめでたい事が重なったんなら、今日くらい嵌め外してもいいと思うんだけど」
―ばうっ!

 リサちゃんとがるるからパーティの提案か、そいつは悪くねぇな。こんだけ人数いるんだ、賑やかなパーティを楽しめそうだぜ。

「だったら、店は私が手配しておこう。世話になった礼をさせてくれ」
「ありがとさん。ほいじゃま、俺らも事後処理手伝いに行くとするか」
「はい! そのついでに、これからの事も話しましょうね」
「これから?」
「そうですよ。勇者パーティが揃ったんですよ師匠、次は何をしますか? 俺達、師匠にどこまでもついていきますよ!」
「僕もさ。ハワードさんと一緒の方が面白いし、何より楽でいいしね」
「だからハワードさん、遠慮せずなんでも言って。私達なんでもするから!」
「……お前ら、自分でやりたい事ないのか?」
「ええ、今の所は特に」

 この馬鹿弟子、笑顔で何頷いてんだ。
 カインと会った時から感じていたが……少し見ない間にこいつら、悪い方向に走ってやがったか。
 これは俺様も、鬼にならなきゃならないようだな。

  ◇◇◇

 事後処理を終えて夜、祝勝会は盛大に行われた。セピアちゃんが用意したのは気兼ねなくはしゃげる宿酒場で、ラドラ名産の海産物を使った料理が山と出てきやがった。
 一仕事を終えた後ってのはやっぱり腹が減るもんで、俺様は出てくるもんを片っ端から食い尽くしていった。酒も美味いしよ。

「そうそう、忘れちゃだめだな。セピアちゃん、これやるよ」
「む? 随分高そうな桐の箱だな。開けても?」
「勿論」

 箱を開けてセピアちゃんは驚いた。俺様からのプレゼントは、アンティークのティーカップセットだ。乳白色の上品な物で、可愛い兎の絵が描かれている。骨董屋にたまたま売ってたんだよねぇ。

「これ、どうして?」
「言ってただろ、紅茶淹れるのが趣味だって。だから終わった後に買いに行ったのさ」
「覚えていてくれたのか……」
「当然だろう? 俺様は約束を守る男だからな。嬉しくなかった?」
「嬉しいとも、大事にする」
「そうしてくれ。あとついでにもう一つ、プレゼントがあるんだよねぇ」

 なぁんて話したらだ、クロノアが大急ぎでやってきた。

「姉様、陛下から緊急の書状が届きました!」
「なんだと? 内容は」
「それが……「ザナドゥ党首を一刻も早く討伐せよ」との事で。なんでも今朝方、居城に巨大な火球が飛んできて、城が半壊したと同時に陛下も重傷を負ったようでして……」
「……え?」
「このような事をするのはザナドゥに違いないと……非常事態として一刻も早くザナドゥを潰せとの命令、なのですが……」
「なんか話が、変じゃないか? まさか……」

「おっとぉ、なんで俺様を見るのかなぁ? 別に俺様なんもしてないよ? ただ昨日酒飲みついでに、ファイアボールで蹴鞠してただけさ。まぁ最後に? 思い切り蹴っ飛ばしたから? どっかに流れ弾で飛んでいったかもしれねぇけどな♪」

「ふふっ、やっぱり夜に見たファイアボールはハワードさんのだったのね。念のため、情報操作しといて正解だった。ずっと一緒に旅してたから、やりたい事が何となくわかるのよね」
「また無茶やらかした気がしたから、僕らも色々細工していたんだ。カインに魔王討伐の責任押し付けた挙句、セピアさんに酷い事を言ってたからね、こっちも腹に据えかねてたんだ」
「けどよかったですねセピアさん。ザナドゥはもう倒していますから、堂々と国王様に報告できますよ。これまで貴方にしてきた無礼を、しっかり詫びさせる事も出来ますね」

「向こうが勝手にザナドゥの仕業だと勘違いしてんなら、遠慮なく擦り付けちまいな。でもって、流行遅れの裸の王様を思い切り笑っちまえよ。たまにゃあ上司に逆襲したって、罰は当たらないさ」
「……はは、はははっ、あはははは! 全く、言葉も交わさず合わせるなんて、なんてパーティだ。ばれたらアザレア王国を敵に回してしまうぞ?」
「かまわないですよ。女性を手ひどく扱う輩は」
「たとえ王でも許さない、って事さ。どうだい? 勇者パーティからのプレゼントは」
「ああ、最高だ。とても胸がスカッとしたよ。ありがとうハワード」
「違うだろ、こういう時は」
「ざまぁみろ、クソ陛下。だな」

 散々っぱらセピアをいじめてくれたんだ。国王とはいえ、きちんと報いは受けてもらうぜ。

「にしても、セピアさんばっかりずるいですよ、俺も師匠からプレゼント貰いたいです! というより結婚前提でお付き合いの程お願いします!」
「だぁからお前は俺の彼女か! コハクが居るのに浮気して、喧嘩になっても知らねぇぞ」
「大丈夫よハワードさん、私もバイだから。ハワードさんならむしろウェルカムよ?」
「それのどこを好意的に解釈すればいいのかわからねぇんだが……ヨハンよ、お前一人でこの馬鹿二人の相手を?」
「……僕の苦労、わかってくれた?」
「強く生きろよ、ロブスター食うか?」
「いただきます……」

 随分焦燥しきっちゃってまぁ、これまでの苦労が目に浮かぶようだぜ。
 だってのに悪いなヨハン。もう少しお前には、苦労を掛ける事になりそうだ。

「カイン、ちょっと来な。話がある」
「? はい」

 カインと二人、席を外す。誰の邪魔も入らない港へ向かい、話を切り出した。

「お前、俺をパーティに戻すためにここに来た。それで間違いないな」
「はい! 俺達には師匠が必要なんです、貴方が居なければ勇者パーティは成り立ちません」
「そうか。んで? 俺を連れ戻した後はどうするつもりでいたんだ?」
「それは話した通り、師匠の思うようにしていただければ。俺達はその通りに動くだけです」
「つまりは、何にも考えてなかったわけだな」
「え、ええ。そう言われると、ちょっと苦しいですけど」

 カインは肩をすぼめた。俺様はため息をつき、夜空を見上げた。

「結論から言おう。その体たらくじゃ、俺様は勇者パーティに戻れねぇ」
「えっ!? なんでですか!? 俺達は師匠の力になりたいんです、その右腕の代わりに俺達はなるって決めたんですから」
「いつ俺がそれを頼んだ? でもって、俺は右腕を無くして困っているように見えるか? 悲しんでいるように見えるか? むしろ楽しんでいるだろう。お前らの好意はむしろ余計なお世話なのさ」
「けど……」
「それよか俺はお前らの今後が心配だ。お前らは、俺に依存しすぎている。自分の人生を俺に決めてもらおうとしていて、とても自分の力で生きようって気概を感じないんだ」

 カインは俺に何をしようか尋ねた。その上で俺に従うとも言った。それは俺を気遣っているんじゃない、自分達の思考を停止して、俺におぶさっているだけにすぎねぇんだ。

「最初こそお前らの足枷にならないようにと思ったが、今は違う。俺様に依存しているお前らが俺様の足枷になっちまう。特にお前が、特大級の足枷になるだろうな」
「えっ……」
「カイン、お前は俺の弟子だろう? ならなんで師匠越えをしようとしない。師匠は弟子が超えるべき壁、大人への登竜門だ。そいつに挑もうとせず、ただ後ろをついて行くだけだと? ふざけるな。追いつくどころか、ついて来る事しか考えていないお前に、俺の弟子で居る資格はない」

「師匠……そんな……!」
「だからよカイン、俺の弟子で居たければ、俺を超えてみせろ」
「……師匠?」

「俺はずっと傍で成長を見続けていた。お前は何度も俺の期待に応えて、気が付きゃ魔王を倒す勇者にまでなっていた。だからこそ、お前が俺を超えてくれるのが、何よりも楽しみなんだ。これから言うのは、師匠から弟子への、最後の試験だ。そいつを乗り越えて、俺を上回ってみせろ、勇者カイン」

「……その内容は?」
「もう一度俺を追い回して、見つけてみろ。ただし、ただ追いつくだけじゃだめだ。俺を追う中でお前は何度も、俺の背中と素晴らしさを思い知る事になるだろう。そいつを受けて何を想い、何を感じたのか。その末に何を目指す事にしたのか。全てを伝えた上で、俺を超えてみろ。この試験に合格出来たら、改めて勇者パーティに戻ってやるよ」
「本当、ですよね? 本当に俺達のパーティに戻ってきてくれますよね?」
「俺が一度でも約束を破った事があるか?」
「ありません」
「ならそいつが答えだ」

 俺様は拳を突き出した。カインは頷くと、拳をぶつけてくる。

「分かりました、俺はもう一度、師匠を追いかけます。貴方が納得する答えを持って、必ず追いこしてみせますから」
「楽しみにしているぜ。だが覚悟しろよ? 俺様を超えるのは並大抵の覚悟じゃできねぇからな」

 どうやら、俺様のスローライフはまだまだ終わりそうになさそうだ。
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