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53話 塔の魔人ジョーカー

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「いぃぃぃぃぃぃぃぃやっふぅぅぅぅぅぅぅぅいいいいいい!!!」

 一息で飛空艇まで飛んでいって、豪快に着地する。飛空艇は思いっきり傾いで、ミシミシと悲鳴を上げていた。
 やぁれやれ、脆い船だぜ。パーティ会場としちゃあ殺風景だし、せめて酒の一つでも置いとけよな。それかケバブとかよ。
 肩を竦めつつ、艦橋を見やる。禍々しいオーラがそこから湧き出ている。あそこにジョーカーが居るようだな。

「招待客ほったらかして宗教活動に熱中か。賢者相手に魔除けの壺でも売りつけるつもりかい? 目を見張る美女なら有り金全部はたいて買ってやるけどな、ホテル代込みでよ♪」

 艦橋にジャンプして、窓を蹴破りお邪魔します。そこにはジョーカーと、鎖につながれた魔人の姿があった。
 鉄仮面をかぶった、人型の怪物だ。胸には、セピアちゃんから奪ったレグザの石がはめられている。

「ハローMr.joker、お迎えがこなかったんでこっちからきたぜ」
「これは申し訳ない。賢者をどうもてなそうか考えるあまり、出迎えを忘れていた」
「約束はちゃんと守れってママから教わらなかったようだな。んで、そいつが塔の魔人か。中々趣味のいい剥製ですこと」
「ふふ、そうだろう? このまま美術館にでも寄付してやっていいのだが、価値の分かる人間がどれだけ居るだろうな」

 ジョーカーは立ち上がるなり、振り向いた。
 目が黒く染まり、赤い瞳が怪しく光っている。儀式の影響のようだな。

「貴様には感謝せねばならないな、賢者ハワード。貴様と勇者カインの血があったからこそ、この儀式は完成したのだ」
「どういうことだい?」

「かつて塔の魔人を封印したソムニウムの先祖は、「神の加護」を持っていた。奴は塔の魔人を封印する際、レグザの石に力を封じ込めた。そこまでは貴様も知っているだろう。だが万一にも封印を解かれないよう、鍵として自身の血を使ったのだ」

「レグザの石に加えて、「神の加護」を持つ奴の血も一緒に捧げないと封印を解けないようにしていたのか。そいつは俺様も知らなかったなぁ。で? 特上のソースをかけたステーキを用意したから……塔の魔人を開放する準備が整ったわけかい?」
「その通りだ。貴様のおかげで俺は、魔王以上の力を手にする事が出来た。この意味がなんだかわかるか?」
「ウエディングドレスの準備が出来たんだろ」
「ご名答」

 ジョーカーは二振りのナイフを取り出した。俺とカインの血が付いたナイフか。
 そいつを塔の魔人に刺すなり、レグザの石から紫の手が伸び、ジョーカーを抱き寄せていく。ジョーカーが魔人に取り込まれるなり、魔人がギラリと目を光らせた。
 取り込まれた……というより、融合したようだな。

『ふっふっふ……はははははは! 取り戻せた、我が体を取り戻せたぞ! 素晴らしい、実に素晴らしい! やはり元の体は最高だ!』

 鎖を引きちぎり、鉄仮面を壊して、ジョーカーが俺の前に立つ。
 仮面の下に隠れていたのは、ジョーカーの顔だ。さっきのセリフから、こいつの正体が分かったぜ。

「お前がどうして、俺様すら知りえなかった復活の条件を知っていたのか分かったよ。お前自身が塔の魔人だったんだな」

『その通りだ。ソムニウム家は俺から魂を引きはがし、か弱きホムンクルスの体に封じ込めたのだ。力を失った俺は死ぬ事が出来ず、長きに渡り彷徨い続けた……それでもあきらめず、力を取り戻すべく活動を続けたのだ。人間の弱さに付け込み、醜き心を増長させ、配下に取り込んで……我が体を取り戻すべくザナドゥを結成したのだ』

「へえぇ……幹部三人も、そうやって弱味に付け込んで?」
『ああ。ジャックは仲間に裏切られて多額の借金を背負った冒険者、クィーンはその醜さから社会より爪弾きにされた貴族令嬢、キングは冤罪により落ちぶれた元騎士だ。そのような弱き人間を操るなど容易いものよ。そして今! 我が苦労は報われた! 俺は元の体を……塔の魔人の体を取り戻したのだ!』
「涙ぐましい努力だねぇ、俺様感動で泣いちゃいそうだよ。是非ともクラフ座で劇として披露してもらいたいもんだ。客なんざ入りそうにないけどな」

 独りよがりの自慰行為に興味を持つ奴なんて誰もいやしないだろう。大昔の老害が、お世話係探して徘徊してんじゃねぇってんだよ。

「さてと、体を取り戻してご満悦な所悪いが、お前さんに贈り物があってね。冥界ツアーの片道切符だ、特別にタダで譲ってやるからありがたく受け取りな」
『ロハとは嬉しいものだな、だが旅行の予定は間に合っている、購入した貴様が使うといい』
「遠慮するなって。ほらよ、馬車賃だ」

 銀貨を一枚、指で弾き飛ばす。ゆるやかに落ちていくのを眺めながら、俺様はあくびをした。
 と、銀貨が乾いた音を立てて、床に落っこちた。

『ハワードぉぉぉぉぉっ!』

 そいつを合図にジョーカーが襲い掛かってきた。
 迎え撃ち、艦橋から飛び出す。激しく殴り合い、蹴りを飛ばしあって、魔法をぶつけまくる。思う存分、魔人との喧嘩を楽しんだ。
 触れた瞬間分かったぜ、こいつはレベル999もある、太古の昔からやってきた強者だ。
 形だけでも俺様と戦えるとは、中々驚きだぜ。ちょっとした退屈しのぎにはなりそうだ。

「んで? 魔人様の力はこんなもんかい? もっと仰天物のスキルとかはないのかな?」
『余裕だな、賢者ハワード。言われなくとも見せてやるとも、この塔の魔人の力をな!』

 ジョーカーが手を翳すなり、紫の光が輝いた。海まで届くなり、海水に白い混濁物が浮き上がって、魚やクジラの死骸が浮き上がってくる。白い混濁物は、プランクトンの死骸だな。
 おまけに、飛空艇内に居た構成員も全滅している。このスキルは……。

「【腐食】かい? いや、【吸魂】かな? 生命エネルギーを吸い取るスキルのようだな」
『流石は賢者だ。【吸魂】が正解だよ。この塔の魔人はあらゆる命を貪り尽くす! この光を浴びれば最後、魂を吸い尽くされ、肉体は腐り落ちる! この力で俺はアザレア王国を滅亡寸前まで追い詰め、勇者にも致命傷を与えたのだよ!』

「そうか、【吸魂】か……【腐食】ならカマンベール作るのに役立ったんだが、そんなもんじゃゴブリンの干し肉作るのがせいぜいだぜ」
『この期に及んでまだ軽口を叩けるか。流石は賢者ハワードだ。だが、ここからは貴様でも手も足も出んぞ』

 ジョーカーの空気が変わった。本気で来るようだな。
 とりあえず様子見に、ファイアボールをぶっ放してみる。そしたら奴は俺様の魔法を吸収してしまった。
 何度か魔法を撃ってみるも、全部吸い取られちまう。へぇ、面白い事をするもんだ。

「【吸魂】の応用で魔法を吸い取れるってわけか」
『左様、この俺に魔法は通じぬ、ただ力を与えるだけだ。さぁ賢者よ、覚悟するがいい!』

 刹那、ジョーカーの拳が俺様を捕らえた。
 吹っ飛ばされる俺様の背後へ回り、空中へ蹴り上げられる。奴は空を蹴り、縦横無尽に宙を駆け回って俺様を攻め立てた。

 成程、吸い取った魂や魔力を自分の力に変えているようだな。獲物を食えば食うほど強くなる、古の魔人か。大したスキルの持ち主だぜ、魔法も多彩だし、パワーだって段違いだ。
 こいつが塔の魔人の本気ね。アザレア王国を壊滅させたその実力、伊達じゃなさそうだ。

『しゃあっ!』

 俺様のボディに拳がめり込み、飛空艇に叩きつけられた。竜骨をへし折り、飛空艇が真っ二つになる。
 ふーん、やるじゃん。まぁこんなもんか。

『はっ、はっ……どうだ賢者よ、これが貴様であろうと勝つ事の出来ぬ強大なる力だ! やはり俺の力は素晴らしい、貴様に加えて勇者を下せば、より世界に俺の力が轟くぞ!』

 着地し、ジョーカーは勝ち誇ったように高笑いした。とりあえず立ち上がって、服に着いた埃を払った。

「全く、随分汚してくれやがって。洗濯するの俺様なんだぞ?」
『くくっ、戯言を。だが殺すには、あまりに惜しい人材だ。どうだハワード、貴様にチャンスをくれてやろう。俺と手を組め。貴様は女が好きなのだろう? 俺と組み、世界を手にすれば、どのような美女であろうと手に入れ放「ふぁぁぁぁ……」

『……おい、話の途中だぞ』
「あーすまねぇ。童話の朗読みたいにくそつまんねぇ演説だったからあくびが出ちまった。悪いけど、勧誘の話なら間に合ってるぜ。お断りだ」
『……話を断るだと? 貴様、正気か』
「俺様はいつでも本気さぁ。それに俺様は悪の魔王より、正義の味方に憧れてんの。なぜだかわかるかい?」
『知るか』
「女の子にもてるから♪」

『……は?』

「力づくでハーレム作ったら、女の子が怯えちまうだろ? ハーレムの主になるんなら、女の子全員から愛されなくちゃ意味ないぜ。やっぱ女侍らすなら、正義の味方としてかっこいい姿見せて「キャーハワード様素敵ー♡」なーんて黄色い声かけられてキスされた方が気分いいに決まってんじゃん♪ だから悪の魔王になるなんざ、こっちから願い下げだよ」

『……とことんまでブレなさすぎるだろう貴様』
「お褒めのお言葉ありがとう。ついでに一つ聞いていいか? お前、あれで全力かい?」

 ジョーカーの肩が揺れた。まぁ、あれがあいつの本気、全力の攻撃だろうさ。

「そこそこ遊べた方だな、俺様にとりあえず埃はつけられたわけだし。努力賞にバッジくらいは与えてもいいぜ」
『……! な、なんだ……と?』
「何を驚いているんだ? まだ俺様、戦ってすらねぇんだぞ。それともう一つ、良いニュースを教えてやるよ。……遅れて主役がやってきたようだぜ」

 視線を横に移すなり、赤毛の勇者が着地した。
 そいつは俺様を見るなり、うるうると涙を流し、ぐすりと鼻を鳴らした。

「あーあ、追いつかれちまった。ここまで来やがったか……カイン」
「師匠……やっと……やっと……! 貴方に……会えました……!」
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