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43話 エリート部隊に稽古をつけてやるか

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 俺らが連れてこられたのは、ラドラにある王国兵団の支部だ。そこにはセピアちゃん配下の近衛兵達が駐屯していて、随分とまぁピリピリした空気を漂わせていた。
 がるるを厩舎に預け、俺らは会議室へと招かれた。

「本来なら一般人に軍事機密を話すわけにはいかないのだが、貴様に知られてはな……今回は特例だ。勇者パーティの賢者であるなら、ギリギリ不問にできるだろう」
「いやー、ごめんねぇ俺様が逸般人で」
「煽るなっての」

 リサちゃんから怒られちゃった、俺様しょんぼりだぜ。
 セピアちゃんが目配せすると、クロノアが任務の詳細を教えてくれた。

「我々が命じられたのは、ハワード氏のおっしゃる通り、ザナドゥ幹部「キング」の討伐です。ハワード氏は、新聞はお読みに?」
「野営続きで読めてねぇんだ、朝刊があったら貸してくれない?」
「かしこまりました」

 クロノアはすぐに新聞を持ってきてくれた。そこには、ザナドゥ幹部キングが三つの街を焼き払った重大ニュースが載っている。

「キングは昨日、パトラ、ヴァンピィ、グプタの三都市に攻め入り、甚大な被害を出しました。死傷者も多数……王国軍も動員しましたが、二個中隊が壊滅する被害が出てしまって」
「酷い……ザナドゥって、ほんと嫌な奴ら。攻撃した理由は?」
「三都市を管轄しているサンジェルマン伯爵への報復行為だそうです。伯爵はザナドゥに脅迫され、多額の献金を要求されていたそうですが、それを固辞したらしく」
「その仕打ちとして、三都市の焼き討ちですか。幹部を出してとは、徹底していますね」
「ってかよ、このラドラも伯爵の領地じゃねぇか?」
「その通りです。実際にこの周辺で、キングの目撃情報も出ています。我々は伯爵よりの依頼を受け、このラドラへ派遣されたのです」
「キングのレベルは、94を誇るそうだからな。一般兵で対処できる敵ではないから、私に白羽の矢が立ったというわけだ」
「成程ねぇ。情報提供、ありがとさん」

 どーやら、デートの前にちょっとしたショッピング殺し合いをせにゃならねぇみたいだな。
 どの道、ザナドゥ潰すのにキングとの戦闘は避けられねぇわけだし。喜んで事件に介入させてもらいますぜ。

「そんじゃ申し出通り協力するとしますか、俺様もキング討伐に乗り出しましょう。どっちが先に見つけられるか競争しようじゃない。俺様より先に見つけられたら、特別にハワード・ロックの肖像画をプレゼントしてやるぜ」
「ちょっと待て、まだ何も言っていないぞ」
「言わなくたって分かるさ、俺様達にキングの情報流している時点で、協力してくれって頼んでいるようなもんだ。違うかい?」
「いやまぁ、間違ってはいないが……」

「流石はハワード氏、団長の考えを瞬時に見抜くなんて。ですが、これは出来ればオフレコでお願いできますか? ハワード氏相手でも、部外者に機密を話したのを知られると……」

「心配しなくても口外しないさ。これは俺様が勝手に動いて、勝手に解決しちまう事件だからな。まぁその途中で、近衛兵団の皆様とたまたま鉢合わせて、たまたま一緒に行動する事になるかもしれねぇけど? 情報提供に関しても、ソムニウム姉弟が情報共有をしていただけ。ハワード・ロックとその仲間達はいなかった。OK?」
「……口が達者な奴だ、本当に」

 ウインクする俺様に、セピアちゃんは諦めたようにため息をついた。

「って事で、俺らはここでおいとまさせてもらうぜ。長居したら君らに不都合があるだろ?」
「そ、その前にハワード氏! お願いがあるのですが……」
「悪いが男からの頼み事はNo thank youだ。んじゃグッバイ」

 って扉を開いたらだ。覗き見していた兵士達がなだれ込んできた。
 兵士どもは俺様を見るなり盛り上がっている。なんか歓迎されてるわね俺様。

「この方々は?」
「はぁ……すまないな。賢者ハワードが来たと聞いて、部下達が浮足立っていてな。稽古を望む者が殺到しているんだ」

「だって、ハワード・ロックと言ったら世界を救った英雄ですよ? 俺達にとっては憧れのヒーローなんですよ! そんな男が目の前にいるのに、黙っていられるわけがないじゃなですか! それにかっこいい義手をつけてパワーアップしているそうですし……俺達も賢者ハワードの力をぜひ体験してみたいんです!」

「む、私謹製の義手の良さに気付くとはいいセンスしてるじゃない。ハワード、ちょっと付き合ってあげなさいよ」
「んーまぁ、リサちゃんに免じて受けてやろうじゃない。一応聞くが、俺様が一発するに相応しい、美女の兵士は居るんだろうね?」

「勿論! 姉様……じゃなくて団長は当然、他にも見目麗しい女性兵は居ますよ」
「Wow、素直な子は男でも嫌いじゃないぜ。俄然やる気が出てきたぜ」

 いい情報をくれたもんだぜ、美女が揃ってるってんなら、俺ちゃんのモチベーションもビンビンしちゃうや。
 よっしゃ、カワイ子ちゃんとホテルで一発するために、いっちょ頑張ってみますか。

  ◇◇◇

 ってなわけで、王国軍の修練所に連れてこられた俺様は、近衛兵団を相手に模擬戦をする事になったわけですが。

「ぐあああっ!」
「こ、このっ……ぎゃふん!?」
「た、太刀筋が読めない……ぐぼぁっ!?」

 出る奴出る奴全員一撃で倒しちまう。お遊戯会にしてもお粗末すぎるぜファックども。

「おいおい弱すぎるだろ、お子様ランチでももうちょっとボリュームあるぜ」

 木刀を担いで、ちょいちょいと挑発してみる。模擬戦は木刀を使ってのタイマン形式を取っているが、カインに剣を教えたのは俺様だぞ。
 俺様はこの世に存在する全ての武器を使いこなせるんだ、それも達人レベルでな。

「次は俺、クロノアが相手です。手合わせ願います、賢者ハワード」
「手合わせになるかなぁ、今の所稽古にすらならなくて退屈してるんだよ」
「ん……カインには及ばないでしょうけれど、せめて一矢報いてみせます!」
「俺様に一撃当てるなんざ貝殻で海を測るようなもんだぜ。そうだ、ハンデをやろうか?」

 ってなわけで、布で目隠しする。これなら千慮の一失も期待できるだろ?
 クロノアが颯爽と襲ってくる。けど俺様は天才だ、音だけで行動を読み、鼻歌交じりに剣を避け続けた。あまりにも退屈なもんだから、最終的にはどれくらい肌に掠らせるか遊んじまったよ。
 どうやら賢者ハワードに、間違いを期待する方が間違っていたようだな。
 目隠しした相手にどんだけ振っても木刀が当たらず、クロノアが焦り始める。まぁ、恥じゃあないさ。お前が弱いわけじゃない、俺様が強すぎるだけだから。

「暇だし、ちょっとした授業をつけてやるよ」

 ダッキングで避けた後、剣を背中越しに放り投げる。木刀に視線が向いたところで、ボディブローを叩き込み、飛び膝蹴りで顎をかちあげた。
 木刀をキャッチし目隠しを取れば、クロノアが大の字に倒れていた。

「あ、顎が……剣をあんな風に使うなんて……」
「ピザでも食って出直してきな。さてセピアちゃん、いかがかな?」
「……流石はハワード・ロックと言うべきか、片腕なのに強すぎる」
「どーも。んで、どうする? これ以上やってもガラクタが増えるだけだぜ」
「そうだな……では最後は、私と手合わせしてもらおう」

 近衛兵達がざわめいた。団長様直々のラブコールに、俺様も思わず舌なめずりだ。

「いいねぇ、美人と決闘デートってのも乙なもんだ」
「生易しい気持ちで戦わないでもらおうか。クロノア!」
「はっ」
「剣を渡せ。木刀ではなく、真剣での勝負だ」
「え、しかし……」
「いいからやれ」

 渋々、クロノアが俺様に剣を渡してくる。丁寧に手入れされたいい剣だ。

「どういうつもりだい? こんなもん渡して、君の産毛でも剃ればいいのかな?」
「背水の陣でやらねば、貴公とは戦いにすらなるまい」
「安心しな、気負わなくたっておままごとにもならないさ」

 セピアちゃんが俺様の前に立った。美女を相手に剣を向けるのは主義じゃないんだが、相手は近衛兵の団長さんだ。適当にふるまうってのは、失礼だよなぁ。
 しゃあない、少しだけ真面目にやってやりますか。

「立会人はこのクロノアが務めます、両者構え……はじめっ!」

 始まるなり、セピアちゃんが襲ってくる。流石、レベル100の人間だ。しかも彼女は魔力・身体能力が大きく上昇する「七色の加護」を持っている。俺様と剣を交えても、遜色なく立ち向かっていた。
 ソムニウム家は貴族の中でも最も誇り高く、代々近衛兵団長の地位に就いてきた名家だ。その血筋を引いたセピアちゃんは、歴代最強の団長だと謳われる実力者でもある。
 常人レベルなら、間違いなく敵は居ないだろう。常人だったらな。

「ほいっ」
「なっ!?」

 彼女に軽く剣を放ると、セピアちゃんが驚き、一瞬動きが止まった。
 勿論見逃す俺様じゃない。けたぐりで転ばせると同時に、放っていた剣を蹴り上げた。
 これで勝負ありだ。俺様は踵を返し、ポケットに手を入れた。

 蹴り上げた剣は弧を描いて宙を舞い、セピアちゃんの顔をかすめて地面に突き刺さる。クロノアに確認を取ると、「そこまで」の掛け声がかかる。あっけない幕切れに近衛兵団は勿論、セピアちゃんも唖然としていた。

「剣を放ったり、足蹴にしたり……なんて使い方をするんだ」
「剣を足で使っちゃいけないなんて法律はないからな」
「……やはり強いな、貴公は……腕を失う前と、まるで変わっていない」

 セピアちゃんは立ち上がるなり、俺様の背に触れた。

「ハワード・ロック、少し時間を貰えるか」
「喜んで。そのついでに、是非とも頼みたい事があるんだが」
「なんだ?」
「ホテルで一発、その桃尻を堪能させて頂戴な♪」

 脳天に剣をぶっ刺されちゃった、俺様じゃなかったら死んでるぜアバズレガール。
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