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27話 地上に舞い降りた筋肉天使

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「どーもぉー! 地上に舞い降りた筋肉天使、ハワードちゃんどぅえーっす!」

 宿酒場のステージにて、盛り上がる観客どもを前に、俺様は自慢の肉体美を披露していた。
 ふふん、どうよこの筋肉ムキムキのイケオジは。ブーメランパンツ一丁でポージングを取り、広背筋や大胸筋を見せつける。右腕は魔法で生身の腕に見せているから、観客に不快感は与えていませんよっと。
 思わぬ肉体美を持つ美男子に会場は沸きに沸き、あちこちから歓声が上がっていた。

「いいぞぉーおっさーん! 背中バリバリぃ! 土台が違うよ土台が!」
「いやーん♡ カットがキレまくっててサイコー! 秘訣はなんなのー?」
「一日一食辛口ケバブを欠かさず食っているからさ☆」

 俺様のナイスジョークに会場が大爆笑。いいねぇお前ら、今宵ばかりは野郎に見られていても悪い気はしないぜ。

「はっはっは! どうぞご堪能あれこの筋肉を! ほれほれ! 大胸筋スクワットだ!」
『わあああああっ!』

 大胸筋を動かすだけでこの歓声。いやぁ、意外と裸芸受けてるなぁ。やっぱ俺様何をやらせても天才的な才能を見せちまうなぁ。

「……ごめんハワード、謝るから、私が悪いんだから……そんな恥さらさないでよ……」

 あれま、舞台袖でリサちゃんがしくしく泣いてらぁ。別に俺様気にしてないんだけどなぁ、むしろこのオーディエンスのノリがよくて楽しくなっちゃってなぁ。

「ほれ見ろこの腹筋! まるで鉄板のようだろう? 筋肉フェチの諸君らにはたまらんのではないのかね? HAHAHAHAHA☆ アイ・アム・ヘラクレース!!!」
『うおおおおーっ!』

「リサさん、そんなに責任を感じなくて良いのですよ。私達にも責任はあるのです、ハワードはそれを果たそうとしているだけなのです」
「でも……これじゃあまるで、私がお金のためにおっさんに裸芸強要しているみたいじゃない……最低最悪の変態じゃないそれ……!」
「まぁ、絵面だけ説明するとそうなのですけども……にしても、ハワードっていい体してますよね」
「……それが余計に悔しいと言うか、自分が情けなくなるわ……」

 んー、これはこれで楽しいから構わねぇんだがなぁ。俺ちゃんが楽しんでいるんだから気にしなくていいじゃんか。
 って事でじゃんじゃんポーズを取っていたら、とうとうリサちゃんが我慢しきれず崩れ落ちた。

「ハワード、ごめんなさい……旅費落としちゃってごめんなさいいいいっ!」
 
  ◇◇◇

 話は一時間前にさかのぼる。

 カジャンガを発って三日後、夕暮れに俺様達が到着したのは、サブレナという街だ。
 ここには、アザレア王国で最も名の知れた劇場、クラフ座が存在する街だ。その関係か、小劇場だったりシアターホールが軒を連ねた、芸能が盛んな場所でもある。

 赤レンガで造られた建物が並ぶ綺麗な場所でな、街の中央に造られた、城のような造形の建物がクラフ座だ。
 がるるを駆って向かうと、アマンダたんが目を輝かせた。リサちゃんも見事な建造物にご満悦の様子だな。

「アマンダたんのご希望で来たわけだが、いやぁ目が輝いてるねぇ。そういや前々から来たいって言ってたっけか」
「オーケストラやオペラが好きなものでして。今の時期ですとクラフ座で、私の好きな歌手が出演するはずです。それに、サブレナのお祭りも明後日の開催で、丁度見れそうですし」
「お祭りがあるの?」

「ええ。鳳凰祭と言って、サブレナ一帯を守護する神に感謝を捧げるお祭りがあるのです。そのお祭りでは最後に、歌姫が神への祝詞を送る歌を歌うのですが、それがまた素晴らしいそうでして。生きているうちに一度は見たいと思っていたのですが、中々機会がなくて」

「元シスターらしいぜ、脱会してもその辺の興味は尽きてねぇか。俺様は神様なんぞに一切の興味も持ってないから至極どうでもいいんだが」
「ハワードは賢者なのに、神に対して否定的過ぎますよ」

「神を信じて腹が膨れるかい? 祈ったって腹は減る、それなら神に縋るより、ケバブ屋台のおっちゃんに縋った方が賢明だぜ」
「むぅ……」

 おっと、アマンダたんが不機嫌そうに頬を膨らませちまった。ちと言い過ぎたかな。

「あんたさ、なんでずっと教会に所属していたわけ? そんな考えならとっとと脱会してればよかったのに」
「単純さ、意外と僧侶ってモテるんだぜ。賢者になったのもより沢山の女の子とお近づきになるためでなぁ、男磨きにとにかく努力したもんだぜ」

「……ここまでブレないとむしろ尊敬するわね、あんたみたいな賢者見た事ないわ」
「はぁ……スラム出身ですから信仰心が無いのは仕方ないと思っていましたが……ここまでくると呆れて物も言えません」
「はっはっは! いくら俺様がイケメンだからってそんなに褒めないでくれ♪」
―わふぅ……

 おーっとぉ、がるるまで呆れちゃってんのかい? 目的無くして強くなれるかい、煩悩こそパワーなのさ。

「って事で早速トラブルと遊びに行きますか! ここにゃあ裏カジノがいくつかあってよ、マフィアをバックに金を巻き上げている連中がそりゃあうじゃうじゃと」
「少しは失敗から学べしくじり賢者。あんたに財布は任せられない、今後は私とアマンダが管理します」

 リサちゃんが俺様の懐から魔法袋を取り上げちまった。急いで取り返そうにも、アマンダたんとがるるに阻まれちまう。

「おいおーい、それ俺ちゃんの財布だぜ?」
「同時に私達の旅費でもあるでしょ。あんたに任せてたらまた財布がダイエットに成功しちゃうじゃない」
「Hey、中々粋なジョークをかますじゃねぇかベイビー」

「って事でギャンブル禁止! 早く宿を取りに行きましょう」
「ギャンブル禁止って、そりゃないんじゃないのぉ?」
「うるさい!」
「あーん、俺ちゃんの一攫千金の夢がぁ……」

 なぁんて指を咥えて見ていたらだ。

「きゃん!」

 足元に落ちてたビンに気付かず、リサちゃんが転んじまった。そしたら魔法袋が手からこぼれ、そのままコロコロ転がって、排水溝へぽちゃんとな。

「あん?」
「あら?」
―わうっ?
「あああああああっ!?」

 リサちゃんは急いで排水溝にかじりつくが、時すでに遅し。下水に飲まれてどんぶらこっこと消えちまった。

「あ、ああああ……旅費が……全財産が……」
「ジーザス、金運の神様からのサプライズプレゼントかな?」
「ハワードが神を冒涜するような事を言うからですよ」
「ご、ごめんなさいごめんなさい! い、今すぐ探しに行かないと!」

「無理だって、サブレナの下水道は迷宮みたいになっていてよ、流石の俺様でも探せねぇぞ」
「ハワードにも出来ない事があるのですね」
「ま、一応人間ですのでね」
「な、なんでそんなに軽いのさ……私、迷惑かけちゃったのに……」
「無一文になるのは一度や二度じゃねぇしな、貧乏を楽しむのもまた旅情なりだ」

 わざとやったわけじゃないし、怒る必要なんかないだろう。むしろナイスなトラブルだ。変に金を持っているより、貧乏な方が遊べる事が多いからよ。

「となると、今日の宿代を稼がにゃならんが……うーむ、もう日暮れか」
「冒険者ギルドで依頼を取ろうにも、受付が閉まっていますね」
「あうう……私のせいで……本当にごめんなさい……」

 リサちゃんってば、随分責任感じてるなぁ。となると大人の俺様が一肌脱いでやらにゃならんな。
 一泊分の宿代を稼ぐくらいはなんとかなるだろう。この街にはショーパブなんかもある、そこで俺ちゃんの手品でも披露すれば当座の金は得られるさ。

「あーん! こんな所に丁度いい色男はっけぇーん☆」

 なんて考えていたらだ、随分と濃ゆい声色の男が駆け寄ってきた。
 背丈のある奴だが、随分綺麗に化粧してやがる。パーティドレスで着飾っていて、どう見てもこりゃ、オネェ様だな。

「ねぇねぇそこのあなたぁん、いい体してるわねぇ? ねぇねぇどう? その筋肉を使ってちょっとお小遣い稼ぎしてみなぁい?」
「へぇ、俺様の肉体美を見抜くとはいい目をしているな。話だけは聞いてやるぜ」
「実はぁ、あたしのお店でショーする子が急に病欠しちゃったのよぉ。それでぇ代役探してるんだけどー、中々いい人が居なくってぇ。でも丁度あたしの目の前にぃ、すんごい体した男が居・る・じゃ・な・い♡ お礼は弾むわ、貴方が良ければ助けてちょーだい!」
「ほぉ、丁度金が欲しかったところだ、引き受けてやるよ」
「あーんありがとー☆」
「ちょ、ちょっとハワード! 具体的な話を聞かないでいいの?」
「大丈夫大丈夫、俺様に不可能はないっ。君が流したその涙、俺が必ず拭ってやるよ」

 女の失敗は頼れる男がカバーする。それがナイスガイの心意気って奴よ。

「だから頼りな、俺様に助けてくれと。そしたら俺は、君のためにどんな困難でも乗り越えてやるさ」
「ハワード……ごめん、私のせいで……お願い、助けて、ハワード……!」
「a piece of cake、任せておきな!」

 てな感じのやり取りの後、冒頭の俺様フェスティバルに戻るのであった。
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