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16話 フリーダム・ハワード

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 馬でがるるの追走から逃れられるはずもなく、あっという間に追いついた。
 美女を攫っているのは燕尾服のエセ紳士だ。モノクルをかけて上品ぶっているが、女を小脇に抱えて乱暴に運んでいちゃあ台無しだぜ。
 男ってのは俺様のように、中身も伴ってなきゃ格好悪いぜジェントルマン。

「ガンダルフだと? 貴様まさか、ハワード・ロックか!」
「有名人はつらいねぇ、モテたくもない男にまで名前が知られてるとはな。囚われのお姫様を返してもらおうか。キスシーンを描きたくても、肝心の主人公がてめぇじゃ映えねぇよ」
「おのれ!」

 手首から仕込み刃を出し、斬りつけてくる。そんな玩具で驚くかよマザファッカ。
 デコピンでぶっ壊し、馬に飛び移りながら顔面を蹴り飛ばしてやる。んでもって、お姫様を優しくキャッチ、&馬へ騎乗。どうだい、アクロバティックに取り返してやったぜ。

「彼女の前で血の花を咲かせたくはないんでね、とっとと失せろ。抵抗しなけりゃ、見逃してやる」
「ぐっ……覚えていろ!」

 エセ紳士は大慌てで逃げていく。いい判断だ、拾った命は大事にしろよ。
 馬を止めて、取り返したお姫様を下ろし介抱する。

 にしても、こりゃ極上品だ。

 オレンジ色の長髪を赤いリボンでひとまとめにした、気品のある顔立ちの女だ。見た感じ二十歳って所かね、清楚な紫の服に身を包んだ、推定Cカップのカワイ子ちゃんだ。
 恐らく貴族の子だろう、肌は日に焼けた感じもなく真っ白だ。柔らかそうなほっぺが美味しそうでたまりません。女の子特有のいい香りがまた……最&高☆

「ん……あ、私……?」
「おや、お目覚めのようだねプリンセス」
「……貴方は?」
「君を助けに来た、通りすがりのナイトさ。ああお礼ならいい、でもどうしてもっていうんなら」

 ここにはアマンダたんもリサちゃんもいない。って事はぁ♪

「この青空の下で俺ちゃんと一発しましょ♪ そーしましょ♪ さぁ早くその邪魔な服を脱いでお互い生まれたままの姿へ」

―がぶっ!

 いきなりがるるが噛みついてきた。やめて、頭を噛み締めないで。痛い痛い痛い、頭蓋骨砕ける砕ける。

「やめ、おいがるる、お前の顎鉄も砕くくらい強いだろ、いだだだだだ! 死ぬ! 俺様でもお前のがぶがぶは死ぬから! やめろぉーあーっ!!!!」

 がるるの噛みつき攻撃に俺ちゃん悶絶! ちっくしょう! 折角の一発チャンスが台無しじゃねぇーか!

「……なんなのでしょうか、この殿方は……」

  ◇◇◇

「全く、人助けをしに行ったと思ったら、案の定スケベしに行っただけのようね」
「何を言っているのかねリサちゃん、俺様は変態紳士にスパンキングかましに行っただけだぜベイビー」
「変態賢者もがるるからスパンキングを受けたようですけどね」

 頭から流血したまま戻るなり、リサちゃんとアマンダたんから冷たい視線を送られる。いやぁ、沢山の女から嫉妬されるなんて俺様モテモテだぁ☆

「というか、その人に手を出しちゃだめよ。保護者の人が来てくれたけど、凄い人なんだから」
「へぇ、この子の王様が見つかったのか。流石だぜアマンダたん」
「お安い御用です。ビンランド様、お嬢様はこちらです」

 アマンダが誘導してきたのは、お姫様と同じオレンジの髪を持つおっさんだ。オートクチュールの服に貴族のバッジをつけている。なるほど、この子のお父さんだな。

「キサラ! 無事だったのだな、よかった……」
「お父様……!」

 お姫様ががるるから下り、感動の再会を果たす。キサラちゃんって言うのか、可愛い名前だぜ。
 にしても、ビンランドね。それなりの親父が出てきたか。
 何しろこの街、カジャンガを収める子爵閣下だからな。貴族の中ではまともな男だが、頭が固すぎる事で有名なおっさんだ。

「貴公が助けてくれたのか、感謝する。ぜひ礼をしたいので屋敷へ来てくれるか?」
「そいつは喜んで。ついでに宿も提供してくれると助かるぜ、それも子爵閣下のお屋敷にな」
「ちょっと! 貴族様に何失礼なこと言ってるのよ?」
「宿代無いから都合いいじゃねぇか。それに子爵閣下としても、俺様が傍に居た方がメリットあるぜ。例えば、ザナドゥからキサラちゃんを守るとかな」

 リサとアマンダが目を見開いた。子爵のおっさんも驚いた様子だ。

「なぜそう思う?」

「ぶちのめしたエセ紳士が、俺様がガンダルフを所有していると知っていたからな。PRしてないのに、そんな最新ニュースを知っている奴は限られている。人攫いなんて悪事を働く奴なら、なおさらな。あの紳士はザナドゥの差し金だ。んでもってキサラちゃんを攫おうとしたのは、彼女を人質に子爵閣下から何かを奪おうとしているから。例えば……鉱山の所有権とかな。違うかい?」

「なんと……素晴らしい洞察力だ。全て、その通りだ」
「この短時間でそこまで分かるなんて……スケベじゃなきゃ素直に尊敬できるのに」
「ハワードは性癖に目を閉じれば世界最高の賢者ですからね。性癖さえ見なければ」
「一言多いぞGuys?」

 スケベな所もひっくるめて尊敬してほしいもんだぜ、ホーリーシットだ。

「ハワード? それに賢者……まさか貴方は」
「改めて名乗ろうか子爵閣下。元勇者パーティの賢者、ハワード・ロック本人だ。今はフリーで冒険者をやっている、こいつが証拠だ」

 冒険者カードを見せて、子爵閣下を納得させる。キサラちゃんも驚いた顔で俺様を見上げていた。

「ハワード・ロック……勇者と共に魔王を倒した伝説の男。本物のようだな」
「そいつは偽造できないから、信用できるだろ? 男からの依頼は受けない主義だが、キサラちゃんが絡むなら受けてやって構わないぜ」
「だから、貴族相手に上から目線すぎるでしょ」
「魔王に比べりゃ貴族なんざ目じゃねぇよ、それに仕事探せって言ったのリサちゃんじゃんか」
「そうだけど……アマンダからも何か言ってよぉ」
「彼に礼儀作法を求めるのは無駄ですよ。いつも私が不躾な態度の尻拭いをしていましたから」

 アマンダたんのため息入りました。スラム出身のおっさんにマナー求められても困るぜ。
 それに貴族如きにびびってへりくだるのは、俺様らしくないしな。

「大賢者ハワードが受けてくれるのならば、頼もしい事この上ない。是非とも依頼させてくれ」
「交渉成立だな」

 さてと、ザナドゥから時期外れなハロウィンのお誘いだ。次はどんなお菓子をプレゼントしてくれるんだい? ろくなもんじゃなきゃきっつい悪戯お見舞いしてやるぜ。

  ◇◇◇

「鉄鉱山の権利譲渡、それがザナドゥの要求だ」

 子爵閣下の屋敷にて、俺らは手厚い歓迎を受けつつ話を聞いていた。

「カジャンガ近隣のゲッコー山は、我がビンランド子爵家が所有する国内有数の鉱脈だ。アザレア王国の鋼鉄の四割を占めている。ザナドゥはその鉱脈の利権を寄越せと迫っているのだ」

 ほぉ、ヘルバリアの時に比べて随分でっかいヤマをやってるじゃねぇか。
 奴らの目的は金だけでなく、鋼鉄資源の確保もあんだろうな。
 ザナドゥは武器の密売もやっている、自社ブランドの武器を作るために、材料を格安で手に入れるルートが欲しいんだろう。

「なんで力づくで占拠しないんだろ?」
「場を荒らして従業員に反感を持たれたら、労働効率が落ちちまうだろ。鉱夫も重要な道具だ、なるべく傷つけずに手に入れた方がいい」
「となれば、持ち主を傀儡にするのが効率がいいですからね」
「その通りだ。無論貴族として屈するわけにはいかん故、抗い続けていたのだが……とうとう強硬手段に出てきてな。キサラを人質に要求を通そうと迫ってきたのだ」
「んで憲兵を出し抜いてお嬢さんを奪ったわけか。いやぁ意外とやり手じゃねぇか、カジャンガの警備体制は、ずいぶんと厳重のようだな?」
「皮肉を言うな馬鹿」

 リサちゃんに脇を小突かれた。思った事は正直に言っちゃう性質なのよね、俺様ってば。

「賢者殿の言う通りだ。ザナドゥは我々の手に余る相手……どうか、勇者パーティの大賢者の力を借してもらいたい。キサラを守り、ザナドゥをこの街から追い払ってくれ」
「美女のボディガードは願ったりだ。キサラちゃんの騎士なら、喜んで受けさせて貰うぜ」
「ギャラの交渉は私が進めましょう。ハワードに任せては何をしでかすかわかりません」
「失礼だねぇ、勇者パーティ時代は俺ちゃんがネゴシエイターをやってたってのに」
「無論相応の礼はさせてもらう。手付金として、これくらいでいかがかな?」

 子爵閣下がアマンダに金貨の入った袋を出した。テーブルに置いた時の音からして、百万ゴールドって所か。羽振りがいいねぇ。

「こ、こんなに……凄い金額だわ……!?」
「畏まりました。完遂時の報酬は追って交渉させていただきます」
「待った。手付金としては不足だな」
「ちょ、馬鹿! 余計な事言わないでよ」
「いいや、かまわないよリサ殿。して賢者よ、あといくら足せばよいのだ?」
「金じゃねぇ。それよりもっと大事な物だ、俺様の心を震わすピースが、足りないんだよ」

 全員がごくりとつばを飲む。が。

「……ハワード、念のため伺いますが、手付の一発と申しませんよね?」
「ぴんぽんぴんぽんだいせいかーい! って事でキサラちゃんと手付のロイヤル一発を」






   ※※※しばらくお待ちください※※※






「手付金は確かに頂きました。では後程、改めて報酬の交渉に伺います」
「あ、ああ……して、大丈夫なのかね? 賢者ハワードが斧に潰されているが……」
「問題ないですよぉ! このドスケベ体だけは頑丈なので」

 ……床がめり込むくらい全力で殴らなくていいじゃないのよアマンダたん……。

「では、よろしく頼む。私はこれより所用で出なければならないのでな」
「あ、あのお父様。その前にお話が……」
「キサラ! その話はしないと言っただろう。そのような事業に回す余裕はないのだ」
「あっ……」

 キサラちゃんを無視して子爵閣下が下がってしまう。んー、何を言おうとしていたのかなぁキサラちゃん。

「では改めまして。アマンダと申します、正式に依頼を承りましたので、暫し身の回りのお世話をさせていただきます」
「はい、よろしくお願い、いたします」

 うーん、初々しくて可愛い子だ。俺ちゃん張り切ってボディガードしちゃうもんね。
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