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12話 ザナドゥ幹部現る!
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「……ほう、それでむざむざ逃げてきたのか」
ヘルバリアから唯一逃げてきた部下を睨み、ジャックはため息を吐いた。
病的に痩せた男である。不健康な蒼白の顔に、死神を思わせる黒いローブを羽織っている。得物の鎌は血のような赤色をしており、幾多もの命を奪ってきた事を示していた。
「売上や商品は勿論、ガンダルフまで全て台無しか。この俺の面をとことん汚してくれたな。この責任、どのように果たすつもりだ?」
「は、はい……! その、申し訳ございません……!」
全く、そんな下らない報告をしにむざむざ戻ってくるとは。特に楽しみにしていたガンダルフ、あれが手に入らないとは、何たる失態か。
ジャックは一流の品しか傍に置かない。高貴なる男には高貴なる動物が相応しい、ガンダルフはまさしく生きる宝石、ジャックにこそ相応しい生物だ。だというのに。
「このジャックが持つべき品ならば、もっと丁重に扱うべきではないのか? 聞けば三頭中二頭も殺してしまったそうではないか」
「い、いえその……ガンダルフはレベル70を超える獣でして、生け捕りはその……」
「言い訳は聞きたくないな。そのようなずさんな仕事をする奴が俺の部下とは、嘆かわしい。俺の部下には優秀な人間しか必要ない」
ジャックは失敗が大嫌いだ。部下の失敗は自分の責任となる、輝かしい自分の功績に傷が付いてしまう。だから自分の部下に役立たずは必要ない。
一度でも失敗すれば、利用価値はない。こいつはもう廃棄処分だ。
「そのような面白くもない報告をするならば、その隻腕の男に殺されていればいいものを、クズが。このジャックの顔に泥を塗った意味、分からぬような愚か者ではあるまい」
「ひ、ひぃぃっ!」
部下が怯え、逃げ出した。
ジャックは手を翳し、握りしめる。すると部下の影が伸びて、刃となって体を切り刻んだ。
バラバラになった肉塊を影に沈め、死体を掃除する。ジャックは綺麗好きだ、汚物を見るなど許しがたい。
全く、部下の質も落ちたものだ。あんなずさんな仕事をして平気な顔をしているとは。
「隻腕の中年男か。妙な義手を使うと聞くが、このジャックの敵ではない。人は大事な品……人生の足跡を盾にすれば、容易に崩す事が出来る」
聞けばその男には、リサという愛人が居るそうではないか。その女が大事にしている街もろとも破壊しつくし、ザナドゥの恐ろしさを思い知らせてくれる。
ザナドゥの三羽烏が一角に喧嘩を売った事、後悔させてやらねばなるまい。
「ザナドゥに手を出したのだ、相応の報いを受けさせてやろう。飛空艇の準備をしろ! ヘルバリアに我らが力を思い知らせてくれる。ザナドゥに栄光あれ!」
『ザナドゥに栄光あれ!』
◇◇◇
「起きてくださいハワード、もう朝ですよ」
「んあ……おっぱいよーアマンダたーん」
寝ている俺様を起こしてくれたアマンダたんのおっぱいを、寝ぼけたふりして揉んでみる。うーんやっぱりEカップの爆乳はハッピーな揉み心地だねぇ。
勿論斧で文字通り叩き起こされたけど。下手すりゃ永遠に眠っちまうわこんな目覚まし。
「はぁ……黙っていればワイルドな美形なのですから、きちんと手順を踏めば合意してくれる女性なんてたくさんいるでしょう? なぜ許可なしでこのような行為をするのですか」
「俺様なりのこだわりでね、簡単になびく女は好みじゃねぇのさ。無断で揉みしだくおっぱい、それに軽蔑の眼差しを向けつつも上気する頬……次第に嫌悪感は快感へと変わり、言葉を交わさず二人は愛の抱擁へと移り、この世の物とは思えぬ快楽に溺れる! それが俺様の理想のシチュエーションなのさ! てなわけで早速許可なしの一発を」
「天誅!」
「Oh No!? だから斧ぶん回すな、俺様の頭はスイカ割りのスイカじゃねぇんだよ! 割っても噴き出すのは果汁じゃなくて血しぶきだ!」
「私は同意有りでないと許しません、シチュエーションに拘るタイプなのです。……自分から言い出すのは恥ずかしいので男性側から言ってくれるとなお良しです」
「案外面倒な趣向をお持ちでございますわね」
そんな所も魅力的な美人だからこそ、俺ちゃん君に夢中なんですけど♡
さて、モーニングルーティンも終わったし、リサちゃんの工房に行きましょうかね。
右腕の最終調整に入るらしい。三日間でしっかりデータは取れたから、最後に関節の挙動を俺様の肌感覚に一致させる微調整をして、晴れて義手の完成になるそうだ。
—がるるぅ♪
「ヒュー、がるる。今日も元気そうだなぁ」
—わふっ、わふっ♪
宿から出るなり、ガンダルフが飛びついてきた。デカすぎて宿に入らないから、裏手の厩舎を借りて泊めてもらってんのよね。
俺様のパートナーとなったこいつには、鳴き声から「がるる」と名付けた。名づけると愛着もわくって言うか、もふもふ具合がより味わい深く感じるな。
「がるる、悪いがアマンダたんと一緒に留守番しててくれねぇか? あとでジャーキー買ってやるからさ」
—ばうっ
いい返事だ、きちんと俺様の指示を理解したみたいだな。
ちーっと胸騒ぎがするんだ、俺様の勘はよく当たるぜ。
「では私もここで待機しています。ので……がるるぅ抱きしめさせてー!」
—ぎゃん!
アマンダたんの愛情表現に怒ってがるるが噛みついた。ははっ、仲が良いようでいい事だぜ。
じゃれている彼女らは置いといて、工房へ行きますかね。
「ハローリサちゃーん、愛しのハワードさんが来ちゃったよーん♡」
「入ってきてそうそう飛びつくな!」
リサちゃんのアトリエに入ってハグを求めたら、ハンマーで思い切り殴られた。アマンダたんといい、なんだってツッコミに凶器ばっか使うのこの子らは。
「全く……ふざけてないで、早く腕見せて。私は早くアートを完成させたくてうずうずしてるんだから」
「イキイキしてるねぇ」
「最高傑作の義手を作ろうとしているからね。貴方の強さが規格外すぎるから、並の腕じゃすぐに分解しちゃうもの。全身全霊を込めた逸品を作らないと。助けられた恩もあるしね」
ふふん、一流の男には一流の品が必要って事だ。
何度も腕をいじくり、調整を繰り返し、ようやく俺様の腕が完成した。
すげぇな、まるで生身の感覚だ。つーか反応が速すぎて俺様ですら困惑しちまう。若いのにほんと、大した職人だぜ。
「スキルを蓄えても誤作動は起きないみたいだし、安心して使ってね」
「ありがとな、ここまで作りこんでくれて」
「いいの、私がしたかったから。それより、今時間大丈夫? もしよかったら、来てほしい所があるんだけど」
◇◇◇
リサちゃんが連れてきたのは、ヘルバリアのシンボル、魔力塔だ。
街の重要施設だが、同時に観光スポットにもなっていて、展望台が設置されているんだ。転移の魔法陣で展望台へ向かうと、ヘルバリアが一望できた。
「うーん! やっぱいい眺めね。凄いでしょ、この街」
「そうだな。見ているだけで悩みが吹っ飛ぶぜ」
しばし二人で景色を楽しんでいたら、リサちゃんはぽつりと零し始めた。
「私ね、この街が好き。凄く綺麗で、住んでる人も素敵で、大好きな場所なんだ」
「思い入れがあるんだねぇ」
「うん。私は生まれてすぐにこの街に捨てられたけど、皆が居てくれるから寂しくなった事は一度もないんだ。だから、この街を守り続けたい。でも」
「でも?」
「……私さ、外の世界を見てみたい。一度でいいから、色んな所を見て回ってみたいんだ。街に留まってるだけじゃ分からない事って絶対あるでしょ? 外の世界を見て、色んな経験をして、職人として成長したいって思っているんだ」
「へぇ、修行の旅か。チャレンジ精神にあふれてるねぇ」
「ありがと。でも、言った通りこの街を守りたいって気持ちもあるの。ほら、魔王が居なくなっても、まだ情勢は落ち着いてないでしょ? この街だってザナドゥが出入りしていたし……誰かが守らないと、苦しむ人が出てしまうもの」
リサちゃんは俯いた。自分もその悪者に利用されていたから、余計な責任を感じているようだな。
だが、君の人生を決めるのは君だ。
「君はどうしたいんだい? 修行の旅に出るか、それとも街に留まるのか。どっちが本心だい?」
「うーん……」
「分からないのなら、存分に悩んでみな。悩んで、悩んで、とことんまでに悩むんだ。俺と違って君は若い、遠回りする時間があるんだぜ? だから、結論を急ぐ必要はないんだよ。だがね、答えを出すにしても、これだけは心掛けた方がいい」
「それは?」
「選択を楽しめ。どんな選択をしても、運が悪ければ悪い事ばかり起こるだろう。だけどな、それでも自分が選び、決めたんだ。悪い事も含めて、自分自身を謳歌するんだ。それが出来れば、どんな選択をしようと後悔しなくなる。起こる事全てが、いい事になるはずだぜ。
自分の人生は一度しかない。俺がハワード・ロックで居られるのも、この瞬間だけなんだ。だから俺は、俺自身を謳歌すると決めている。例え命尽きる時が来ても、俺は最後までハワード・ロックとして生き、ハワード・ロックとして死ぬだろう。命の灯火が消え、目を閉じる時に後悔したくないから、俺は俺じゃないと楽しめない人生を選んでいるのさ。
君もリサじゃないと楽しめない人生を選びな。そうすりゃおのずと後悔は無くなり、満足だけが残る。それこそが、自分らしく生きるって事なのさ」
「……そうね。ふふ、説法が凄く上手。やっぱりあんた、賢者なんだね」
「当然さ、賢者だからな」
ただ、俺様から見ると君はもう、どっちを選ぶか決めているようにしか見えないんだよね。その決断をするために、誰かに背中を押してもらいたい。そう言ってる気がしてならないな。
「ん? ねぇ、あれ何かな」
リサちゃんが空を指さした。ふと見ると、空飛ぶ船がこっちに向かってきている。
飛空艇じゃねぇか。魔力を込めると浮かぶ飛行石を動力にした、最新の乗り物だ。
『ヘルバリアの住民に告ぐ。貴様らは我らザナドゥの名を汚した大罪人だ、よってここに粛清として、我らが鉄槌を下してやろう!』
飛空艇からでかでかとアナウンスが流れた。予感的中、ザナドゥの報復活動だ!
その飛空艇はヘルバリア上空に来るなり、爆弾を落としてきた。だが、ヘルバリアに届く前に結界が受け止める。こんな事もあろうかと、俺様が結界を張っといたのさ。
「へっ、どうやらお出ましのようだな。ザナドゥのジャックさんよ」
すぐに展望台の避難を進めて脱出する。リサちゃんは街を心配しているようだが、問題ねぇさ。
「アマンダとがるるが避難誘導をしているはずだ、それに空襲も問題ない、街全体に結界を張ってあるからな。この街は勿論、人々も誰一人傷つけたりはしねぇ」
「いつの間にそんな手回しを?」
「賢者だからさ」
これでも警戒心は強くてね、いつパリピが来てもいいよう支度しといたのさ。
俺様の喧嘩はセレブじゃねぇと買えないぜ、きちんと札束用意してきただろうなお客様。
「ねぇハワード! 飛空艇が落ちてくるよ!?」
「あんだって?」
いきなり飛空艇が落下してきやがった。飛空艇は俺様の結界をすり抜け、魔力塔に落ちてくる。結界抜けのスキルでも使ったんだな。
すぐさま衝撃波を撃ってぶち壊し、破片も【触手】でからめとろう……とした時。肘から火花が散った。【触手】が暴走して俺様を縛り付け、動けなくなる。
「壊れた!? まだ調整完璧じゃなかったんだ!」
「Oops、可愛いじゃじゃ馬だ。俺様を振り回すとはやるじゃない」
「待ってて、すぐに直す「隙ありだ」
俺様の影の中から、声がした。影から手が伸びるなり、リサちゃんが引きずり込まれる。
「貴様がこの俺の顔に泥を塗った男か。その報いを受けさせてやる、魔力塔の頂上へ来い! 貴様の前で、大切な女を殺してやろう」
「へぇ、殺人ショーがお好みか。趣味わりぃぜ、ストリップショーなら喜んで誘われてやるんだがな」
スキルを解除して、右腕を確かめる。うん、ぎこちないがどうにか動くな。スキル使用は無理だが、あいつを殴る程度は出来そうだ。
「ハワード、リサさんは?」
アマンダががるるに乗って駆けつけてきた。流石はガンダルフの脚力だ、街をとっくに一周して、避難と掃除を終わらせてらぁ。破片もついでに片づけてくれたな。
「攫われちまった、けど居場所は分かってる。三下が丁寧に教えてくれたからな。がるる! 俺様と来い、魔力塔を登るぞ。アマンダは最後の掃除を頼む」
「かしこまりました。すでに主だった場所の掃討は終わっています、残るは、この場所だけ」
いつの間にか、俺らをジャックの手先が囲っていた。
飛空艇をミスディレクションに、街を焼こうと地上から兵を回していたようだな。いい作戦だ、意外と脳みそ詰まったハッピー野郎だぜ。
俺様達が相手でなければ、成功していただろうな。
「見た感じ、レベル20の雑魚どもか。歯ブラシの仕上げはよろしくな」
「お任せください。そちらこそ、やりすぎないようご注意を」
「やりすぎるだけの価値が相手にあればの話だがな」
さぁて、豆の木に登ったジャックを打ち落としにいきますか。
ヘルバリアから唯一逃げてきた部下を睨み、ジャックはため息を吐いた。
病的に痩せた男である。不健康な蒼白の顔に、死神を思わせる黒いローブを羽織っている。得物の鎌は血のような赤色をしており、幾多もの命を奪ってきた事を示していた。
「売上や商品は勿論、ガンダルフまで全て台無しか。この俺の面をとことん汚してくれたな。この責任、どのように果たすつもりだ?」
「は、はい……! その、申し訳ございません……!」
全く、そんな下らない報告をしにむざむざ戻ってくるとは。特に楽しみにしていたガンダルフ、あれが手に入らないとは、何たる失態か。
ジャックは一流の品しか傍に置かない。高貴なる男には高貴なる動物が相応しい、ガンダルフはまさしく生きる宝石、ジャックにこそ相応しい生物だ。だというのに。
「このジャックが持つべき品ならば、もっと丁重に扱うべきではないのか? 聞けば三頭中二頭も殺してしまったそうではないか」
「い、いえその……ガンダルフはレベル70を超える獣でして、生け捕りはその……」
「言い訳は聞きたくないな。そのようなずさんな仕事をする奴が俺の部下とは、嘆かわしい。俺の部下には優秀な人間しか必要ない」
ジャックは失敗が大嫌いだ。部下の失敗は自分の責任となる、輝かしい自分の功績に傷が付いてしまう。だから自分の部下に役立たずは必要ない。
一度でも失敗すれば、利用価値はない。こいつはもう廃棄処分だ。
「そのような面白くもない報告をするならば、その隻腕の男に殺されていればいいものを、クズが。このジャックの顔に泥を塗った意味、分からぬような愚か者ではあるまい」
「ひ、ひぃぃっ!」
部下が怯え、逃げ出した。
ジャックは手を翳し、握りしめる。すると部下の影が伸びて、刃となって体を切り刻んだ。
バラバラになった肉塊を影に沈め、死体を掃除する。ジャックは綺麗好きだ、汚物を見るなど許しがたい。
全く、部下の質も落ちたものだ。あんなずさんな仕事をして平気な顔をしているとは。
「隻腕の中年男か。妙な義手を使うと聞くが、このジャックの敵ではない。人は大事な品……人生の足跡を盾にすれば、容易に崩す事が出来る」
聞けばその男には、リサという愛人が居るそうではないか。その女が大事にしている街もろとも破壊しつくし、ザナドゥの恐ろしさを思い知らせてくれる。
ザナドゥの三羽烏が一角に喧嘩を売った事、後悔させてやらねばなるまい。
「ザナドゥに手を出したのだ、相応の報いを受けさせてやろう。飛空艇の準備をしろ! ヘルバリアに我らが力を思い知らせてくれる。ザナドゥに栄光あれ!」
『ザナドゥに栄光あれ!』
◇◇◇
「起きてくださいハワード、もう朝ですよ」
「んあ……おっぱいよーアマンダたーん」
寝ている俺様を起こしてくれたアマンダたんのおっぱいを、寝ぼけたふりして揉んでみる。うーんやっぱりEカップの爆乳はハッピーな揉み心地だねぇ。
勿論斧で文字通り叩き起こされたけど。下手すりゃ永遠に眠っちまうわこんな目覚まし。
「はぁ……黙っていればワイルドな美形なのですから、きちんと手順を踏めば合意してくれる女性なんてたくさんいるでしょう? なぜ許可なしでこのような行為をするのですか」
「俺様なりのこだわりでね、簡単になびく女は好みじゃねぇのさ。無断で揉みしだくおっぱい、それに軽蔑の眼差しを向けつつも上気する頬……次第に嫌悪感は快感へと変わり、言葉を交わさず二人は愛の抱擁へと移り、この世の物とは思えぬ快楽に溺れる! それが俺様の理想のシチュエーションなのさ! てなわけで早速許可なしの一発を」
「天誅!」
「Oh No!? だから斧ぶん回すな、俺様の頭はスイカ割りのスイカじゃねぇんだよ! 割っても噴き出すのは果汁じゃなくて血しぶきだ!」
「私は同意有りでないと許しません、シチュエーションに拘るタイプなのです。……自分から言い出すのは恥ずかしいので男性側から言ってくれるとなお良しです」
「案外面倒な趣向をお持ちでございますわね」
そんな所も魅力的な美人だからこそ、俺ちゃん君に夢中なんですけど♡
さて、モーニングルーティンも終わったし、リサちゃんの工房に行きましょうかね。
右腕の最終調整に入るらしい。三日間でしっかりデータは取れたから、最後に関節の挙動を俺様の肌感覚に一致させる微調整をして、晴れて義手の完成になるそうだ。
—がるるぅ♪
「ヒュー、がるる。今日も元気そうだなぁ」
—わふっ、わふっ♪
宿から出るなり、ガンダルフが飛びついてきた。デカすぎて宿に入らないから、裏手の厩舎を借りて泊めてもらってんのよね。
俺様のパートナーとなったこいつには、鳴き声から「がるる」と名付けた。名づけると愛着もわくって言うか、もふもふ具合がより味わい深く感じるな。
「がるる、悪いがアマンダたんと一緒に留守番しててくれねぇか? あとでジャーキー買ってやるからさ」
—ばうっ
いい返事だ、きちんと俺様の指示を理解したみたいだな。
ちーっと胸騒ぎがするんだ、俺様の勘はよく当たるぜ。
「では私もここで待機しています。ので……がるるぅ抱きしめさせてー!」
—ぎゃん!
アマンダたんの愛情表現に怒ってがるるが噛みついた。ははっ、仲が良いようでいい事だぜ。
じゃれている彼女らは置いといて、工房へ行きますかね。
「ハローリサちゃーん、愛しのハワードさんが来ちゃったよーん♡」
「入ってきてそうそう飛びつくな!」
リサちゃんのアトリエに入ってハグを求めたら、ハンマーで思い切り殴られた。アマンダたんといい、なんだってツッコミに凶器ばっか使うのこの子らは。
「全く……ふざけてないで、早く腕見せて。私は早くアートを完成させたくてうずうずしてるんだから」
「イキイキしてるねぇ」
「最高傑作の義手を作ろうとしているからね。貴方の強さが規格外すぎるから、並の腕じゃすぐに分解しちゃうもの。全身全霊を込めた逸品を作らないと。助けられた恩もあるしね」
ふふん、一流の男には一流の品が必要って事だ。
何度も腕をいじくり、調整を繰り返し、ようやく俺様の腕が完成した。
すげぇな、まるで生身の感覚だ。つーか反応が速すぎて俺様ですら困惑しちまう。若いのにほんと、大した職人だぜ。
「スキルを蓄えても誤作動は起きないみたいだし、安心して使ってね」
「ありがとな、ここまで作りこんでくれて」
「いいの、私がしたかったから。それより、今時間大丈夫? もしよかったら、来てほしい所があるんだけど」
◇◇◇
リサちゃんが連れてきたのは、ヘルバリアのシンボル、魔力塔だ。
街の重要施設だが、同時に観光スポットにもなっていて、展望台が設置されているんだ。転移の魔法陣で展望台へ向かうと、ヘルバリアが一望できた。
「うーん! やっぱいい眺めね。凄いでしょ、この街」
「そうだな。見ているだけで悩みが吹っ飛ぶぜ」
しばし二人で景色を楽しんでいたら、リサちゃんはぽつりと零し始めた。
「私ね、この街が好き。凄く綺麗で、住んでる人も素敵で、大好きな場所なんだ」
「思い入れがあるんだねぇ」
「うん。私は生まれてすぐにこの街に捨てられたけど、皆が居てくれるから寂しくなった事は一度もないんだ。だから、この街を守り続けたい。でも」
「でも?」
「……私さ、外の世界を見てみたい。一度でいいから、色んな所を見て回ってみたいんだ。街に留まってるだけじゃ分からない事って絶対あるでしょ? 外の世界を見て、色んな経験をして、職人として成長したいって思っているんだ」
「へぇ、修行の旅か。チャレンジ精神にあふれてるねぇ」
「ありがと。でも、言った通りこの街を守りたいって気持ちもあるの。ほら、魔王が居なくなっても、まだ情勢は落ち着いてないでしょ? この街だってザナドゥが出入りしていたし……誰かが守らないと、苦しむ人が出てしまうもの」
リサちゃんは俯いた。自分もその悪者に利用されていたから、余計な責任を感じているようだな。
だが、君の人生を決めるのは君だ。
「君はどうしたいんだい? 修行の旅に出るか、それとも街に留まるのか。どっちが本心だい?」
「うーん……」
「分からないのなら、存分に悩んでみな。悩んで、悩んで、とことんまでに悩むんだ。俺と違って君は若い、遠回りする時間があるんだぜ? だから、結論を急ぐ必要はないんだよ。だがね、答えを出すにしても、これだけは心掛けた方がいい」
「それは?」
「選択を楽しめ。どんな選択をしても、運が悪ければ悪い事ばかり起こるだろう。だけどな、それでも自分が選び、決めたんだ。悪い事も含めて、自分自身を謳歌するんだ。それが出来れば、どんな選択をしようと後悔しなくなる。起こる事全てが、いい事になるはずだぜ。
自分の人生は一度しかない。俺がハワード・ロックで居られるのも、この瞬間だけなんだ。だから俺は、俺自身を謳歌すると決めている。例え命尽きる時が来ても、俺は最後までハワード・ロックとして生き、ハワード・ロックとして死ぬだろう。命の灯火が消え、目を閉じる時に後悔したくないから、俺は俺じゃないと楽しめない人生を選んでいるのさ。
君もリサじゃないと楽しめない人生を選びな。そうすりゃおのずと後悔は無くなり、満足だけが残る。それこそが、自分らしく生きるって事なのさ」
「……そうね。ふふ、説法が凄く上手。やっぱりあんた、賢者なんだね」
「当然さ、賢者だからな」
ただ、俺様から見ると君はもう、どっちを選ぶか決めているようにしか見えないんだよね。その決断をするために、誰かに背中を押してもらいたい。そう言ってる気がしてならないな。
「ん? ねぇ、あれ何かな」
リサちゃんが空を指さした。ふと見ると、空飛ぶ船がこっちに向かってきている。
飛空艇じゃねぇか。魔力を込めると浮かぶ飛行石を動力にした、最新の乗り物だ。
『ヘルバリアの住民に告ぐ。貴様らは我らザナドゥの名を汚した大罪人だ、よってここに粛清として、我らが鉄槌を下してやろう!』
飛空艇からでかでかとアナウンスが流れた。予感的中、ザナドゥの報復活動だ!
その飛空艇はヘルバリア上空に来るなり、爆弾を落としてきた。だが、ヘルバリアに届く前に結界が受け止める。こんな事もあろうかと、俺様が結界を張っといたのさ。
「へっ、どうやらお出ましのようだな。ザナドゥのジャックさんよ」
すぐに展望台の避難を進めて脱出する。リサちゃんは街を心配しているようだが、問題ねぇさ。
「アマンダとがるるが避難誘導をしているはずだ、それに空襲も問題ない、街全体に結界を張ってあるからな。この街は勿論、人々も誰一人傷つけたりはしねぇ」
「いつの間にそんな手回しを?」
「賢者だからさ」
これでも警戒心は強くてね、いつパリピが来てもいいよう支度しといたのさ。
俺様の喧嘩はセレブじゃねぇと買えないぜ、きちんと札束用意してきただろうなお客様。
「ねぇハワード! 飛空艇が落ちてくるよ!?」
「あんだって?」
いきなり飛空艇が落下してきやがった。飛空艇は俺様の結界をすり抜け、魔力塔に落ちてくる。結界抜けのスキルでも使ったんだな。
すぐさま衝撃波を撃ってぶち壊し、破片も【触手】でからめとろう……とした時。肘から火花が散った。【触手】が暴走して俺様を縛り付け、動けなくなる。
「壊れた!? まだ調整完璧じゃなかったんだ!」
「Oops、可愛いじゃじゃ馬だ。俺様を振り回すとはやるじゃない」
「待ってて、すぐに直す「隙ありだ」
俺様の影の中から、声がした。影から手が伸びるなり、リサちゃんが引きずり込まれる。
「貴様がこの俺の顔に泥を塗った男か。その報いを受けさせてやる、魔力塔の頂上へ来い! 貴様の前で、大切な女を殺してやろう」
「へぇ、殺人ショーがお好みか。趣味わりぃぜ、ストリップショーなら喜んで誘われてやるんだがな」
スキルを解除して、右腕を確かめる。うん、ぎこちないがどうにか動くな。スキル使用は無理だが、あいつを殴る程度は出来そうだ。
「ハワード、リサさんは?」
アマンダががるるに乗って駆けつけてきた。流石はガンダルフの脚力だ、街をとっくに一周して、避難と掃除を終わらせてらぁ。破片もついでに片づけてくれたな。
「攫われちまった、けど居場所は分かってる。三下が丁寧に教えてくれたからな。がるる! 俺様と来い、魔力塔を登るぞ。アマンダは最後の掃除を頼む」
「かしこまりました。すでに主だった場所の掃討は終わっています、残るは、この場所だけ」
いつの間にか、俺らをジャックの手先が囲っていた。
飛空艇をミスディレクションに、街を焼こうと地上から兵を回していたようだな。いい作戦だ、意外と脳みそ詰まったハッピー野郎だぜ。
俺様達が相手でなければ、成功していただろうな。
「見た感じ、レベル20の雑魚どもか。歯ブラシの仕上げはよろしくな」
「お任せください。そちらこそ、やりすぎないようご注意を」
「やりすぎるだけの価値が相手にあればの話だがな」
さぁて、豆の木に登ったジャックを打ち落としにいきますか。
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