ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。

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177話 ディックが培ってきた物

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『絆だぁ? 雑魚が大勢揃ったところで、この俺に勝てるとでも思っているのか。忘れたわけじゃないだろう、この剣の能力を』
「ああ、不死の力だろう。そんなのは百も承知さ」

 覚醒してから、分かった事がある。ハヌマーンの持つ心を繋げる力が強化されているんだ。
 それは、お前に対し最も効果のある力だ。

「断言する、お前はもう僕達に手も足も出ない。たった一人だけの、空っぽなだけの力で僕達に勝つ事なんて、不可能だ!」
『ははははは! だったら見せてみろ、その絆の力とやらをな!』

 エンディミオンの姿が消えた。変身によって能力が急上昇し、途方もない速さになっている。

『忘れちゃいないかい? 今君の前に居るのは王将、魔王様だって事に』

 魔王がエンディミオンに結界術を使った。途端、エンディミオンが飴色の壁に封じられ、身動きが取れなくなる。

『魔王軍最大級の戦力を前に雑魚呼ばわりとは、よく言えたものだねぇ。しっかりとそのツケを払ってもらおうか』
『はっ! この程度の結界で俺を封じ込めると思うなよ? 俺にはコピー能力がある、すぐに耐性を身に着けて貴様を……貴様を……?』

 エンディミオンは結界から抜け出せない。目の前で魔王の能力を見たにも関わらずだ。
 当然だろう、今、お前のコピー能力は何の役にも立たない。この場に居る全員が、僕と繋がっているから。

「今が好機だ、畳みかけるぞ!」
「吠えろ、我が右腕!」

 ドレカーとソユーズが動いた。無数の魑魅魍魎が結界内に召喚され、エンディミオンの体を食い散らかす。同時にソユーズの強烈な光線が結界ごとエンディミオンを撃ち抜き、大爆発を起こした。

『がはっ! なんだと……俺の耐性を、貫通した!?』

 不死の力でどうにか抜け出したようだが、無駄だ。お前に逃げ道などない!

「私とリージョンが居るのよぉ? 時間と空間を操る二大巨頭に」
「回避など愚の骨頂だ!」

 メイライトの時止めで足を止め、リージョンがゲートで接近し、ボディブローを叩き込む。止めた時もろとも打ち砕き、エンディミオンの体が粉砕された。
 不死の力で再生しても、魔王軍の兵士達が一斉攻撃を仕掛ける。一つ一つの攻撃は弱くても、確実にエンディミオンを削っていた。

『なぜ、俺の耐性が意味をなさない!?』
『我が力を忘れたか、エンディミオンよ。我が力は、アンチ魔導具の力と心を繋げる力。それが覚醒によって強化された今、主と絆を結んだ者達に我が力を分け与える事が出来るのだ』

 シラヌイに分け与えている物よりは弱いけれども、お前の耐性を貫通できる程度の力が皆に宿っている。お前に攻撃を当てる事が出来るんだ。

『だが、俺の攻撃も通じる、まだ戦える! その程度でいきがるな!』
「そうだな、攻撃をする事が出来ればな!」
『ディック、行くよ!』

 母さんと一緒に、エンディミオンへ立ち向かった。
 母さんから教わった剣技で縦横無尽に切り刻み、反撃を許さない。僕達の剣は神速の刃だ、お前如きに見切れるはずがない。僕達二人が壁になって、攻撃の隙など与えるものか!

『成長したねディック、もうすっかり私を超えた剣士になったじゃないか』
「……ありがとう、今までで、一番嬉しい褒め言葉だよ」

 初めて母さんと一緒に戦えた。それが何よりも嬉しくて、こんな状況なのに笑ってしまう。
 それにお前も、同じ気持ちなんだろう。なぁ、フェイス!

「俺に続け、アプサラス!」
「うん!」

 フェイスがエンディミオンと鍔迫り合い、聖剣と龍王剣に灼光がともる。彼が盾になっている間に、アプサラスが背後に回って斬りつけた。
 エンディミオンが怯んだ隙にアプサラスを連れバックステップし、フェイスと僕は並んだ。

「……いいもんだな、横に愛する者が居る感覚は」
「だろう? それに今の君なら、僕も一緒に居て悪くないよ」
「そうか……もっと早く、気づきたかったぜ」
『何を、余裕かましてんだ貴様らぁ! この俺が、このエンディミオンが! この程度の雑魚の集まりにぃ!』
「その雑魚に押されているのは誰かしら、エンディミオン!」

 シラヌイが炎の渦にエンディミオンを閉じ込め、真上から特大の炎を叩き込む。息つく間もなく炎を浴びせ、トドメと言わんばかりに火炎魔人で殴り飛ばした。

「たった一人、虚無しか持たないあんたに、私達が負けるわけない! 徹底的に押され続けている、あんたの現状がその証拠よ!」
『ぐっ、サキュバス如きが何をぬかすか!』
「ただのサキュバスじゃない、私は……ディックの嫁よ!」

 シラヌイは堂々と胸を張り、エンディミオンへ火球をあびせ怯ませた。

『今だ、ウィンディア人突撃!』

 ケイを先頭にウィンディア人が集団で襲い掛かる。煌力モードで翻弄され、エンディミオンを押しまくった。

『俺達ウィンディア人が造った諸悪の根源、祖先が作った汚名をここで注がせてもらう!』
『勝手に俺を作っておいて、よくもまぁそんな事を言えるものだな!』
『ああ、だからこそ、その責任を取るんだ!』
「微力ながら私達も手を貸します!」
「ここまで長い付き合いになったんだ、その重荷、俺達も背負わせてもらうぞ!」

 ウィンディア人の隙間を抜けて、ワイルがエンディミオンの顔に布を叩きつけ、視界を奪う。布を取り払う一瞬の隙にラズリが拳を振り上げ、顔面を殴り飛ばした。

「逃がさない! 縛っちゃえ!」

 ラピスの魔法でエンディミオンが木の根に縛られ、身動きが取れなくなる。そこを、

『ばっはっは! 本来ならタイマンを張りたいところだが、今日の所は我慢してやろう!』
『トドメは任せたぞ、お前達!』

 ディアボロスが火球を放ち、奴の四肢を焼き払う。再生しようとするエンディミオンにシルフィが幻術を仕掛け、動きを止めた。

『主よ、決着の時だ!』
「了解! 母さん、フェイス……シラヌイ!」
『任せておいて!』
「ああ……終わらせるぞディック!」
「これが物語のピリオドよ!」

 僕らは走った。
 母さんがエンディミオンを切りさいた直後、シラヌイは魔力を凝縮させたファイアボールを撃ちこむ。そして……。
『おおおおおおおおおっ!』

 僕とフェイスの刃がエンディミオンを十字に断ち切り、虚無の聖剣に、終止符を打ったのだった。
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