ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。

文字の大きさ
上 下
176 / 181

175話 最後のエンディミオン戦

しおりを挟む
 行く手を阻む兵をなぎ倒し、僕達は進んでいく。
 ハヌマーンのお陰で、エンディミオンがどこにいるのかが分かる。あいつは謁見の間で、僕達を待ち構えている。
 近づくにつれて、肌がビリビリしてくる。あいつの気配が、確実に迫っていた。

「シラヌイ、覚悟はいいかい?」
「ええ、いつでも!」

 ハヌマーンで繋がっている僕達だからこそ、エンディミオンに立ち向かえる。僕達の背にのしかかる多くの想い、無駄には出来ない。

『謁見の間まで、あと少しだぞ』

 先行していたシルフィが叫んだ。固く閉ざされた、大きな扉が見えてくる。
 僕の斬撃とシラヌイの火球で壊し、突入すると……エンディミオンは玉座におさまり、二振りの剣を携えてたたずんでいた。

『随分早い来訪だな。いきなりここまで突撃してくるなんて、王を相手に不躾だと思わないか?』
「お前相手にマナーを守るつもりはない。ここまで来た以上、語る必要はないよな」
「私達が生きるのに、あんたはただ邪魔なだけ。くだらない暇つぶしは、ここまでにしてもらうわよ」

 僕らは武器を突き付け、

「エンディミオン! お前の虚無はここで砕く、この世にお前は不要だ!」
「あんたを破壊して、人間との戦争を終わらせてやるわ!」
『ははは! これはまた、物騒な用件だ。そう簡単に壊されては、俺も困るな』

 おもむろに立ち上がり、エンディミオンは歩み寄ってくる。
 自身と、ディアボロス。二本の剣を握りしめ、凶悪に笑ってきた。

『この退屈を埋めるには、まだまだ足りない。俺が満たされるには、もっと、もっと多くの闘争が必要だ。だから……お前達には踏み台になってもらうよ。より遥かな満足を得るためのな』
「やれるものなら!」
「やってみなさい!」

 僕は突進し、エンディミオンに切り込んだ。
 刀と聖剣がぶつかり合い、火花が散る。刀身に煌力を満たし、エンディミオンを押し返した。
 そこへシラヌイの炎魔法が降り注ぐ。嵐のような猛攻にエンディミオンは一瞬怯むも、その顔には笑みが浮かんでいた。

『いいねぇ、やっぱりお前ら、最高だよ』
「お前を楽しませるために戦っているんじゃない!」

 オベリスクを抜き、炎と土を組み合わせて足元にマグマを発生させる。エンディミオンは回避し、僕に斬撃を飛ばしてくるけど、

『あん?』

 シラヌイが幻術で、僕の分身を生み出している。斬撃は的外れな方向へ飛び、壁を破壊した。
 風魔法で背中を押し、一気に間合いを詰める。エンディミオンもディアボロスを抜いて、双剣での打ち合いが始まった。
 フェイスの顔で、フェイスの武具を振るうエンディミオン。だからこそ分かる、なぜフェイスが変わったのか、これまで無意味に人の命を奪ってきたのか。
 こいつが、フェイスの自我を乗っ取っていたんだ。
 あいつの意志を知らずのうちに侵食して、エンディミオンの思うように動かしていた。こいつはずっと、フェイスを操り人形にして、弄んでいたんだ。
 許せない……こいつだけは、許せない。
 多くの人の人生をゆがませ、心を虚無で満たし……破滅の波を広げてきた悪魔の剣! なんとしてでも壊してやる!

「ハヌマーン! 勝負に出るぞ!」
『承知!』

 覚醒の力を使い、僕は変身した。エンディミオンを確実に倒すには、この力で押し切るのが手っ取り早い!
 そこへ煌力も乗せる。出し惜しみなんかする物か、目の前に全てを終わらすキーマンがいるのだから!

『ははは! アンチ魔導具の力、どれだけ俺に通用するか試してみろ!』

 エンディミオンは嬉々として、僕にぶつかってきた。

  ◇◇◇
〈魔王視点〉

『今頃、ディッ君はエンディミオンとぶつかっている頃か』

 本省を表わしたエンディミオンは、ハヌマーンの力を持ってしても勝てるかどうか怪しい。ワシも出張らないとならない事態だ。
 だけどもあと一人、エンディミオンを倒すために必要な人物が居る。

『遅くなったな魔王よ、フェイスはここか?』
『やぁ、ディアボロス』

 魔王城の外から大きな声が聞こえた。龍王ディアボロス、現在、フェイスにとって唯一の味方である存在だ。
 エンディミオンを倒すには、フェイスが必要だ。というより、フェイスを連れていかないと、エンディミオンにとどめを刺せない。

『連れ出すには、怪我を治さないとね。君の血を使えば出来るでしょう?』
『うむ。龍の血にはあらゆる怪我を癒す力がある、動ける程度に治すくらいはできよう』

 ディアボロスは何も言わずに血を提供してきた。話が早くて助かるな。
 それにこっそりシルフィから、ある許可も貰っている。フェイスを覚醒させるのに、この上なく重要な人物だ。勿論、ディッ君を救うためにもね。

『この短期間で、何度も呼び出す事になっちゃうなぁ。シルフィに怒られちゃうよ』
『だが、状況が状況だろう。フェイスが目を覚ましたら、我らも行くぞ』
『勿論。運搬役は頼んだよ』

 って事で、一人医務室へ向かう。フェイスとアプサラスはまだ目を閉じていて、硬く手を握り合っている。
 今まで愛された事のない勇者に初めてできた、心から愛してくれる人か。この子には、つらい事を強いてしまうかもしれないな。
 それでも、ワシは魔王だ。多くの民を救う義務がある。
 だからフェイス、世界を救うための犠牲となってくれ。
 そんな願いを込めて、シルフィの羽を彼の胸に置いてあげた。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

異世界に来たからといってヒロインとは限らない

あろまりん
ファンタジー
※ようやく修正終わりました!加筆&纏めたため、26~50までは欠番とします(笑)これ以降の番号振り直すなんて無理! ごめんなさい、変な番号降ってますが、内容は繋がってますから許してください!!!※ ファンタジー小説大賞結果発表!!! \9位/ ٩( 'ω' )و \奨励賞/ (嬉しかったので自慢します) 書籍化は考えていま…いな…してみたく…したいな…(ゲフンゲフン) 変わらず応援して頂ければと思います。よろしくお願いします! (誰かイラスト化してくれる人いませんか?)←他力本願 ※誤字脱字報告につきましては、返信等一切しませんのでご了承ください。しかるべき時期に手直しいたします。      * * * やってきました、異世界。 学生の頃は楽しく読みました、ラノベ。 いえ、今でも懐かしく読んでます。 好きですよ?異世界転移&転生モノ。 だからといって自分もそうなるなんて考えませんよね? 『ラッキー』と思うか『アンラッキー』と思うか。 実際来てみれば、乙女ゲームもかくやと思う世界。 でもね、誰もがヒロインになる訳じゃないんですよ、ホント。 モブキャラの方が楽しみは多いかもしれないよ? 帰る方法を探して四苦八苦? はてさて帰る事ができるかな… アラフォー女のドタバタ劇…?かな…? *********************** 基本、ノリと勢いで書いてます。 どこかで見たような展開かも知れません。 暇つぶしに書いている作品なので、多くは望まないでくださると嬉しいです。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

10歳で記憶喪失になったけど、チート従魔たちと異世界ライフを楽しみます(リメイク版)

犬社護
ファンタジー
10歳の咲耶(さや)は家族とのキャンプ旅行で就寝中、豪雨の影響で発生した土石流に巻き込まれてしまう。 意識が浮上して目覚めると、そこは森の中。 彼女は10歳の見知らぬ少女となっており、その子の記憶も喪失していたことで、自分が異世界に転生していることにも気づかず、何故深い森の中にいるのかもわからないまま途方に暮れてしまう。 そんな状況の中、森で知り合った冒険者ベイツと霊鳥ルウリと出会ったことで、彼女は徐々に自分の置かれている状況を把握していく。持ち前の明るくてのほほんとしたマイペースな性格もあって、咲耶は前世の知識を駆使して、徐々に異世界にも慣れていくのだが、そんな彼女に転機が訪れる。それ以降、これまで不明だった咲耶自身の力も解放され、様々な人々や精霊、魔物たちと出会い愛されていく。 これは、ちょっぴり天然な《咲耶》とチート従魔たちとのまったり異世界物語。 ○○○ 旧版を基に再編集しています。 第二章(16話付近)以降、完全オリジナルとなります。 旧版に関しては、8月1日に削除予定なのでご注意ください。 この作品は、ノベルアップ+にも投稿しています。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

処理中です...