148 / 181
147話 見つけたよイザヨイ、俺を愛してくれる奴を。
しおりを挟む
結論から言えば、アプサラスの才能は平凡だ。
太刀筋はよくもなく悪くもなく、飲み込みも普通。褒められるのは意欲ぐらいなもんか。
かと言ってけなす所もありゃしねぇ。ったく、反応に困るっての。こんなのどうやって指導すりゃいいんだ?
「ねぇフェイス、どう?」
「知るか、そのドヤ顔やめろ。決めポーズすんな。なんか腹立つ」
目ぇ輝かせて俺を見て、何を期待しているってんだよ。
『ばっはっは! 勇者よ、少しくらい言葉に色つけてみてはどうだ?』
「はぁ? あのなぁ……」
ちっ、言い返したら屁理屈こねるのが目に見えてるしな……そっちを聞く方が面倒くせぇ。仕方ねぇか。
「とりあえず、剣の才能自体はまぁ……ないわけじゃねぇな」
「じゃああるんだね! やたー!」
……頭痛くなってくるぜこいつ……別にほめたわけじゃねぇのにくるくる回って、随分な喜びようだ。
なんだって俺の一挙一動でこうも喜ぶんだか。ただまぁ、なんつうか……悪い気分ではないんだがな。
「……初めて持った割りには、それなりに扱えてはいるからな。俺が教える以上、最低限並以上の力は付けさせてやる。だからちゃんとやれよ」
「うん! あたし冒険者になりたいもん! それで世界中を見て回って、沢山の冒険をするんだ!」
「はっ、夢見るのはいいが、弱くちゃその夢もかなえられねぇぞ」
「だから頑張るよ。ねぇフェイス、次教えて!」
「嫌味が通じねぇ、ってか理解する頭がねぇか」
ため息しか出てこないぜ、無知で無垢な奴がこれだけ面倒くさいとは。俺の苦手なタイプだ。
嫌味を言っても、皮肉を言っても、こいつには全く通じない。なんつーか、相手を悪く言う自分に嫌悪感を覚えると言うか、アプサラスに罪悪感が出ると言うか。
こりゃ、下手に悪口言うと俺が痛い目見るだけだな。
「……ははっ、ははははは」
「どうしたのフェイス。あたし何か面白い事した?」
「ああ、面白いよ。この俺に勝てる奴が、まさかもう一人現れるとは思わなかったからな」
どうやら俺は、こいつに勝てないらしい。アプサラスが純粋すぎて、俺の言う事全部が好意的に捉えられてしまう。
なら、嫌味や皮肉はもう無しだ。言う意味がねぇ。
「剣使うなら、肩を脱力してもっと脇を締めろ。足もこう、斜め前後に広げると安定する。なるべく上半身を小さく、土台となる足は広めに使うのを意識しろ」
「うん……うん。こうかな、えいっ!」
アプサラスの振った一刀が、鮮やかな軌道を描いた。
軽いアドバイスでこうも変わるのか。前言撤回だ、こいつ、才能あるよ。
素直に俺の指示を聞いてくれるから、飲み込みがかなり速い。なんだ、真面目にやってなかったのは俺の方じゃねぇか。
「アプサラス、お前……いいセンスだ」
「ほんと? へへ、そっかぁ。やっぱりあたし、フェイス好きだよ。こんなに優しい人、他に居ないもん」
「だから俺は……いや、もういいか」
アプサラスはすっかり俺を気に入っている、否定したって無駄だな。
にしても、アプサラスのはにかんだ笑みを見ていると、俺まで嬉しくなるな。
くくっ、知らなかったな……誰かに喜んでもらえるのが、こうまで嬉しい事だとはな。
『そうだろう? だから私はディックが好きなんだ』
ふと、イザヨイの幻聴が聞こえた。
振り返っても誰もいない。そりゃそうか、多分俺が無意識に思ったんだろうな、「イザヨイならこう言うだろうな」と。
……俺とディックの世話をしている時、イザヨイは本当に嬉しそうな、楽しそうな笑顔を見せていた。それにつられて俺も、嬉しい気持ちになったっけ。
「ようやく理解できたよ、イザヨイ……あの時、お前が教えてくれた事」
イザヨイが俺に愛情を向けてきた理由、ようやく分かった。ディックが監獄で言っていた事も、やっと分かったよ。
愛されるために努力するんじゃない、誰かを喜ばすために努力するから愛されるんだ。
「まさか、こんなちんちくりんに教わるとはな」
「ちんちくりん?」
「悪口だ、気にすんな」
「そっかぁ……って悪口? なんで悪口言うの? 酷いよ」
「悪かったな。だからもう金輪際、悪口は言わない。お前には、嫌な思いをさせないさ」
自分がどれだけ悪辣なことをしてきたのか、強い後悔がこみ上げてくる。
もし、情勢が落ち着いたら……今まで旅してきた所をもう一度回ろう。そして、謝ろう。俺が理不尽に壊してきた人達に、贖罪しないとだめだ。
どんなに時間がかかったとしても、必ず、一人で……。
「フェイス、あたしが冒険者になったら、一緒に行こうよ」
「何に?」
「旅! 冒険者と言ったら旅だよ。それでね、一緒に色んな場所を見て回るの。嫌だって言っても駄目だよ、あたし、無理やりついて行くから」
アプサラスは俺を見上げ、
「今、フェイス哀しそうな顔したから。一人で何か、嫌な事しようとしてるんでしょ。なら、あたしも行く。フェイスはあたし、助けてくれたから。だから今度は、あたしがフェイスを助ける番なんだ」
「……いや、お前に甘えるわけにはいかない。俺一人でやらなきゃならないんだ」
「甘えてよ! だってあたし、フェイス大好きだから。大好きな人が辛い思いするの、凄く嫌だから」
言うなり、抱き着いて来る。
アプサラスからひたむきな好意が伝わってくる。以前一緒に居た女達とは違う。こいつは本気で、俺を助けようとしている。
……俺を心の底から、愛そうとしているんだ。
「……一応聞いておく、お前、俺の事どれだけ好きなんだ?」
「いっぱい。もう、めいっぱい! 世界中の人の中で、あたしが一番フェイスが好きだよ。絶対!」
「……そうか……そうか……!」
ちっ、なんで視界がぼやけるんだよ。こんな、何気ない一言でどうして、こんなに心が震えるんだよ。涙があふれて、止まらねぇよ。
なぁ……イザヨイ、いいのかな……本当に俺なんかが、いいのかな……?
俺……誰かに愛される資格……あるのかな……!
太刀筋はよくもなく悪くもなく、飲み込みも普通。褒められるのは意欲ぐらいなもんか。
かと言ってけなす所もありゃしねぇ。ったく、反応に困るっての。こんなのどうやって指導すりゃいいんだ?
「ねぇフェイス、どう?」
「知るか、そのドヤ顔やめろ。決めポーズすんな。なんか腹立つ」
目ぇ輝かせて俺を見て、何を期待しているってんだよ。
『ばっはっは! 勇者よ、少しくらい言葉に色つけてみてはどうだ?』
「はぁ? あのなぁ……」
ちっ、言い返したら屁理屈こねるのが目に見えてるしな……そっちを聞く方が面倒くせぇ。仕方ねぇか。
「とりあえず、剣の才能自体はまぁ……ないわけじゃねぇな」
「じゃああるんだね! やたー!」
……頭痛くなってくるぜこいつ……別にほめたわけじゃねぇのにくるくる回って、随分な喜びようだ。
なんだって俺の一挙一動でこうも喜ぶんだか。ただまぁ、なんつうか……悪い気分ではないんだがな。
「……初めて持った割りには、それなりに扱えてはいるからな。俺が教える以上、最低限並以上の力は付けさせてやる。だからちゃんとやれよ」
「うん! あたし冒険者になりたいもん! それで世界中を見て回って、沢山の冒険をするんだ!」
「はっ、夢見るのはいいが、弱くちゃその夢もかなえられねぇぞ」
「だから頑張るよ。ねぇフェイス、次教えて!」
「嫌味が通じねぇ、ってか理解する頭がねぇか」
ため息しか出てこないぜ、無知で無垢な奴がこれだけ面倒くさいとは。俺の苦手なタイプだ。
嫌味を言っても、皮肉を言っても、こいつには全く通じない。なんつーか、相手を悪く言う自分に嫌悪感を覚えると言うか、アプサラスに罪悪感が出ると言うか。
こりゃ、下手に悪口言うと俺が痛い目見るだけだな。
「……ははっ、ははははは」
「どうしたのフェイス。あたし何か面白い事した?」
「ああ、面白いよ。この俺に勝てる奴が、まさかもう一人現れるとは思わなかったからな」
どうやら俺は、こいつに勝てないらしい。アプサラスが純粋すぎて、俺の言う事全部が好意的に捉えられてしまう。
なら、嫌味や皮肉はもう無しだ。言う意味がねぇ。
「剣使うなら、肩を脱力してもっと脇を締めろ。足もこう、斜め前後に広げると安定する。なるべく上半身を小さく、土台となる足は広めに使うのを意識しろ」
「うん……うん。こうかな、えいっ!」
アプサラスの振った一刀が、鮮やかな軌道を描いた。
軽いアドバイスでこうも変わるのか。前言撤回だ、こいつ、才能あるよ。
素直に俺の指示を聞いてくれるから、飲み込みがかなり速い。なんだ、真面目にやってなかったのは俺の方じゃねぇか。
「アプサラス、お前……いいセンスだ」
「ほんと? へへ、そっかぁ。やっぱりあたし、フェイス好きだよ。こんなに優しい人、他に居ないもん」
「だから俺は……いや、もういいか」
アプサラスはすっかり俺を気に入っている、否定したって無駄だな。
にしても、アプサラスのはにかんだ笑みを見ていると、俺まで嬉しくなるな。
くくっ、知らなかったな……誰かに喜んでもらえるのが、こうまで嬉しい事だとはな。
『そうだろう? だから私はディックが好きなんだ』
ふと、イザヨイの幻聴が聞こえた。
振り返っても誰もいない。そりゃそうか、多分俺が無意識に思ったんだろうな、「イザヨイならこう言うだろうな」と。
……俺とディックの世話をしている時、イザヨイは本当に嬉しそうな、楽しそうな笑顔を見せていた。それにつられて俺も、嬉しい気持ちになったっけ。
「ようやく理解できたよ、イザヨイ……あの時、お前が教えてくれた事」
イザヨイが俺に愛情を向けてきた理由、ようやく分かった。ディックが監獄で言っていた事も、やっと分かったよ。
愛されるために努力するんじゃない、誰かを喜ばすために努力するから愛されるんだ。
「まさか、こんなちんちくりんに教わるとはな」
「ちんちくりん?」
「悪口だ、気にすんな」
「そっかぁ……って悪口? なんで悪口言うの? 酷いよ」
「悪かったな。だからもう金輪際、悪口は言わない。お前には、嫌な思いをさせないさ」
自分がどれだけ悪辣なことをしてきたのか、強い後悔がこみ上げてくる。
もし、情勢が落ち着いたら……今まで旅してきた所をもう一度回ろう。そして、謝ろう。俺が理不尽に壊してきた人達に、贖罪しないとだめだ。
どんなに時間がかかったとしても、必ず、一人で……。
「フェイス、あたしが冒険者になったら、一緒に行こうよ」
「何に?」
「旅! 冒険者と言ったら旅だよ。それでね、一緒に色んな場所を見て回るの。嫌だって言っても駄目だよ、あたし、無理やりついて行くから」
アプサラスは俺を見上げ、
「今、フェイス哀しそうな顔したから。一人で何か、嫌な事しようとしてるんでしょ。なら、あたしも行く。フェイスはあたし、助けてくれたから。だから今度は、あたしがフェイスを助ける番なんだ」
「……いや、お前に甘えるわけにはいかない。俺一人でやらなきゃならないんだ」
「甘えてよ! だってあたし、フェイス大好きだから。大好きな人が辛い思いするの、凄く嫌だから」
言うなり、抱き着いて来る。
アプサラスからひたむきな好意が伝わってくる。以前一緒に居た女達とは違う。こいつは本気で、俺を助けようとしている。
……俺を心の底から、愛そうとしているんだ。
「……一応聞いておく、お前、俺の事どれだけ好きなんだ?」
「いっぱい。もう、めいっぱい! 世界中の人の中で、あたしが一番フェイスが好きだよ。絶対!」
「……そうか……そうか……!」
ちっ、なんで視界がぼやけるんだよ。こんな、何気ない一言でどうして、こんなに心が震えるんだよ。涙があふれて、止まらねぇよ。
なぁ……イザヨイ、いいのかな……本当に俺なんかが、いいのかな……?
俺……誰かに愛される資格……あるのかな……!
0
お気に入りに追加
3,383
あなたにおすすめの小説
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。


最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる