ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。

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147話 見つけたよイザヨイ、俺を愛してくれる奴を。

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 結論から言えば、アプサラスの才能は平凡だ。
 太刀筋はよくもなく悪くもなく、飲み込みも普通。褒められるのは意欲ぐらいなもんか。
 かと言ってけなす所もありゃしねぇ。ったく、反応に困るっての。こんなのどうやって指導すりゃいいんだ?

「ねぇフェイス、どう?」
「知るか、そのドヤ顔やめろ。決めポーズすんな。なんか腹立つ」

 目ぇ輝かせて俺を見て、何を期待しているってんだよ。

『ばっはっは! 勇者よ、少しくらい言葉に色つけてみてはどうだ?』
「はぁ? あのなぁ……」

 ちっ、言い返したら屁理屈こねるのが目に見えてるしな……そっちを聞く方が面倒くせぇ。仕方ねぇか。

「とりあえず、剣の才能自体はまぁ……ないわけじゃねぇな」
「じゃああるんだね! やたー!」

 ……頭痛くなってくるぜこいつ……別にほめたわけじゃねぇのにくるくる回って、随分な喜びようだ。
 なんだって俺の一挙一動でこうも喜ぶんだか。ただまぁ、なんつうか……悪い気分ではないんだがな。

「……初めて持った割りには、それなりに扱えてはいるからな。俺が教える以上、最低限並以上の力は付けさせてやる。だからちゃんとやれよ」
「うん! あたし冒険者になりたいもん! それで世界中を見て回って、沢山の冒険をするんだ!」
「はっ、夢見るのはいいが、弱くちゃその夢もかなえられねぇぞ」
「だから頑張るよ。ねぇフェイス、次教えて!」
「嫌味が通じねぇ、ってか理解する頭がねぇか」

 ため息しか出てこないぜ、無知で無垢な奴がこれだけ面倒くさいとは。俺の苦手なタイプだ。
 嫌味を言っても、皮肉を言っても、こいつには全く通じない。なんつーか、相手を悪く言う自分に嫌悪感を覚えると言うか、アプサラスに罪悪感が出ると言うか。
 こりゃ、下手に悪口言うと俺が痛い目見るだけだな。

「……ははっ、ははははは」
「どうしたのフェイス。あたし何か面白い事した?」
「ああ、面白いよ。この俺に勝てる奴が、まさかもう一人現れるとは思わなかったからな」

 どうやら俺は、こいつに勝てないらしい。アプサラスが純粋すぎて、俺の言う事全部が好意的に捉えられてしまう。
 なら、嫌味や皮肉はもう無しだ。言う意味がねぇ。

「剣使うなら、肩を脱力してもっと脇を締めろ。足もこう、斜め前後に広げると安定する。なるべく上半身を小さく、土台となる足は広めに使うのを意識しろ」
「うん……うん。こうかな、えいっ!」

 アプサラスの振った一刀が、鮮やかな軌道を描いた。
 軽いアドバイスでこうも変わるのか。前言撤回だ、こいつ、才能あるよ。
 素直に俺の指示を聞いてくれるから、飲み込みがかなり速い。なんだ、真面目にやってなかったのは俺の方じゃねぇか。

「アプサラス、お前……いいセンスだ」
「ほんと? へへ、そっかぁ。やっぱりあたし、フェイス好きだよ。こんなに優しい人、他に居ないもん」
「だから俺は……いや、もういいか」

 アプサラスはすっかり俺を気に入っている、否定したって無駄だな。
 にしても、アプサラスのはにかんだ笑みを見ていると、俺まで嬉しくなるな。
 くくっ、知らなかったな……誰かに喜んでもらえるのが、こうまで嬉しい事だとはな。

『そうだろう? だから私はディックが好きなんだ』

 ふと、イザヨイの幻聴が聞こえた。
 振り返っても誰もいない。そりゃそうか、多分俺が無意識に思ったんだろうな、「イザヨイならこう言うだろうな」と。
 ……俺とディックの世話をしている時、イザヨイは本当に嬉しそうな、楽しそうな笑顔を見せていた。それにつられて俺も、嬉しい気持ちになったっけ。

「ようやく理解できたよ、イザヨイ……あの時、お前が教えてくれた事」

 イザヨイが俺に愛情を向けてきた理由、ようやく分かった。ディックが監獄で言っていた事も、やっと分かったよ。
 愛されるために努力するんじゃない、誰かを喜ばすために努力するから愛されるんだ。

「まさか、こんなちんちくりんに教わるとはな」
「ちんちくりん?」
「悪口だ、気にすんな」
「そっかぁ……って悪口? なんで悪口言うの? 酷いよ」
「悪かったな。だからもう金輪際、悪口は言わない。お前には、嫌な思いをさせないさ」

 自分がどれだけ悪辣なことをしてきたのか、強い後悔がこみ上げてくる。
 もし、情勢が落ち着いたら……今まで旅してきた所をもう一度回ろう。そして、謝ろう。俺が理不尽に壊してきた人達に、贖罪しないとだめだ。
 どんなに時間がかかったとしても、必ず、一人で……。

「フェイス、あたしが冒険者になったら、一緒に行こうよ」
「何に?」
「旅! 冒険者と言ったら旅だよ。それでね、一緒に色んな場所を見て回るの。嫌だって言っても駄目だよ、あたし、無理やりついて行くから」

 アプサラスは俺を見上げ、

「今、フェイス哀しそうな顔したから。一人で何か、嫌な事しようとしてるんでしょ。なら、あたしも行く。フェイスはあたし、助けてくれたから。だから今度は、あたしがフェイスを助ける番なんだ」
「……いや、お前に甘えるわけにはいかない。俺一人でやらなきゃならないんだ」
「甘えてよ! だってあたし、フェイス大好きだから。大好きな人が辛い思いするの、凄く嫌だから」

 言うなり、抱き着いて来る。
 アプサラスからひたむきな好意が伝わってくる。以前一緒に居た女達とは違う。こいつは本気で、俺を助けようとしている。
 ……俺を心の底から、愛そうとしているんだ。

「……一応聞いておく、お前、俺の事どれだけ好きなんだ?」
「いっぱい。もう、めいっぱい! 世界中の人の中で、あたしが一番フェイスが好きだよ。絶対!」
「……そうか……そうか……!」

 ちっ、なんで視界がぼやけるんだよ。こんな、何気ない一言でどうして、こんなに心が震えるんだよ。涙があふれて、止まらねぇよ。
 なぁ……イザヨイ、いいのかな……本当に俺なんかが、いいのかな……?
 俺……誰かに愛される資格……あるのかな……!
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