ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。

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146話 アプサラスのショートソード

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 エンディミオンを失ってから、俺は弱くなった。
 不死の力はなくなったし、魔力の供給もなくなったから無尽蔵に戦えなくなった。勿論、技のコピーもできやしない。

『ぐあああっ!』
 だけど俺は、強くなっていた。
 ディアボロスを剣で殴り倒し、一息つく。この一ヶ月、毎日このクソジジィと戦っているが、俺は一度も負けていない。
 こいつは俺を殺す気で戦っている、一発でも攻撃を受ければ、俺はミンチになるだろう。その危機感が感覚を研ぎ澄ましているのか、奴の動きが止まって見える。
 それに俺が死んだ後、アプサラスがどうなっちまうのかが心配だ。そう思うと、俺の命を大事にしなければならないと、強く思ってしまう。
 絶対死ぬわけにはいかない。この思いが、ディアボロスを超える力を生み出しているんだ。

『ばっはっは! まさか生身の人間に戻るなり強くなるとは。やはり貴様は面白いな勇者よ!』
「だから、俺はもう勇者じゃねぇって言ってんだろうが」

 俺はエンディミオンの抜け殻、空っぽのフェイスだ。勇者じゃない俺自身には、何の価値もない。
 自分で言ってて悲しくなるぜ、くそが。

「フェイス、剣使うの上手だね。どうしてそんなに上手なの?」
「知るかよ、物心ついた時にはとっくに使えるようになっていたからな」
「そっかぁ。あたしにも使える?」
「特訓すりゃ出来るようになるだろう。やってみるか?」

 何となく、気まぐれに言ってみたら、アプサラスは目を輝かせて頷いた。

「なら木刀が欲しい所だが、おいジジィ」
『そんな物あるわけなかろう。だがワシ謹製の武具ならたんまりあるぞ』
「んなもんこいつが使えるわけねぇだろうが。ちっ、ショートソードでもあればいいんだが」
『なら作ればよかろう。おい!』

 ディアボロスが号令をかけるなり、ドラゴンが鍛冶道具を持ってきた。槌にふいごに携帯用の窯に……っておい、俺に持たせて何させるつもりだこら。

『素材ならワシが提供してやる、指示してやるからその通りに打ってみろ』
「って俺がこいつの剣を作るのかよ。なんでこんなもんやんなきゃならねぇんだ」
『気分転換になるぞ。その龍王剣もディックが持つ輝龍剣もワシが打った逸品でな』
「そのでかい図体でどうやって鍛冶してんだよ」
『企業秘密だ。ばっはっは! ともあれ、ワシの鱗を使え。小ぶりの剣を作るのなら丁度よかろう』
「いいの? ありがとうおじいちゃん」
『ばっはっはっはっは!』

 上機嫌に笑うジジィがなんかイラつく。そういやこいつ、子供好きとか言ってたな。アプサラスを孫かなんかと勘違いしてんのか?
 突っぱねてもしゃあないし、やってやるけどよ。なんで俺、こんな事してんだろうな。
 トカゲのジジィに叱られながら、乳臭い女のために剣を打っている。どういう状況だよこれ、俺はいつから鍛冶職人の息子になっちまったんだ?

 ……だが、貴族時代よりも、悪くない気分だな。

「よし出来た。どうだジジィ」
『ばっはっは! 中々筋がいいではないか、Sクラスのショートソードだぞ』

 ディアボロスの鱗を使った剣は、桃色の刀身を持っていた。軽くて振りやすい、初心者のアプサラスでも使える代物だ。
 ドラゴン革で鞘も作り、アプサラスに渡してやる。そしたら随分とまぁ、喜んでくれたもんだ。

「ありがとうフェイス! 剣だ、凄いよおじいちゃん、私剣を持っちゃった!」
「たかがショートソードごときではしゃぐなよ」
「だって、私の夢は冒険者だよ、冒険者って言ったら剣だよ。これであたし、世界を回れるんだよ!」
「気が早いってんだよ、いくら武器持ったところで、使い方が分からなきゃ意味ねぇだろうが。っだ!? 危ねぇから振り回すな馬鹿!」
「んっんっん~♪ ぼうけんしゃー、わたしは勇敢なぼうけんしゃー♪」
「冒険者になる前にまずは常識を学べド阿呆!」

 このままじゃ俺が危ない。最低限の剣術教えとかないとまずいな。

「鞘に納めろ、自分の身が危ない時以外は絶対抜くんじゃねぇ」
「え? それじゃああたし、これ使えないよ?」
「なんでだよ」
「だって、フェイスがあたしを守ってくれるでしょ。あたしが危ない時なんて来ないよ。アプサラスの勇者は強いんだもん」
「お前な……なんだってそんな恥ずかしい事を平気で言えるんだよ」
「だって、フェイスはあたしの勇者でしょ? 監獄で言ってくれたもん」
「だから言うなっての! やべぇ、気の迷いでなんつう事言っちまったんだよ俺……」

 顔が熱い、こりゃ、赤くなってるな。

「あーくそ! おら剣を握れ、使い方教えてやるから」
「ほんと!?」
「じゃねぇと俺が危ねぇだろうが。ってこら、片手で構えるな」
「だってフェイスは片手で剣を使ってるよ?」
「俺は基礎が出来てるからいいんだ、ズブの素人がいきなり片手持ちすんじゃねぇよ。いいか? 剣はまず両手を間隔を空けて握り、体の中心に合わせて……」

 背中越しに腕を伸ばし、アプサラスに手取り足取り教えていく。こいつの手、剣を握るには少し小さいな。変に片手持ちなんかしたら振った瞬間吹っ飛ぶぞ。

「とまぁ、これが基礎の構えだ。まずはこいつでまともに剣を振れるようになれ」
「う、うん」
「あ? 何赤くなってんだ」
「え、と。この格好、なんか恥ずかしい」
「剣術教えるのやめるぞてめぇ」
「だって、フェイスが抱きしめてくるから」

 ……は? いや待て、抱きしめたわけじゃねぇぞ。
 こうした方が効率よく教えられるからしただけだ、そもそも俺が十四歳の平坦女に欲情するわけがねぇだろうが。

『青春だな、ばっはっは!』
「黙れクソジジィ、アプサラスも変な事考えんな。冒険者になりたいんだろ? なら真面目にやれ。今日から特訓だ、俺がお前を強くしてやる」
「うん! ありがとフェイス!」

 だから礼を言うんじゃねぇよ、なんかこう、胸がくすぐったくなるだろうが。
 やっぱこいつ、苦手だぜ。
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