141 / 181
140話 第五部・完
しおりを挟む
エンディミオン消失の知らせは、その場にいた全員に激震を走らせた。
僕もすぐに探してみたけど、どこにもない。フェイスは僕や魔王の傍に居たから回収なんてできるはずがない、エンディミオンが一人でに動いたんだ。
あの剣さえ破壊できれば、人間と争う理由もなくなる。戦争を終わらせられたはずなのに。
「エンディミオン……なぜ俺を置いて消えた?」
残されたフェイスは茫然としている。すると魔王が腕を組み、
『おそらく、君を適合者として認めなくなったんじゃないかな』
「なんだと?」
『エンディミオンの適合条件は虚無の心を持つ者だ。でも君は、あの剣を持つにしては随分と心がぬくもっている。剣の力を活かせない程に弱体化しちゃってるんだ。だから、多分見捨てたんだろうね。それでどっかに消えちゃったんだろう』
「なら俺は……もう勇者じゃないって事か?」
『うん、ただのフェイスだ』
「そうか、勇者じゃねぇのか」
エンディミオンが居なくなったのに、フェイスはあまりショックを受けた様子はない。むしろほっとしているような、重圧から解放されたような顔をしている。
「これからどうするんだ。人間領に戻っても、指名手配されている。牢獄に入れられるのは間違いないぞ」
「だろうな。折角脱獄したのに、また監獄に戻るのは勘弁だ」
「なら……魔王領に来るか?」
「ちょっとディック!?」
シラヌイに腕を掴まれたけど、僕は本気だ。フェイスは以前とは違う、不必要に他人を虐げるような真似はしないはず。それなら、魔王領で保護してもいいだろう。
「いいや、ディアボロスの世話になる。今まで散々魔王軍の連中をぼこしてきたんだ、俺が行ったら、他の連中が不安になっちまうだろ。それに少し、一人で落ち着きたい。これまでの事と、これからの事。俺なりに考えたいのさ」
『ん。ならディアボロスの所へ行きなよ』
「魔王様……勇者フェイスを、拘束しないのですか?」
『エンディミオンを失った今、彼を捕らえる理由はないよ。敵意も完全に失せている、放っておいても魔王軍に被害は出ないさ』
「ふん、話の分かる魔王だ。……ありがとな」
フェイスは素直に礼を言った。監獄の冒険を通して、フェイスは変わった。もうあいつが無意味に誰かを傷つける事もないだろう、だからこそ、一緒に居たかったな。
多分、今のフェイスなら僕は、分かり合えるような気がするから。
◇◇◇
龍王剣を背負い、フェイスはディアボロスへ飛び移った。
ディアボロスの傍に居ればフェイスは大丈夫だろう、龍王は地上最強の生物、勇者を失った人間軍では攻めることもままならない。
気になるのはエンディミオンの行方だ。あの剣が姿を消して何をしようとしているのか恐いけれど、今僕達にはどうする事もできないな。
「フェイス、世話になったな」
「ふん、てめぇとの共闘は悪くなかったぜ。久しぶりに、楽しい冒険だった」
「僕もだ。今のお前となら、パーティを組んでも悪くないって思っている」
「そいつは俺もだよ、それじゃついでに、頼みを聞いてくれるか」
フェイスはアプサラスを見やった。
「そいつをきちんと保護してやってくれ。それだけが、唯一の気がかりだ」
「勿論、約束は果たすさ」
「おう、あんがとな」
フェイスはアプサラスに目をやり、小さく微笑んだ。
「フェイス、行っちゃうの?」
「俺にはそっちに居る資格がないからな。あばよ、アプサラス。元気でな」
「……フェイス」
あいつはどこか、寂しそうにしている。そしたらだ、アプサラスは急に走り出し、ディアボロスに飛び乗った。
「アプサラス!? 何を?」
「ごめんディック! あたしフェイスの傍に居る。凄く、寂しそうだったから」
フェイスの腕を掴み、アプサラスはそう言った。
「ディックはもう、誰かの勇者なんでしょ? でもフェイスはまだあたしの勇者だから、傍に居てあげたいの」
「……はっ、俺と来るのを選ぶとは、変な奴だ」
フェイスはアプサラスの頭を撫で、
「ディアボロス、出ろ」
『ばっはっは! 任せておけ、客人共々歓迎するぞ!』
龍王がはばたき、龍の領域へ去っていく。これから二人はどうなるんだろう、どうするんだろう。心配になって仕方ない。
でも、これで……魔女の監獄の、全てが……終わった……な……。
「ディック、大丈夫?」
「ごめん、シラヌイ……気が抜けて、眠くなったみたいだ……」
「そっか、奇遇ね。私ももう……動けない……」
シラヌイも随分苦しんだみたいだものな、眠気で目がうっとりしている。
エンディミオン、フェイス、人間……気になる事は沢山あるけど、今は休もう。
僕らは座り込み、眠りについた。久しぶりの、心休まる眠りに。
※作者、歩く、歩く。より読者の皆様へメッセージ
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます
ようやく第五部まで終了し、私としてもほっとしている所存です。ですが、これからです。
全ての道筋が終わりました、この物語は次回更新から最終章へ突入します。
愛情、絆、心。これらがテーマとなっているストーリーを締めくくるのに、私も全力を尽くします。
どうか今後もご愛読よろしくお願いします!
僕もすぐに探してみたけど、どこにもない。フェイスは僕や魔王の傍に居たから回収なんてできるはずがない、エンディミオンが一人でに動いたんだ。
あの剣さえ破壊できれば、人間と争う理由もなくなる。戦争を終わらせられたはずなのに。
「エンディミオン……なぜ俺を置いて消えた?」
残されたフェイスは茫然としている。すると魔王が腕を組み、
『おそらく、君を適合者として認めなくなったんじゃないかな』
「なんだと?」
『エンディミオンの適合条件は虚無の心を持つ者だ。でも君は、あの剣を持つにしては随分と心がぬくもっている。剣の力を活かせない程に弱体化しちゃってるんだ。だから、多分見捨てたんだろうね。それでどっかに消えちゃったんだろう』
「なら俺は……もう勇者じゃないって事か?」
『うん、ただのフェイスだ』
「そうか、勇者じゃねぇのか」
エンディミオンが居なくなったのに、フェイスはあまりショックを受けた様子はない。むしろほっとしているような、重圧から解放されたような顔をしている。
「これからどうするんだ。人間領に戻っても、指名手配されている。牢獄に入れられるのは間違いないぞ」
「だろうな。折角脱獄したのに、また監獄に戻るのは勘弁だ」
「なら……魔王領に来るか?」
「ちょっとディック!?」
シラヌイに腕を掴まれたけど、僕は本気だ。フェイスは以前とは違う、不必要に他人を虐げるような真似はしないはず。それなら、魔王領で保護してもいいだろう。
「いいや、ディアボロスの世話になる。今まで散々魔王軍の連中をぼこしてきたんだ、俺が行ったら、他の連中が不安になっちまうだろ。それに少し、一人で落ち着きたい。これまでの事と、これからの事。俺なりに考えたいのさ」
『ん。ならディアボロスの所へ行きなよ』
「魔王様……勇者フェイスを、拘束しないのですか?」
『エンディミオンを失った今、彼を捕らえる理由はないよ。敵意も完全に失せている、放っておいても魔王軍に被害は出ないさ』
「ふん、話の分かる魔王だ。……ありがとな」
フェイスは素直に礼を言った。監獄の冒険を通して、フェイスは変わった。もうあいつが無意味に誰かを傷つける事もないだろう、だからこそ、一緒に居たかったな。
多分、今のフェイスなら僕は、分かり合えるような気がするから。
◇◇◇
龍王剣を背負い、フェイスはディアボロスへ飛び移った。
ディアボロスの傍に居ればフェイスは大丈夫だろう、龍王は地上最強の生物、勇者を失った人間軍では攻めることもままならない。
気になるのはエンディミオンの行方だ。あの剣が姿を消して何をしようとしているのか恐いけれど、今僕達にはどうする事もできないな。
「フェイス、世話になったな」
「ふん、てめぇとの共闘は悪くなかったぜ。久しぶりに、楽しい冒険だった」
「僕もだ。今のお前となら、パーティを組んでも悪くないって思っている」
「そいつは俺もだよ、それじゃついでに、頼みを聞いてくれるか」
フェイスはアプサラスを見やった。
「そいつをきちんと保護してやってくれ。それだけが、唯一の気がかりだ」
「勿論、約束は果たすさ」
「おう、あんがとな」
フェイスはアプサラスに目をやり、小さく微笑んだ。
「フェイス、行っちゃうの?」
「俺にはそっちに居る資格がないからな。あばよ、アプサラス。元気でな」
「……フェイス」
あいつはどこか、寂しそうにしている。そしたらだ、アプサラスは急に走り出し、ディアボロスに飛び乗った。
「アプサラス!? 何を?」
「ごめんディック! あたしフェイスの傍に居る。凄く、寂しそうだったから」
フェイスの腕を掴み、アプサラスはそう言った。
「ディックはもう、誰かの勇者なんでしょ? でもフェイスはまだあたしの勇者だから、傍に居てあげたいの」
「……はっ、俺と来るのを選ぶとは、変な奴だ」
フェイスはアプサラスの頭を撫で、
「ディアボロス、出ろ」
『ばっはっは! 任せておけ、客人共々歓迎するぞ!』
龍王がはばたき、龍の領域へ去っていく。これから二人はどうなるんだろう、どうするんだろう。心配になって仕方ない。
でも、これで……魔女の監獄の、全てが……終わった……な……。
「ディック、大丈夫?」
「ごめん、シラヌイ……気が抜けて、眠くなったみたいだ……」
「そっか、奇遇ね。私ももう……動けない……」
シラヌイも随分苦しんだみたいだものな、眠気で目がうっとりしている。
エンディミオン、フェイス、人間……気になる事は沢山あるけど、今は休もう。
僕らは座り込み、眠りについた。久しぶりの、心休まる眠りに。
※作者、歩く、歩く。より読者の皆様へメッセージ
ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます
ようやく第五部まで終了し、私としてもほっとしている所存です。ですが、これからです。
全ての道筋が終わりました、この物語は次回更新から最終章へ突入します。
愛情、絆、心。これらがテーマとなっているストーリーを締めくくるのに、私も全力を尽くします。
どうか今後もご愛読よろしくお願いします!
0
お気に入りに追加
3,383
あなたにおすすめの小説
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。
侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!
珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。
3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。
高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。
これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!!
転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-
ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。
自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。
28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。
そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。
安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。
いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して!
この世界は無い物ばかり。
現代知識を使い生産チートを目指します。
※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる