上 下
137 / 181

136話 最終局面の始まり。

しおりを挟む
 私達は人形 牢獄に囚われた人形

 体を奪われ 心を壊され 全てを失った残骸達

 誰か 私達を 助けてください 私を檻から 出してください

 狭くて 暗くて 寒くて 心細くて もうこんな所から逃げ出したい

 世界のどこかに おわします 心優しき 勇者様

 私をどうか 助けてください 私を ここから出してください

 そしてどうか 私を温かく 抱きしめてください

  ◇◇◇

「嫉妬の左手 『悶えろ』!」

 五感を奪う能力で、僕の鼻が利かなくなる。
 嗅覚を奪われたけど、その程度なら問題ない。どうやらフェイスも嗅覚を奪われたみたいだな。
 魔女のくせとして、初手として嫉妬の能力を使う傾向にあるな。ランダム性の高い弱い力だから、けん制目的で放つようだな。

「へっ、そんな不安定な力で止められるかよ!」
「合わせろフェイス!」

 四方八方から迫りくる腕を剣で斬りつける、けど……魔女の力が強すぎて圧し負けてしまう。人形の体には傷一つ付いていない。
 錆びた剣じゃやっぱり力不足だ、ダメージがミリも入っていないぞ。

「くっそ! こんなゴミでどうしろってんだよ! つーかてめぇ、そのガラクタアンチ魔導具の力あんじゃねぇのか!」
「一個欠けてるから効力が弱まっているんだよ!」

 ようやく嗅覚が戻ってきた。覚醒の力も使えないし、有効打が無い。

『あがくな 従え! 憤怒の咆哮 『虫けらが』!』

 カウンターの憤怒が飛んでくる。音波攻撃が僕らを叩き、体が後ろにずれた。
 でも威力は大したものじゃないな、こっちの攻撃力が低すぎるせいか。この武器である限り、憤怒の力は恐れなくてよさそうだ。

「おいほっとしてんじゃねぇ、逆に言えば俺らの攻撃が通じてないって事だからな」
「そっちも忘れるなよ、目的は後ろの武器を取る事、魔女を倒すのはそれからだ」
「わーってるよ、てめぇこそ忘れんなよ」
「作戦だろ、勿論さ」

 憤怒の力がある以上、僕らに求められるのはただ一つ。
 武器を取り返して、一撃で倒す。それだけだ。

「渡さない 渡さない渡さない渡さない! これを渡したら いなくなってしまう そんなのは嫌だ! 嫌だ嫌だいやぁぁぁぁぁ!!!」

 魔女が発狂し、背中の大砲を発射してきた。
 避けても爆風が襲い掛かり、壁に叩きつけられる。無数に増殖した手が伸びてきて、僕らをしたたかに打ち付けた。
 骨身がきしみ、血を吐いた。意識が、遠のきかける……。

「シラヌイ……シラヌイ!」

 まだだ、僕は死ぬわけにはいかない! 彼女に会うまで、死ぬものか!
 一瞬の隙をついて攻撃を掻い潜ると、フェイスも脱出していた。すると魔女が右足を上げた。

『色欲 使わせたら 駄目だよ!』
「んな事わかってるよ!」
「接地させるな! 叩きあげるぞ!」

 フェイスと一緒に剣を切り上げ、魔女の右足を跳ね上げた。
 アプサラスから能力は聞いている、洗脳の右足だ。あれを使われたらまずい!
 たたらを踏んだ魔女が左足を上げようとする。今度は怠惰か。それも同じように出だしを潰し、能力を発動させない。
 魔女の能力は強力だけど、初見殺しの物ばかりだ。両足の能力は足を接地させないと使えないし、嫉妬は分かっていれば耐えられる。憤怒もダメージを与えなければ機能しない。

「傲慢の眼 『ひれ伏』」
「すのは!」
「お前だ!」

 傲慢の力も、発動前に目を殴ってしまえば止められる!
 フェイスと協力してどうにか凌いでいるけど、問題は暴食と強欲の能力か。

「うがああっ! 暴食の右手 『貪れ』!」

 黒いオーラがたなびき、僕らに襲い掛かる。触れれば終わりの即死技は、ハヌマーンでしか防げない。僕が盾となって防いでいると、

「お前たちは ここに居ろ ここに居ろ! 居ろ居ろ居ろろろろろぉ!」

 魔女本体が接近し、肉弾戦を仕掛けてきた! 強欲は純粋な強化能力、対処が単純に難しい能力だ。

「こっちは、俺がどうにかする! てめぇは暴食をどうにかしろ!」
「分かってる! 背中は任せたぞ!」

 魔女はフェイスが止め、暴食の力は僕が止める。このままじゃじり貧だ、一刻も早く、刀を……魔女を一撃で倒せる武器を取らないと!
 ……こうなったら、一か八か!
 フェイスに耳打ちし、体勢を入れ替える。僕一人で魔女を受け止め、暴食の力を防御する。

「うおらああああっ!」

 そして僕を足場に、フェイスがジャンプ。魔女を飛び越え、武器を手に取った!

「渡さなあああい!」

 だけどあと一歩のところで、魔女の剛腕がフェイスを薙ぎ払った。
 僕とフェイスは倒れ伏した。ショートソードも折れて、武器がなくなる。
 でも……フェイスは希望を残してくれていた。

  ◇◇◇

 僕の前に、エンディミオンが落ちていた。
 俺の前に、イザヨイの刀が落ちていた。

 咄嗟に聖剣を握ると、冷たい感覚が襲い掛かる。触れているだけで虚無に飲まれそうな、底知れない闇が侵食してくる。
 咄嗟に刀を握ると、暖かな感覚がしみ込んでくる。触れていると力が湧いてくるような、優しい感情があふれ出てくる。

「こんな……冷たい虚無を、フェイスはずっと味わっていたのか……?」
「こんな……優しい感情を、イザヨイはディックに向け続けていたのか」

 エンディミオン、僕はお前の虚無に飲まれはしない。所有者としては失格だろう。でも、
 イザヨイよ、俺はお前と出会った頃の俺じゃない。この刀を持つ資格はないさ。だが、

『魔女を倒すために、お前の力を貸せ!』

 エンディミオンを無理やり握り、僕は魔女に切りかかった。
 イザヨイから勝手に力を借りて、俺は魔女に斬りかかった。

  ◇◇◇

 全身全霊を込めた一撃が、魔女の胴を捉えた。
 魔女は壁に叩きつけられ、胴に十字の傷が付く。岩盤が崩壊して、魔女ががれきに押しつぶされていく。
 僕らは互いの武器を返し、見つめ合う。
 初めてフェイスと、心の通った時間を過ごした気がする。無意識に右手を上げると、フェイスは小さく笑って、左手をぶつけた。
 もし出会い方が違っていたら、僕達は、いがみ合わなかったかもしれない。この一戦を通して、そう思った。
 オベリスクとディアボロスも回収し、魔女の様子を伺う。まだ魔女は沈黙していない、この程度で終わる相手じゃ、ない。

「やーだ やーだ やーだ やーだ やーだやーだやーだ やだやだやだやだやだぁぁぁ」

 予想通り、魔女の声が。すると魔女ががれきを吹き飛ばし、巨大化を始めた。

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 巨大化が止まらない、強欲の力を使って自身を強化し続けている。このままじゃ部屋が壊れてしまう。

『二人とも 上!』

 アプサラスが天井を指さした。魔女の巨大化で穴が開き、脱出路が出来ていた。
 フェイスと頷きあい、僕らは脱出を急いだ。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

処理中です...