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113話 暴食の人形
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私は人形 暴食の人形
食べても 食べても 満たされず お腹も 心も すっからかん
お肉を食べても お魚食べても 人形だから 味もしない
それでも 私は 食べ続ける そしたら いつかは 味も わかるはず
諦めないし 諦めたくない だって 昔は 味がしたもの
お腹もいっぱい 心もいっぱい そんな時が あったもの
だから私は 今日も食べる ぱくぱく もぐもぐ いっぱい食べる
だけども 全然 満たされない 昔はちゃんと 満たされたのに
私は人形 暴食の人形
誰か私を満たしてください お腹が空いてたまらない
ほんとは嘘だ お腹は空かないし ご飯なんか 食べたくない
それでも 私は ご飯を食べる いつかは 味がわかると 信じて
誰か 私を満たしてください 空っぽな人形に 心を与えてください
◇◇◇
<ディック視点>
僕達が囚われている、絶海の孤島に造られた監獄。周囲には何もない大海原が広がり、陸地のない断崖絶壁しか見えない場所。
僕のいる独房は四畳程度の狭い部屋で、石のベッドと仕切りのないトイレだけしかない粗末な物だ。気温がひんやりしているから、肌寒い。
それでもどこかにほころびが無いか、少しでも調べないと。
「ごそごそうるせぇぞ、こっちは寝てんだから静かにしろ」
隣で囚われているフェイスが文句を言ってくる。僕と同じく、人形の魔女に捕まり、囚われているんだ。
「悪いけど、お前に気を遣う理由が無いんでね。僕の自由にやらせてもらうよ」
「へいへい、精々好きに動いてな」
こいつ、どうしてこんなのんびりしてんだろう。捕まった事に対して危機感ないのか?
まぁ、いいや。とりあえず最初に、カギを調べてみるか。
扉は大振りの錠で閉ざされている。頑丈な上に構造は複雑で、素手ではこじ開けられそうにない。壁は硬い岩に阻まれ、道具なしに掘り返せないだろう。
なら、力を込めて壊してみるか? 煌力を使えばたぶんできるはず。
「ちなみに言っとくが、どうも防御魔法がかかっているようでな。殴っても自分にダメージが跳ね返るだけだぜ」
「なんだって?」
「俺がやってみたが、びくともしなかった。檻も同じだ。しかも内部から連絡できないよう、通信遮断までしてやがる。徹底的に俺達を閉じ込める工夫を凝らしてやがるぜ」
「僕が目覚める前に、随分調べたみたいだな」
「だから大人しくしてるわけさ、今の所、手立てがないんでね」
……手立てがないか。うーん……。
『主よ、我を持つ汝ならば、錠を開ける事は出来るのではないか?』
悩んでいると、ハヌマーンが勝手に出てきて、話しかけてきた。
『奴は魔導具を使っているようだった、ならば防御魔法も魔導具を使って掛けているのではないか?』
「そうか、アンチ魔導具の力なら」
試しに壁に触れてみる。狙い通り、防御魔法が解けていくのが分かる。
けど駄目だ、解けた先から力が蘇ってしまう。この分だと、触れている部分しか無力化できていないな。
魔導具なら問答無用で無力化するハヌマーンでも、あまり効果が無いなんて。一体何の魔導具を持っているんだ?
ただ、これなら錠を外すくらいはできるかもしれない。もう一つ道具があれば、の話だけど。
「言っとくが、錠を壊して出て行ったところで無駄だぜ。あれを見ろ」
「あれ? ……あれか」
フェイスが腕を伸ばし、示した先には、魔女そっくりのミニチュア人形が置かれている。不規則に首を動かして、目をぎょろりと回している。独房を見張っているんだろう。
「変なことをすれば、すぐ魔女に伝わるって事か」
「分かったらガラクタを外せ、バレちまうぞ」
「っと、ごめん」
ハヌマーンをバックルに戻し、人形を見やる。どうやら、見つからなかったみたいだな。
……かなり厳重な監視体制だ、今の所綻びが見えない。ハヌマーンともう一つ、道具を使えば錠を外せるだろうけど、そこから先はどうしようか……。
「……というより、随分協力的だな」
「けっ、お前が余計な事して死なれちゃ困るんでね。なにしろ、折角となりに愛しい愛しいディックちゃんがいるんだぜ? それがどっかに連れていかれちゃ、俺が寂しくなるじゃねぇか。くっくっく」
……理由が気持ち悪い。こいつと隣同士とか、僕の気が狂いそうだよ。
ただまぁ、僅かでも情報は手に入ったな。クリアすべき課題は……。
1 錠を開けるための道具を確保する
2 監視用人形の対策を考える
3 監獄内部の情報を得る
……現状、こんな所か。とにもかくにも、まずは1をどうにかしない事には始まらない。
『囚人 囚人 出てこい 魔女様の お呼びがかかった』
突然、監視人形が声を出した。
ぎくしゃくと動き、僕達の牢を開ける。こいつ、動くのかよ。
『魔女様は空腹だ 早く魔女様へ 食事を作りなさい』
「あ? 人形のくせに飯食うのかよ?」
『口答えをするな』
人形が手を突き出すなり、フェイスに針が飛んだ。
奴は針を噛んでキャッチし、見下したように人形を嘲笑う。……人形と張り合ってどうすんだ、仮にも勇者だろお前……。
『この目隠しを つけろ あとは 私が案内する』
「んなもん誰が付けるかよ、人形如きが俺に意見すんじゃねぇ」
「……フェイス、ここは言う事を聞け」
奴は文句を言いたげに僕を睨んだけど、すぐに意図を掴み、大人しく目隠しをつけた。
人形は手枷を付けると、僕達を引き回す。目隠しをするのは、監獄内部の構造を知られないようにするためだろう。方向感覚が無くなるよう、同じ道を何度も通ったりした。
普通の人間なら、道を覚えるのは不可能だろうな。でも僕らは気配察知が使える、目が見えなくても、道中の状況が掴めるんだ。
しかし、なんて複雑な構造だ。アリの巣のように入り組んでいて、一回では覚えきれないな。それに……
「俺らの他にも、攫われた連中がいるみてぇだな」
フェイスがぼそっと呟く。階下に多数の気配を感じる、人間だけでなく、異種族も。何を目的に誘拐してきたんだ。
『到着した 目隠しを外せ』
枷が外され、言われた通りにすると、大きな扉が目に映った。
その奥で、なにやら騒ぎが起こっているようだ。
「不味い 何の味も しないぞ」
途端、扉の奥で魔女の声が聞こえた。
中ではすでに、僕ら以外の囚人が呼ばれていたみたいだ。
「私の 要望に応えられぬ者は 要らない お前達を 食わせろ」
扉が開くと、魔女はすでに処刑を始めていた。
「暴食の右手 『貪れ』」
魔女が右手を伸ばすと、指から黒いオーラが立ち上る。無数に伸びたオーラの触手は人々を捕まえるなり、彼らの魔力と血液を吸いだしてしまった。
吸い取られた人々は干からびて、ミイラになってしまう。それさえもオーラは吸い取って、死体も残らない。魔女は右手を握ると、僕らを見やった。
「次は お前達か お前達には 期待している 特に 期待している がっかりさせないで もらいたい」
「けっ、勝手に人様を誘拐して期待しているたぁ、随分傲慢な木偶だぜ」
「傲慢 そう私は 傲慢にして 強欲にして 暴食にして 嫉妬にして 色欲にして 憤怒にして! ……怠惰なる 魔女 ああ もう面倒くさい 何もかも なくなってしまえば いいのに」
魔女はぐったりと座り込み、直後にぐるんと首を回転させる。動きが奇怪すぎてついていけない。
「でも 今の私は 暴食の魔女 食べ物を食べないと だから作って 料理を作って 焼き物を作って煮物を作って揚げ物を作って炊き物を作って生ものを作って酢の物を作ってとにかくなんでもいいから作ってきて 体の中が 空っぽで 仕方ないの 仕方ないの!」
魔女は急に僕らへ接近し、顔を近づける。テンションの浮き沈みが激しいのに、表情が一切変わらない。それが余計に恐かった。
「厨房へ 材料はある ミイラになりたくなければ 作りなさい」
魔女は一方的に伝えると、僕らを厨房へ連れていき、閉じ込めた。コミュニケーションが一切取れないな、これじゃあ山賊の方がまだましだ。
ため息をつき、厨房を見る。生臭さが鼻を突いて、思わず鼻をつまんだ。
どうやら魚を用意しているようだけど、ハエがたかっている。ホッケにシシャモ、それとタラか。どれも足が速い魚ばかり、人形だから食材の鮮度には無頓着らしい。
「にしても、気になる事を言っていたな」
「確かに、あいつの能力といい、言動といい、七つの大罪が下地にあるようだな」
フェイスも気づいていたか。嫉妬の左手、暴食の右手、怠惰の左足、傲慢の眼……体の各部位に、それぞれに対応する能力を持っているみたいだ。
そして性格も、全ての大罪が混ぜ合わさった、混沌とした物みたいだな。
「どれもこれも厄介な能力だぜ、しかもあと三つ能力を隠していると見た。どうやったら出し抜いてぶっ壊せるのかねぇ、あの木偶人形をよぉ」
「……武器が無い今、分かっても手が出せないな。今はさっさと魔女の食事を用意しないと」
監視人形が傍で睨んでいる。厨房は魔女の居室に近い、下手をすれば怒って飛んでくるぞ。
「というよりお前、料理できるのか?」
「なめんじゃねぇよ、エンディミオンでディックたんの料理姿をしっかりコピーしてあんだ、飯炊き一つくらい楽勝よ。なんならお前を今ここで料理してやろうかぁ?」
「たんをつけるなたんを。……おいやめろ近づくな気持ち悪い! 息を荒らげるな顔を赤らめるな!! やめろ!!! 僕の体はシラヌイだけの物なんだ!!!!」
『遊んでないで 仕事しろ』
監視人形がフェイスを蹴り飛ばす。助かった……今回ばかりは魔女に感謝だ。
それに厨房に来たおかげで新しい情報も得られたし、錠を開ける道具も手に入りそうだ。
食べても 食べても 満たされず お腹も 心も すっからかん
お肉を食べても お魚食べても 人形だから 味もしない
それでも 私は 食べ続ける そしたら いつかは 味も わかるはず
諦めないし 諦めたくない だって 昔は 味がしたもの
お腹もいっぱい 心もいっぱい そんな時が あったもの
だから私は 今日も食べる ぱくぱく もぐもぐ いっぱい食べる
だけども 全然 満たされない 昔はちゃんと 満たされたのに
私は人形 暴食の人形
誰か私を満たしてください お腹が空いてたまらない
ほんとは嘘だ お腹は空かないし ご飯なんか 食べたくない
それでも 私は ご飯を食べる いつかは 味がわかると 信じて
誰か 私を満たしてください 空っぽな人形に 心を与えてください
◇◇◇
<ディック視点>
僕達が囚われている、絶海の孤島に造られた監獄。周囲には何もない大海原が広がり、陸地のない断崖絶壁しか見えない場所。
僕のいる独房は四畳程度の狭い部屋で、石のベッドと仕切りのないトイレだけしかない粗末な物だ。気温がひんやりしているから、肌寒い。
それでもどこかにほころびが無いか、少しでも調べないと。
「ごそごそうるせぇぞ、こっちは寝てんだから静かにしろ」
隣で囚われているフェイスが文句を言ってくる。僕と同じく、人形の魔女に捕まり、囚われているんだ。
「悪いけど、お前に気を遣う理由が無いんでね。僕の自由にやらせてもらうよ」
「へいへい、精々好きに動いてな」
こいつ、どうしてこんなのんびりしてんだろう。捕まった事に対して危機感ないのか?
まぁ、いいや。とりあえず最初に、カギを調べてみるか。
扉は大振りの錠で閉ざされている。頑丈な上に構造は複雑で、素手ではこじ開けられそうにない。壁は硬い岩に阻まれ、道具なしに掘り返せないだろう。
なら、力を込めて壊してみるか? 煌力を使えばたぶんできるはず。
「ちなみに言っとくが、どうも防御魔法がかかっているようでな。殴っても自分にダメージが跳ね返るだけだぜ」
「なんだって?」
「俺がやってみたが、びくともしなかった。檻も同じだ。しかも内部から連絡できないよう、通信遮断までしてやがる。徹底的に俺達を閉じ込める工夫を凝らしてやがるぜ」
「僕が目覚める前に、随分調べたみたいだな」
「だから大人しくしてるわけさ、今の所、手立てがないんでね」
……手立てがないか。うーん……。
『主よ、我を持つ汝ならば、錠を開ける事は出来るのではないか?』
悩んでいると、ハヌマーンが勝手に出てきて、話しかけてきた。
『奴は魔導具を使っているようだった、ならば防御魔法も魔導具を使って掛けているのではないか?』
「そうか、アンチ魔導具の力なら」
試しに壁に触れてみる。狙い通り、防御魔法が解けていくのが分かる。
けど駄目だ、解けた先から力が蘇ってしまう。この分だと、触れている部分しか無力化できていないな。
魔導具なら問答無用で無力化するハヌマーンでも、あまり効果が無いなんて。一体何の魔導具を持っているんだ?
ただ、これなら錠を外すくらいはできるかもしれない。もう一つ道具があれば、の話だけど。
「言っとくが、錠を壊して出て行ったところで無駄だぜ。あれを見ろ」
「あれ? ……あれか」
フェイスが腕を伸ばし、示した先には、魔女そっくりのミニチュア人形が置かれている。不規則に首を動かして、目をぎょろりと回している。独房を見張っているんだろう。
「変なことをすれば、すぐ魔女に伝わるって事か」
「分かったらガラクタを外せ、バレちまうぞ」
「っと、ごめん」
ハヌマーンをバックルに戻し、人形を見やる。どうやら、見つからなかったみたいだな。
……かなり厳重な監視体制だ、今の所綻びが見えない。ハヌマーンともう一つ、道具を使えば錠を外せるだろうけど、そこから先はどうしようか……。
「……というより、随分協力的だな」
「けっ、お前が余計な事して死なれちゃ困るんでね。なにしろ、折角となりに愛しい愛しいディックちゃんがいるんだぜ? それがどっかに連れていかれちゃ、俺が寂しくなるじゃねぇか。くっくっく」
……理由が気持ち悪い。こいつと隣同士とか、僕の気が狂いそうだよ。
ただまぁ、僅かでも情報は手に入ったな。クリアすべき課題は……。
1 錠を開けるための道具を確保する
2 監視用人形の対策を考える
3 監獄内部の情報を得る
……現状、こんな所か。とにもかくにも、まずは1をどうにかしない事には始まらない。
『囚人 囚人 出てこい 魔女様の お呼びがかかった』
突然、監視人形が声を出した。
ぎくしゃくと動き、僕達の牢を開ける。こいつ、動くのかよ。
『魔女様は空腹だ 早く魔女様へ 食事を作りなさい』
「あ? 人形のくせに飯食うのかよ?」
『口答えをするな』
人形が手を突き出すなり、フェイスに針が飛んだ。
奴は針を噛んでキャッチし、見下したように人形を嘲笑う。……人形と張り合ってどうすんだ、仮にも勇者だろお前……。
『この目隠しを つけろ あとは 私が案内する』
「んなもん誰が付けるかよ、人形如きが俺に意見すんじゃねぇ」
「……フェイス、ここは言う事を聞け」
奴は文句を言いたげに僕を睨んだけど、すぐに意図を掴み、大人しく目隠しをつけた。
人形は手枷を付けると、僕達を引き回す。目隠しをするのは、監獄内部の構造を知られないようにするためだろう。方向感覚が無くなるよう、同じ道を何度も通ったりした。
普通の人間なら、道を覚えるのは不可能だろうな。でも僕らは気配察知が使える、目が見えなくても、道中の状況が掴めるんだ。
しかし、なんて複雑な構造だ。アリの巣のように入り組んでいて、一回では覚えきれないな。それに……
「俺らの他にも、攫われた連中がいるみてぇだな」
フェイスがぼそっと呟く。階下に多数の気配を感じる、人間だけでなく、異種族も。何を目的に誘拐してきたんだ。
『到着した 目隠しを外せ』
枷が外され、言われた通りにすると、大きな扉が目に映った。
その奥で、なにやら騒ぎが起こっているようだ。
「不味い 何の味も しないぞ」
途端、扉の奥で魔女の声が聞こえた。
中ではすでに、僕ら以外の囚人が呼ばれていたみたいだ。
「私の 要望に応えられぬ者は 要らない お前達を 食わせろ」
扉が開くと、魔女はすでに処刑を始めていた。
「暴食の右手 『貪れ』」
魔女が右手を伸ばすと、指から黒いオーラが立ち上る。無数に伸びたオーラの触手は人々を捕まえるなり、彼らの魔力と血液を吸いだしてしまった。
吸い取られた人々は干からびて、ミイラになってしまう。それさえもオーラは吸い取って、死体も残らない。魔女は右手を握ると、僕らを見やった。
「次は お前達か お前達には 期待している 特に 期待している がっかりさせないで もらいたい」
「けっ、勝手に人様を誘拐して期待しているたぁ、随分傲慢な木偶だぜ」
「傲慢 そう私は 傲慢にして 強欲にして 暴食にして 嫉妬にして 色欲にして 憤怒にして! ……怠惰なる 魔女 ああ もう面倒くさい 何もかも なくなってしまえば いいのに」
魔女はぐったりと座り込み、直後にぐるんと首を回転させる。動きが奇怪すぎてついていけない。
「でも 今の私は 暴食の魔女 食べ物を食べないと だから作って 料理を作って 焼き物を作って煮物を作って揚げ物を作って炊き物を作って生ものを作って酢の物を作ってとにかくなんでもいいから作ってきて 体の中が 空っぽで 仕方ないの 仕方ないの!」
魔女は急に僕らへ接近し、顔を近づける。テンションの浮き沈みが激しいのに、表情が一切変わらない。それが余計に恐かった。
「厨房へ 材料はある ミイラになりたくなければ 作りなさい」
魔女は一方的に伝えると、僕らを厨房へ連れていき、閉じ込めた。コミュニケーションが一切取れないな、これじゃあ山賊の方がまだましだ。
ため息をつき、厨房を見る。生臭さが鼻を突いて、思わず鼻をつまんだ。
どうやら魚を用意しているようだけど、ハエがたかっている。ホッケにシシャモ、それとタラか。どれも足が速い魚ばかり、人形だから食材の鮮度には無頓着らしい。
「にしても、気になる事を言っていたな」
「確かに、あいつの能力といい、言動といい、七つの大罪が下地にあるようだな」
フェイスも気づいていたか。嫉妬の左手、暴食の右手、怠惰の左足、傲慢の眼……体の各部位に、それぞれに対応する能力を持っているみたいだ。
そして性格も、全ての大罪が混ぜ合わさった、混沌とした物みたいだな。
「どれもこれも厄介な能力だぜ、しかもあと三つ能力を隠していると見た。どうやったら出し抜いてぶっ壊せるのかねぇ、あの木偶人形をよぉ」
「……武器が無い今、分かっても手が出せないな。今はさっさと魔女の食事を用意しないと」
監視人形が傍で睨んでいる。厨房は魔女の居室に近い、下手をすれば怒って飛んでくるぞ。
「というよりお前、料理できるのか?」
「なめんじゃねぇよ、エンディミオンでディックたんの料理姿をしっかりコピーしてあんだ、飯炊き一つくらい楽勝よ。なんならお前を今ここで料理してやろうかぁ?」
「たんをつけるなたんを。……おいやめろ近づくな気持ち悪い! 息を荒らげるな顔を赤らめるな!! やめろ!!! 僕の体はシラヌイだけの物なんだ!!!!」
『遊んでないで 仕事しろ』
監視人形がフェイスを蹴り飛ばす。助かった……今回ばかりは魔女に感謝だ。
それに厨房に来たおかげで新しい情報も得られたし、錠を開ける道具も手に入りそうだ。
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