110 / 181
109話 覚醒するディック
しおりを挟む
<ワイル視点>
「全く、あちこち盛り上がってるみたいだぜ」
まぁこっちもこっちで、勇者パーティの女性諸君と激しく戦っているんだけど。
随分と鬼気迫る勢いで攻撃してきてやがるぜ。まるで、自分達には後が無い。そう言っているかのようだ。
まぁ、持ってる小道具を利用していなしているがな。ワイヤーを使って動きを止めたり、トリモチで武器を駄目にしたりと。これが俺のやり方よ。
しっかし、なぁんでそんな必死になってんだ? つーかどうして、あんな人間から良い所だけを削ぎ落して最後に残った生ゴミの集合体みたいな勇者を慕ってんだか、理解に苦しむぜ。
「なぁなぁ、教えてくれよ。どうしてお前さんらはフェイスに気に入られようとしてるんだ? そんだけ必死になる理由はなんだい?」
「怪盗なんかに話す事なんかない!」
「私達は、勇者様から離れるわけにはいかないんだから!」
剣士が剣を振り回し、魔法使いが思い切り俺に雷を落としてくる。剣に関しちゃ避ければいいし、雷はラピスが木の根で弾き飛ばしてくれる。俺に攻撃を当てるなんざ甘い甘い。
……ここまで彼女達を見ていて感じた事は、自分の意志で勇者について来ている感じがしないってところだ。
奴ではなく、裏で誰かが手を引いている。そんな気がしてならない。ちょっと質問を工夫してみるか。
「勇者の相手をしたらどんだけ報酬がもらえるんだい?」
「そんなの教える必要が……あ」
女僧侶が口を滑らせたな、やっぱそう言う事か。
こいつらは金でフェイスに付き従う連中だ。大方、フェイスが魔王討伐を途中でやめないよう、なだめすかす役として、人間軍が手を回した女なんだろう。
どうりであいつのやる事なす事全部を褒め称え、ちやほやと増長させるわけだ。そうするよう、金で雇われてんだから。
『どんな大金を積まれたか分からないけど、そのために非人道的な行動を平気でしちゃうなんて……』
「恐いねぇ、水商売のキャストの方がまだ分別あるぜ」
「黙れ! 貴様なんかに愚弄される筋合いなどないわ!」
「私達の報酬は、勇者が魔王を討伐して初めて支払われるの。それまでパーティに居る事が支払いの条件」
「だから途中で見放されたら、びた一文ももらえない。これまでの苦労がすべて台無しになるのよ!」
『うへぇ、お金をもらう条件がちょっとえぐすぎるような気が……』
「いやぁ、ブラックだねぇその条件。なんなら勇者から手を引いてエルフ軍につけば? 人間側の情報流したらきちんとした金払うよう交渉してやるぜ? 俺元世界樹の巫子だしさ」
途端、女どもの手が止まった。金で繋がるような奴らなんざ、目先に美味しい話をぶら下げればイチコロよ。これで美女は無力化できたはずだぜ。
……逆に言えば、その程度で裏切られるほど人望が無いって事でもあるんだがな。勇者って肩書に反して、寂しすぎる人間だぜ、フェイスって奴は。
「……それも、悪くないかもしれないな。どうせ近いうちに、見放されるような気がするし……」
「最近のフェイスは、おかしいもの……なにかとディックディックばかりで、ちょっと不気味だし……」
「昨日なんか、「ディックを殺して嫁にしてやろうかな」とか言ってて、限界近くなってたし……」
……は? ディックを嫁……あんだって?
「なぁ、それって額面通りに受け取っていいわけ?」
「……その通りに捉えたら、フェイスはディックを娶ろうとしていることになっちゃうけどね……」
『……どゆこと? あの勇者、ゲイなの?』
「だとしても殺して嫁にするってどういう意味だ? あいつ頭イカレてんじゃね?」
『なんか嫌な予感がするなぁ……ディックさん、大丈夫でしょうか……』
「……下手すりゃ殺して、カマ掘るつもりじゃねぇか、あの勇者……」
ディック、死ぬなよ。死んだらシラヌイが悲しむどころじゃ済まない事になりそうだからな。
『それと、ラズリもね』
ラピスが不安そうに呟く。世界樹の力を借りてもなお、戦況は思わしくなさそうだぜ。
◇◇◇
刀とエンディミオンが鍔ぜりあう度、フェイスは大きく弾き飛ばされる。
その隙を突こうと接近するけど、そしたら奴はディアボロスでの剣戟に切り替え、痛烈なカウンターを放ってきた。
やっぱりハヌマーンをもってしても、あいつは簡単には倒せないな。
「ははは! やっぱてめぇとの斬りあいは楽しいなぁおい!」
フェイスと双剣で切り結んだ後、僕はいったん距離を取った。
奴はまだ覚醒の力を使おうとしない。まるで僕の力を測るかのように剣を交えている。
「オベリスクを大分使いこなしているようだな、その分なら魔法も自在に使えるようになったんじゃねぇか?」
「…………」
「おいおい、少しは会話を楽しめよ。折角の、二人きりの切りあいなんだからよ!」
フェイスはやけに楽しそうに襲ってくる。前に戦った時も感じたけど、こいつは僕との斬りあいを心から楽しんでいるようだった。
「その魔導具も覚醒させたようだし、俺と対等の武器をそろえたし、いい具合に仕上がってるみたいだな。それでこそ倒しがいがある、お前と本気の勝負をして、初めて俺の勝利に価値が生まれる! 極上の獲物になってくれたな、ディック!」
「……フェイス、お前、変わったな」
以前までのあいつなら、弱い奴をただ見下し、甚振る事しか考えていなかった。
だけど今のフェイスは、僕を対等な相手と見据え、潰そうとして来ている。言いたくはないが、僕を勝手にライバルと思って戦いを挑んでいるようだ。
「一体、どんな心境の変化だ」
「別に。変わりねぇさ。ただ俺の春の吹き方が少し変わっただけの事だ。だけどこれだけじゃねぇ、お前に俺だけを見てもらえるよう、もっと俺だけに視線が向けられるよう、苦心して考えたんだぜ」
……なんだ? この怖気だつような熱い視線は……。
フェイスの威圧感に後ずさりしてしまう。そしたら、頭上で激しい爆音が聞こえた。
『うぐううっ!』
ラズリの苦しそうなうめき声が聞こえた。世界樹の力を身にまとっているにも関わらず……ディアボロスに圧倒されているんだ。
『ばっはっはぁ! さぁて、体も温まった所だ。ぼちぼち本気でやってやるぞぉ、世界樹の巫女よぉ!』
ディアボロスのブレスがラズリを捉える。彼女は拳圧で受け止めようとするけど、龍王のブレスは易々と拳圧を破壊し、ラズリを焼き払った。
世界樹の根で反撃しても、爪や牙で粉砕されて触れる事すらできない。エルフの国そのものの力をぶつけてもなお、龍王の皮膚にすら届かないのか。
「ラズリ……!」
「どうだ? あれが俺の手にしたディアボロスの力さ。どんな策を講じようが、あのトカゲの前には通用しやしないのさ」
「……早くお前を倒して、援護に行かないとな」
「行けるかねぇ、その前に死ぬぜあいつ。それにあいつよりも、気にしている女がいるんじゃないか?」
奴はくつくつと笑うと、手を掲げた。
「邪魔な奴を摘み取っていかないとなぁ。お前が大事にしている連中を一人一人、お前の目の前で殺して、俺以外を見れないようにしないとなぁ」
フェイスの手からスクリーンが浮かび上がり、四天王達の様子が映し出された。
そこに映るのは、劣勢の四天王だった。
リージョンはヲキシの激しい水責めをゲートで対処できず、全身に裂傷が出来ている。
メイライトも大地そのものであるズシンを対処しきれず、逃げ惑うばかり。
ソユーズはビュンの風に対抗できず、一方的に切り刻まれていた。
そして、シラヌイは……。
『いやぁっ!?』
カノンの炎にあぶられ、酷いやけどを負っていた。
彼女のやられ方は四人の中でも一番ひどい。じわじわと嬲り殺しにするかのように、少しずつ痛めつけられている。
「シラヌイ!」
「くくっ、カノンには指示を出していてね。シラヌイだけは丁寧に、じっくりと焼き殺せと命じているんだ。ほら見てな、そろそろ腕か足が焼かれるぜ」
フェイスが言った通り、とうとうシラヌイの左腕が焼かれてしまう。彼女の白い肌が、痛々しい赤黒い色へ変わってしまう。
加えて、右足に斧がめり込む。骨が折れて、動けなくなってしまった。
「シラヌイ……シラヌイ!」
「おっとぉ、行かせはしないぜ」
シラヌイを助けに行こうとする僕の前に、フェイスが立ちふさがる。
邪魔だ、お前の相手をしている場合じゃない。シラヌイを助けに行かないと!
「どけ!」
「やだね。シラヌイは特に丁寧に、しっかりと殺してやるんだから』
フェイスの姿が変わっていく。エンディミオンの覚醒の力を使い、天使を思わせる神々しい怪物となった。
『さぁ、俺が憎いだろ? ムカついて仕方ないだろ? シラヌイを助けに行きたけりゃ、俺を早く倒してみろよ。まぁその前にあいつが死ぬのが先だろうがなぁ!』
「……フェイス!」
お前の相手をしている場合じゃない! シラヌイは、シラヌイだけは、何としても助けるんだ!
『主よ。落ち着け、主よ』
その時だった。ハヌマーンが僕に語り掛けたのは。
『心を乱されるな。今、無理を冒して奴を倒す必要はない、我が覚醒せし力を使えば、ここからでもシラヌイは助けられる。思い出すがよい、我がもう一つの力を』
「……ハヌマーン?」
『そして思い出せ、汝が信じる力を。奪われたくなければ、望め、我が力を。汝が紡いだ絆、今こそ真価を発揮するときだ』
……ハヌマーンは絆の魔導具。アンチ魔導具の力に目を奪われがちだけど、もう一つ、心を繋ぐ力がある。
覚醒した今、繋ぐ力が強化されていたとしたら……そうか。
「ハヌマーン……お前に僕の身をゆだねる。絶対救い出すぞ……僕の大切な人達を!」
『承知』
やるぞ相棒、シラヌイ達を守る為に。
お前の持つ、心を繋げる力。僕にどうか、貸してくれ!
「全く、あちこち盛り上がってるみたいだぜ」
まぁこっちもこっちで、勇者パーティの女性諸君と激しく戦っているんだけど。
随分と鬼気迫る勢いで攻撃してきてやがるぜ。まるで、自分達には後が無い。そう言っているかのようだ。
まぁ、持ってる小道具を利用していなしているがな。ワイヤーを使って動きを止めたり、トリモチで武器を駄目にしたりと。これが俺のやり方よ。
しっかし、なぁんでそんな必死になってんだ? つーかどうして、あんな人間から良い所だけを削ぎ落して最後に残った生ゴミの集合体みたいな勇者を慕ってんだか、理解に苦しむぜ。
「なぁなぁ、教えてくれよ。どうしてお前さんらはフェイスに気に入られようとしてるんだ? そんだけ必死になる理由はなんだい?」
「怪盗なんかに話す事なんかない!」
「私達は、勇者様から離れるわけにはいかないんだから!」
剣士が剣を振り回し、魔法使いが思い切り俺に雷を落としてくる。剣に関しちゃ避ければいいし、雷はラピスが木の根で弾き飛ばしてくれる。俺に攻撃を当てるなんざ甘い甘い。
……ここまで彼女達を見ていて感じた事は、自分の意志で勇者について来ている感じがしないってところだ。
奴ではなく、裏で誰かが手を引いている。そんな気がしてならない。ちょっと質問を工夫してみるか。
「勇者の相手をしたらどんだけ報酬がもらえるんだい?」
「そんなの教える必要が……あ」
女僧侶が口を滑らせたな、やっぱそう言う事か。
こいつらは金でフェイスに付き従う連中だ。大方、フェイスが魔王討伐を途中でやめないよう、なだめすかす役として、人間軍が手を回した女なんだろう。
どうりであいつのやる事なす事全部を褒め称え、ちやほやと増長させるわけだ。そうするよう、金で雇われてんだから。
『どんな大金を積まれたか分からないけど、そのために非人道的な行動を平気でしちゃうなんて……』
「恐いねぇ、水商売のキャストの方がまだ分別あるぜ」
「黙れ! 貴様なんかに愚弄される筋合いなどないわ!」
「私達の報酬は、勇者が魔王を討伐して初めて支払われるの。それまでパーティに居る事が支払いの条件」
「だから途中で見放されたら、びた一文ももらえない。これまでの苦労がすべて台無しになるのよ!」
『うへぇ、お金をもらう条件がちょっとえぐすぎるような気が……』
「いやぁ、ブラックだねぇその条件。なんなら勇者から手を引いてエルフ軍につけば? 人間側の情報流したらきちんとした金払うよう交渉してやるぜ? 俺元世界樹の巫子だしさ」
途端、女どもの手が止まった。金で繋がるような奴らなんざ、目先に美味しい話をぶら下げればイチコロよ。これで美女は無力化できたはずだぜ。
……逆に言えば、その程度で裏切られるほど人望が無いって事でもあるんだがな。勇者って肩書に反して、寂しすぎる人間だぜ、フェイスって奴は。
「……それも、悪くないかもしれないな。どうせ近いうちに、見放されるような気がするし……」
「最近のフェイスは、おかしいもの……なにかとディックディックばかりで、ちょっと不気味だし……」
「昨日なんか、「ディックを殺して嫁にしてやろうかな」とか言ってて、限界近くなってたし……」
……は? ディックを嫁……あんだって?
「なぁ、それって額面通りに受け取っていいわけ?」
「……その通りに捉えたら、フェイスはディックを娶ろうとしていることになっちゃうけどね……」
『……どゆこと? あの勇者、ゲイなの?』
「だとしても殺して嫁にするってどういう意味だ? あいつ頭イカレてんじゃね?」
『なんか嫌な予感がするなぁ……ディックさん、大丈夫でしょうか……』
「……下手すりゃ殺して、カマ掘るつもりじゃねぇか、あの勇者……」
ディック、死ぬなよ。死んだらシラヌイが悲しむどころじゃ済まない事になりそうだからな。
『それと、ラズリもね』
ラピスが不安そうに呟く。世界樹の力を借りてもなお、戦況は思わしくなさそうだぜ。
◇◇◇
刀とエンディミオンが鍔ぜりあう度、フェイスは大きく弾き飛ばされる。
その隙を突こうと接近するけど、そしたら奴はディアボロスでの剣戟に切り替え、痛烈なカウンターを放ってきた。
やっぱりハヌマーンをもってしても、あいつは簡単には倒せないな。
「ははは! やっぱてめぇとの斬りあいは楽しいなぁおい!」
フェイスと双剣で切り結んだ後、僕はいったん距離を取った。
奴はまだ覚醒の力を使おうとしない。まるで僕の力を測るかのように剣を交えている。
「オベリスクを大分使いこなしているようだな、その分なら魔法も自在に使えるようになったんじゃねぇか?」
「…………」
「おいおい、少しは会話を楽しめよ。折角の、二人きりの切りあいなんだからよ!」
フェイスはやけに楽しそうに襲ってくる。前に戦った時も感じたけど、こいつは僕との斬りあいを心から楽しんでいるようだった。
「その魔導具も覚醒させたようだし、俺と対等の武器をそろえたし、いい具合に仕上がってるみたいだな。それでこそ倒しがいがある、お前と本気の勝負をして、初めて俺の勝利に価値が生まれる! 極上の獲物になってくれたな、ディック!」
「……フェイス、お前、変わったな」
以前までのあいつなら、弱い奴をただ見下し、甚振る事しか考えていなかった。
だけど今のフェイスは、僕を対等な相手と見据え、潰そうとして来ている。言いたくはないが、僕を勝手にライバルと思って戦いを挑んでいるようだ。
「一体、どんな心境の変化だ」
「別に。変わりねぇさ。ただ俺の春の吹き方が少し変わっただけの事だ。だけどこれだけじゃねぇ、お前に俺だけを見てもらえるよう、もっと俺だけに視線が向けられるよう、苦心して考えたんだぜ」
……なんだ? この怖気だつような熱い視線は……。
フェイスの威圧感に後ずさりしてしまう。そしたら、頭上で激しい爆音が聞こえた。
『うぐううっ!』
ラズリの苦しそうなうめき声が聞こえた。世界樹の力を身にまとっているにも関わらず……ディアボロスに圧倒されているんだ。
『ばっはっはぁ! さぁて、体も温まった所だ。ぼちぼち本気でやってやるぞぉ、世界樹の巫女よぉ!』
ディアボロスのブレスがラズリを捉える。彼女は拳圧で受け止めようとするけど、龍王のブレスは易々と拳圧を破壊し、ラズリを焼き払った。
世界樹の根で反撃しても、爪や牙で粉砕されて触れる事すらできない。エルフの国そのものの力をぶつけてもなお、龍王の皮膚にすら届かないのか。
「ラズリ……!」
「どうだ? あれが俺の手にしたディアボロスの力さ。どんな策を講じようが、あのトカゲの前には通用しやしないのさ」
「……早くお前を倒して、援護に行かないとな」
「行けるかねぇ、その前に死ぬぜあいつ。それにあいつよりも、気にしている女がいるんじゃないか?」
奴はくつくつと笑うと、手を掲げた。
「邪魔な奴を摘み取っていかないとなぁ。お前が大事にしている連中を一人一人、お前の目の前で殺して、俺以外を見れないようにしないとなぁ」
フェイスの手からスクリーンが浮かび上がり、四天王達の様子が映し出された。
そこに映るのは、劣勢の四天王だった。
リージョンはヲキシの激しい水責めをゲートで対処できず、全身に裂傷が出来ている。
メイライトも大地そのものであるズシンを対処しきれず、逃げ惑うばかり。
ソユーズはビュンの風に対抗できず、一方的に切り刻まれていた。
そして、シラヌイは……。
『いやぁっ!?』
カノンの炎にあぶられ、酷いやけどを負っていた。
彼女のやられ方は四人の中でも一番ひどい。じわじわと嬲り殺しにするかのように、少しずつ痛めつけられている。
「シラヌイ!」
「くくっ、カノンには指示を出していてね。シラヌイだけは丁寧に、じっくりと焼き殺せと命じているんだ。ほら見てな、そろそろ腕か足が焼かれるぜ」
フェイスが言った通り、とうとうシラヌイの左腕が焼かれてしまう。彼女の白い肌が、痛々しい赤黒い色へ変わってしまう。
加えて、右足に斧がめり込む。骨が折れて、動けなくなってしまった。
「シラヌイ……シラヌイ!」
「おっとぉ、行かせはしないぜ」
シラヌイを助けに行こうとする僕の前に、フェイスが立ちふさがる。
邪魔だ、お前の相手をしている場合じゃない。シラヌイを助けに行かないと!
「どけ!」
「やだね。シラヌイは特に丁寧に、しっかりと殺してやるんだから』
フェイスの姿が変わっていく。エンディミオンの覚醒の力を使い、天使を思わせる神々しい怪物となった。
『さぁ、俺が憎いだろ? ムカついて仕方ないだろ? シラヌイを助けに行きたけりゃ、俺を早く倒してみろよ。まぁその前にあいつが死ぬのが先だろうがなぁ!』
「……フェイス!」
お前の相手をしている場合じゃない! シラヌイは、シラヌイだけは、何としても助けるんだ!
『主よ。落ち着け、主よ』
その時だった。ハヌマーンが僕に語り掛けたのは。
『心を乱されるな。今、無理を冒して奴を倒す必要はない、我が覚醒せし力を使えば、ここからでもシラヌイは助けられる。思い出すがよい、我がもう一つの力を』
「……ハヌマーン?」
『そして思い出せ、汝が信じる力を。奪われたくなければ、望め、我が力を。汝が紡いだ絆、今こそ真価を発揮するときだ』
……ハヌマーンは絆の魔導具。アンチ魔導具の力に目を奪われがちだけど、もう一つ、心を繋ぐ力がある。
覚醒した今、繋ぐ力が強化されていたとしたら……そうか。
「ハヌマーン……お前に僕の身をゆだねる。絶対救い出すぞ……僕の大切な人達を!」
『承知』
やるぞ相棒、シラヌイ達を守る為に。
お前の持つ、心を繋げる力。僕にどうか、貸してくれ!
0
お気に入りに追加
3,383
あなたにおすすめの小説
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
家ごと異世界ライフ
ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!
俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉
まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。
貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
転生調理令嬢は諦めることを知らない
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。
追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。
2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。
うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。
小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします
藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です
2024年6月中旬に第一巻が発売されます
2024年6月16日出荷、19日販売となります
発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」
中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。
数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。
また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています
この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています
戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています
そんな世界の田舎で、男の子は産まれました
男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました
男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます
そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります
絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて……
この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです
各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます
そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる