ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。

文字の大きさ
上 下
108 / 181

107話 役者は揃った。大決戦始まる。

しおりを挟む
 四方八方から、龍装備を持った兵達が襲ってくる。
 僕は気配察知で攻撃を予知し、出足を潰していく。空を見上げれば、ディアボロスの巨体が近づいていた。
 といっても、大きすぎるから距離感がつかめないな。
 だけど、僕が目指すべきゴールは見える。ディアボロスの頭上にたたずむ人影が見えたから。

「あそこにいるのか、フェイス」
「全く、呆れるほど堂々しているわね。自分が取られれば負け戦になるってのに」

 シラヌイが忌々し気につぶやく。すると空からドラゴンが襲ってきた。
 全員敵意むき出しに僕を睨んでいる。いや、正確にはオベリスクを見ているのか。

『貴様か、龍王様の剣を奪った剣士は』
『その剣は龍王様の盟友、オベリスク様の名を頂いた剣』
『人間が持つには過ぎた名剣、資格無き者がそれを握るでないわ!』
「返却を望んでいるわけか、残念だけど答えはNOだ!」

 なら僕が、オベリスクを持つに相応しい人間だと証明すればいいんだな。
 オベリスクを抜き、ドラゴン達に叩きつける。一振りで数匹のドラゴンをなぎ倒すも、後続のドラゴンが押し寄せてくる。

 丁度いい、オベリスクの力を使わせてもらうよ。

 オベリスクを持っていれば、低威力の魔法が使える。普通なら使い物にならないけど、僕には煌力がある。それに、二つ以上の魔法を同時発動する事も可能なんだ。

「火・水合同……ミストフレア!」

 炎魔法と水魔法を同時に発動、それを煌力で威力を上げて使えば、猛烈な水蒸気が上がった。
 超高温の水蒸気を浴び、ドラゴン達が大やけどを負う。怯んでいる隙に次の魔法を準備する。

「地・風合同、クエイクウィップ!」

 地魔法で出した砂利を風魔法で舞い上げ、鞭のように操り、ドラゴン達を切り刻む。細かな砂利は集まれば、ドラゴンすら切りさく刃になるんだ。

「この剣はフェイスを倒すのに必要なんだ、返すわけにはいかないんだよ!」

 最後に飛ぶ斬撃を叩き込み、ドラゴンを蹴散らした。
 足りない威力は煌力で底上げし、狭い用途は組み合わせて広げればいい。オベリスクは僕に無限の力を与えてくれたんだ。

「あんたね、魔法まで使えるようになったら私の立つ瀬がないでしょうが」

 シラヌイは不機嫌そうにぼやいた。その後ろには、彼女の炎で焼かれたドラゴンが多数。

『オベリスク……その人間を、選んだのか……!』
『くっ……弱き者は、強き者に従うのみ……』
『見事なり……強き、人間よ……』

 僕の攻撃を受けても、ドラゴンは気絶するだけにとどまっている。流石は最強種、人間とは比較にならない打たれ強さだ。

「エルフの魔法と弓矢も、当たっても大したダメージが無いみたい。あいつらを退けるには、リーダーのディアボロスを倒さないとだめね」
「予定では、そろそろラズリがディアボロスとぶつかり合うはずだ。そこから先が、僕達の正念場だよ」

 僕が言うなり、ディアボロスに向かう影が見えた。
 ラズリだ。空を蹴り、まっすぐにディアボロスへ立ち向かっていく。同時に彼女の体が、淡く輝き始めた。


  ◇◇◇
<ラズリ視点>

 ドラゴンの群れを蹴散らし、ディアボロスへ向かう。
 先日と違い、ディアボロスは酔っている様子はない。万全の体調で戦に挑んでいる。
 ……そんな怪物の相手をしなければならないのか。気が重いな。
 でも、一人で挑むわけじゃない。私には、姉様とワードが居る。
 先々代から教わった、世界樹の力を限界以上に引き出す方法。それを使って、龍王を倒す!

『姉様、お願いします』
『わかった……気を付けてね、ラズリ!』

 姉様が、世界樹の涙を胸に溶け込ませた。直後、体の奥底から、得も言えない何かが沸き立つ感覚が襲ってくる。
 胸が破裂しそうな、気分の悪い感覚だ。自分が自分じゃなくなるような、激しい嫌悪感が出てくる。
 これが、世界樹と一体になる感覚? ……あまりの不快感に胸やけが激しくなった。

「優しいはずの世界樹が、怒っているの?」

 世界樹は、人間とドラゴンの蛮行に怒りを覚えている。それが私の不快感に繋がっているんだ。
 大丈夫よ世界樹、私達が必ずドラゴンと人間を止めるから。
 今度こそディアボロスは退ける。だからディック、お願い。
 あの勇者をどうか、頼みます。

「うおおおおおっ!」
『ばっはっは! 来たなぁ強きエルフよ、貴様と殺し合えるのを、心から楽しみにしていたぞ!』

 ディアボロスが拳を握りしめた。迎え撃つべく、私も拳を構える。
 エルフとドラゴン、どちらの拳が重いのか……。

『さぁ! 素晴らしき殺戮の宴を始めようではないか!』
「……軽い、拳だ!」

 力比べを始めようじゃないか!
 ディアボロスと拳がぶつかるなり、巨竜が傾いだ。間髪入れず、世界樹の力を使う。
 無数の根を操り、巨竜を槍のような先端で突き刺す。まだ終わりじゃないぞ。
 尻尾を掴んで振り回し、思い切り地面へ投げ飛ばす。投げた先には、剣山のように張り巡らせた根の槍が並んでいた。

『ぐはぁっ!』

 巨竜の体を貫き、ディアボロスが血を吐いた。
 まだ終わらせない。枝を腕に集約させて、巨大な拳を作り出して……。

「お前を、殴り殺す!」
『ばっはっはっはっは! それでいい、それでいいぞエルフよ!』

 全力の一打を放とうとした瞬間、ディアボロスのブレスが私を襲った。
 避けきれなかった。あまりに広範囲を焼き払う、凄まじい息吹だったから。
 枝の腕が焼き消され、私の皮膚も溶かされていく。けど、世界樹がすぐに治してくれた。

「ぐぅぅぅぅあああっ!」

 歯を食いしばってブレスを耐え、ディアボロスの顎を殴り飛ばす。行き場を失ったブレスが口腔内で爆発して、鼻から黒煙を上げた。

『ばっはっは! 流石の一撃よ、やはり殺し合いはこうでなくては面白くない!』
「ぐっ……傷が治っている、だと?」

 大きな傷を与えたはずなのに、ディアボロスの体は再生している。凄まじい生命力だ。

『今日は貴様のために、万全の体を用意してきたのだ。あの程度でそうそう簡単にくたばるはずが無かろう! さぁ、ワシが満足するまで、思い切り踊り狂うがいい! ばっはっは!』
「ふぅ……世界樹の力を持ってしても、簡単に倒せる相手ではないか」

 ふと気が付けば、勇者の姿が無くなっている。ディックの所へ向かったみたいだ。
 ディアボロスの相手は任せてくれ。勇者フェイスは貴方にしか倒せない。
 必ず共に勝って、愛する人と過ごす平和へ戻りましょう!

「ワード……貴方の下へ、必ず帰ります!」

  ◇◇◇

「ラズリがディアボロスとぶつかり合った。って事は」
「クソ勇者が来るわね」

 僕の気配察知に強大な気配がかかる。直後、僕達の目の前に、フェイスと赤いドラゴンが落ちてきた。

「よう、ディック。会いたかったぜ」
「フェイスか。もう戦う前の会話も面倒になってきたな……むしろお前より、隣のドラゴンが気になっているくらいだ」
「ああ、こいつか。紹介するぜ、俺の新しい下僕、炎獄龍カノンだ。俺とお前の間に余計な邪魔が入らないよう、連れてきたのさ」

 フェイスはにやりとして、ドラゴンを突き出した。
 斧を持ったドラゴンは、生気のない顔をしている。まるで生きている感じのしない、不気味な相手だ。

「カノンが来ちゃったか、私と相性最悪の敵ね」

 シラヌイが警戒している。言っていたもんな、カノンは来てほしくないって。
 フェイスは相手が嫌がる事をさせたら、天才的な才能を発揮するからな……シラヌイが嫌がる事を、的確に見抜いてくる。

「さぁ、やりあおうかディック。もう俺とお前に言葉は要らねぇ、剣と刀で、思う存分語り合おうぜ。俺とお前の物語の結末をな」
「すまないけど、僕はお前とそんな作文を連ねるつもりは毛頭ないね」

 僕が物語を綴る相手は、もう決まっている。僕の隣にいる、世界で一番愛しいサキュバスだ。
 僕はこの先も、彼女と未来を見据え、歩んでいくと決めている。その障害となるのならば、相手が誰であろうと、刀で断ち切るまで。

「僕はシラヌイと、この先もずっと生き続ける。彼女との未来を阻むと言うなら僕は、男として彼女を守り抜くまでだ」
「けっ、かっこいいねぇ……格好良くて惚れちまうぜディック!」

 僕とフェイスは互いに切りかかり、剣をぶつけ合った。
 間髪入れず、カノンも動き出す。戦斧を振り上げ、シラヌイに襲い掛かる。
 だけどシラヌイに戦斧が当たった瞬間、彼女の姿が揺らいだ。

「残念、幻よ!」

 シラヌイが横から現れて、ファイアボールを直撃させた。シルフィの幻術で幻を作っていたんだ。

「ディック、私なら大丈夫。貴方は貴方の相手をしっかり見据えて戦いなさい。必ず勝って、私達の居場所に戻って……沢山キスして頂戴。約束よ。他にもいっぱい、いっぱいあんたとしたい事があるんだから! 絶対、約束守りなさいよ!」
「ああ、必ず守るよ、その約束!」

 ここではシラヌイの邪魔になる。場所を移して戦わないとな。

「来いよフェイス、とことんまでやりあってやる!」
「嬉しいねぇ……お前との命のロンドを踊ってやるよ!」

 僕とフェイスは飛び出して、思い切り剣が振るえる場所へ移動した。

  ◇◇◇
<シルフィ視点>

 ふむ、これで役者は揃ったようだな。
 私ならば、各地の状況を掴む事が出来る。魔王軍と人間軍の戦いは魔王軍優勢のようだったが、その要因となっている魔王四天王にも各々、四星龍が送られたようだ。

『俺の相手はお前か……面倒だな』

 リージョンにぶつけられたのは、水害龍ヲキシ。

『あらぁ、かたぁい殿方が来てくれたのねぇ』

 メイライトにぶつけられたのは、地厄龍ズシン。

『……嫌になる相手が来たものだ』

 ソユーズにぶつけられたのは、嵐災龍ビュン。
 勇者フェイスによって、各々が苦手とする相手を用意されたようだな。
 四星龍は己が敵を前にするなり、表情を一変させた。

『グ……ガアアアアアアアア!』
『KILLKILLKILLKILL!!!!』
『殺す殺す殺す殺す殺す!!!! ディアボロス死すべし!!!!!!』
『滅べ滅べ滅べ滅べホロべぇぇぇぇぇ!!!!』

 狂戦士の呪いを解禁したようだ。この呪いは自身の心全てを犠牲にして力を蓄える物、有事の際に解放すれば、壮絶な力を発揮する呪術なり。
 まさに命の分岐点。この場が如何なる結果をもたらすかで、未来が変わる。
 さぁ、流れに身をゆだねよ。未来への賽は今、投げられた。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

処理中です...