ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。

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98話 久しぶりのラブコメ♡

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「シラヌイ様! シラヌイ軍一万名、到着しました!」

 僕はシラヌイと共に、バルドフから派遣されてきたシラヌイ軍を出迎えていた。
 普段シラヌイ軍はバルドフ防衛に当てられている。でもエルフの国の危機という事で、彼女の所有する戦力の半分を要請したんだ。

「これだけの戦力があれば、ドラゴンが攻めてきても十分対応できます。私の部下は皆精鋭、一人でも百人分の力になるでしょう」
「感謝します、シラヌイ様……心強い援軍です」

 ラズリは胸に手を当て、シラヌイに頭を下げた。エルフ軍の戦力は総勢三万、これにシラヌイ軍が入るから、合計四万の兵力だ。
 そこに僕とシラヌイ、ラズリも入るし、ラピスが世界樹の力で後方援護してくれれば、ドラゴンと人間の混成軍が来たとしても負ける事はないはずだ。
 ただ、懸念材料が無いわけでもない。

「フェイスとディアボロス、結局のところそこに行きついちゃうな」
「ただでさえ強いのに、ディアボロスは全然本気を出してなかったものね。おまけにフェイスもエンディミオンの力を全開で使ったら、多分ディック以外じゃ戦いにすらならないわ」
「しかし、お言葉かもしれませんが、肝心のディックさんの力も信ぴょう性に欠けるきらいがあるような……」

 ラズリは険しい顔で指摘してきた。
 ハヌマーンは特性上、試運転が出来ない。何しろ魔導具以外には全くと言っていいほど使い物にならない武器だからね。
 だからフェイスとの戦いでは、ぶっつけ本番で覚醒の力を駆使しなくちゃならない。前回敗戦寸前に追い詰められたし、ラズリが不安になるのもわかるな。

「それでも、フェイスを相手出来るのは僕とシラヌイ、そしてハヌマーンだけだ」

 相手が不安を感じている時こそ、自信あるようにふるまわないとね。

「大丈夫、ハヌマーンは僕の相棒だ。完成に至った今、必ずフェイスに勝てる。だから僕を信じてくれ」
「……迷いがないな。わかりました。拳を交えた者として、貴方を信じましょう」
「へへ、戦士の絆だねぇ。熱くて好きだぜ、俺」

 ワイルは笑いながら言うと、地図を出した。

「そんじゃ、後押しする情報をくれてやる。俺が龍の領域で盗み出した、連中の作戦書だ。こそっと写しをとっといたのさ」
「本当に? 流石稀代の大盗賊……!」
「素晴らしいですワイル様!」

 シラヌイとラピスが歓声を上げる。フェイス達が攻めてきたのは、エルフ軍の戦力を図るための威力偵察。となれば次は、本格的な侵攻だ。
 作戦計画書には、攻めてくる日時や戦力図が事細かに書かれている。これなら、相手がどのように動くのか筒抜けだ。
 お宝だけでなく、作戦まで盗み出すか。味方ながら怖くなる男だよ、本当に。

「けど俺は何度も言うが、戦いに関しちゃからっきしだ。戦いの計画となると、ちょっと力になれそうにない。だからこの先は、お前らに託した。エルフの国を守ってくれよ」
「当然です、先々代」

 なんだか、一体感を感じるな。これが僕達の武器になりそうだ。
 フェイスとディアボロスは、見た感じ一枚岩という感じはしない。個々でバラバラに動いているだけだ。
 僕達が勝つには、そこを突くしかない。全員で一体となって戦う。小さな力を集めれば、大きな力に必ず勝てるはずだ。
 僕がフェイスに勝った時のように。

「んで、こっちの懸念材料は、あと一つだけよね」

 シラヌイはため息をつくと、シルフィを見上げた。
 確かに、それは僕も思っていたよ。

『んー? どうして私を見るのだ』

 シルフィは羽繕いをしながら聞いてくるけど、正直君が今一番の不安要素なんだよ。

「シラヌイの使い魔になったはいいけど、君は気まぐれすぎるからな。どの程度まで力を貸してくれるのか、こっちも見極められなくてね」
「前にも何度か私達の記憶を消したりしてるし、都合が悪くなったらトンずらしそうで怖いのよ」
『命の恩人に対して失礼な奴らだなぁ。ま、私の力を考えればそれも当然か』

 シルフィはけらけら笑い、シラヌイの肩に止まった。

『まぁ、使い魔になった以上、相応の働きはさせてもらうさ。それに私がついていれば、シラヌイも新たな魔法が使えるようになるぞ』
「そうなのか?」
「一応、出来ない事はないわ。使い魔から魔力を貰うことで、本来自分が使えない魔法を撃てるようになるの。だから、シルフィも使う認知を操る幻術も、理論上使えるんだけど」
『あいにく、そいつは力が強すぎるからな。下手すれば歴史が大きく変わる危険もある。なので、それより下のランクの幻術を使えるようにしてやるさ』

 認知を操る魔法が使えれば、ディアボロス相手に強力なカードになったんだけどな。
 幻魔が持つ力は大きすぎる、だから使い魔の立場が逆転して、シラヌイがシルフィに使われている状態なんだ。
 これが僕が不安に思っている要素なんだよな……幻魔シルフィ、味方というには、あまりにも不確定要素の多すぎる鳥だ。

「とはいえ、シラヌイが幻術を使えるようになったのは大きいな。これなら、気にしていた四天王間の差もなくなったんじゃないか?」
「複雑だけど、そうね。あの三人の誰も使っていない魔法だし。炎と幻を操るサキュバスか、悪くないかもね」
『では、実際に幻術を使ってみるといい。幻術は心を操る魔法、使いこなせれば、相手を思うがままに動かす事の出来る術だ。試しに、相手を素直にする幻術を仕掛けてみるがいい』
「よぉっし、そんじゃあディックに対してかけてみようかしら」
「え」
「普段からすました顔して私を翻弄してるんだもの、だからたまには私に翻弄されなさい!」

 って事でシラヌイは僕に幻術を使った、はずだった。
 だけど僕達の前に現れたのは、等身を低くデフォルトした、シラヌイの小人だった。

『ディーック♡ 好き好き大好き! もう、あんまりこっち見ないでよぉ♪』

 突然のラブコール。僕達は勿論、シラヌイも硬直した。
 子シラヌイは照れ照れと顔を隠し、もじもじし始めた。

『もうね、貴方と一緒にいるだけでドキドキして仕方ないの♡ 手を触れる度に心臓が破れそうなくらい動いちゃうのよ♡ 私を好きになってくれてありがと、私も貴方を好きになって毎日幸せなんだから♡』
「な、ななな……なぁぁぁぁ……!?」
『だからお願い、私から離れないで♡ あなたとずっと繋がりたいから♡』

 シラヌイが目をぐるぐるさせて、真っ赤になり始めた。あれ? 僕に幻術かけたんじゃないの?

『もっと私を抱きしめて、もっともっと愛して♡ もっともっともっとキスして♡ 貴方に触れる度に私、生まれてきてよかったって、何度も思っているんだから♡』
「うっぎゃああああああああああああああああ!?!?!?!?!?!? わーわーわーわーわーわーわーわああぁぁぁぁぁぁぁ!!!!????」

 シラヌイは奇声を発して、自分の分身を叩いて消した。

「な、なななななな何よこれぇぇぇぇぇ! な、なんで私の本心駄々洩れになってんのよぉぉぉぉぉぉ!?」
『ほぉ? あれが本心か。素直になったシラヌイとはまた、随分可愛いなぁ』
「あんたかぁぁぁぁぁぁ! あんたわざと私に幻術かけたなぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 ……シルフィめ、幻術を誤爆させて素直な心を具現化させたな。こいつ性格悪すぎるだろ。

「いっやー、聞きましたラピスさん。もっともっとキスしてほしいんですってよシラヌイ様ってば」
「いっやーんだいたーん☆ ワイル様ぁ、私達もキスしてみませんかぁ?」
「その前にお手本でもご覧あそばせませんかぁ? ねぇシラヌイ様ぁ」
「あんたらぁぁぁぁぁぁ!!!! 私で遊ぶんじゃなああああああああい!!!!」

 ……完全に遊ばれてるなぁ、シラヌイ……。
 どっかんぼっかん爆発しながら、シラヌイはシルフィ、ワイル、ラピスの三人を追い回している。杖を豪快に振り回しているから、家具が次々に壊されていった。

「いいなぁ……シラヌイさん、すごく幸せそう……ああっ、私も早く恋がしたい……!」
「分かるよラズリぃ、あの子シラヌイちゃんめっちゃくちゃ恋愛を楽しんでるんだもん。好きな人と一緒にいる喜びがダイレクトに伝わってきたよぉ……!」
「私も早くワードと……」
「私も早くワイル様と……!」
『あーん! 燃えるような恋がしたいよぉ!』
「姉妹でハモってんじゃねぇぇぇぇい!!!!」

 シラヌイ、そろそろ落ち着こう。相手はエルフの国の重鎮だよ、暴力したら君即刻逮捕だからね。

「だははははは! やべ、この状況面白すぎ……腹痛ぇ……腹痛ぇ……!」
『いっやー、傑作だったなシラヌイ! わっはっはっはっは!』
「あんたらも笑ってんじゃねぇぇぇぇい!!!!」

 ……どうしよう、収集つかなくなってきたぞ。

「会議中失礼します。ワード、入ります」

 こんな悪いタイミングでワードが入ってくる。彼が見たのは、シラヌイを羽交い絞めにする僕に、とろけ顔で赤らんで抱き合っている巫女姉妹、腹を抱えて大爆笑しているワイルとシルフィ。当然ワードはきょとんとし、無表情で固まった。
 ……うん、素直に言おう。なんだこの状況。
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