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94話 フェイス、フルボッコにされる。
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……俺がトカゲのクソジジィと戦い始めて、もうどんぐらい経った?
時間を測らせている女僧侶に目配せすると、
「……四分、経ちました。勇者様……!」
おいおい、まだそんだけかよ。
その間に俺、二十回は殺されたのか。
今、俺は首から下が無くなっている。ディアボロスに引きちぎられちまったんだ。んでもって肝心の体は踏みつぶされ、ミンチになっていた。
『ばっはっは! どうした勇者、まだ始まって間もないぞ? もうダウンか?』
「……ぬかせ」
すぐさま再生し、エンディミオンで全身を切り刻んだ、はずだった。
ディアボロスの皮膚にはかすり傷一つ付かず、逆に奴が無造作に振った尻尾の一撃が、俺を壁に叩き潰した。
ちっ、なんだこいつ。どんだけ攻撃しても傷つかないだと? 図体でかいくせに、俺より速く動けるだと?
……面白いじゃねぇか。まさか俺より強い奴が、ディック以外に居やがるとはなぁ。
「トカゲごときが楽しませて『人如きが楽しませてくれるのぉ、ばっはっは!』
俺の言葉を遮り、ディアボロスの牙が俺をかみ砕いた。
くそが、いくら不死の力を持っていても、勝てる糸口が見つからねぇ。エンディミオンは死の淵から蘇るごとに強くしてくれるが、どんだけ殺されても、このクソジジィとの差は一向に縮まらなかった。
しかもムカつくことに、このトカゲジジィ……全く本気を出してねぇ。
俺を転がすだけ転がして、遊んでいる。俺を捕まえて四肢を引きちぎり、口から爪を突っ込んで刺殺して、ブレスで焼き殺す。実に多種多様な処刑を考えてくれるもんだぜ。
勿論俺もやられっぱなしじゃねぇ、斬撃の他、魔法を叩き込んで少しでも傷を与えようとした。
『ばっはっは! おいおい、ハエでも止まったかと思ったぞ? ばっはっはっは!』
当たり前のように通じなかったがな。全部跳ね返されて、ただただ殺されるばかりだ。
……腹立たしいぜ、これまで最強無敵だったはずの俺が、たかがトカゲの王ごときに赤子扱いだ。
何をしようがまるで無駄。ディックとの戦いからずっと、こんなんばっかりだな。
「ちっ……どいつもこいつも、どうして俺を気分よく玉座に座らせてくれないのかねぇ」
俺は人類最強の男だぞ? それが、マザコン野郎に叩きのめされ、ドラゴンには遊ばれて……なんてみっともない肩書だ。
何が違う? 俺とこいつらと、一体何が違う? ディックの奴は愛する心とやらで俺を打ち負かした。ディアボロスは単純に、力で俺に勝っている。
こいつらを殺すのに、俺は何を足せばいいんだ? 俺自身の力を信じられなくなったら、俺は何を信じればいいんだよ。
『ばっはっは! おいおい、手が止まっているぞ? まだ一時間も戦っていないではないか』
「へっ、作戦を考えていたんだよ。どうすりゃてめぇを……効率よくぶっ殺せるかを『ぶはぁっ!』
おいこら、俺のセリフをブレスで遮るな。焼き殺されちまっただろうが。
……こうまでやられっぱなしだと、かえって冷静になってくるぜ。つーか俺、どうして躍起になって戦ってんだかな。
何かのために頑張るってのは、この世で一番かっこ悪い事だろうが。努力せず、スマートに事を納めるのが、最高にクールってもんだろうが。
なのにどうして俺は、泥臭くあがいてんだよ。強くなろうと、努力なんかしてんだよ。こんなの勇者のやる事じゃねぇ、勇者ってのは、楽して何もかもをやり過ごす者だろうが。
もういいや、思い通りにならないなら、やめちまおう……。
『これがお前の否定した……愛する心の力だ!』
全部投げ出そうとした時、不意に思い出す。ディックに完敗した瞬間を。
頭が狂いそうなほどの悔しさが全身を駆け巡り、俺は踏みとどまった。
努力は嫌いだ、疲れるし、面倒くさいし、やったって全然報われねぇし、この世で最もくだらない行いだ。
……だが、そんなもんすらどうでもよくなるくらい……。
「……負けるのは、もっと大っ嫌いなんだよ!」
『ばっはっは! いい気概だ、いい根性だ! さぁかかってこい! 迷いを超えて強くなるがいい勇者フェイス!』
この野郎、俺の心の中を見透かしやがって!
どんだけ嫌がろうとも、ディックを倒すには努力しなきゃならねぇ。ムカつくが、こればかりはもう避けようがねぇ。
だったらいいぜ、とことんまでに泥臭く暴れてやるよ。龍王ディアボロスを相手に、死ぬほどの修業をし続けてやる!
ディックの野郎をぶっ殺すために、大っ嫌いな努力をとことんまでやり続けてやるさ!
◇◇◇
それから、俺は七日七晩もの間、ディアボロスに殺され続けた。
女どもや兵士達は、最初こそ俺を止めていた。今じゃ諦めて、ただ惨殺される俺を見ているだけになったがな。
人生でこれだけ敗北したのは初めてだ。何度も踏みにじられ、握りつぶされ、俺のプライドはズタズタだ。
負ける度に俺は腸が煮えたぎる怒りを感じた。なんでこいつに勝てねぇ、なんで強くなってんのに近づけねぇ。ただただ報われない努力にイラつくばかりだ。
でもって負ける度に、ディックの事が分からなくなる。あの野郎は、どうして俺に負けても、潰れず立ち上がる事が出来たんだ?
敗北する度、血反吐が出るほど悔しい思いをするのに、あいつは一度たりとも潰れた事がない。俺が引き連れている間、何度蹴り飛ばそうが、殴り飛ばそうが、あいつは心が折れる気配がなかったんだ。
『ばっはっは! さぁこれで丁度一万回目の殺害だ!』
ディアボロスに踏みつぶされ、俺は殺された。だけど何度死んでも、エンディミオンが俺を復活させてしまう。
おいおい、これ以上俺に戦えってのかよ、エンディミオン。
どんだけ蘇ろうが、こんな化け物倒せるわけねぇだろ。たった一人、何度もぶつかってんのに、俺の刃は皮膚に傷をつける事すらできねぇんだぞ。
……けど、なんだろうな。ディックならこいつを、倒せそうな気がしてきた。
そう思うと、心が折れそうになる。なんだ、俺とあいつの違いは、なんだ?
愛する心ってのは、それだけの差を生み出す物なのか?
『迷っているようだなぁ、勇者よ』
「…………」
『貴様、まだ切り札を残しているのだろう? 覚醒した魔導具は、所有者を一段上の姿へ昇華させられる。なのになぜ、この龍王を前にして使わんのだ』
「……俺には、倒したい奴がいる」
疲労もあったせいだろう、俺は素直に話していた。
「俺に初めての敗北を与えた、どうしようもないマザコン野郎だ。俺はどうしてもそいつに勝ちたい、勝たなければならねぇんだ。だってのに、テメェ如きに切り札使ってたら、あいつに勝つことは絶対できない……! だから俺は、てめぇに切り札は切らねぇ。俺自身の力だけで、お前を倒すと決めているんだ……!」
『ばっはっは! 中々どうして純粋な奴よ。単なるうつけ者ならば、ワシもここまで付き合わんさ。どこまでも勝利を渇望するその執念に免じて、ここまで手ほどきをしてやっているのだよ』
「……上から目線でむかつ『だが貴様には、決定的に足りぬものがある』
だから俺が話して居る時にかみ砕くなクソジジィ! ディックと同じような事言いやがって、この野郎が。
『ディックとやらの事はわからん。だが貴様の様子を見る限り、敗北した理由は察しが付く。そいつを見つけぬ限り、貴様は恐らく切り札を使ってもそ奴には勝てんだろう』
「んだとぉ?」
『ばっはっは! エンディミオンは虚無の魔導具、そいつに拘っている間、貴様は永遠に手にする事は出来まい。さらなる強さのカギをな。それではワシも楽しみが無い、というわけでだ』
ディアボロスは俺の胸に爪を突き立て、同時に魔法をかけた。
『さぁ、一度振り向いて探してこい。貴様が剣を握る理由をな』
時間を測らせている女僧侶に目配せすると、
「……四分、経ちました。勇者様……!」
おいおい、まだそんだけかよ。
その間に俺、二十回は殺されたのか。
今、俺は首から下が無くなっている。ディアボロスに引きちぎられちまったんだ。んでもって肝心の体は踏みつぶされ、ミンチになっていた。
『ばっはっは! どうした勇者、まだ始まって間もないぞ? もうダウンか?』
「……ぬかせ」
すぐさま再生し、エンディミオンで全身を切り刻んだ、はずだった。
ディアボロスの皮膚にはかすり傷一つ付かず、逆に奴が無造作に振った尻尾の一撃が、俺を壁に叩き潰した。
ちっ、なんだこいつ。どんだけ攻撃しても傷つかないだと? 図体でかいくせに、俺より速く動けるだと?
……面白いじゃねぇか。まさか俺より強い奴が、ディック以外に居やがるとはなぁ。
「トカゲごときが楽しませて『人如きが楽しませてくれるのぉ、ばっはっは!』
俺の言葉を遮り、ディアボロスの牙が俺をかみ砕いた。
くそが、いくら不死の力を持っていても、勝てる糸口が見つからねぇ。エンディミオンは死の淵から蘇るごとに強くしてくれるが、どんだけ殺されても、このクソジジィとの差は一向に縮まらなかった。
しかもムカつくことに、このトカゲジジィ……全く本気を出してねぇ。
俺を転がすだけ転がして、遊んでいる。俺を捕まえて四肢を引きちぎり、口から爪を突っ込んで刺殺して、ブレスで焼き殺す。実に多種多様な処刑を考えてくれるもんだぜ。
勿論俺もやられっぱなしじゃねぇ、斬撃の他、魔法を叩き込んで少しでも傷を与えようとした。
『ばっはっは! おいおい、ハエでも止まったかと思ったぞ? ばっはっはっは!』
当たり前のように通じなかったがな。全部跳ね返されて、ただただ殺されるばかりだ。
……腹立たしいぜ、これまで最強無敵だったはずの俺が、たかがトカゲの王ごときに赤子扱いだ。
何をしようがまるで無駄。ディックとの戦いからずっと、こんなんばっかりだな。
「ちっ……どいつもこいつも、どうして俺を気分よく玉座に座らせてくれないのかねぇ」
俺は人類最強の男だぞ? それが、マザコン野郎に叩きのめされ、ドラゴンには遊ばれて……なんてみっともない肩書だ。
何が違う? 俺とこいつらと、一体何が違う? ディックの奴は愛する心とやらで俺を打ち負かした。ディアボロスは単純に、力で俺に勝っている。
こいつらを殺すのに、俺は何を足せばいいんだ? 俺自身の力を信じられなくなったら、俺は何を信じればいいんだよ。
『ばっはっは! おいおい、手が止まっているぞ? まだ一時間も戦っていないではないか』
「へっ、作戦を考えていたんだよ。どうすりゃてめぇを……効率よくぶっ殺せるかを『ぶはぁっ!』
おいこら、俺のセリフをブレスで遮るな。焼き殺されちまっただろうが。
……こうまでやられっぱなしだと、かえって冷静になってくるぜ。つーか俺、どうして躍起になって戦ってんだかな。
何かのために頑張るってのは、この世で一番かっこ悪い事だろうが。努力せず、スマートに事を納めるのが、最高にクールってもんだろうが。
なのにどうして俺は、泥臭くあがいてんだよ。強くなろうと、努力なんかしてんだよ。こんなの勇者のやる事じゃねぇ、勇者ってのは、楽して何もかもをやり過ごす者だろうが。
もういいや、思い通りにならないなら、やめちまおう……。
『これがお前の否定した……愛する心の力だ!』
全部投げ出そうとした時、不意に思い出す。ディックに完敗した瞬間を。
頭が狂いそうなほどの悔しさが全身を駆け巡り、俺は踏みとどまった。
努力は嫌いだ、疲れるし、面倒くさいし、やったって全然報われねぇし、この世で最もくだらない行いだ。
……だが、そんなもんすらどうでもよくなるくらい……。
「……負けるのは、もっと大っ嫌いなんだよ!」
『ばっはっは! いい気概だ、いい根性だ! さぁかかってこい! 迷いを超えて強くなるがいい勇者フェイス!』
この野郎、俺の心の中を見透かしやがって!
どんだけ嫌がろうとも、ディックを倒すには努力しなきゃならねぇ。ムカつくが、こればかりはもう避けようがねぇ。
だったらいいぜ、とことんまでに泥臭く暴れてやるよ。龍王ディアボロスを相手に、死ぬほどの修業をし続けてやる!
ディックの野郎をぶっ殺すために、大っ嫌いな努力をとことんまでやり続けてやるさ!
◇◇◇
それから、俺は七日七晩もの間、ディアボロスに殺され続けた。
女どもや兵士達は、最初こそ俺を止めていた。今じゃ諦めて、ただ惨殺される俺を見ているだけになったがな。
人生でこれだけ敗北したのは初めてだ。何度も踏みにじられ、握りつぶされ、俺のプライドはズタズタだ。
負ける度に俺は腸が煮えたぎる怒りを感じた。なんでこいつに勝てねぇ、なんで強くなってんのに近づけねぇ。ただただ報われない努力にイラつくばかりだ。
でもって負ける度に、ディックの事が分からなくなる。あの野郎は、どうして俺に負けても、潰れず立ち上がる事が出来たんだ?
敗北する度、血反吐が出るほど悔しい思いをするのに、あいつは一度たりとも潰れた事がない。俺が引き連れている間、何度蹴り飛ばそうが、殴り飛ばそうが、あいつは心が折れる気配がなかったんだ。
『ばっはっは! さぁこれで丁度一万回目の殺害だ!』
ディアボロスに踏みつぶされ、俺は殺された。だけど何度死んでも、エンディミオンが俺を復活させてしまう。
おいおい、これ以上俺に戦えってのかよ、エンディミオン。
どんだけ蘇ろうが、こんな化け物倒せるわけねぇだろ。たった一人、何度もぶつかってんのに、俺の刃は皮膚に傷をつける事すらできねぇんだぞ。
……けど、なんだろうな。ディックならこいつを、倒せそうな気がしてきた。
そう思うと、心が折れそうになる。なんだ、俺とあいつの違いは、なんだ?
愛する心ってのは、それだけの差を生み出す物なのか?
『迷っているようだなぁ、勇者よ』
「…………」
『貴様、まだ切り札を残しているのだろう? 覚醒した魔導具は、所有者を一段上の姿へ昇華させられる。なのになぜ、この龍王を前にして使わんのだ』
「……俺には、倒したい奴がいる」
疲労もあったせいだろう、俺は素直に話していた。
「俺に初めての敗北を与えた、どうしようもないマザコン野郎だ。俺はどうしてもそいつに勝ちたい、勝たなければならねぇんだ。だってのに、テメェ如きに切り札使ってたら、あいつに勝つことは絶対できない……! だから俺は、てめぇに切り札は切らねぇ。俺自身の力だけで、お前を倒すと決めているんだ……!」
『ばっはっは! 中々どうして純粋な奴よ。単なるうつけ者ならば、ワシもここまで付き合わんさ。どこまでも勝利を渇望するその執念に免じて、ここまで手ほどきをしてやっているのだよ』
「……上から目線でむかつ『だが貴様には、決定的に足りぬものがある』
だから俺が話して居る時にかみ砕くなクソジジィ! ディックと同じような事言いやがって、この野郎が。
『ディックとやらの事はわからん。だが貴様の様子を見る限り、敗北した理由は察しが付く。そいつを見つけぬ限り、貴様は恐らく切り札を使ってもそ奴には勝てんだろう』
「んだとぉ?」
『ばっはっは! エンディミオンは虚無の魔導具、そいつに拘っている間、貴様は永遠に手にする事は出来まい。さらなる強さのカギをな。それではワシも楽しみが無い、というわけでだ』
ディアボロスは俺の胸に爪を突き立て、同時に魔法をかけた。
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