ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。

文字の大きさ
上 下
95 / 181

94話 フェイス、フルボッコにされる。

しおりを挟む
 ……俺がトカゲのクソジジィと戦い始めて、もうどんぐらい経った?
 時間を測らせている女僧侶に目配せすると、

「……四分、経ちました。勇者様……!」

 おいおい、まだそんだけかよ。
 その間に俺、二十回は殺されたのか。
 今、俺は首から下が無くなっている。ディアボロスに引きちぎられちまったんだ。んでもって肝心の体は踏みつぶされ、ミンチになっていた。

『ばっはっは! どうした勇者、まだ始まって間もないぞ? もうダウンか?』
「……ぬかせ」

 すぐさま再生し、エンディミオンで全身を切り刻んだ、はずだった。
 ディアボロスの皮膚にはかすり傷一つ付かず、逆に奴が無造作に振った尻尾の一撃が、俺を壁に叩き潰した。
 ちっ、なんだこいつ。どんだけ攻撃しても傷つかないだと? 図体でかいくせに、俺より速く動けるだと?
 ……面白いじゃねぇか。まさか俺より強い奴が、ディック以外に居やがるとはなぁ。

「トカゲごときが楽しませて『人如きが楽しませてくれるのぉ、ばっはっは!』

 俺の言葉を遮り、ディアボロスの牙が俺をかみ砕いた。
 くそが、いくら不死の力を持っていても、勝てる糸口が見つからねぇ。エンディミオンは死の淵から蘇るごとに強くしてくれるが、どんだけ殺されても、このクソジジィとの差は一向に縮まらなかった。
 しかもムカつくことに、このトカゲジジィ……全く本気を出してねぇ。
 俺を転がすだけ転がして、遊んでいる。俺を捕まえて四肢を引きちぎり、口から爪を突っ込んで刺殺して、ブレスで焼き殺す。実に多種多様な処刑を考えてくれるもんだぜ。
 勿論俺もやられっぱなしじゃねぇ、斬撃の他、魔法を叩き込んで少しでも傷を与えようとした。

『ばっはっは! おいおい、ハエでも止まったかと思ったぞ? ばっはっはっは!』

 当たり前のように通じなかったがな。全部跳ね返されて、ただただ殺されるばかりだ。
 ……腹立たしいぜ、これまで最強無敵だったはずの俺が、たかがトカゲの王ごときに赤子扱いだ。
 何をしようがまるで無駄。ディックとの戦いからずっと、こんなんばっかりだな。

「ちっ……どいつもこいつも、どうして俺を気分よく玉座に座らせてくれないのかねぇ」

 俺は人類最強の男だぞ? それが、マザコン野郎に叩きのめされ、ドラゴンには遊ばれて……なんてみっともない肩書だ。
 何が違う? 俺とこいつらと、一体何が違う? ディックの奴は愛する心とやらで俺を打ち負かした。ディアボロスは単純に、力で俺に勝っている。
 こいつらを殺すのに、俺は何を足せばいいんだ? 俺自身の力を信じられなくなったら、俺は何を信じればいいんだよ。

『ばっはっは! おいおい、手が止まっているぞ? まだ一時間も戦っていないではないか』
「へっ、作戦を考えていたんだよ。どうすりゃてめぇを……効率よくぶっ殺せるかを『ぶはぁっ!』

 おいこら、俺のセリフをブレスで遮るな。焼き殺されちまっただろうが。
 ……こうまでやられっぱなしだと、かえって冷静になってくるぜ。つーか俺、どうして躍起になって戦ってんだかな。
 何かのために頑張るってのは、この世で一番かっこ悪い事だろうが。努力せず、スマートに事を納めるのが、最高にクールってもんだろうが。

 なのにどうして俺は、泥臭くあがいてんだよ。強くなろうと、努力なんかしてんだよ。こんなの勇者のやる事じゃねぇ、勇者ってのは、楽して何もかもをやり過ごす者だろうが。
 もういいや、思い通りにならないなら、やめちまおう……。

『これがお前の否定した……愛する心の力だ!』

 全部投げ出そうとした時、不意に思い出す。ディックに完敗した瞬間を。
 頭が狂いそうなほどの悔しさが全身を駆け巡り、俺は踏みとどまった。
 努力は嫌いだ、疲れるし、面倒くさいし、やったって全然報われねぇし、この世で最もくだらない行いだ。
 ……だが、そんなもんすらどうでもよくなるくらい……。

「……負けるのは、もっと大っ嫌いなんだよ!」
『ばっはっは! いい気概だ、いい根性だ! さぁかかってこい! 迷いを超えて強くなるがいい勇者フェイス!』

 この野郎、俺の心の中を見透かしやがって!
 どんだけ嫌がろうとも、ディックを倒すには努力しなきゃならねぇ。ムカつくが、こればかりはもう避けようがねぇ。
 だったらいいぜ、とことんまでに泥臭く暴れてやるよ。龍王ディアボロスを相手に、死ぬほどの修業をし続けてやる!
 ディックの野郎をぶっ殺すために、大っ嫌いな努力をとことんまでやり続けてやるさ!

  ◇◇◇

 それから、俺は七日七晩もの間、ディアボロスに殺され続けた。
 女どもや兵士達は、最初こそ俺を止めていた。今じゃ諦めて、ただ惨殺される俺を見ているだけになったがな。
 人生でこれだけ敗北したのは初めてだ。何度も踏みにじられ、握りつぶされ、俺のプライドはズタズタだ。
 負ける度に俺は腸が煮えたぎる怒りを感じた。なんでこいつに勝てねぇ、なんで強くなってんのに近づけねぇ。ただただ報われない努力にイラつくばかりだ。

 でもって負ける度に、ディックの事が分からなくなる。あの野郎は、どうして俺に負けても、潰れず立ち上がる事が出来たんだ?
 敗北する度、血反吐が出るほど悔しい思いをするのに、あいつは一度たりとも潰れた事がない。俺が引き連れている間、何度蹴り飛ばそうが、殴り飛ばそうが、あいつは心が折れる気配がなかったんだ。

『ばっはっは! さぁこれで丁度一万回目の殺害だ!』

 ディアボロスに踏みつぶされ、俺は殺された。だけど何度死んでも、エンディミオンが俺を復活させてしまう。
 おいおい、これ以上俺に戦えってのかよ、エンディミオン。
 どんだけ蘇ろうが、こんな化け物倒せるわけねぇだろ。たった一人、何度もぶつかってんのに、俺の刃は皮膚に傷をつける事すらできねぇんだぞ。

 ……けど、なんだろうな。ディックならこいつを、倒せそうな気がしてきた。

 そう思うと、心が折れそうになる。なんだ、俺とあいつの違いは、なんだ?
 愛する心ってのは、それだけの差を生み出す物なのか?

『迷っているようだなぁ、勇者よ』
「…………」
『貴様、まだ切り札を残しているのだろう? 覚醒した魔導具は、所有者を一段上の姿へ昇華させられる。なのになぜ、この龍王を前にして使わんのだ』
「……俺には、倒したい奴がいる」

 疲労もあったせいだろう、俺は素直に話していた。

「俺に初めての敗北を与えた、どうしようもないマザコン野郎だ。俺はどうしてもそいつに勝ちたい、勝たなければならねぇんだ。だってのに、テメェ如きに切り札使ってたら、あいつに勝つことは絶対できない……! だから俺は、てめぇに切り札は切らねぇ。俺自身の力だけで、お前を倒すと決めているんだ……!」
『ばっはっは! 中々どうして純粋な奴よ。単なるうつけ者ならば、ワシもここまで付き合わんさ。どこまでも勝利を渇望するその執念に免じて、ここまで手ほどきをしてやっているのだよ』
「……上から目線でむかつ『だが貴様には、決定的に足りぬものがある』

 だから俺が話して居る時にかみ砕くなクソジジィ! ディックと同じような事言いやがって、この野郎が。

『ディックとやらの事はわからん。だが貴様の様子を見る限り、敗北した理由は察しが付く。そいつを見つけぬ限り、貴様は恐らく切り札を使ってもそ奴には勝てんだろう』
「んだとぉ?」
『ばっはっは! エンディミオンは虚無の魔導具、そいつに拘っている間、貴様は永遠に手にする事は出来まい。さらなる強さのカギをな。それではワシも楽しみが無い、というわけでだ』

 ディアボロスは俺の胸に爪を突き立て、同時に魔法をかけた。

『さぁ、一度振り向いて探してこい。貴様が剣を握る理由をな』
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

デブの俺、転生

ゆぃ♫
ファンタジー
中華屋さんの親を持つデブの俺が、魔法ありの異世界転生。 太らない体を手に入れた美味いものが食いたい!と魔力無双 拙い文章ですが、よろしくお願いします。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

処理中です...