ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。

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91話 合わせ鏡の二人。

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『うむ、確かにガラハッドの所有者権は破棄されている、これならば我との融合は可能だ』

 僕はハヌマーンに確認し、魔導具融合の準備を進めていた。
 ハヌマーンが輝きを増し、呼応するようにガラハッドも光り始める。魔導具の覚醒という事で、シラヌイ達が集まり、見守ってくれている。

 甲高い金属音と共にガラハッドが吸い込まれ、白かったハヌマーンの輝きの中に金色の粒子が混ざり始めた。
 手足が温まるような、優しい感覚が広がる。同時に心臓がドクンと高鳴り、体の奥底が揺さぶられるような衝撃が走った。

「ぐうっ……!?」
「ディック、大丈夫?」
『心配は要らぬ。主と我が真なる力を使えるよう、同調しているのだ。この通過儀礼を抜ける事で、我らは覚醒の力を手に入れられる』

 ハヌマーンの言葉が遠くに聞こえる。まるで自分が改造されているかのような、重苦しい不快感が僕を支配している。
 だけど耐えなくては。覚醒の力を使ったフェイスは、僕から大切な人を簡単に奪ってしまう。何も守れない苦痛に比べれば、この程度、何てことはない。

 誰も失わないように……僕は力を手に入れなければならない。自分を支配するための力ではなく、僕の大切な人を助けるための力を。
 ハヌマーン、力を寄越せ。僕にシラヌイを守る力を、お前の絆の力を、僕によこせ!

「………ぉ、ぉぉぉぉ、ぉぉぉぉおおおお……あああああっ!」

 ハヌマーンからの力の奔流をねじ伏せ、僕は吠えた。
 瞬間、僕の体に僅かだけど変化が起こった。
 皮膚が変質し、背中に重い違和感を受け、籠手と具足が一体化する。途方もない力が沸き上がり、バチバチと視界がブレた。
 人ならざる存在に変わってしまうような、不思議な感覚だった。やがてハヌマーンは光を消し、ベルトのバックルに戻った。

「ぐふっ……皆、僕は、どうなった……?」
「あ、ああ……驚いたな」
「フェイスと全く同じ現象が起きたわ。一瞬だけどあんたが、異形の存在になったの」
「やっぱりか……そんな感じはしたんだけどね……!」

 どうやら魔導具が覚醒すると、所有者は力に耐えられる体に変異するようだ。
 これで僕は、あいつと同じ力を得た。ハヌマーンの防御機能が働けば、一方的な戦いにはならないはず。

『覚醒の段階は終わった。主に新たなる力も備わったようだぞ』
「ガラハッドの、盗みの力か?」
『否。ガラハッドと我では性質が違う、同じ力は使えぬ。我は絆の魔導具、それに合わせた機能だ』

 ハヌマーンから能力の詳細を聞き、僕達は驚いた。
 絆の魔導具、その名に恥じない力だ。でもこの力はフェイスでは使いこなせない、シラヌイ達と絆を深めた、僕でなければ使えないだろう。

「凄いな、これなら最弱の魔導具じゃなくて、最強の魔導具になったんじゃないか?」
『無論、効果が適用されるのは魔導具の所有者と戦う時のみである』
「……やっぱ最弱の魔導具だな、相変わらずピーキーすぎる……」

 けど、かえっていいのかもな。
 僕は大切な人を守れる力があればそれでいい、シラヌイを誰にも奪われない力を手に入れれば、それ以外に何もいらないんだ。
 僕達を脅かす一番の敵はフェイスだ、そして僕が倒すべき宿敵でもある。
 世界一強くある必要はない、僕はただ一人、フェイスより強ければいいのだから。

「ディックがその力を持っていれば、フェイスに後れを取る事はもうないだろうな。これで安心して魔王軍に戻れるよ。二人とも、必ず帰って来いよ」
「勿論。ソユーズとメイライトにも伝えてくれ」
「あんたたちも死ぬんじゃないわよってね」
「おう。無事に帰ってきたら、一杯やろうぜ。おごってやるからな」

 ちょっと死亡フラグな発言だけど、相手が普通の敵なら、リージョンが死ぬことはまずないだろう。
 リージョンを見送ってから、僕らは改めて手に入れた力を確認する。
 僕は輝龍剣オベリスクと覚醒したハヌマーン、シラヌイはシュヴァリエ・改の力を使えるようになり、シルフィを味方につけた。
 ラピスとラズリもワイルから世界樹の力を活かす方法を教わったし、稀代の怪盗はヤマが終わるまで協力してくれる。

 十分すぎる戦力のはずなのに、フェイスが相手となると、途端に希望が薄く感じてしまう。あいつの底知れない強さを前にすると、どれだけ力をつけようが、不安が尽きないな。

「しょぼくれた顔しないの」
「げほっ」

 シラヌイに背中を叩かれ、せき込んでしまった。彼女はシュヴァリエを振るうと、上空にファイアボールを撃ち出した。
 火球が爆発して花火になる。シラヌイは腕を組み、小さく笑った。

「きっと何とかなる。私達は今まで何度もピンチを切り抜けてきたでしょ? 沢山の人達から助けられて。リージョン達四天王や、ドレカー先輩、ポルカにウィンディア人達、ハヌマーン。今回だって、エルフ達が力になってくれて、シルフィも手伝ってくれた。加えて私達には、イザヨイさんだってついてくれている」
「母さんが……」
「あんたは沢山の人から助けを受けて、今まで戦い抜いてきたんだもの。今回だってそう。一人ではなく皆で、多くの力を借りてきっと切り抜けられるはずよ」

 シラヌイの言葉に元気が湧いてくる。僕がハヌマーンに選ばれたのは、シラヌイと深い関係を持っているからだけじゃない。沢山の人達と出会い、関係を深めているから、僕は絆の魔導具に選ばれたんだ。
 その絆を持って、お前を超えてみせる。虚無の力になんか、絶対負けるものか。

  ◇◇◇
<フェイス視点>

「……まぁた殺り逃したか」

 龍の領域へと戻る道すがら、俺はディックとの戦いを思い返していた。
 エンディミオンの真の力を解放し、その上であいつから煌力とやらを奪った。戦力は明らかに俺が遥かに上だった。
 ……だったはずなんだがな。

「ぐっ……!」

 傷口が開き、膝をついてしまう。あの野郎、思った以上に深い傷をつけてきやがったな。

「ゆ、勇者様。今治しますね」
「……とっととしろ」

 僧侶に治癒術を掛けてもらい、一息つく。女どもは妙にびくびくしていて、なんかうざってぇ。
 ディックに負けてから、俺は本性を隠せなくなった。あいつに負けた事がムカついて、いい子ぶる余裕がなくなったんだ。
 そのせいか、女どもは随分怯えるようになったもんだ。

「なんだよ?」
「あ、あの……オベリスクを奪われてしまい、申し訳ありません……」
「どうでもいい。奪われた事実は変わらねぇんだ、悔しかったら自力で挽回してみろ」

 オベリスクが渡った程度で変わるほど、俺は弱くねぇ。弱くねぇはずなのに……。
 ディックは俺との戦力差を、精神力だけで埋めやがった。シラヌイを守る、そんな意志を、戦っている間ずっと感じていたんだ。

 ……あいつの言う、愛する心の力ってやつか?
 わからねぇ。なんでそんな物が、俺とディックの差を埋めたんだ?

『ばっはっは! 迷っているようだな、勇者フェイスよ』
「うるせぇ、馬鹿みたいに笑うな。響くんだよ、てめぇの声は」
『そいつはすまなかったな、ばっはっは! しかしフェイス、貴様も悩む事があるのだな。果て無く力を求めるだけの安い男かと思えば、中々可愛い所があるものだ』
「……もう一度ぶちのめされたいのか?」
『ばっはっは! 誉め言葉と受け取るがいい、ただ強いだけの男にワシは力を貸さぬ。強さの中に迷いを持つ男だからこそ、ワシは貴様に従うと決めたのだ』
「……けっ、懐かしくもない思い出話を語り始めたか」

 目を閉じれば思い出す。ドラゴンの領域で、この龍王ディアボロスと戦った時の事を。
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