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89話 束の間の休息。
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<ディック視点>
「改めて、お礼を申し上げます。四天王リージョン。あなたが来てくれなかったら、エルフの国は滅びていたかもしれません」
「礼など要らんさ、こちらこそ、同僚が世話になったようで感謝するぞ」
リージョンとラズリが握手を交わす。僕も彼に礼を言った後、会議室で情報交換に入った。
っと、まだだったな。これからゲストが三人来るから。
「よぅ、遅くなったな」
「どうもぉ、えへへへぇ……」
まずはワイルと、彼の腕に引っ付いているラピスだ。ラピスはとろけた目になっていて、ワイルを逃すつもりは毛頭ないらしい。
そして最後の一人、エルフの国の女王、ミハエル二世がやってくる。
「すまぬな、事後処理が中々進まなくての」
「滅相もございません」
この三人に、僕とシラヌイ、ラズリ、リージョン、そしてシルフィを混ぜた八人での会議だ。ラズリが司会を務め、会議が始まった。
「ではまず、議題を整理していきましょう。我々の置かれた状況ですが、
1、ドラゴンと人間が同盟を組んだ。
2、魔王軍とエルフの国の現状。
3、勇者と龍王への対策。
4、ワイルがエルフの国を助けた理由。
5、幻魔シルフィについて。
この五つに分類されるかと思います。一つずつ、重要度の高い順に処理していきましょう。まずは1、ドラゴンと人間の同盟が想像以上に早く済んでいた件です」
「これに関してはフェイスが教えてくれた、俺がディアボロスを倒したと言っていたからね。つまり人間はフェイスを使者としてドラゴンとの同盟を結んだんだ」
ドラゴンは自身を倒した相手に対し服従する。まさかフェイスがディアボロスを倒すなんて、僅かな可能性が実現するなんてな。
今人間軍はドラゴンの力が使える、地上最強の種族を味方につけた今、手が付けられない強さになっているはずだ。
「これに伴い、魔王軍と人間軍の戦線にも変化が出ていてな。今日正午から、後退していた前線が再び返され始めたんだ。ドラゴンを伴なった隊が現れてな」
リージョンが挙手し、2についても話してくれた。
「出現が報告されたのは五ヶ所、どの戦線も一時大損害を受けたが、ソユーズとメイライトが派遣されたことによりどうにか凌いだ。二人には暫くそちらの対処に動いてもらっているが、手が足りなくてな。俺も一度バルドフへ戻り、そちらの対処へ回らねばならないのだ」
「じゃあ、これ以上あんたの協力は期待出来ないの?」
「残念ながらな。だがシラヌイとディックは変わらずエルフの国の対処を任せたい。魔王様の読みでは、奴らはエルフの国を集中して狙うそうだからな」
「ふむ、確かに妥当な線だな」
ミハエル女王が苦々しく答えた。
「人間軍の目的は魔王領の侵略だ。その妨げとなるエルフとの同盟は何としても防ぎたいだろう。ならば、戦力の薄い我々を集中攻撃して戦力を削ぎ、あわよくばエルフを隷属させて、三軍合同での攻勢に切り替える。合理的な判断だ」
「ようは、私達は嘗められているという事か……!」
「んー、でも仕方ないかも。ドラゴンと手を組まれたら、私達じゃ太刀打ちできないし」
世界樹の巫女姉妹も険しい顔をしている。ディアボロスとフェイスを同時投入してでのエルフ国侵攻だ、状況は相当悪いと言えるな。
「魔王軍から出せる戦力は先程の通り、シラヌイとディックだけだ。こちらも明日以降戦線が激しくなるのが予想できるのでな。だが、二人が居れば戦力としては充分だろう?」
「あんまり買いかぶらないでほしいわね」
確かに、退けたと言っても、ドラゴン達が状況的に都合悪くなったから撤退しただけに過ぎない。肝心の主力戦では敗北寸前だった、シルフィの助けが無ければ負けていただろう。
「3については置いておくとして、4,5について話しましょう。味方というには不確定要素の塊である二人について」
ラズリはワイルと、シルフィに目を向けた。
「俺達かぁ。どっちから話す?」
『まぁ私からでよかろう、手短に話せるからな』
シルフィは僕達の消していた記憶を元に戻し、シラヌイに手を貸す事を改めて伝えた。
そうか、僕とシラヌイが不自然に外に出ていたのは、シルフィの。その時にシラヌイの使い魔となる事を約束したんだな。
『という事で、私は貴様らの側だな。だが大きく力を貸すつもりはない。私はあくまで傍観者、シラヌイに手を貸すだけの備品と思ってくれ』
「…………」
こいつに関しては、あとで色々聞きたい事がある。今話すべき事じゃないから、放っておくか。
「んじゃ、次は俺か。まぁ、結論から話せばドラゴンの領域で仕事をしようとしたら、たまたま鉢合わせちまったのさ。あの勇者が、ディアボロスを倒す場面にな」
ワイルは事細かに話し始めた。その内容を受け、僕らは息をのむ。
「そんでもって話を盗み聞きしている内に、エルフの国に侵攻すると判断した。だが俺がここに駆け込んだところで誰も信じやしねぇだろ? だから俺は、極悪人を演じる事にしたんだ。俺って脅威に全戦力を投入させ、時間を調整すれば、ドラゴン達の奇襲を防げる。そう踏んでな」
「殆どギャンブルじゃないか」
「ラズリの事もあったから迎撃できると思ったんだ。予想外の魔王軍からの援軍もあったしな。ただ、二大戦力の力が想像以上だったんで、ちとやばかったがな。へへ」
「しかし、なぜエルフの国に肩入れをした」
「そりゃ、俺が元巫子だからに決まってんだろ?」
ワイルはしれっと重大な情報を吐いた。
「今、なんと?」
「だぁから、俺は千年前この国で巫子をやっていたんだよ。だからここは故郷、ってわけなのさ」
『……えええ!?』
女王と巫女姉妹が仰天した。僕らも驚き、目を見開いた。
「な、なんと……千年前の、巫子だと? 私が王位継承するよりも前の?」
「おーよ、ワイルって名前は怪盗としての源氏名。本名はジットって言うんだよ」
「ジット……た、確かに、前々任の巫子様の名前と同じ……!?」
「それじゃあ、世界樹に攻撃されなかった理由って……」
「当然、元巫子だからな。世界樹はきちんと覚えているんだよ、な?」
呼応するように世界樹が光り、ワイルはにやりとした。
魔導具の力で世界樹に攻撃されなかったんじゃなく、元巫子だからか。どうりで、ガラハッドの力が大きすぎると思った。最初からガラハッドは関係なかったんだ。
「なんで教えてくれなかったの世界樹ぅ!」
「俺が頼んだのさ、素性を明かしたら俺の計画が台無しになるからよ。千年前の巫子って言っても信じてくれるか怪しかったし、何より怪盗としての美学だ。悪人が良い奴になっちゃだめだろ?」
あのな、教示よりも故郷の安全を優先しろ。
僕とシラヌイは呆れた。変なこだわりのせいで話がこじれたんじゃないか。
「俺としても、離れた故郷が壊されるのを黙って見ていられなかったからな。ごめんよ女王様、ちと迷惑なやり方で対応しちまって」
「……言いたい事は山ほどあるが、とにかく今は礼を言っておこう。エルフ達を守ってくれて感謝する、先々代の巫子よ」
「へへ、どーいたしまして」
……とんだ破天荒巫子が居たもんだ。
ともあれこれで4,5は片付いたか。最後は3か。
フェイスとディアボロスはまたエルフの国を襲ってくるだろう、となれば、僕とシラヌイ、世界樹の巫女がキーマンになる。
残された時間は少ない……シラヌイが強化されたと言っても、開いた戦力差はまだまだ大きい……。
まずはこの戦力差を埋めた上で、ドラゴンと人間を迎撃する作戦を立てる。それもごく短期間でだ。
「そんな事、出来るのかしら……」
「…………」
場の空気が重くなる。状況はかなりきついな。
「おいおい、そんな重い空気になるなよ。別に俺、今日をしのぐためだけにここへ来たんじゃないんだぜ。きちんと次善策も考えてきたのさ」
『それにだ、フェイスに関してもどうにかなるだろう。ディックが欲しかった物が同時に手に入ったのだからな』
ワイルとシルフィが、その空気を破った。
僕らが顔を上げると、ワイルは僕にオベリスクを差し出した。
「重っ……! けど、お前ならっ、使えるっ、だろっ! だー畜生マジ重てぇ! ドラゴンの連中なんでこんなもん作ってんだよっ、ほらっ!」
「あ、ありがとう……!」
ドラゴンは、実はドワーフに次いで武器制作に高い技術を持った種族だ。
というのもドラゴンは刀剣の類いをコレクションするのが好きで、その延長で自らも鍛冶を行うようになったそうだ。
彼らの牙や皮膚、爪は武具の素材として最高級の物だ。龍素材で造られた武器はすさまじい性能を誇り、その様は龍王剣ディアボロスを見ればわかってくれるだろう。
「特にこれは、ディアボロスの兄弟剣……って事は」
「見た感じ、龍王ディアボロスの爪で刀身を作っているな。俺は怪盗ワイル・D・スワンだ、鑑定眼に関しては信じてもらっていいぜ」
『丁度貴様、新たな大剣を探していただろう。貴様の腕に見合ったこの上ない武器ではないか?』
「……恩に着るよ」
嬉しい事に、オベリスクにも背中にくっつくギミックが搭載されている。うん、やっぱり背中に剣があるとしっくりくる。あとで試し斬りをしておかないとな。
『そして、ハヌマーンを覚醒させる。丁度材料がある今ならば、フェイスと同等の力を得られるだろう』
「へぇ、俺のガラハッドが必要なわけか」
そうだった、ハヌマーンに所有者のない魔導具を与える事で、覚醒させることができる。けど……ワイルにとってガラハッドは商売道具だ。
そんな物を、そう簡単に与えてくれるわけがないだろう。
「断る理由もないしいいぜ、ほらよ」
ってそんなに軽く渡してくれるのかよっ!?
ワイルはにこやかにガラハッドを外し、所有者の解除を行って僕に渡してきた。なんのあとくされも無く渡してくれるのはいいんだけど……本当にこいつなんなんだ?
「改めて、お礼を申し上げます。四天王リージョン。あなたが来てくれなかったら、エルフの国は滅びていたかもしれません」
「礼など要らんさ、こちらこそ、同僚が世話になったようで感謝するぞ」
リージョンとラズリが握手を交わす。僕も彼に礼を言った後、会議室で情報交換に入った。
っと、まだだったな。これからゲストが三人来るから。
「よぅ、遅くなったな」
「どうもぉ、えへへへぇ……」
まずはワイルと、彼の腕に引っ付いているラピスだ。ラピスはとろけた目になっていて、ワイルを逃すつもりは毛頭ないらしい。
そして最後の一人、エルフの国の女王、ミハエル二世がやってくる。
「すまぬな、事後処理が中々進まなくての」
「滅相もございません」
この三人に、僕とシラヌイ、ラズリ、リージョン、そしてシルフィを混ぜた八人での会議だ。ラズリが司会を務め、会議が始まった。
「ではまず、議題を整理していきましょう。我々の置かれた状況ですが、
1、ドラゴンと人間が同盟を組んだ。
2、魔王軍とエルフの国の現状。
3、勇者と龍王への対策。
4、ワイルがエルフの国を助けた理由。
5、幻魔シルフィについて。
この五つに分類されるかと思います。一つずつ、重要度の高い順に処理していきましょう。まずは1、ドラゴンと人間の同盟が想像以上に早く済んでいた件です」
「これに関してはフェイスが教えてくれた、俺がディアボロスを倒したと言っていたからね。つまり人間はフェイスを使者としてドラゴンとの同盟を結んだんだ」
ドラゴンは自身を倒した相手に対し服従する。まさかフェイスがディアボロスを倒すなんて、僅かな可能性が実現するなんてな。
今人間軍はドラゴンの力が使える、地上最強の種族を味方につけた今、手が付けられない強さになっているはずだ。
「これに伴い、魔王軍と人間軍の戦線にも変化が出ていてな。今日正午から、後退していた前線が再び返され始めたんだ。ドラゴンを伴なった隊が現れてな」
リージョンが挙手し、2についても話してくれた。
「出現が報告されたのは五ヶ所、どの戦線も一時大損害を受けたが、ソユーズとメイライトが派遣されたことによりどうにか凌いだ。二人には暫くそちらの対処に動いてもらっているが、手が足りなくてな。俺も一度バルドフへ戻り、そちらの対処へ回らねばならないのだ」
「じゃあ、これ以上あんたの協力は期待出来ないの?」
「残念ながらな。だがシラヌイとディックは変わらずエルフの国の対処を任せたい。魔王様の読みでは、奴らはエルフの国を集中して狙うそうだからな」
「ふむ、確かに妥当な線だな」
ミハエル女王が苦々しく答えた。
「人間軍の目的は魔王領の侵略だ。その妨げとなるエルフとの同盟は何としても防ぎたいだろう。ならば、戦力の薄い我々を集中攻撃して戦力を削ぎ、あわよくばエルフを隷属させて、三軍合同での攻勢に切り替える。合理的な判断だ」
「ようは、私達は嘗められているという事か……!」
「んー、でも仕方ないかも。ドラゴンと手を組まれたら、私達じゃ太刀打ちできないし」
世界樹の巫女姉妹も険しい顔をしている。ディアボロスとフェイスを同時投入してでのエルフ国侵攻だ、状況は相当悪いと言えるな。
「魔王軍から出せる戦力は先程の通り、シラヌイとディックだけだ。こちらも明日以降戦線が激しくなるのが予想できるのでな。だが、二人が居れば戦力としては充分だろう?」
「あんまり買いかぶらないでほしいわね」
確かに、退けたと言っても、ドラゴン達が状況的に都合悪くなったから撤退しただけに過ぎない。肝心の主力戦では敗北寸前だった、シルフィの助けが無ければ負けていただろう。
「3については置いておくとして、4,5について話しましょう。味方というには不確定要素の塊である二人について」
ラズリはワイルと、シルフィに目を向けた。
「俺達かぁ。どっちから話す?」
『まぁ私からでよかろう、手短に話せるからな』
シルフィは僕達の消していた記憶を元に戻し、シラヌイに手を貸す事を改めて伝えた。
そうか、僕とシラヌイが不自然に外に出ていたのは、シルフィの。その時にシラヌイの使い魔となる事を約束したんだな。
『という事で、私は貴様らの側だな。だが大きく力を貸すつもりはない。私はあくまで傍観者、シラヌイに手を貸すだけの備品と思ってくれ』
「…………」
こいつに関しては、あとで色々聞きたい事がある。今話すべき事じゃないから、放っておくか。
「んじゃ、次は俺か。まぁ、結論から話せばドラゴンの領域で仕事をしようとしたら、たまたま鉢合わせちまったのさ。あの勇者が、ディアボロスを倒す場面にな」
ワイルは事細かに話し始めた。その内容を受け、僕らは息をのむ。
「そんでもって話を盗み聞きしている内に、エルフの国に侵攻すると判断した。だが俺がここに駆け込んだところで誰も信じやしねぇだろ? だから俺は、極悪人を演じる事にしたんだ。俺って脅威に全戦力を投入させ、時間を調整すれば、ドラゴン達の奇襲を防げる。そう踏んでな」
「殆どギャンブルじゃないか」
「ラズリの事もあったから迎撃できると思ったんだ。予想外の魔王軍からの援軍もあったしな。ただ、二大戦力の力が想像以上だったんで、ちとやばかったがな。へへ」
「しかし、なぜエルフの国に肩入れをした」
「そりゃ、俺が元巫子だからに決まってんだろ?」
ワイルはしれっと重大な情報を吐いた。
「今、なんと?」
「だぁから、俺は千年前この国で巫子をやっていたんだよ。だからここは故郷、ってわけなのさ」
『……えええ!?』
女王と巫女姉妹が仰天した。僕らも驚き、目を見開いた。
「な、なんと……千年前の、巫子だと? 私が王位継承するよりも前の?」
「おーよ、ワイルって名前は怪盗としての源氏名。本名はジットって言うんだよ」
「ジット……た、確かに、前々任の巫子様の名前と同じ……!?」
「それじゃあ、世界樹に攻撃されなかった理由って……」
「当然、元巫子だからな。世界樹はきちんと覚えているんだよ、な?」
呼応するように世界樹が光り、ワイルはにやりとした。
魔導具の力で世界樹に攻撃されなかったんじゃなく、元巫子だからか。どうりで、ガラハッドの力が大きすぎると思った。最初からガラハッドは関係なかったんだ。
「なんで教えてくれなかったの世界樹ぅ!」
「俺が頼んだのさ、素性を明かしたら俺の計画が台無しになるからよ。千年前の巫子って言っても信じてくれるか怪しかったし、何より怪盗としての美学だ。悪人が良い奴になっちゃだめだろ?」
あのな、教示よりも故郷の安全を優先しろ。
僕とシラヌイは呆れた。変なこだわりのせいで話がこじれたんじゃないか。
「俺としても、離れた故郷が壊されるのを黙って見ていられなかったからな。ごめんよ女王様、ちと迷惑なやり方で対応しちまって」
「……言いたい事は山ほどあるが、とにかく今は礼を言っておこう。エルフ達を守ってくれて感謝する、先々代の巫子よ」
「へへ、どーいたしまして」
……とんだ破天荒巫子が居たもんだ。
ともあれこれで4,5は片付いたか。最後は3か。
フェイスとディアボロスはまたエルフの国を襲ってくるだろう、となれば、僕とシラヌイ、世界樹の巫女がキーマンになる。
残された時間は少ない……シラヌイが強化されたと言っても、開いた戦力差はまだまだ大きい……。
まずはこの戦力差を埋めた上で、ドラゴンと人間を迎撃する作戦を立てる。それもごく短期間でだ。
「そんな事、出来るのかしら……」
「…………」
場の空気が重くなる。状況はかなりきついな。
「おいおい、そんな重い空気になるなよ。別に俺、今日をしのぐためだけにここへ来たんじゃないんだぜ。きちんと次善策も考えてきたのさ」
『それにだ、フェイスに関してもどうにかなるだろう。ディックが欲しかった物が同時に手に入ったのだからな』
ワイルとシルフィが、その空気を破った。
僕らが顔を上げると、ワイルは僕にオベリスクを差し出した。
「重っ……! けど、お前ならっ、使えるっ、だろっ! だー畜生マジ重てぇ! ドラゴンの連中なんでこんなもん作ってんだよっ、ほらっ!」
「あ、ありがとう……!」
ドラゴンは、実はドワーフに次いで武器制作に高い技術を持った種族だ。
というのもドラゴンは刀剣の類いをコレクションするのが好きで、その延長で自らも鍛冶を行うようになったそうだ。
彼らの牙や皮膚、爪は武具の素材として最高級の物だ。龍素材で造られた武器はすさまじい性能を誇り、その様は龍王剣ディアボロスを見ればわかってくれるだろう。
「特にこれは、ディアボロスの兄弟剣……って事は」
「見た感じ、龍王ディアボロスの爪で刀身を作っているな。俺は怪盗ワイル・D・スワンだ、鑑定眼に関しては信じてもらっていいぜ」
『丁度貴様、新たな大剣を探していただろう。貴様の腕に見合ったこの上ない武器ではないか?』
「……恩に着るよ」
嬉しい事に、オベリスクにも背中にくっつくギミックが搭載されている。うん、やっぱり背中に剣があるとしっくりくる。あとで試し斬りをしておかないとな。
『そして、ハヌマーンを覚醒させる。丁度材料がある今ならば、フェイスと同等の力を得られるだろう』
「へぇ、俺のガラハッドが必要なわけか」
そうだった、ハヌマーンに所有者のない魔導具を与える事で、覚醒させることができる。けど……ワイルにとってガラハッドは商売道具だ。
そんな物を、そう簡単に与えてくれるわけがないだろう。
「断る理由もないしいいぜ、ほらよ」
ってそんなに軽く渡してくれるのかよっ!?
ワイルはにこやかにガラハッドを外し、所有者の解除を行って僕に渡してきた。なんのあとくされも無く渡してくれるのはいいんだけど……本当にこいつなんなんだ?
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