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72話 凄腕剣士の悩み
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「んで、何してんのあんた」
「剣の供養」
私はディックに付き添って森の中にやってきていた。
ディックは適当な木を見つけると、そこに折れた剣を突き立てて土を盛り、簡単な墓を作っていた。
模擬戦が終わった後、一旦仕事から離れた私達は、少しだけ自由時間を過ごしている。その間に折れた大剣の供養に来ているというわけだ。
……そんなに気に入っていたのね、その大剣。
「シンプルで使いやすい武器だったからね、刀が使えない間も助けられたし、フェイスとの戦いでも力になってくれた。それだけに壊れたのは悲しいんだよ」
「そっか。そんじゃ、私も祈っておきましょうかね。ディックを守ってくれてありがとう」
何はともあれ、ディックを守ってくれた事に変わりない。なら私も感謝してあげないとな。
森から世界樹に戻り、一息つく。改めて街を見ていると、これまで向かったどの地域よりも、エルフの国は変わっているように感じた。
木の根を掘って造った住居は、木漏れ日が降り注いで、なんだか神秘的だ。なんだか心が洗われるみたい。
ディックが歩いていても、エルフ達は特に気にする様子はない。人間を嫌ってはいるみたいだけど、表に出す程大人げない種族じゃないみたいね。ちょっとだけ安心したわ。
「剣が無くなったのは残念だけど、気持ちを切り替えなくちゃな。新しい剣を探さないと」
「でもそう簡単に見つかるの? 前にも言ったけど、あんたの腕前に見合った剣となると相当限られるわよ」
「探してみないとわからないさ」
って事で、エルフの国の散策を行う事にした。
エルフはドワーフと違って鍛冶が得意というわけではない。だけど代わりに魔力を宿した剣、魔剣の製造に関しては一日の長があった。
魔剣は普通の剣と違い、耐久力や威力に欠ける反面、特殊な能力を持った武器だ。所有するだけで魔法が使えるようになったり、攻撃を与えた相手に状態異常を与えたり、様々な追加効果を持っているのだ。
前まで持っていた大剣は正直、刀の下位互換みたいな物だったもの。サブウエポンや戦い方の幅を広げるなら、そうした特殊武器の方がいいかもしれないわね。
行く先の武器屋に置いてある剣はどれも刀身に魔力がまとわりつき、不思議な光を放っている。ディックは何本も手にとっては使い心地を確かめているけど、しっくりくる物は中々ないみたい。
「やっぱ無理?」
「魔剣だからか、どうも勝手が違うみたいなんだ。軽すぎてバランスが取りづらいし、手に馴染まない」
ディック曰く、もう一本の剣は重くて威力のある物がいいそうなの。エルフは基本非力な種族だから、それに合わせた武器となると軽くて使いやすさを重視した物しかないみたいね。
「剣士って面倒ねぇ、自分に合った剣を探すのがこんなに大変だなんて」
「自分の手足の一部みたいなものだからね、だからどうしても感覚的な物がついて回ってしまうんだよ。ほんのわずかな違和感が生死に関わるからさ」
……そう言えるって事は、ディックが相当な使い手に育った証、って所かしら。
達人になればなる程、得物の感覚が大事になるって聞いた事がある。今までディックはそんな事を言わなかったのに、ここ最近は随分気にするようになっていた。
やっぱりフェイスを倒してから一皮むけたみたい。男は自信をつけると強くなるみたいだけど、ディックの場合はそれが塔著みたいね。
「ま、気長に探しましょう。いつか必ず見つかるわよ、あんたに見合った剣がさ」
「そうだね。じゃ、城に戻ろうか。ついでに果物でも食べようか?」
「賛成」
エルフは菜食主義で、野菜や果物の育成には拘っている。店を見ると、確かに美味しそうなのが並んでいるわね。
「そんじゃ、アップルマンゴーってのを食べてみますかね」
私は果物にうるさいわよ、しっかり厳しく評価してやるから覚悟しなさい。
って事でアップルマンゴーを食べようとしたらだ。
『ふははっ、いただき!』
急に目の前を青っぽい影が通り過ぎて、私の果物を盗んでしまった。
「ちょっと誰よ! 私の果物返しなさい!」
『ほーう? これが貴様の物だという証拠はどこにあるのかな?』
そう言って私を煽るのは、奇妙な鳥だった。
青白い羽を持った、クジャクのような尾羽を持った鳥だ。足で器用に果物を掴み、見せびらかすように振っている。
『私が持っているのならこの果物は私の物だ。証拠もないのに盗人扱いされるのはたまったものではないな、はっはっは!』
「あ、こら待てー!」
鳥に盗まれっぱなしで引き下がれるか、それじゃ四天王の名が泣いちゃう。
「ちょっとシラヌイ、果物ならまた買ってあげるから、って聞いてないか」
ディックが呆れたように追いかけてくる。そういう問題じゃないの、私のプライドに関わる案件なの!
だからとっとと捕まりなさいこの盗人鳥!
◇◇◇
<ディック視点>
「全く、どこに行ったんだシラヌイ」
シラヌイを見失ってしまった。
果物を盗んだ鳥はエルフ城で姿を消し、シラヌイは必死になって追いかけていた。気配察知で探ると、どうも城の中で追いかけっこを続けているらしい。
「変なところで意地っ張りというか、子供っぽいからな。ほどほどの所で止めとかないと」
ああなったら僕でも止められない。城の中ではしゃいで、大丈夫なのか?
にしても、あの鳥はなんだったんだろう。見た事が無い鳥だったな。
それに、街の人の様子もおかしかった。シラヌイは派手に喚いていたのに、誰一人として鳥に気付いていなかった。まるでそこに、何も存在していないかのようなふるまい方だった。
でも、僕とシラヌイは見えていた。
「……なんだろうな、あれは」
考えても、分からない物は分からないか。
「おや、こんな所で立ち止まって。どうされましたか?」
不意に声をかけられ、僕は振り向いた。
だけどそこには誰もいない。視線を下に向けると、そこには小柄なエルフが居た。
男だろうか。中性的な容姿をしていて、文官の制服を着ている。腕にたくさんの書類を抱え込んでいて、ちらりと見えた内容からして。
「外務大臣、ですか?」
「あ、はい。僕はワード、エルフの国の外務大臣を務めています。貴方は四天王シラヌイの副官、ディックですよね。先の戦い、非常にお見事でした」
ワードはにこやかに言ってくれた。外交官にしては、随分幼い姿をしているな。少し頼りなさを感じるよ。
「まさかラズリ様を倒してしまわれるなんて、驚きましたよ。貴方は人間でも別格の実力を持った人みたいですね」
「いや、運が良かっただけです」
「運も実力の内と言いますし、ご謙遜なさらないでください」
なんかぐいぐい来るな、なんだろう、この外務大臣。
「協定はいかがですか?」
「順調に進んでいますよ。この調子なら一週間ほどですり合わせが終わるかと思います」
「一週間か……」
その間はエルフの国に滞在するって事になるな。折角エルフの国に来たんだ、見れるところは隅々まで見ておこうかな。
「そうだ、この後時間を頂けませんか? 個人的に貴方に興味がありまして、ぜひお話を伺いたいのです」
「僕で良ければ、はい」
「ありがとうございます!」
ワードは満面の笑顔で頷いた。
「剣の供養」
私はディックに付き添って森の中にやってきていた。
ディックは適当な木を見つけると、そこに折れた剣を突き立てて土を盛り、簡単な墓を作っていた。
模擬戦が終わった後、一旦仕事から離れた私達は、少しだけ自由時間を過ごしている。その間に折れた大剣の供養に来ているというわけだ。
……そんなに気に入っていたのね、その大剣。
「シンプルで使いやすい武器だったからね、刀が使えない間も助けられたし、フェイスとの戦いでも力になってくれた。それだけに壊れたのは悲しいんだよ」
「そっか。そんじゃ、私も祈っておきましょうかね。ディックを守ってくれてありがとう」
何はともあれ、ディックを守ってくれた事に変わりない。なら私も感謝してあげないとな。
森から世界樹に戻り、一息つく。改めて街を見ていると、これまで向かったどの地域よりも、エルフの国は変わっているように感じた。
木の根を掘って造った住居は、木漏れ日が降り注いで、なんだか神秘的だ。なんだか心が洗われるみたい。
ディックが歩いていても、エルフ達は特に気にする様子はない。人間を嫌ってはいるみたいだけど、表に出す程大人げない種族じゃないみたいね。ちょっとだけ安心したわ。
「剣が無くなったのは残念だけど、気持ちを切り替えなくちゃな。新しい剣を探さないと」
「でもそう簡単に見つかるの? 前にも言ったけど、あんたの腕前に見合った剣となると相当限られるわよ」
「探してみないとわからないさ」
って事で、エルフの国の散策を行う事にした。
エルフはドワーフと違って鍛冶が得意というわけではない。だけど代わりに魔力を宿した剣、魔剣の製造に関しては一日の長があった。
魔剣は普通の剣と違い、耐久力や威力に欠ける反面、特殊な能力を持った武器だ。所有するだけで魔法が使えるようになったり、攻撃を与えた相手に状態異常を与えたり、様々な追加効果を持っているのだ。
前まで持っていた大剣は正直、刀の下位互換みたいな物だったもの。サブウエポンや戦い方の幅を広げるなら、そうした特殊武器の方がいいかもしれないわね。
行く先の武器屋に置いてある剣はどれも刀身に魔力がまとわりつき、不思議な光を放っている。ディックは何本も手にとっては使い心地を確かめているけど、しっくりくる物は中々ないみたい。
「やっぱ無理?」
「魔剣だからか、どうも勝手が違うみたいなんだ。軽すぎてバランスが取りづらいし、手に馴染まない」
ディック曰く、もう一本の剣は重くて威力のある物がいいそうなの。エルフは基本非力な種族だから、それに合わせた武器となると軽くて使いやすさを重視した物しかないみたいね。
「剣士って面倒ねぇ、自分に合った剣を探すのがこんなに大変だなんて」
「自分の手足の一部みたいなものだからね、だからどうしても感覚的な物がついて回ってしまうんだよ。ほんのわずかな違和感が生死に関わるからさ」
……そう言えるって事は、ディックが相当な使い手に育った証、って所かしら。
達人になればなる程、得物の感覚が大事になるって聞いた事がある。今までディックはそんな事を言わなかったのに、ここ最近は随分気にするようになっていた。
やっぱりフェイスを倒してから一皮むけたみたい。男は自信をつけると強くなるみたいだけど、ディックの場合はそれが塔著みたいね。
「ま、気長に探しましょう。いつか必ず見つかるわよ、あんたに見合った剣がさ」
「そうだね。じゃ、城に戻ろうか。ついでに果物でも食べようか?」
「賛成」
エルフは菜食主義で、野菜や果物の育成には拘っている。店を見ると、確かに美味しそうなのが並んでいるわね。
「そんじゃ、アップルマンゴーってのを食べてみますかね」
私は果物にうるさいわよ、しっかり厳しく評価してやるから覚悟しなさい。
って事でアップルマンゴーを食べようとしたらだ。
『ふははっ、いただき!』
急に目の前を青っぽい影が通り過ぎて、私の果物を盗んでしまった。
「ちょっと誰よ! 私の果物返しなさい!」
『ほーう? これが貴様の物だという証拠はどこにあるのかな?』
そう言って私を煽るのは、奇妙な鳥だった。
青白い羽を持った、クジャクのような尾羽を持った鳥だ。足で器用に果物を掴み、見せびらかすように振っている。
『私が持っているのならこの果物は私の物だ。証拠もないのに盗人扱いされるのはたまったものではないな、はっはっは!』
「あ、こら待てー!」
鳥に盗まれっぱなしで引き下がれるか、それじゃ四天王の名が泣いちゃう。
「ちょっとシラヌイ、果物ならまた買ってあげるから、って聞いてないか」
ディックが呆れたように追いかけてくる。そういう問題じゃないの、私のプライドに関わる案件なの!
だからとっとと捕まりなさいこの盗人鳥!
◇◇◇
<ディック視点>
「全く、どこに行ったんだシラヌイ」
シラヌイを見失ってしまった。
果物を盗んだ鳥はエルフ城で姿を消し、シラヌイは必死になって追いかけていた。気配察知で探ると、どうも城の中で追いかけっこを続けているらしい。
「変なところで意地っ張りというか、子供っぽいからな。ほどほどの所で止めとかないと」
ああなったら僕でも止められない。城の中ではしゃいで、大丈夫なのか?
にしても、あの鳥はなんだったんだろう。見た事が無い鳥だったな。
それに、街の人の様子もおかしかった。シラヌイは派手に喚いていたのに、誰一人として鳥に気付いていなかった。まるでそこに、何も存在していないかのようなふるまい方だった。
でも、僕とシラヌイは見えていた。
「……なんだろうな、あれは」
考えても、分からない物は分からないか。
「おや、こんな所で立ち止まって。どうされましたか?」
不意に声をかけられ、僕は振り向いた。
だけどそこには誰もいない。視線を下に向けると、そこには小柄なエルフが居た。
男だろうか。中性的な容姿をしていて、文官の制服を着ている。腕にたくさんの書類を抱え込んでいて、ちらりと見えた内容からして。
「外務大臣、ですか?」
「あ、はい。僕はワード、エルフの国の外務大臣を務めています。貴方は四天王シラヌイの副官、ディックですよね。先の戦い、非常にお見事でした」
ワードはにこやかに言ってくれた。外交官にしては、随分幼い姿をしているな。少し頼りなさを感じるよ。
「まさかラズリ様を倒してしまわれるなんて、驚きましたよ。貴方は人間でも別格の実力を持った人みたいですね」
「いや、運が良かっただけです」
「運も実力の内と言いますし、ご謙遜なさらないでください」
なんかぐいぐい来るな、なんだろう、この外務大臣。
「協定はいかがですか?」
「順調に進んでいますよ。この調子なら一週間ほどですり合わせが終わるかと思います」
「一週間か……」
その間はエルフの国に滞在するって事になるな。折角エルフの国に来たんだ、見れるところは隅々まで見ておこうかな。
「そうだ、この後時間を頂けませんか? 個人的に貴方に興味がありまして、ぜひお話を伺いたいのです」
「僕で良ければ、はい」
「ありがとうございます!」
ワードは満面の笑顔で頷いた。
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