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71話 人外の戦い
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「それじゃ、結界をはりまーす」
世界樹の巫女、ラピスがはしゃぎながらバルコニー席に出た。
僕達は世界樹の裏手に造られた闘技場に連れてこられている。エルフ軍の訓練場も兼ねていて、ミハエル女王がバルコニー席から僕らを見下ろしていた。
にしても、同じ巫女なのに随分違うな。
世界樹の巫女は大抵、一人しか生まれない。だけどこの二人は双子として生まれてきたそうだ。
エルフの国の歴史でも類を見ない事例らしい。しかも二人そろって世界樹の加護を受けられるそうで、今がこの国の最盛期だとの事だ。
「世界樹さーん、結界をはってくださいなー。祈りっ!」
ラピスが手を握り合わせるなり、彼女の体がぼんやりと輝く。同時に僕とラズリにも、世界樹の光が浮かんだ。
「はいこれで大丈夫。どんなに暴れても世界樹さんも街の人たちにも、姉様達にも怪我はなくなるよ。思い切り戦っても死なないから、二人とも頑張ってね!」
さり気なく物騒な事を言ったなこの子。ようは死ぬ気で戦えって事か。
「私ね、ラズリが戦う姿が大好きなんだ。とくに血がぶしゃーって出てくる瞬間とか、素プラッタで綺麗でうっとりしちゃうよね。でも模擬戦だとそれやっちゃいけないから残念。でもでも試合を見るの大好きだから別にいいんだー」
……別口のバトルジャンキーかよこの巫女。人が戦う姿を見て楽しむって、殺伐としてんなおい。
一方のラズリはと言うと、脈を測るように左の手首を握り、目を閉じている。あれが精神統一のルーティンなのかもな。
さて、と。僕も心の準備をしておくか。
母さんの刀を握り、刀身を見る。母さんから受け取った紫のオーラが、僕に勇気を与えてくれる。
それに、シラヌイの前だ。格好悪い姿は見せたくない。相手は一国を亡ぼす力を持った、最強のエルフだ。持ちうるすべての力を使って、絶対に勝つ。
……思えば、全力戦闘はフェイス戦以来か。
あれから僕は、強くなった。それがどれほどの物か試すのに、丁度いい機会だな。
「無様に負ける覚悟はいいな人間。言っておくが、私は人間が嫌いだ。私達を執拗に狙い、挙句の果ては数万もの兵を率いて襲ってきた。そんな奴に好意的な感情を持つことはできない」
「胸中、お察しします」
「自分には関係ないと言った顔か。いや、まぁ確かにお前に言っても仕方は無いのだけど……と言うかもうそれ二百年前の話だから、お前にぶつけるのはお門違いというか何と言うか……それに勇者を倒すって事は人間の敵だから、むしろ悪感情を向けるのは筋が違うか?」
「ん?」
「そうだよな、人間にもいい奴がいれば悪い奴も居る。人間嫌いだからってお前一人に怒りをぶつけるのは違うな、うん。後で謝っておくから、さっきの発言は忘れろ。うん」
あれ? ものすごい勢いでメッキが剥がれてないか?
ちょっとにじみ出た良い子オーラに毒気が抜かれた。案外シリアスが苦手なエルフなのかもしれない。
けど、それはそれ、勝負は勝負だ。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ胸を貸そう。姉様、合図を」
「はーい。じゃあコインを投げるから、落ちたらスタートね。それーっ!」
バルコニーからコインが落ちてくる。刀に手を触れると同時に、小さな音がした。
「しっ!」
瞬間、ラズリが剛腕を突き出した。
反射的に身をよじるなり、鼻先を衝撃波がかすめる。衝撃は減衰する事無く直進し、木々を思い切り傾がせ、遥か遠方にある山の中腹を抉り取った。
驚く間もなく、ラズリが襲ってくる。ほんの一瞬で距離を詰め、嵐のような連撃を繰り出してきた。
彼女が拳を振るい、足を踏みだす度、地震や暴風が起こる。まともに食らえば最後、体が消滅するだろう。一撃必殺の攻撃を、ラズリは息も切らさず連発していた。
まるで災害だ。もしここに人が居れば、爆風や衝撃波で秒も持たず消え去っている。
いったん距離を取るべくバックステップするも、引き離せない。この狭い場所じゃ戦いにくいな。
なら、場所を変えるか。
「煌力、僕を助けてくれ」
足首から先に煌力を纏う。全身を覆えば反動は大きいけど、部分的に使えば抑えられる。ケイのメモにあった技術だ。
あとは、引力を発生させれば……幹を走れる!
ラズリの拳を避けると同時に幹へ飛びつく。足がぴったりとくっつき、僕は世界樹の幹に立っていた。
「なん、だと? そんな事が出来るのか」
ラズリは驚きながらも幹を駆け上がり、僕に肉薄する。ちょっとだけ、新しい魔法でも使ってみるか。
「煌刃剣」
煌力で剣を形成し、射出する。煌力を手に入れてから習得した遠距離攻撃だ。
ラズリはそれを拳で粉砕して防御するけど、正面だけに気を向けてたら危ないよ。
彼女の周囲に剣を生み出し、時間差で撃ち出す。場所を問わず生成できるのがこの魔法の強み……なんだけど、全部回避している。凄い反射神経だ。
舞台が世界樹の幹に変わっても、ラズリの攻勢は変わらない。にしてもすさまじいパワーとスピードだ。世界樹がぐらぐら揺れるほどの破壊力、ラピスが結界を張っていなければ、きっとへし折れている事だろう。実際山を壊したしな。
たった一人で一国を相手取る、エルフ軍の最高戦力。噂以上の力だ。
「だけど、なんだろうな」
手合わせしてふと思う。想像よりも、戦いやすい。
多分、前の僕なら気配察知の先読みをしても、追いつけずに拳が当たっていただろう。だけど今の僕は、当たる気がしない。ゾーンに入っていなくても、このエルフについてこれる。
フェイスを倒して得た自信は、僕を想像以上に強くしてくれたみたいだ。
……様子見はここまでにしよう、そろそろ入るか!
「ゾーン……強制突破!」
一気に集中力を最大まで引き上げる。瞬間、ラズリの手が止まった。
頭の中が軽くなり、体に力が漲るような感覚。自分がどこを狙うべきか、導く光が見える。
「なんだこの男……空気が変わった?」
ラズリが警戒して、攻撃の手を緩めた。そんな事をしていいのかな?
今度は僕から接近して居合切りを振るう。ラズリの顔色が変わって、大きく後退した。斬撃は威力を減衰せずに飛んで、遠くの山を切り裂いた。真っ二つになった山が崩れていく。
ラズリが驚く間に、距離を詰めて斬撃を繰り出し、一転して彼女を追い詰めた。
「まさかお前、ゾーンに!? 私ですら到達していない境地に、立っているだと!?」
ラズリも反撃に出た。拳と刀が何度も交差し、ぶつかり合って火花が散った。
くそ、素手で刀を殴って平気とか……どんな体しているんだ。
互いの攻撃で弾きあい、大きく距離が空く。ラズリは幹から落ちるけど、なんと空を蹴って空を飛んでいた。
「そんなのありかよ」
身体能力高いで済まないぞ、脚力凄すぎるだろ。
……煌力を纏った足なら、空飛べるかな。
引力から斥力に切り替えて、試しに飛んでみる。そしたら出来た、僕も空を蹴って飛んでいる。
「お前、本当に人間か? 魔術を使っているわけでもない、どんな体をしている」
「そっくりそのまま、全部返させてもらうよ」
第三ラウンド、空中戦に入る。互いに空を蹴り、拳と刀で互いを崩す一手を探った。
「なら、双剣に切り替えるか」
リズムを変えるべく、大剣を握る。突然のスタイルチェンジに反応が遅れて、ラズリが出遅れた。
よし、先制打が入る! そう思い、大剣を彼女の肩に当てた時。
「ふん!」
ラズリは肩をかちあげて剣を弾き飛ばす。そしてその拍子に、刃が折れた。
今度は僕が驚く番だった。その隙にラズリは体勢を立て直してしまう。
「ライトニングボルト!」
とうとうラズリが魔法を使い始めた。襲ってきた紫電を咄嗟に刀でぶった切るも、衝撃で腕がしびれた。
初級の雷魔法なのに、まるで上級魔法のような威力だ。シラヌイ同様、魔法を限界まで研磨しているんだな。
「世界樹よ……力を!」
ラズリが祈るなり、世界樹が光って、彼女に力を与える。威圧感がより強くなった。
魔法と格闘を交え、翻弄し、僕を潰そうと迫ってくる。範囲も威力も絶大で、多種多様。緩急をつけた変幻自在の戦闘術だ。
いよいよラズリが本気を出してきたな。彼女が暴れるたびに未曽有の大災害が起きて、森に住む動物や昆虫達が一斉に逃げ出した。
同時に、彼女が起こす暴風により上昇気流が発生して、空に巨大な雨雲まででき始めている。地震も全く止まらない。
やがて嵐が起こり、エルフの国に暴風雨が吹き荒れた。大地が抉れ、大気が揺れ、山がいくつも崩れていく。
間違いない、本気のラズリだ。ステゴロで天変地異を起こす、生きる大災害。エルフ軍最高戦力の真の力か。
……この力、いったいどれほどの努力を重ねたんだろう。同じ武の道を歩く者として尊敬してしまう。
本気を出してくれた彼女に敬意を示さなければ。奥の手を、煌力を最大で使う!
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
煌力をとりこみ、全身に浸透させる。曲線模様が浮かび上がって、全身の感覚が一段鋭くなる。スパークがほとばしり、視界に緑のスクリーンがかかる。
煌力モード、発動。今の僕が出せる、最大最高の力だ。
「それが、お前の真の力か」
「……貴方ほどの戦士への、敬意の証だ」
「……そうか、ならば私も敬意を払おう! そして認めよう、貴公は素晴らしい剣士だ!」
「ありがとう、嬉しいよ!」
僕とラズリがぶつかり合う。彼女の振りかざした拳をぎりぎりで避け、胴に一太刀を浴びせる。
その一撃が、勝敗を決していた。
「……私の負けだな。実戦ならば、体が真っ二つになっていた。貴公の勝利だ」
「……手合わせ、ありがとうございました」
勝った、エルフ軍最高戦力に、僕は勝ったんだ。
そう思うなり、力が抜けそうになる。急いで戻らないと、煌力モードが解けて落ちてしまうな。
闘技場に戻るなり、煌力モードが解ける。今の所、三分維持するのが限界って所か。けど使った後に気絶していない、充分な進歩だ。
「ラズリが負けた、だと? なんと……信じられぬ。夢ではあるまいな?」
「ふわぁ……凄い物見ちゃったぁ……」
ミハエル女王とラピスは勿論、見学していたエルフ兵たちも動揺している。目の前で最高戦力が負けたんだ、当然の反応だよな。
けど僕も紙一重だった。最後の瞬間、もし拳が当たっていたら、負けていたのは僕だった。
彼女は強い、それも理屈をこねた強さじゃない。
基礎能力が段違いなんだ。パワー・スピード・ディフェンス……その全てが異次元の領域に達している、シンプルでわかりやすい強さだ。
「ラズリ、貴方の実力、素晴らしかった」
「こちらこそ、得難い経験をさせてもらったよ。人間は嫌いだが、剣士ディック、貴公だけは認めさせてもらおう」
僕達は固い握手を交わした。握った瞬間、彼女の手に肉刺ができているのが分かった。
……きっと何百年もの間、絶やさず努力をしてきたんだろう。その末の力だ。
「勇者フェイスを倒すか、成程……決して嘘ではなさそうだな。魔王軍は優秀な戦力を手に入れたようだ」
「お褒めに預かり光栄です」
なぜかシラヌイがドヤ顔で答えた。僕が勝ったのがよほどうれしかったみたいだ。
なんにせよ、エルフ軍最高戦力との試合は、最高の結果で終われたな。けど……。
「ごめんソユーズ、君の剣、壊してしまったよ」
大剣が折れてしまったのは、ちょっとショックだな。
世界樹の巫女、ラピスがはしゃぎながらバルコニー席に出た。
僕達は世界樹の裏手に造られた闘技場に連れてこられている。エルフ軍の訓練場も兼ねていて、ミハエル女王がバルコニー席から僕らを見下ろしていた。
にしても、同じ巫女なのに随分違うな。
世界樹の巫女は大抵、一人しか生まれない。だけどこの二人は双子として生まれてきたそうだ。
エルフの国の歴史でも類を見ない事例らしい。しかも二人そろって世界樹の加護を受けられるそうで、今がこの国の最盛期だとの事だ。
「世界樹さーん、結界をはってくださいなー。祈りっ!」
ラピスが手を握り合わせるなり、彼女の体がぼんやりと輝く。同時に僕とラズリにも、世界樹の光が浮かんだ。
「はいこれで大丈夫。どんなに暴れても世界樹さんも街の人たちにも、姉様達にも怪我はなくなるよ。思い切り戦っても死なないから、二人とも頑張ってね!」
さり気なく物騒な事を言ったなこの子。ようは死ぬ気で戦えって事か。
「私ね、ラズリが戦う姿が大好きなんだ。とくに血がぶしゃーって出てくる瞬間とか、素プラッタで綺麗でうっとりしちゃうよね。でも模擬戦だとそれやっちゃいけないから残念。でもでも試合を見るの大好きだから別にいいんだー」
……別口のバトルジャンキーかよこの巫女。人が戦う姿を見て楽しむって、殺伐としてんなおい。
一方のラズリはと言うと、脈を測るように左の手首を握り、目を閉じている。あれが精神統一のルーティンなのかもな。
さて、と。僕も心の準備をしておくか。
母さんの刀を握り、刀身を見る。母さんから受け取った紫のオーラが、僕に勇気を与えてくれる。
それに、シラヌイの前だ。格好悪い姿は見せたくない。相手は一国を亡ぼす力を持った、最強のエルフだ。持ちうるすべての力を使って、絶対に勝つ。
……思えば、全力戦闘はフェイス戦以来か。
あれから僕は、強くなった。それがどれほどの物か試すのに、丁度いい機会だな。
「無様に負ける覚悟はいいな人間。言っておくが、私は人間が嫌いだ。私達を執拗に狙い、挙句の果ては数万もの兵を率いて襲ってきた。そんな奴に好意的な感情を持つことはできない」
「胸中、お察しします」
「自分には関係ないと言った顔か。いや、まぁ確かにお前に言っても仕方は無いのだけど……と言うかもうそれ二百年前の話だから、お前にぶつけるのはお門違いというか何と言うか……それに勇者を倒すって事は人間の敵だから、むしろ悪感情を向けるのは筋が違うか?」
「ん?」
「そうだよな、人間にもいい奴がいれば悪い奴も居る。人間嫌いだからってお前一人に怒りをぶつけるのは違うな、うん。後で謝っておくから、さっきの発言は忘れろ。うん」
あれ? ものすごい勢いでメッキが剥がれてないか?
ちょっとにじみ出た良い子オーラに毒気が抜かれた。案外シリアスが苦手なエルフなのかもしれない。
けど、それはそれ、勝負は勝負だ。
「よろしくお願いします」
「こちらこそ胸を貸そう。姉様、合図を」
「はーい。じゃあコインを投げるから、落ちたらスタートね。それーっ!」
バルコニーからコインが落ちてくる。刀に手を触れると同時に、小さな音がした。
「しっ!」
瞬間、ラズリが剛腕を突き出した。
反射的に身をよじるなり、鼻先を衝撃波がかすめる。衝撃は減衰する事無く直進し、木々を思い切り傾がせ、遥か遠方にある山の中腹を抉り取った。
驚く間もなく、ラズリが襲ってくる。ほんの一瞬で距離を詰め、嵐のような連撃を繰り出してきた。
彼女が拳を振るい、足を踏みだす度、地震や暴風が起こる。まともに食らえば最後、体が消滅するだろう。一撃必殺の攻撃を、ラズリは息も切らさず連発していた。
まるで災害だ。もしここに人が居れば、爆風や衝撃波で秒も持たず消え去っている。
いったん距離を取るべくバックステップするも、引き離せない。この狭い場所じゃ戦いにくいな。
なら、場所を変えるか。
「煌力、僕を助けてくれ」
足首から先に煌力を纏う。全身を覆えば反動は大きいけど、部分的に使えば抑えられる。ケイのメモにあった技術だ。
あとは、引力を発生させれば……幹を走れる!
ラズリの拳を避けると同時に幹へ飛びつく。足がぴったりとくっつき、僕は世界樹の幹に立っていた。
「なん、だと? そんな事が出来るのか」
ラズリは驚きながらも幹を駆け上がり、僕に肉薄する。ちょっとだけ、新しい魔法でも使ってみるか。
「煌刃剣」
煌力で剣を形成し、射出する。煌力を手に入れてから習得した遠距離攻撃だ。
ラズリはそれを拳で粉砕して防御するけど、正面だけに気を向けてたら危ないよ。
彼女の周囲に剣を生み出し、時間差で撃ち出す。場所を問わず生成できるのがこの魔法の強み……なんだけど、全部回避している。凄い反射神経だ。
舞台が世界樹の幹に変わっても、ラズリの攻勢は変わらない。にしてもすさまじいパワーとスピードだ。世界樹がぐらぐら揺れるほどの破壊力、ラピスが結界を張っていなければ、きっとへし折れている事だろう。実際山を壊したしな。
たった一人で一国を相手取る、エルフ軍の最高戦力。噂以上の力だ。
「だけど、なんだろうな」
手合わせしてふと思う。想像よりも、戦いやすい。
多分、前の僕なら気配察知の先読みをしても、追いつけずに拳が当たっていただろう。だけど今の僕は、当たる気がしない。ゾーンに入っていなくても、このエルフについてこれる。
フェイスを倒して得た自信は、僕を想像以上に強くしてくれたみたいだ。
……様子見はここまでにしよう、そろそろ入るか!
「ゾーン……強制突破!」
一気に集中力を最大まで引き上げる。瞬間、ラズリの手が止まった。
頭の中が軽くなり、体に力が漲るような感覚。自分がどこを狙うべきか、導く光が見える。
「なんだこの男……空気が変わった?」
ラズリが警戒して、攻撃の手を緩めた。そんな事をしていいのかな?
今度は僕から接近して居合切りを振るう。ラズリの顔色が変わって、大きく後退した。斬撃は威力を減衰せずに飛んで、遠くの山を切り裂いた。真っ二つになった山が崩れていく。
ラズリが驚く間に、距離を詰めて斬撃を繰り出し、一転して彼女を追い詰めた。
「まさかお前、ゾーンに!? 私ですら到達していない境地に、立っているだと!?」
ラズリも反撃に出た。拳と刀が何度も交差し、ぶつかり合って火花が散った。
くそ、素手で刀を殴って平気とか……どんな体しているんだ。
互いの攻撃で弾きあい、大きく距離が空く。ラズリは幹から落ちるけど、なんと空を蹴って空を飛んでいた。
「そんなのありかよ」
身体能力高いで済まないぞ、脚力凄すぎるだろ。
……煌力を纏った足なら、空飛べるかな。
引力から斥力に切り替えて、試しに飛んでみる。そしたら出来た、僕も空を蹴って飛んでいる。
「お前、本当に人間か? 魔術を使っているわけでもない、どんな体をしている」
「そっくりそのまま、全部返させてもらうよ」
第三ラウンド、空中戦に入る。互いに空を蹴り、拳と刀で互いを崩す一手を探った。
「なら、双剣に切り替えるか」
リズムを変えるべく、大剣を握る。突然のスタイルチェンジに反応が遅れて、ラズリが出遅れた。
よし、先制打が入る! そう思い、大剣を彼女の肩に当てた時。
「ふん!」
ラズリは肩をかちあげて剣を弾き飛ばす。そしてその拍子に、刃が折れた。
今度は僕が驚く番だった。その隙にラズリは体勢を立て直してしまう。
「ライトニングボルト!」
とうとうラズリが魔法を使い始めた。襲ってきた紫電を咄嗟に刀でぶった切るも、衝撃で腕がしびれた。
初級の雷魔法なのに、まるで上級魔法のような威力だ。シラヌイ同様、魔法を限界まで研磨しているんだな。
「世界樹よ……力を!」
ラズリが祈るなり、世界樹が光って、彼女に力を与える。威圧感がより強くなった。
魔法と格闘を交え、翻弄し、僕を潰そうと迫ってくる。範囲も威力も絶大で、多種多様。緩急をつけた変幻自在の戦闘術だ。
いよいよラズリが本気を出してきたな。彼女が暴れるたびに未曽有の大災害が起きて、森に住む動物や昆虫達が一斉に逃げ出した。
同時に、彼女が起こす暴風により上昇気流が発生して、空に巨大な雨雲まででき始めている。地震も全く止まらない。
やがて嵐が起こり、エルフの国に暴風雨が吹き荒れた。大地が抉れ、大気が揺れ、山がいくつも崩れていく。
間違いない、本気のラズリだ。ステゴロで天変地異を起こす、生きる大災害。エルフ軍最高戦力の真の力か。
……この力、いったいどれほどの努力を重ねたんだろう。同じ武の道を歩く者として尊敬してしまう。
本気を出してくれた彼女に敬意を示さなければ。奥の手を、煌力を最大で使う!
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
煌力をとりこみ、全身に浸透させる。曲線模様が浮かび上がって、全身の感覚が一段鋭くなる。スパークがほとばしり、視界に緑のスクリーンがかかる。
煌力モード、発動。今の僕が出せる、最大最高の力だ。
「それが、お前の真の力か」
「……貴方ほどの戦士への、敬意の証だ」
「……そうか、ならば私も敬意を払おう! そして認めよう、貴公は素晴らしい剣士だ!」
「ありがとう、嬉しいよ!」
僕とラズリがぶつかり合う。彼女の振りかざした拳をぎりぎりで避け、胴に一太刀を浴びせる。
その一撃が、勝敗を決していた。
「……私の負けだな。実戦ならば、体が真っ二つになっていた。貴公の勝利だ」
「……手合わせ、ありがとうございました」
勝った、エルフ軍最高戦力に、僕は勝ったんだ。
そう思うなり、力が抜けそうになる。急いで戻らないと、煌力モードが解けて落ちてしまうな。
闘技場に戻るなり、煌力モードが解ける。今の所、三分維持するのが限界って所か。けど使った後に気絶していない、充分な進歩だ。
「ラズリが負けた、だと? なんと……信じられぬ。夢ではあるまいな?」
「ふわぁ……凄い物見ちゃったぁ……」
ミハエル女王とラピスは勿論、見学していたエルフ兵たちも動揺している。目の前で最高戦力が負けたんだ、当然の反応だよな。
けど僕も紙一重だった。最後の瞬間、もし拳が当たっていたら、負けていたのは僕だった。
彼女は強い、それも理屈をこねた強さじゃない。
基礎能力が段違いなんだ。パワー・スピード・ディフェンス……その全てが異次元の領域に達している、シンプルでわかりやすい強さだ。
「ラズリ、貴方の実力、素晴らしかった」
「こちらこそ、得難い経験をさせてもらったよ。人間は嫌いだが、剣士ディック、貴公だけは認めさせてもらおう」
僕達は固い握手を交わした。握った瞬間、彼女の手に肉刺ができているのが分かった。
……きっと何百年もの間、絶やさず努力をしてきたんだろう。その末の力だ。
「勇者フェイスを倒すか、成程……決して嘘ではなさそうだな。魔王軍は優秀な戦力を手に入れたようだ」
「お褒めに預かり光栄です」
なぜかシラヌイがドヤ顔で答えた。僕が勝ったのがよほどうれしかったみたいだ。
なんにせよ、エルフ軍最高戦力との試合は、最高の結果で終われたな。けど……。
「ごめんソユーズ、君の剣、壊してしまったよ」
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