68 / 181
67話 ディックとシラヌイ、混浴へ。
しおりを挟む
「シラヌイちゃん、ディックちゃんの所に居なくていいのぉ? 今お部屋で寝込んでるじゃない」
「……今、気持ちがそれどころじゃないし」
私はメイライトに相談に乗ってもらっていた。茶屋に二人座って、お茶を一服する。
ディックが手にした力を目の当たりにして、急に怖くなってしまった。あいつが強くなったのは喜ぶべき事なのに、あまりのすさまじい力に不安が大きくなってしまう。
あの力は諸刃の剣だ、使えば使う程、ディックの心と体に負担をかけるだろう。
大きな力は心を曇らせ、体を少しずつむしばんでいく……煌力がディックに与えるのは、絶対的な破滅よ。
「ねぇメイライト、ディックは大丈夫よね? 煌力をもっても、あいつは変わらずにいられるよね?」
「どうかしら……今回ばかりは私も、楽観的に考えられないわ」
珍しくメイライトも不安げになっている。直に対戦したのだから、煌力の凄まじさは実を持って理解しているものね。
「いつものディックちゃんなら、大丈夫って言ってあげられる。でも、あの力を纏ったディックちゃんは、普通じゃなかった。力に魅せられて、自分自身を滅ぼす危険も十分あるわ。勿論、自分のためでなく、誰かのために。特にシラヌイちゃんを守ろうとして、自滅覚悟の使い方をする危険もありえるわ」
「やっぱり、そう思うよね……」
あいつは優しすぎるもの、誰かを守るために必死になりすぎてしまう。
だから恐いのよ、いつか私の前から、ふっと消えてしまわないか。
そのためには私も変わらなくちゃならない。それは分かるんだけど……。
「ケイは私があいつを守れって言ったけど、物凄い差が出来ちゃった今、どうやってディックの傍に居てやればいいの? なんだか、一緒に暮らすのが苦しくなってきちゃう」
「まぁ、隣の男が強すぎるんじゃあね。気持ちは女として分かるわ。けど解決策はわかりやすいわよ、貴方も強くなればいい。新しい力を身につければいいのよ」
「新しい力って、そんな簡単に身に着いたら苦労しないわよ」
私は魔導具を持っていないから、煌力を使う事は出来ない。でも他の魔法も、何度試しても炎魔法しか使えなかったし……。
となると、考える方向性も変わらない。炎魔法をより強く、それこそ耐性すら意味をなさない程強くするしかないわ。
けど私自身を強くするんじゃ時間がかかる。そうなれば、外に目を向けるべきか。
「シュヴァリエを強化して、魔力を上げる。思いつくのはそれくらいかなぁ」
「単純だけど、まぁ……現実的な落としどころよね」
シュヴァリエを出して見つめてみる。こいつでよりすさまじい魔法をぶっ放せるようになれば、ディックが必要以上に煌力に頼る事も無くなるはず。
「何かいいアイディア無い? こう、手軽にポンと強くなれるアイテムとかさ」
「そんな都合のいい物なんてあるわけないじゃなぁい。都合悪いけど強くなるアイテムならあるけどぉ」
「教えて」
「ミストルティンと、ケーリュネイオン。聞いた事ないかしら?」
「……ある。めちゃくちゃ有名じゃない」
二つとも、ごく一部の小国でしか取れない、超希少金属だ。
ミストルティンは魔力を与え、使用者の力を増幅させる魔石。ケーリュネイオンは魔力を奪い、自身が強大な力を発揮する魔石だ。
どちらも与え、奪う魔力が尋常じゃない。ミストルティンから魔力を受ければ体が耐え切れずに骨身が砕け、ケーリュネイオンから魔力を奪われれば数秒でミイラ化してしまう。
あまりに極端すぎる力から、魔石を使いこなせる者はこの世に存在しないと言われているのだ。
「確かにその二つを使えば、ディックに並ぶ力を得られるとは思うけどさぁ……下手すりゃ私が死ぬわよ」
「一応、理論上死なない使い方はあるのよ。両方を同時に使うことで、互いのデメリットを解消しあうって奴が」
「あー、聞いた事ある。与えられた魔力をすぐに奪われれば、メリットだけを受けられるって説でしょ。実際どうなの?」
「ダメに決まってるじゃない、力が通り抜ける反動で体がもたずに終了。そもそも発想としてアホ丸出しだもの」
「そりゃそうよねぇ……」
アイディアとしては悪くないんだけどね。ミストルティンを魔力のタンクにして、ケーリュネイオンを使う。だけど魔力を通す管になる、使用者の体が問題か。
「けどまぁ、あれこれ考えても今貴方にできる事はないでしょう。それに、ディックちゃんがいきなり変わったわけでもなし。まだ来ていない事を悩んだって仕方ないわよ」
「ん……そうなんだけど……」
「すいませーん、おだんご二つくださいな。あとお茶もう一杯」
メイライトの注文で、みたらし団子が出てくる。琥珀色のたれが美味しそう。
「ミストルティンとケーリュネイオンなら私、作れるわよ。悩む暇があるなら、まずは行動してみなさい。それと、不安を感じたなら私じゃなくて、頼るべき人が居るはずじゃないの?」
「ディックに不安を打ち明けろっての?」
「一緒に暮らしているならなおさらよ。あの子は人の心の機微に聡いから、貴方がうじうじしたら余計に気にしちゃうじゃない。打ち明ければ案外いいアイディアも見えてくるかもしれないしさ。とにかく、私が言える事は以上。あとは貴方が、ディックちゃんとどうにかしなさい」
「うー……」
こいつ、時々厳しい事言うんだよなぁ……。
けど正しい事を言っているのも事実。いくら悩んだって、結局自分の中で答えなんかでてきやしない。
だったら、思い切って打ち明けてみよう。出来れば……誰にも邪魔されない場所で。
◇◇◇
<ディック視点>
「ふぅ……生き返るな」
露天風呂が、全身に染み渡るな。
目を覚ましたら、夜になっていた。煌力の反動でほぼ半日眠っていたらしい。
慣れていないとはいえ、まだまだ実践レベルじゃないな。これじゃフェイスと戦う武器にならないや。
「それにしても、シラヌイはどこに行ったんだろう」
目を覚ましてから、彼女を一度も見ていない。気配察知を使っても見つからないし、姿が見えないと不安になるな。
「お腹もすいたし、一緒にご飯食べに行きたいな」
旅館の食事は食べ損ねたから、夜まで営業している酒屋にでも繰り出そう。なんて考えていたら、シラヌイの気配がした。
よかった、居たんだ。そう思ったのもつかの間、だんだん距離が近づいて、気づけば脱衣所に来ていた。
しかも、服を脱いでいるような。
「え、ねぇちょっとシラヌイ? ここ男湯……」
「わかってる、だけどいいでしょ、サキュバスなんだし」
振り向けば、タオルを巻いただけのあられもない姿のシラヌイが。僕は急いで持っていたタオルを腰に巻いた。
「何しているのさ、他の客がいないからよかったけど」
「ドレカー先輩に頼んで人払いして貰ったの。だから今だけ、私達の貸し切りよ」
「なんだってそんな大胆なことを」
「誰にも邪魔されない場所で、話をしたかっただけ。それにその、旅先の思い出一つも作りたかったし」
シラヌイはおずおずと僕の隣に座った。彼女のこうした姿は何度も見ているのに、とても緊張してしまう。
「煌力、あれってどんな力なの?」
「ん……そうだな、なんて言うべきなのか。説明しようのない不思議な力だよ」
「そう。あんたさ、その力ちゃんと使いこなせるの?」
シラヌイにしては珍しく、的を得ない質問の仕方だ。彼女の話が見えてこない。
「……不安なのよ、あんたが煌力に呑まれてしまわないか」
「ああ、そういう事か」
四天王すら倒してしまう程の力だ、僕がフェイスのように力に溺れないか、シラヌイは心配してくれているのだろう。
正直、大丈夫、とは言い切れないな。
煌力は強すぎる力だ、「これに頼ればなんでもできる」、僕の心の中に、微かだけどそんな気持ちが生まれている。
大きな力は目をくらませる物。もし煌力を使いすぎれば、僕自身が滅ぶ事になるだろう。
「あんたは私にとって大事な人だし、イザヨイさんから受け取った想いもある。あんたが居なくなるのが、耐えられないのよ」
「そうか。ごめん、恐がらせてしまったね」
ただ、煌力は不必要に恐がる力でもない。
左腕の肘から先にだけ煌力を纏い、彼女に差し出す。シラヌイが触れるなり、煌力の淡い光が弾けた。
「暖かい、なんだか、安心する」
「うん、煌力は普通に纏うだけだと、気持ちが落ち着くんだよ。多分、力自体に意志があるからだと思う」
「そうなの?」
「ケイから教わったんだ、煌力は使い手の心に反応する力だって。誰かを愛する事が出来る人でなければ、煌力は見向きもしないんだ。だからもし僕が煌力を、自分のためだけに使おうとすれば、すぐに離散してしまう。シラヌイみたいに気難しい力なんだよ」
「それどういう意味?」
「ごめん、ふざけすぎた。けど煌力はエンディミオンと違って、僕を堕落させたり、破滅させるための力じゃない。君を守る為の力なんだ」
「……ふぅん、そう」
あ、ちょっと手が熱くなったな。照れてるのか。
「勿論、未知の部分が多いから、手放しに受け入れられる力じゃない。だけど、僕を信じて欲しい。決して煌力に溺れたり、身を亡ぼすような真似はしない。約束するよ」
「……今は、そんなもんでいいわ。約束もとりあえず、うん、それで我慢しておく。だけど私の不安はまだ無くなってないから……」
あからさまな誘いに気付いてしまう。いいんだけど、ここじゃダメだろう。
「なんか君、最近多くない?」
「しゃあないでしょうが、好きな奴に触れられるとその、たまらなく幸せになるんだから」
ぐっ、だからそう言うの反則だって……。
◇◇◇
「なんだかんだ、あっという間の三日間だったな」
翌朝、僕らは返りの馬車乗り場へ向かっていた。
馬車乗り場にはたくさんの見送りがやってきている。
たった三日間だけど、物凄く濃密な時間を過ごした気がする。心身ともに充電ばっちり、また明日から頑張れそうだ。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、もう帰っちゃうの?」
「ごめんよ、明日から仕事があるからさ」
「また来るから、その時にいっぱい遊びましょう」
ポルカは名残惜しそうに頷く。僕達ももう少しポルカと一緒に居たかったんだけどな。
「それじゃ、ドレカー先輩もお元気で」
「うむ! 今後もどうか息災でな、四天王諸君、それにディック」
ドレカーとリージョンが固い握手を結ぶ横で、ケイがポルカを抱き上げた。
「煌力のトレーニング表はちゃんと持ったな?」
「勿論。この表の通り訓練すれば、安定して使えるようになる、だよね」
「ディック次第だけどな。いいか、煌力は制御する物じゃない、手を貸してもらう物だ。従えるんじゃなくて、友人になるつもりで使うんだ」
「お姉ちゃんがポルカに教えてくれたよね、火と友達になるって」
ポルカが得意げに胸を張った。煌力と友達になれ、ケイが何度も口を酸っぱくして言ってきた事だ。それにもう一つ、私利私欲で使うな、お前が守ると決めた人のために使えとも。
師匠の言葉は、ちゃんと心にとめておかないとな。
「フェイスは手強い、でもディックなら必ず超えると俺達は信じている。頑張れよ」
「ありがとう、本当に、お世話になりました」
「じゃあねポルカ、風邪ひいちゃだめよ」
「うん!」
僕らはペガサス便に乗り込み、妖怪リゾートを後にする。
ポルカ達は僕らの姿が見えなくなるまで、ずっと手を振っていてくれた。
「……今、気持ちがそれどころじゃないし」
私はメイライトに相談に乗ってもらっていた。茶屋に二人座って、お茶を一服する。
ディックが手にした力を目の当たりにして、急に怖くなってしまった。あいつが強くなったのは喜ぶべき事なのに、あまりのすさまじい力に不安が大きくなってしまう。
あの力は諸刃の剣だ、使えば使う程、ディックの心と体に負担をかけるだろう。
大きな力は心を曇らせ、体を少しずつむしばんでいく……煌力がディックに与えるのは、絶対的な破滅よ。
「ねぇメイライト、ディックは大丈夫よね? 煌力をもっても、あいつは変わらずにいられるよね?」
「どうかしら……今回ばかりは私も、楽観的に考えられないわ」
珍しくメイライトも不安げになっている。直に対戦したのだから、煌力の凄まじさは実を持って理解しているものね。
「いつものディックちゃんなら、大丈夫って言ってあげられる。でも、あの力を纏ったディックちゃんは、普通じゃなかった。力に魅せられて、自分自身を滅ぼす危険も十分あるわ。勿論、自分のためでなく、誰かのために。特にシラヌイちゃんを守ろうとして、自滅覚悟の使い方をする危険もありえるわ」
「やっぱり、そう思うよね……」
あいつは優しすぎるもの、誰かを守るために必死になりすぎてしまう。
だから恐いのよ、いつか私の前から、ふっと消えてしまわないか。
そのためには私も変わらなくちゃならない。それは分かるんだけど……。
「ケイは私があいつを守れって言ったけど、物凄い差が出来ちゃった今、どうやってディックの傍に居てやればいいの? なんだか、一緒に暮らすのが苦しくなってきちゃう」
「まぁ、隣の男が強すぎるんじゃあね。気持ちは女として分かるわ。けど解決策はわかりやすいわよ、貴方も強くなればいい。新しい力を身につければいいのよ」
「新しい力って、そんな簡単に身に着いたら苦労しないわよ」
私は魔導具を持っていないから、煌力を使う事は出来ない。でも他の魔法も、何度試しても炎魔法しか使えなかったし……。
となると、考える方向性も変わらない。炎魔法をより強く、それこそ耐性すら意味をなさない程強くするしかないわ。
けど私自身を強くするんじゃ時間がかかる。そうなれば、外に目を向けるべきか。
「シュヴァリエを強化して、魔力を上げる。思いつくのはそれくらいかなぁ」
「単純だけど、まぁ……現実的な落としどころよね」
シュヴァリエを出して見つめてみる。こいつでよりすさまじい魔法をぶっ放せるようになれば、ディックが必要以上に煌力に頼る事も無くなるはず。
「何かいいアイディア無い? こう、手軽にポンと強くなれるアイテムとかさ」
「そんな都合のいい物なんてあるわけないじゃなぁい。都合悪いけど強くなるアイテムならあるけどぉ」
「教えて」
「ミストルティンと、ケーリュネイオン。聞いた事ないかしら?」
「……ある。めちゃくちゃ有名じゃない」
二つとも、ごく一部の小国でしか取れない、超希少金属だ。
ミストルティンは魔力を与え、使用者の力を増幅させる魔石。ケーリュネイオンは魔力を奪い、自身が強大な力を発揮する魔石だ。
どちらも与え、奪う魔力が尋常じゃない。ミストルティンから魔力を受ければ体が耐え切れずに骨身が砕け、ケーリュネイオンから魔力を奪われれば数秒でミイラ化してしまう。
あまりに極端すぎる力から、魔石を使いこなせる者はこの世に存在しないと言われているのだ。
「確かにその二つを使えば、ディックに並ぶ力を得られるとは思うけどさぁ……下手すりゃ私が死ぬわよ」
「一応、理論上死なない使い方はあるのよ。両方を同時に使うことで、互いのデメリットを解消しあうって奴が」
「あー、聞いた事ある。与えられた魔力をすぐに奪われれば、メリットだけを受けられるって説でしょ。実際どうなの?」
「ダメに決まってるじゃない、力が通り抜ける反動で体がもたずに終了。そもそも発想としてアホ丸出しだもの」
「そりゃそうよねぇ……」
アイディアとしては悪くないんだけどね。ミストルティンを魔力のタンクにして、ケーリュネイオンを使う。だけど魔力を通す管になる、使用者の体が問題か。
「けどまぁ、あれこれ考えても今貴方にできる事はないでしょう。それに、ディックちゃんがいきなり変わったわけでもなし。まだ来ていない事を悩んだって仕方ないわよ」
「ん……そうなんだけど……」
「すいませーん、おだんご二つくださいな。あとお茶もう一杯」
メイライトの注文で、みたらし団子が出てくる。琥珀色のたれが美味しそう。
「ミストルティンとケーリュネイオンなら私、作れるわよ。悩む暇があるなら、まずは行動してみなさい。それと、不安を感じたなら私じゃなくて、頼るべき人が居るはずじゃないの?」
「ディックに不安を打ち明けろっての?」
「一緒に暮らしているならなおさらよ。あの子は人の心の機微に聡いから、貴方がうじうじしたら余計に気にしちゃうじゃない。打ち明ければ案外いいアイディアも見えてくるかもしれないしさ。とにかく、私が言える事は以上。あとは貴方が、ディックちゃんとどうにかしなさい」
「うー……」
こいつ、時々厳しい事言うんだよなぁ……。
けど正しい事を言っているのも事実。いくら悩んだって、結局自分の中で答えなんかでてきやしない。
だったら、思い切って打ち明けてみよう。出来れば……誰にも邪魔されない場所で。
◇◇◇
<ディック視点>
「ふぅ……生き返るな」
露天風呂が、全身に染み渡るな。
目を覚ましたら、夜になっていた。煌力の反動でほぼ半日眠っていたらしい。
慣れていないとはいえ、まだまだ実践レベルじゃないな。これじゃフェイスと戦う武器にならないや。
「それにしても、シラヌイはどこに行ったんだろう」
目を覚ましてから、彼女を一度も見ていない。気配察知を使っても見つからないし、姿が見えないと不安になるな。
「お腹もすいたし、一緒にご飯食べに行きたいな」
旅館の食事は食べ損ねたから、夜まで営業している酒屋にでも繰り出そう。なんて考えていたら、シラヌイの気配がした。
よかった、居たんだ。そう思ったのもつかの間、だんだん距離が近づいて、気づけば脱衣所に来ていた。
しかも、服を脱いでいるような。
「え、ねぇちょっとシラヌイ? ここ男湯……」
「わかってる、だけどいいでしょ、サキュバスなんだし」
振り向けば、タオルを巻いただけのあられもない姿のシラヌイが。僕は急いで持っていたタオルを腰に巻いた。
「何しているのさ、他の客がいないからよかったけど」
「ドレカー先輩に頼んで人払いして貰ったの。だから今だけ、私達の貸し切りよ」
「なんだってそんな大胆なことを」
「誰にも邪魔されない場所で、話をしたかっただけ。それにその、旅先の思い出一つも作りたかったし」
シラヌイはおずおずと僕の隣に座った。彼女のこうした姿は何度も見ているのに、とても緊張してしまう。
「煌力、あれってどんな力なの?」
「ん……そうだな、なんて言うべきなのか。説明しようのない不思議な力だよ」
「そう。あんたさ、その力ちゃんと使いこなせるの?」
シラヌイにしては珍しく、的を得ない質問の仕方だ。彼女の話が見えてこない。
「……不安なのよ、あんたが煌力に呑まれてしまわないか」
「ああ、そういう事か」
四天王すら倒してしまう程の力だ、僕がフェイスのように力に溺れないか、シラヌイは心配してくれているのだろう。
正直、大丈夫、とは言い切れないな。
煌力は強すぎる力だ、「これに頼ればなんでもできる」、僕の心の中に、微かだけどそんな気持ちが生まれている。
大きな力は目をくらませる物。もし煌力を使いすぎれば、僕自身が滅ぶ事になるだろう。
「あんたは私にとって大事な人だし、イザヨイさんから受け取った想いもある。あんたが居なくなるのが、耐えられないのよ」
「そうか。ごめん、恐がらせてしまったね」
ただ、煌力は不必要に恐がる力でもない。
左腕の肘から先にだけ煌力を纏い、彼女に差し出す。シラヌイが触れるなり、煌力の淡い光が弾けた。
「暖かい、なんだか、安心する」
「うん、煌力は普通に纏うだけだと、気持ちが落ち着くんだよ。多分、力自体に意志があるからだと思う」
「そうなの?」
「ケイから教わったんだ、煌力は使い手の心に反応する力だって。誰かを愛する事が出来る人でなければ、煌力は見向きもしないんだ。だからもし僕が煌力を、自分のためだけに使おうとすれば、すぐに離散してしまう。シラヌイみたいに気難しい力なんだよ」
「それどういう意味?」
「ごめん、ふざけすぎた。けど煌力はエンディミオンと違って、僕を堕落させたり、破滅させるための力じゃない。君を守る為の力なんだ」
「……ふぅん、そう」
あ、ちょっと手が熱くなったな。照れてるのか。
「勿論、未知の部分が多いから、手放しに受け入れられる力じゃない。だけど、僕を信じて欲しい。決して煌力に溺れたり、身を亡ぼすような真似はしない。約束するよ」
「……今は、そんなもんでいいわ。約束もとりあえず、うん、それで我慢しておく。だけど私の不安はまだ無くなってないから……」
あからさまな誘いに気付いてしまう。いいんだけど、ここじゃダメだろう。
「なんか君、最近多くない?」
「しゃあないでしょうが、好きな奴に触れられるとその、たまらなく幸せになるんだから」
ぐっ、だからそう言うの反則だって……。
◇◇◇
「なんだかんだ、あっという間の三日間だったな」
翌朝、僕らは返りの馬車乗り場へ向かっていた。
馬車乗り場にはたくさんの見送りがやってきている。
たった三日間だけど、物凄く濃密な時間を過ごした気がする。心身ともに充電ばっちり、また明日から頑張れそうだ。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、もう帰っちゃうの?」
「ごめんよ、明日から仕事があるからさ」
「また来るから、その時にいっぱい遊びましょう」
ポルカは名残惜しそうに頷く。僕達ももう少しポルカと一緒に居たかったんだけどな。
「それじゃ、ドレカー先輩もお元気で」
「うむ! 今後もどうか息災でな、四天王諸君、それにディック」
ドレカーとリージョンが固い握手を結ぶ横で、ケイがポルカを抱き上げた。
「煌力のトレーニング表はちゃんと持ったな?」
「勿論。この表の通り訓練すれば、安定して使えるようになる、だよね」
「ディック次第だけどな。いいか、煌力は制御する物じゃない、手を貸してもらう物だ。従えるんじゃなくて、友人になるつもりで使うんだ」
「お姉ちゃんがポルカに教えてくれたよね、火と友達になるって」
ポルカが得意げに胸を張った。煌力と友達になれ、ケイが何度も口を酸っぱくして言ってきた事だ。それにもう一つ、私利私欲で使うな、お前が守ると決めた人のために使えとも。
師匠の言葉は、ちゃんと心にとめておかないとな。
「フェイスは手強い、でもディックなら必ず超えると俺達は信じている。頑張れよ」
「ありがとう、本当に、お世話になりました」
「じゃあねポルカ、風邪ひいちゃだめよ」
「うん!」
僕らはペガサス便に乗り込み、妖怪リゾートを後にする。
ポルカ達は僕らの姿が見えなくなるまで、ずっと手を振っていてくれた。
0
お気に入りに追加
3,383
あなたにおすすめの小説

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる