ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。

文字の大きさ
上 下
67 / 181

66話 魔王軍最強の剣士

しおりを挟む
 煌力を習得して、さらに数時間後。

「やるじゃないかディック! まさかここまで煌力を扱えるようになるなんて!」
「師匠の教え方が良いからさ」

 ケイと手合わせしながら、僕は煌力をまといながら動く訓練に入っていた。
 まだ煌力を纏って激しく動くことはできない。なのでケイに付き添われながら、力を込めてジャンプしたり、思い切り走ったり、基礎動作を何度も反復していた。
 それにしても凄い力だ。何度も繰り返すうちに力が体になじんで、その強さに驚いてしまう。軽く力を入れるだけでも空高く飛べるし、考えるよりも早く体が動いてくれる。なんだか生まれ変わったような気分だよ。

「あ、お父さんとお兄ちゃん! 仲良く遊んでるの?」

 訓練の途中でポルカとアスラがやってきた。手にはお重が乗っている。

「おはぎ作ってきたの、これでも食べて一休みしない?」
「いいね、賛成だ。って事でディック、一旦休憩な」
「了解」

 煌力を解除すると、全身が反動でビリビリしびれる。体が壊れないよう調整して使っているけど、骨身がきしむ痛みが走るな。
 アスラが作ってきたおはぎを食べつつ、僕はケイと反省会をした。

「普通に動く分にはもう問題ないな。解除しても倒れなくなったし、次のステップに入ってもいいだろう」
「って事はいよいよ、戦闘か」
「ああ、けど俺が相手だと多分訓練にならないと思う。素の戦闘力が負けているからな。だから」

 ケイは四天王達を見た。

「魔王四天王の皆さん、ディックの模擬戦の相手をお願いできませんか?」
「俺達か?」
「はい。煌力を手にしたディックは、恐らく皆さんでなければ相手になりません。彼はそれだけの力を持った剣士です」
「ほぉ……師匠にそうまで言わせるほどか」

 リージョンは興味深そうに僕を見やると、四天王達と頷きあった。

「いいだろう、ディックとの手合わせ、了解した。俺達としても、ディックと戦うのは初めてだ。どれほど強いのか、改めて確認させてもらおう」
「ありがとう、恩に着るよ、リージョン」

 四天王は魔王軍最高戦力だ。彼らに通用すれば、フェイスにも通用するはず。
 ただ、彼らとやるには少し……。

「おーっとシラヌイ、君は下がっているといい。宇宙一の代打として、私がやろう」
「えっ、でも」
「想い人に剣を向ける。それがどれだけ辛い事か、考えてごらん」

 シラヌイははっとしてくれた。彼女とだけは、模擬戦でも戦えない、剣が絶対止まってしまう。それじゃ訓練にならない。

「現役を退いても、気持ちはいまだに宇宙一の四天王だ。役者としては十分ではないかな?」
「申し分ないよ、よろしく頼む、ドレカー」

 ドレカーの実力は確かだ、シラヌイと遜色ない。相手として最高だ。
 よし、じゃあ試してみよう。煌力の真価を確かめないとな。

  ◇◇◇
<シラヌイ視点>

「むぅ……なんかムカつくけど……しょうがないかぁ……」

 不満はあるけど、私はディックの模擬戦を見学する事にした。
 あいつの相手は私がしたかったけど、私としてもディックに炎を向けるのは気が引ける。面と向かって戦うのは、私も無理かもしれないわ。
 となると、ドレカー先輩が出てきてくれたのはよかったかもしれない。

「ふふ、彼と喧嘩した事はない?」
「アスラさん。喧嘩と言いますか、言い争い程度なら何度か」
「そう、じゃあ模擬戦は難しいわね。私はケイと沢山喧嘩したし、酷い時には殴り合いをしたこともあるわよ」
「激し、くないですか? なんでそんな」
「理由なんて忘れちゃった。でもそれで仲が悪くなったりしないの、むしろもっと仲良くなったわ」
「喧嘩をしたのにですか?」
「夫婦なんてそんなものよ、何度も喧嘩して、ぶつかり合って、互いを理解していくの。まだ彼とぶつかり合うのが恐いのは、幸せが壊れないか不安な証拠ね」

 うん、確かに。ディックと喧嘩したら仲が壊れてしまいそうで、思い切りぶつかり合うのは無理かもしれないわ。

「でも本当に好きなら、ちょっとくらいの喧嘩は積極的にするべきよ。それでやっと見える物もあるはずだからね」

 女として先輩なだけに、言葉には重みがあった。
 まだ同棲を始めたばかりの私達は、男女としてこれからってわけね。

「さ、始まるみたいよ。彼を応援してあげて」
「お兄ちゃんがんばってー!」

 ポルカが無邪気に手を振っている。その目の前では、ディックと四天王達が今まさに模擬戦を始めようとしていた。
 リージョン達に加えて、ドレカー先輩まで居るパーティ……間違いなくゴールデンメンバーね。あんな化け物相手にディックは一人で挑もうとしているのか。
 不安になってくる、あいつ、無事で帰ってこれるでしょうね。

「遠慮はいらない、全力でかかってこい、ディック」
「うん、それじゃあ……いくよ」

 ディックが全身に煌力を纏う。肌に曲線模様が浮かび上がって、バチバチとスパークが上がる。
 いよいよ、新しいあいつのデビュー戦だ。

「じゃあ、始め!」

 ケイが合図をした、瞬間だった。
 ディックが四人の後ろに瞬間移動し、ワンテンポ遅れて四人に斬撃の嵐が襲い掛かった。全員反応しきれずまともに食らい、一斉に膝をついた。

「な、なんだ!? 何が起こった!?」
「時間を操る私が、虚を突かれた!? そんなのいやん!」

 メイライトがディックに時止めを使った。ディックの時間が止まって、身動きが出来なくなる……かと思いきや。

「はぁっ!」

 力ずくで止められた時を動かし、メイライトに肉薄。通り過ぎるなり、メイライトの意識が飛んで倒れてしまう。
 首筋に赤い痣、手刀で気絶させたの? 何も見えなかった。

「吠えろ、邪眼!」

 ソユーズの光線攻撃。でもディックは光線を避け、ソユーズの腹に刀の柄を叩き込んで気絶させてしまう。
 あっという間に四天王が二人もダウンしてしまった。ディックの動きが全然見えない、四天王であるはずの私の目ですら、捕えきれないなんて。

「それに光線避けるって、あいつ光より早いの……?」

 残ったリージョンとドレカー先輩にディックが迫る。リージョンはディックの前にゲートを開き、ドレカー先輩も魑魅魍魎を呼び出して囲い込んだ。
 だけど、ゲートは刀で粉砕され、魑魅魍魎も一撃で霧散する。四天王の攻撃がまるで通用していなかった。

「なんと……これは」
「想像以上だ……!」

 二人がつぶやくと同時に、ディックが駆け抜ける。通り過ぎた後には、倒れ伏したリージョンと先輩が。
 僅か三十秒、一方的な攻撃で、ディックが勝利を収めてしまった。
 信じられない……四天王は魔王軍最高戦力よ、それをこんな、一瞬で倒してしまうなんて……!

「ぐふっ……!」

 戦闘を終えた途端、ディックは煌力を解除するなり倒れてしまった。
 急いで駆け寄ると、ディックは息も絶え絶えで、意識を保つのがやっとって感じだった。

「ぜぇ……ぜぇ……全開で使うと、危険すぎる……危うく、気絶しかけたよ……」
「そんなに消耗するんだ……」

 一回使えば、ほんの数十秒しか持たない全力の形態。けど断言できる、煌力を取り込んだディックは間違いなく、魔王軍最強戦力になっていた。

「少し、休む……おやすみ……」
「あ、寝ちゃった……」

 疲れたのは分かるけど、少し不安になる。こんな圧倒的な力を振るって、ディックは大丈夫なのかしら。

「今はまだ使い始めだから、こうなってしまうのは当然さ。けど慣れて力をセーブできるようになれば、数分間はあの形態を維持できるはずだ」
「……でもこれじゃ、いつかディックは体を壊してしまうんじゃ。だってこいつ、誰かのために平気で無茶をするような、無鉄砲極まりない奴なんですよ」
「だからこそ、君がいるんじゃないのか?」

 ケイは四天王達を助けに向かいつつ、

「煌力は危険な力だけど、俺はディックなら使いこなせると信じて託した。なんでそうできるか、わかるかい?」
「いえ……」
「シラヌイがいるからだよ。君がディックのブレーキになってくれると信じているから、俺は煌力を教えたのさ。ディックが危なくなったら、君がディックを守れ。それが君の、パートナーとしてやるべき事さ」

 私のパートナーとしてやるべき事。そう言われて、私は少し自信を無くす。
 こんな弱いサキュバスの私に、ディックを守る事なんてできるの? 煌力を手に入れてディックは強くなったけど、私はこいつの隣に立ち続ける自信がない。
 ねぇディック、私は貴方と一緒に、本当にいていいの?
 不安になって聞いてみても、答えは返ってこない。ディックが遠い人になってしまった気がして、私は強い孤独感を受けていた。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...