ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。

文字の大きさ
上 下
54 / 181

53話 ディックの完全勝利!

しおりを挟む
<ディック視点>

 フェイスを倒すなり、塔が消え始める。
 核のポルカが消えた上に、あいつの影響力が無くなったんだろう。存在を保てなくなった塔は、溶けるようになくなっていった。
 僕は急いで二人を抱きかかえ脱出した。すると空間が歪んでゲートが出来る。
 そのゲートをくぐると、クッションが僕達を受け止める。リージョンの空間能力と、メイライトの創造の力で作ったクッションだ。
 ソユーズの光が僕達を照らすなり、魔王四天王の姿が見えてきた。

「全員無事か!?」
「ああ……ポルカも、僕達も無事だ」

 二人を助け上げると、三人が歓声を上げた。
 フェイスを倒し、見事リベンジを果たせた。でもまだだ、あいつはまだ生きている。
 斬った直後、霊体が本体に戻る気配を感じた。フェイスは恐らく、元の場所に戻ったんだ。
 けどこれはチャンスでもある。あいつが受けた傷はすぐには治らない……作戦はまだ、続いている。

「魔王、僕が受けた命令は……確かフェイスの撃破だったな」
『そだよ。見事に果たしてくれたねぇ、ワシ嬉しいよ』
「いや、まだだ。まだあいつの撃破はできていない。フェイスが……負けを認めるほどの大ダメージを与えて初めて、命令を果たしたことになるんじゃないかな」
『ん? あーなるほど、そう言う事ね』

 フェイスの居場所は、魔力の残渣を辿れば見つけられる。一番の脅威であるフェイスの居場所がわかれば、ウィンディア人救助作戦は成功する。

「ドレカー先輩がこんなに早く来てくれたのも、もともと作戦に協力してくれるためだったものね。予定は早いけど、頭数が足りている今なら」
「僕達が必ず勝てる」

 本当は三日後に始めるはずだった作戦だけど、現段階でも成功率は十分高い。となれば。

「まだ僕の四天王の指揮権は残っている、それでいいかな?」
『もちのろん! って事で四天王諸君、引き続きディッ君の指示に従って、作戦を続行してちょーだい!』
『了解!』

 フェイスにとどめを刺す。待っていてくれよ、ポルカ。

  ◇◇◇
<フェイス視点>

 俺は辛うじて本体に戻っていた。
 女どもも疲弊して、まともに動ける状態じゃない。暫くは使い物にならないだろう。

「……っくしょおおおおっ!」

 勇者の俺が、雑魚のディックに負ける。あってはならない事が起こった。
 あいつは俺に倒されるべき男、引き立て役であるべき男だ。それが俺を倒した? 悪い冗談だぜ。

「エンディミオン……お前は絶対無敵の剣じゃねぇのかよ、何か言えよくそがっ!」

 聖剣に当たっても仕方がねぇ……だが、この怒りはどうすりゃいい? どうすりゃこのムカつきを収められるんだよ!

「あっ……勇者様、通信具が」
「はぁ? なんだよこんな時に……!」

 通信をとると、随分焦った将軍の声が聞こえてきた。

『ゆ、勇者フェイス! 力を貸してくれ! 人間領に……人間領に魔王四天王が出現した! し、しかも引退していたはずの「海賊のドレカー」と……ディックまで居る!』
「なんだと!?」
『各地の主要都市に突然現れて、破壊活動を……! 夜襲で対応しきれない、応援を頼む!』
「どこだ、どこへ行けばいい!?」

 いや、行くにしてもどうやって? 四天王全員が来たなら、四ヶ所? 違う、ディックと余計なバカも加えれば六ヶ所だ、回れるわけねぇだろ! このダメージを受けた状態じゃ、転移の魔法もろくに使えねぇ、行ったとしても戦えねぇ!

「まさかディック……あんのやろぉ!」

 これ以上俺の顔に泥を塗るつもりか、くそったれが!

  ◇◇◇

「……ディックが計画し、進めていたウィンディア人奪還作戦、それはまず、あえて人間達にウィンディア人の価値を教える事から始まった」

 我は都市を統括する貴族邸宅を攻撃していた。
 ここは王都に近い都市だ。それを統括する貴族の家には、地域から集められたウィンディア人が収容されている。
 我が力、金属を操る力で彼らを救出し、ランデブーポイントへ。そこからリージョンの能力で、ドレカー先輩の海賊船へ送り込む。

「そしたら人間達はウィンディア人を使役しようとするわよねぇ。王都に集めて、魔導具量産計画をするために♪ 渋る貴族や奴隷商には、多額のお金を払ってでも奪うでしょう」

 私も王都近くの都市を襲撃中☆
 都市全体の時間を止めてぇ、これまたウィンディア人を収容している貴族様のお家へゴー♪ はい、全員救出っと。

「だがいちいち個別で引っ張り出しては効率が悪い、転移魔法を繰り返せば当然目立つ。となればウィンディア人達を陸路で各都市へ集め、段階別にして運搬する方法を取る」

 このイン・ドレカーも、ウィンディア人の救出中だ。
 魑魅魍魎達を操り、ウィンディア人達を収めている屋敷を襲う。救い出したらすぐに私の船へ案内してやる。

「そこが大きな隙になる。各地の都市へ集めるという事は、こちらとしては一度に大勢を救出できるチャンスだからな」

 俺も皆を各地へ送った後、担当の都市を攻撃した。
 空間を操る力で先輩の船に送り込み、全員助け出す。これで俺の担当地区は終わりだな。

「私達が狙っていたのは、ウィンディア人が一番王都に近づく明後日。クズ勇者が一番離れているであろう、王都近くの大都市二つに集まった頃に総力戦を仕掛けるつもりだったの」

 私もウィンディア人を助け終わっていた。
 都市を炎で燃やし、混乱の最中にウィンディア人を安全な場所へ誘導した。逃げ損ねた人はいないようね。
 ドレカー先輩の船を使えば、バルドフの場所も特定されない。運搬の中継地点としては最適ね。

「現時点だと、六ヶ所の都市に収容されている情報を掴んでいた。フェイスがどこにいるか分からないから手を出さなかったけど、場所が判明した今、奇襲する絶好のチャンスだ」

 そして僕は、最後のウィンディア人達を助け終わった。
 貴族の邸宅はまぁ、僕の斬撃で酷いの一言に尽きる有様だ。街も両断された家屋が沢山、無駄な抵抗をするから手加減できなかったよ。
 リスクは高かったけど、時間をかけられない僕達にはこれが最善の策だった。人間達にターゲットを集めて貰って、一網打尽にする。協力感謝するよ、元仲間たち。
 ともあれ、リージョンの力を借りてウィンディア人は全員救助完了だ。あと残っているのは……。

「フェイスの所に居る、ポルカの両親だな」

  ◇◇◇

『ま、またウィンディア人が奪われた……た、頼む勇者よ! 急がねば魔導具量産計画が……う、ああああっ!』
「……無理だっつーの、ド阿呆が」

 ディックの奴に、完全にしてやられた。あの野郎、俺に隠れてこんな大規模な作戦を計画してやがったのか。
 ……認めるしかねぇ、完敗だ。俺が潰した下等生物達が息を吹き返した、それもディックの手でだ。

「ゆ、勇者様、指示を!」
「貴方の力ならディックなんて簡単に!」
「……だったら喚くな」

 女どもを睨み、黙らせる。ピーチクパーチクうるせぇんだよ、それに奴らはこっちに来てんだ、わざわざ行く必要はねぇ。
 見上げりゃあ、ドレカーとか言う奴の海賊船がこっちに来ているのが見える。でもって船首にゃあ……。
 俺を悠然と見下ろす、ディックの姿があった。

  ◇◇◇

 僕とシラヌイは、リージョンの力でフェイスの居る場所へ降りた。
 そこには確かに、二人のウィンディア人が居た。ポルカの両親、たすけるべき最後のウィンディア人だ。

「二人を渡せ、フェイス」
「抵抗するなら容赦しないわよ」
「……いいぜ、持って行けよ」

 てっきり抵抗するのかと思ったら、フェイスは素直に二人の身柄を渡してきた。
 十字架ごと僕らに放り投げ、慌てて受け止める。なんて乱暴な引き渡し方だ。

「勇者様、どうして!?」
「俺はこいつらに負けた、それは変わらない事実だ。だってのにこれ以上暴れるのは筋が通らねぇ、野暮だよ」
「だけど!」
「……俺の男としての格を下げるな」

 フェイスが一喝すると、仲間たちが押し黙った。
 あいつはプライドの塊で、自尊心を傷つけられるのが何よりも嫌いな奴だ。
 だからこれ以上、自分の顔に泥を塗るような真似は我慢ならないんだろう。

「今回は引き下がってやる。俺の気が変わらないうちに消えろ、ディック」
「……フェイス。お前はどうしてそこまで、愛情や心を否定する」
「てめぇには関係ない」
「子供の頃が原因か?」

 フェイスの肩が揺れた。やはり、ドレカーの推察は合っていたのか。

「魔導具には適合条件がある。聖剣エンディミオンの適合条件は、「虚無」だ。自分自身に満たされない思いがあればあるほど、聖剣の力の源である欲望が大きくなる。だからエンディミオンは、自分に適した人物を勇者として育てる。違うか?」
「……だから?」
「お前、誰からも愛されたことがないんだろう」

 子供の頃から愛されずに育てられた人は、空虚な心の人間になる。多分フェイスは、エンディミオンによって愛情を受けられない環境で育てられた、空っぽの勇者なんだ。

「……同情でもしてんのか? ふざけんじゃねぇや」
「同情はしていない、僕はお前が大嫌いだからな。ただ確認したかっただけなんだよ、倒すべき相手が、どんな思いを抱いているのかを」

 これからするのは、僕からの宣戦布告だ。

「僕は、お前が否定する愛情や心の力を信じている。母さんが僕を愛し、シラヌイが僕を受け入れてくれたから、僕はお前に立ち向かう力を得たんだ。だから宣言してやる、お前が否定する力で、必ずお前を倒す! それが僕の決意だ」
「……随分いきがってくれるじゃねぇか」

 突然、フェイスから白いオーラが立ち上った。
 すると奴の姿が一瞬だけど変わった。硬質な皮膚を持つ、怪物の姿に変わったんだ。

「こいつは負け惜しみだ。俺とエンディミオンにはまだ、もう一段上がある。お前が愛やら心やらに満たされているみたいに、俺の中には純粋な力が満たされているのさ。幽体状態じゃ使えなかったが……俺には切り札が残っているんだよ」
「…………」
「俺を倒す? はっ、せいぜい息巻いてろ。だが俺はまだ、お前のずっと先に居る。それを忘れんじゃねぇ。てめぇがそう宣言するなら、いいぜ。俺も力こそが本当の強さだと思い知らせてやる。てめぇが言う愛だの心だのがどれだけくだらない物なのか、お前を殺して証明してやる! それが俺の、決意としておこうか」

 フェイスは仲間たちを引き連れ、闇へと消えていく。姿が見えなくなったのを見届け、僕らはポルカの両親を解放した。
 ケイの方は酷いケガだ、腹に剣を突き立てられたんだろう。二人とも翼をもがれて、重症だ。でもメイライトの時戻しがある。健康な状態にすぐ戻してくれるはずだ。
 ……僕のずっと先にいる、か。確かに、フェイスはこの程度で終わる奴じゃない。

 だからと言って僕のやる事は変わらない。シラヌイと共に戦い続ける、フェイスを倒す時までね。
 ともあれ、今日は喜んでいいだろう。

 何しろずっと望んでいた、フェイスに対する完全勝利を果たしたのだから。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...