ブラック企業「勇者パーティ」をクビになったら、魔王四天王が嫁になりました。~転職先はホワイト企業な魔王軍〜

歩く、歩く。

文字の大きさ
上 下
46 / 181

45話 ポルカの正体

しおりを挟む
「はぁいディックちゃん、頼まれていた資料よぉ」
「ありがとう、助かるよメイライト」

 僕はメイライトのオフィスで、人間達の動きが記された資料を貰っていた。
 魔王軍は人間領に多数のスパイを放っていて、逐一情報を仕入れている。主にメイライトの管轄だ。
 僕は彼女に頼み、有翼人種の奴隷が目撃されていないかを調べてもらっていた。
 ポルカの記憶をたどった所、村人は五十人と言ったところだ。彼女の種族は他の有翼人種にない特徴として、首に黒い帯状の模様が浮かんでいる。

「……今の所、目撃情報は十三か。やっぱり目立つ種族なだけあって、リークが早いな」
「私の諜報部隊は優秀だものぉ、それで具体的にどうするの?」
「奴隷たちを救う方法だろ、考え自体はあるんだけど、それには捕まった人達の正確な位置情報が必要なんだ」

 まずは全員分の位置情報を掴まない事には話が始まらないからな。
 一人一人を各個救助していく方法は効率が悪い上、相手に警戒されて失敗する確率が高まる。短期間で、一度に救助する必要があるんだ。
 僕一人では当然できない。残念だけど僕にはフェイスのような圧倒的な力はない。
 だからこそ僕は、色んな人の力を借りるんだ。

「……うん、すぐに動いたほうがよさそうだな」
「張り切っているわねぇ、なんだかお父さんみたい♪」
「実際今、父親みたいなものだしね」

 ポルカを迎え入れてから、シラヌイとの子供が出来たみたいで、僕はちょっと張り切っていた。前にシラヌイが、僕は誰かを守っているくらいがいい、って言っていたな。
 母さんに沢山愛されてきたからだろうな、二人の事を大事にしたいと思うと、力と元気がわいてくるんだ。

「魔王軍に入ってから、大事な物が増えすぎたな」
「いいことじゃない。宝物は沢山あったほうがいいわよぉ」

 メイライトの言う通り。改めて思うけど、魔王軍に入ってよかった。

「……失礼する、ディック、いるか?」
「ソユーズ? ああ、確かにいるけど」

 ノックの後、ソユーズが入ってくる。珍しいな、メイライトのオフィスに入ってくるなんて。

「……メイライト、お前にも伝えておきたい事があった。先程、魔王様とリージョンにも伝えてきたところでな。シラヌイにはディックから伝えてくれ」
「あら? 私にも伝えなきゃいけないほど大事な事?」
「……ポルカの種族についてだ」
「ポルカの種族?」

 ポルカに別段変な所はないはずだけど……なんだろう。

「……彼女の血液を調べた所、既存の有翼人種とはどれにも当てはまらなかった。そこで図書を調べてみたのだが、驚くべき事がわかった」
「勿体つけるなよ、なんだ?」
「……ポルカの種族は、ウィンディア人。かつて、エンディミオンやハヌマーンと言った魔導具を造り、世に広めた種族の末裔だ」
「なんだって?」

 僕とメイライトは驚いた。僕のハヌマーンを、ポルカの種族が作ったって言うのか?

「……首に黒い模様があっただろう? あれはヨウ素が固着した物でな、魔導具を製作する際に出る放射線とやらから身を守る過程で、体が変化したそうだ」
「なんでそんな種族が人間領にいたんだ?」
「……魔導具を作るほどの種族だ、技術や知識を狙った輩は当然現れる。そうした連中から逃げて各地を転々としている間に、いつしか人間領へ迷い込んだのだろう」
「あらあらまぁまぁ、それじゃ、人間領に隠れ村を作っていたのねぇ。そしたらたまたま、勇者が見つけて荒らしたと」

 ……なんて不幸だ。フェイスに見つかったなんて、最悪じゃないか。

「……もしウィンディア人を救出できれば、エンディミオンの対策は勿論、お前のハヌマーンを強化する事も出来るだろう。魔王様もウィンディア人救助を優先事項とされてな、現在対策本部が作られているところだ」
「逆に、もし人間側がウィンディアの事を知ったら……」
「……まず間違いなく、魔導具量産のために酷使させられるだろうな」

 猶予はあまりなさそうだな。
 魔導具の事なんかどうでもいい、そんな下らない理由で、罪のない人たちが虐げられる事が、僕は許せない。
 特にフェイスが関わったとなればなおさらだ。

「必ず助け出そう、ウィンディア人達を。理不尽な暴力がのさばる世界なんて、認めるわけにはいかない。じゃないと、シラヌイが悲しむからね」
「あら♡ シラヌイちゃんのためなんて熱いわねぇ♪」
「男が動く理由なんて、シンプルなくらいが丁度いいらしいよ」

 ポルカが泣けばシラヌイも悲しむ。そんなの、我慢ならないからね。

  ◇◇◇

 シラヌイの下へ戻り、ポルカの事を話すと、彼女は沈痛な面持ちになった。

「……短期間でやるべき事が多すぎるわね。ウィンディア人の保護、ポルカの心の治療、そして多分、フェイスとまた戦う事になるでしょうから、その対策もしなきゃならない」
「人間達が、ウィンディア人の価値に気付く前にね。特にフェイスが気づいたら、エンディミオンを強化しようと動く危険もある」

 今後は魔王と連動して、ウィンディア人保護に向けて動くとしよう。大体、作戦内容や根回しの仕方も思い浮かんできたところだ。

「お兄ちゃん、ポルカがどうかしたの?」
「いや、なんでもないよ。気にする事はない」

 この子には不安を与えないようにしないとな。シラヌイと一緒に、しっかり保護してあげなくちゃ。
 なんともなしに、ポルカの羽に触れる。するとベルトのバックルが光り出した。

『……この力の波動、我が創造主の血族か』
「ハヌマーン?」

 勝手に僕の手足に装備され、話しかけてくる。この魔導具は普段大人しいのに。

『我が主よ。創造主の羽を我に捧げてみよ』
「ポルカの羽を? いいかな、一枚」
「うん、どうぞ」

 ポルカから貰った羽をハヌマーンにあててみると、吸い込まれていく。同時にハヌマーンの光も増えて、放出される粒子も倍近くになった。

『おおお! この力の奔流、まさしく創造主の物。力が漲る……!』
「この羽、魔導具のパワーアップアイテムなのか?」
『否、一時的な強化にすぎぬ。だが主よ、試しに我を振るってみよ』

 言われてみて、軽くパンチを出してみる。そしたら風圧が吹きすさび、窓がひび割れた。

「これは……! 魔導具以外には、なんの役にも立たないはずじゃ……」
『創造主の力を受ければ、ほんの数分だけこうなる。覚えておけば、いずれ役に立つだろう』

 言うなり、ハヌマーンは消えてしまった。勝手な奴だな、全く……。

「けど、良い反面まずい情報を得た気がする……」
「ええ……フェイスがこれを知ったら……!」

 ……焦りが募る、でも我慢だ。
 ここで焦っても、どうする事も出来ない。今はしっかりと、作戦の基礎固めに集中するんだ。
しおりを挟む
感想 177

あなたにおすすめの小説

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

侯爵令嬢に転生したからには、何がなんでも生き抜きたいと思います!

珂里
ファンタジー
侯爵令嬢に生まれた私。 3歳のある日、湖で溺れて前世の記憶を思い出す。 高校に入学した翌日、川で溺れていた子供を助けようとして逆に私が溺れてしまった。 これからハッピーライフを満喫しようと思っていたのに!! 転生したからには、2度目の人生何がなんでも生き抜いて、楽しみたいと思います!!!

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

処理中です...