19 / 181
18話 駄々洩れの本音
しおりを挟む
私はバルドフから少し離れたある場所にやってきていた。
そこがディックと約束した場所だからだ。あれが来るまでの間、服装の最終チェックをしておく。あと、バケットの死守もしなくては。
メイライト曰く、私の年齢だと白シャツを軸に着こなした方がいいとの事。ミモレ丈のフレアスカートを合わせて、ハットにサンダルをアクセント……にしているらしい。
全部メイライトの独断だから似合ってる自信ないのよね。それと、今まで隠していた尻尾を出すようアドバイスされたっけか。
「なんでこれ出せって言ったんだろ」
普段邪魔だから仕舞ってるんだけど、何か意味あるのかな。あれこれ考えてしまう。
というかあいつ遅いわね……バルドフから離れてるって言っても、普通に歩いて来れる場所よ。休日なんかは家族連れや、その……恋人同士が遊びに来るような場所なんだから。
無茶な要求してないんだから、早く来なさいよ。
「シラヌイ?」
「む、来たわね」
一時間も遅刻して、マザコンがようやくやってきた。刀を持っていない以外は、普段通りの服装だ。……こっちは準備してきたんだからあんたもしてこいや。
「遅い! こっちがどんだけ待ったと思ってんのよ、男なら急いで来なさい!」
「あ、ああ。ごめん」
「何よ、文句あるなら言いなさいよ」
「ローブ姿以外のシラヌイが新鮮で、見とれてた。似合っているよ」
ぐぬぬ……だからこいつは気恥ずかしくなる事を平気で抜かしよる……。
「お世辞はいいからさっさと行く! 男ならとっととエスコートしなさい!」
「分かったよ」
だからさぁ……なんでこうきつい事言ってんのにへらへら笑っていられるのよ。そんな余裕ぶられたら私がアホみたいじゃないのよ。
やっぱこいつ、嫌い。
「……待ち合わせ、三十分前なんだけどな」
「るっさい!」
◇◇◇
<ディック視点>
僕が連れてこられたのは、バルドフ御苑と呼ばれる場所だ。
魔王管轄の国民公園で、種々様々な樹木を植え、各地方の庭園が造られている。見所は公園中央のソウルポンドと植物園だそうだ。
樹木は魔法で常に花が見ごろに調整されているそうで、色とりどりの木々が迎えてくれる。心が落ち着いて、時間が急に遅くなったような気がするな。
「魔王様の趣味が園芸なのよ。趣味が興じすぎて大規模になったから国民公園にしたって聞いた事がある」
「趣味で出来る規模じゃないだろこれ」
意外と趣味人なんだな魔王って。
一見ふざけっぱなしのピエロに思えるけど、部下想いでもあるし、民に対しても圧政を強いるどころか平和その物。言動とは裏腹にまともな奴だ。
「御苑西側のバラ園に行きましょ。確か今、ムーンローズの展示やってるのよ」
「ムーンローズ、珍しい青い薔薇だったか。薔薇好きなんだ」
「別に好きじゃないわよ。あんなトゲトゲの花誰が好むの?」
文句を言っているけど、気分は悪くならない。今日のシラヌイはとてもとっつきやすい。
なぜなら、尻尾で全てがばればれだから。
言葉とは裏腹に、彼女の尻尾は犬のようにブンブン揺れている。あの様子だと、花の中でも薔薇が一番好きなんだろう。
待ち合わせ場所でも、僕が来るなり尻尾を大きく振っていた。一時間も前から楽しみにしてくれていたんだな。
……少なくとも、好意は持ってくれているんだよな。でもそれが恋愛感情なのか、それとも親愛の情なのか。そこまでは分からない。
聞いてみたいけど、答えが恐くて言い出せない。胸がもやついて、喉の奥が苦しくなるな。
「なぁによ? なんか文句あんの?」
「いや、可愛いなと思ってただけだよ」
「ふぁっ?」
今度は尻尾がピンと立った。凄く照れているみたいだ。普段がツンケンしているせいか、尻尾で内面が分かると凄く可愛いな。
……これ言ったら焼き殺されそうだし黙っておこう。
「ふざけた事ぬかしてんじゃないわよ、次同じ事言ったら骨まで焼き払ってやるからね」
「気を付けるよ」
本当に殺されるところだった。危ない危ない……。
そう言えば気になっていたけど、シラヌイが大事そうに持っているバケットはなんだろう。大きい物だし、重そうだな。
「それ持とうか?」
「ダメ!」
また尻尾を立てながら、シラヌイは強く拒否してくる。本気で嫌がっているみたいだ。
この様子だと、中身を聞くのもやめた方がいいか。
「これはその、とっておきというか何と言うか……ああもう、黙って付いてきなさい。これは上司命令よ!」
僕の腕を引き、シラヌイはバラ園へ急いだ。
暫くは、彼女の我儘に付き合った方がいいかな。僕としても、悪い気はしないから。
「楽しいな……こういうの」
前日まで凄く緊張していたけど、彼女と居るとそんなのも吹っ飛ぶくらい楽しくなる。シラヌイも同じ気持ちみたいだし、リージョンの言う通り、自然に過ごせばいいんだ。
胸のもやつきは、今の内は忘れていよう。
◇◇◇
<シラヌイ視点>
私が密かに楽しみにしていた、ムーンローズの展示は素晴らしい物だった。
数ある花の中でも、私は薔薇が好きだ。花びらの色が凄く鮮やかで瑞々しくて、香りも艶やかで。まるで生きた宝石みたい。
ムーンローズは最近発見された青い薔薇で、前からずっと見たいと思っていた。サファイアのような透き通った青の薔薇、神秘的だったわね。
……それはいいとして、あのバカどこ行った?
「はぐれてんじゃないわよ、全く……」
確か気とかで相手の位置を探れるらしいから、ほっといても勝手に来るとは思うけど……私を置いてけぼりにしてどこほっつき歩いてんだか。
「シラヌイ、待たせたね」
「あんたが勝手にはぐれたんでしょうが。何してたわけ?」
「売店を見かけてね、これを買いに行ってたんだ。受け取ってくれるか?」
ディックが手に押し付けてきたのは、手のひら大の黒い箱だ。
開けてみると、中には深紅の薔薇が収まっている。これ、プリザーブドフラワーだ。
「赤い薔薇が好きなんじゃないか? 他の薔薇の展示も見ていたけど、赤い薔薇を熱心に見ていたから」
「……あんたねぇ、よくまぁそう細かく見てるもんだわ。何? 私を監視でもしてるわけ?」
「そう言うわけじゃないけど」
「ま、でもいいわよ。折角あんたが買ったんだし、ありがたく貰っといてあげるわ。余計な荷物が増えたけど、突っ返したら空気読めない感じだしさぁ」
こんなの貰っても嬉しくもなんともないけど、無下に扱ったら薔薇が可哀そうだし。あくまでも薔薇が可哀そうなだけで、こいつは何の関係もないし。
……こいつ、意識してこれ用意したわけじゃないわよね? 薔薇って色と本数で花言葉に違いが出るんだけど。おまけにプリザーブドフラワーに加工していた場合、余計な一言も加わるし。
一輪の赤い薔薇の意味、もし知った上でこれ渡してたら……。
「……あんた、薔薇の意味知ってる?」
「? いや、花言葉には疎くて。ただ母さんから、女には赤い薔薇を送る物だって言われた事があったし」
「……まぁそんな事だろうとは思ったわよ」
どうせマザコンの天然か。対して期待してなかったけど。って期待って何よ。自分でも馬鹿な事考えてんなぁ私。
「けど、シラヌイにそれを渡したいと思ったのは僕の本音だ。それだけは分かってほしい」
「だぁから余計な一言加えんな!」
蹴っ飛ばすよ! 蹴っ飛ばした後に言うのもあれだけど!
人の心読んだみたいに的確な言葉返して! なんか見透かされてるような気がしてむかつくんですけど!
……これのお返しがこんなのだと思うと、気分も滅入ってくるなぁ。
『いい、シラヌイちゃん。これを出すタイミングはきちんと考えるのよ。御苑の植物園を回った後、さり気なく広場に誘って出しなさい。ムード作ってからの方が効果てきめんよ!』
メイライトはそう言っていたけど、本当なのかなぁ……。
「ほれ次。植物園行くよ」
御苑内には温室がある。魔王様が適当に育てた各地の樹木や植物を展示している場所だ。
雰囲気出すために鎧や剣も置かれていて、これがまたいい味出している。割と好きだな、こういう場所。
ディックはどうだろう。さっきから無言なもんで、ちょっと気になる。
「……どしたの?」
ディックはやけに険しい顔をしていた。しきりに辺りを見渡していて、何かを警戒しているようだった。
「なんかあった?」
「いや、なんでもない。多分気のせいだよ」
「……ふーん」
まぁ何かあったとしても私が居るし、気にする必要はないかな。
それに問題はこの後だ。温室から出たら、バケットを突き出してやる。ただそれだけの事なのに、妙に緊張してくる。
悟られないようにしよう。折角頑張ったんだから、こいつを驚かせてみたいし。
やばい、反応が気になりすぎて緊張してきた。お願いばれないで。
「一度休憩しようか。広場も近いし」
「そ、そーね」
なんで心の声バレてんだろう。空気読め過ぎて逆に恐いんだけど。
好都合と言えば好都合か。おかげでバケットを出すタイミングも計りやすい。
……大丈夫、何度も練習したし、何度も作り直したし。指を怪我してまで作ったんだから、文句言ったら焼き殺すからね。
広場の場所取ったし、よし、言い出すなら今だ……!
「あ、あのっ! これ!」
勇気を出してバケットを突き出す。と同時に……温室が爆発した。
爆風でディックもろともひっくり返ってしまった。おまけに温室から悲鳴が聞こえてくる。
「何、これ。一体何が……!」
温室から無数の触手が生えてきている。他にも種子が弾丸のように飛んできたり、急激に成長して大木に育ったり、異常事態が起こっている。
「何よこれ……いや、それより避難させるわよ」
「ああ、急ごう!」
被害を出す前に対処しないと、四天王の名折れ。早急に避難を進めていると、
『あーはっはっは! 素晴らしい、素晴らしいぞこの効き目!』
温室から、高笑いが聞こえてきた。
※赤いバラの花言葉は「あなたを愛しています」。一輪のバラの意味は「一目惚れ」、「あなたしかいない」。
ディックの送ったプリザーブドフラワーは、「貴女だけを愛しています」という意味になります。
さらにプリザードフラワーには永遠に、という意味もあるので、一輪のプリザードローズは「永遠に貴女だけを愛しています」になりますね。
そこがディックと約束した場所だからだ。あれが来るまでの間、服装の最終チェックをしておく。あと、バケットの死守もしなくては。
メイライト曰く、私の年齢だと白シャツを軸に着こなした方がいいとの事。ミモレ丈のフレアスカートを合わせて、ハットにサンダルをアクセント……にしているらしい。
全部メイライトの独断だから似合ってる自信ないのよね。それと、今まで隠していた尻尾を出すようアドバイスされたっけか。
「なんでこれ出せって言ったんだろ」
普段邪魔だから仕舞ってるんだけど、何か意味あるのかな。あれこれ考えてしまう。
というかあいつ遅いわね……バルドフから離れてるって言っても、普通に歩いて来れる場所よ。休日なんかは家族連れや、その……恋人同士が遊びに来るような場所なんだから。
無茶な要求してないんだから、早く来なさいよ。
「シラヌイ?」
「む、来たわね」
一時間も遅刻して、マザコンがようやくやってきた。刀を持っていない以外は、普段通りの服装だ。……こっちは準備してきたんだからあんたもしてこいや。
「遅い! こっちがどんだけ待ったと思ってんのよ、男なら急いで来なさい!」
「あ、ああ。ごめん」
「何よ、文句あるなら言いなさいよ」
「ローブ姿以外のシラヌイが新鮮で、見とれてた。似合っているよ」
ぐぬぬ……だからこいつは気恥ずかしくなる事を平気で抜かしよる……。
「お世辞はいいからさっさと行く! 男ならとっととエスコートしなさい!」
「分かったよ」
だからさぁ……なんでこうきつい事言ってんのにへらへら笑っていられるのよ。そんな余裕ぶられたら私がアホみたいじゃないのよ。
やっぱこいつ、嫌い。
「……待ち合わせ、三十分前なんだけどな」
「るっさい!」
◇◇◇
<ディック視点>
僕が連れてこられたのは、バルドフ御苑と呼ばれる場所だ。
魔王管轄の国民公園で、種々様々な樹木を植え、各地方の庭園が造られている。見所は公園中央のソウルポンドと植物園だそうだ。
樹木は魔法で常に花が見ごろに調整されているそうで、色とりどりの木々が迎えてくれる。心が落ち着いて、時間が急に遅くなったような気がするな。
「魔王様の趣味が園芸なのよ。趣味が興じすぎて大規模になったから国民公園にしたって聞いた事がある」
「趣味で出来る規模じゃないだろこれ」
意外と趣味人なんだな魔王って。
一見ふざけっぱなしのピエロに思えるけど、部下想いでもあるし、民に対しても圧政を強いるどころか平和その物。言動とは裏腹にまともな奴だ。
「御苑西側のバラ園に行きましょ。確か今、ムーンローズの展示やってるのよ」
「ムーンローズ、珍しい青い薔薇だったか。薔薇好きなんだ」
「別に好きじゃないわよ。あんなトゲトゲの花誰が好むの?」
文句を言っているけど、気分は悪くならない。今日のシラヌイはとてもとっつきやすい。
なぜなら、尻尾で全てがばればれだから。
言葉とは裏腹に、彼女の尻尾は犬のようにブンブン揺れている。あの様子だと、花の中でも薔薇が一番好きなんだろう。
待ち合わせ場所でも、僕が来るなり尻尾を大きく振っていた。一時間も前から楽しみにしてくれていたんだな。
……少なくとも、好意は持ってくれているんだよな。でもそれが恋愛感情なのか、それとも親愛の情なのか。そこまでは分からない。
聞いてみたいけど、答えが恐くて言い出せない。胸がもやついて、喉の奥が苦しくなるな。
「なぁによ? なんか文句あんの?」
「いや、可愛いなと思ってただけだよ」
「ふぁっ?」
今度は尻尾がピンと立った。凄く照れているみたいだ。普段がツンケンしているせいか、尻尾で内面が分かると凄く可愛いな。
……これ言ったら焼き殺されそうだし黙っておこう。
「ふざけた事ぬかしてんじゃないわよ、次同じ事言ったら骨まで焼き払ってやるからね」
「気を付けるよ」
本当に殺されるところだった。危ない危ない……。
そう言えば気になっていたけど、シラヌイが大事そうに持っているバケットはなんだろう。大きい物だし、重そうだな。
「それ持とうか?」
「ダメ!」
また尻尾を立てながら、シラヌイは強く拒否してくる。本気で嫌がっているみたいだ。
この様子だと、中身を聞くのもやめた方がいいか。
「これはその、とっておきというか何と言うか……ああもう、黙って付いてきなさい。これは上司命令よ!」
僕の腕を引き、シラヌイはバラ園へ急いだ。
暫くは、彼女の我儘に付き合った方がいいかな。僕としても、悪い気はしないから。
「楽しいな……こういうの」
前日まで凄く緊張していたけど、彼女と居るとそんなのも吹っ飛ぶくらい楽しくなる。シラヌイも同じ気持ちみたいだし、リージョンの言う通り、自然に過ごせばいいんだ。
胸のもやつきは、今の内は忘れていよう。
◇◇◇
<シラヌイ視点>
私が密かに楽しみにしていた、ムーンローズの展示は素晴らしい物だった。
数ある花の中でも、私は薔薇が好きだ。花びらの色が凄く鮮やかで瑞々しくて、香りも艶やかで。まるで生きた宝石みたい。
ムーンローズは最近発見された青い薔薇で、前からずっと見たいと思っていた。サファイアのような透き通った青の薔薇、神秘的だったわね。
……それはいいとして、あのバカどこ行った?
「はぐれてんじゃないわよ、全く……」
確か気とかで相手の位置を探れるらしいから、ほっといても勝手に来るとは思うけど……私を置いてけぼりにしてどこほっつき歩いてんだか。
「シラヌイ、待たせたね」
「あんたが勝手にはぐれたんでしょうが。何してたわけ?」
「売店を見かけてね、これを買いに行ってたんだ。受け取ってくれるか?」
ディックが手に押し付けてきたのは、手のひら大の黒い箱だ。
開けてみると、中には深紅の薔薇が収まっている。これ、プリザーブドフラワーだ。
「赤い薔薇が好きなんじゃないか? 他の薔薇の展示も見ていたけど、赤い薔薇を熱心に見ていたから」
「……あんたねぇ、よくまぁそう細かく見てるもんだわ。何? 私を監視でもしてるわけ?」
「そう言うわけじゃないけど」
「ま、でもいいわよ。折角あんたが買ったんだし、ありがたく貰っといてあげるわ。余計な荷物が増えたけど、突っ返したら空気読めない感じだしさぁ」
こんなの貰っても嬉しくもなんともないけど、無下に扱ったら薔薇が可哀そうだし。あくまでも薔薇が可哀そうなだけで、こいつは何の関係もないし。
……こいつ、意識してこれ用意したわけじゃないわよね? 薔薇って色と本数で花言葉に違いが出るんだけど。おまけにプリザーブドフラワーに加工していた場合、余計な一言も加わるし。
一輪の赤い薔薇の意味、もし知った上でこれ渡してたら……。
「……あんた、薔薇の意味知ってる?」
「? いや、花言葉には疎くて。ただ母さんから、女には赤い薔薇を送る物だって言われた事があったし」
「……まぁそんな事だろうとは思ったわよ」
どうせマザコンの天然か。対して期待してなかったけど。って期待って何よ。自分でも馬鹿な事考えてんなぁ私。
「けど、シラヌイにそれを渡したいと思ったのは僕の本音だ。それだけは分かってほしい」
「だぁから余計な一言加えんな!」
蹴っ飛ばすよ! 蹴っ飛ばした後に言うのもあれだけど!
人の心読んだみたいに的確な言葉返して! なんか見透かされてるような気がしてむかつくんですけど!
……これのお返しがこんなのだと思うと、気分も滅入ってくるなぁ。
『いい、シラヌイちゃん。これを出すタイミングはきちんと考えるのよ。御苑の植物園を回った後、さり気なく広場に誘って出しなさい。ムード作ってからの方が効果てきめんよ!』
メイライトはそう言っていたけど、本当なのかなぁ……。
「ほれ次。植物園行くよ」
御苑内には温室がある。魔王様が適当に育てた各地の樹木や植物を展示している場所だ。
雰囲気出すために鎧や剣も置かれていて、これがまたいい味出している。割と好きだな、こういう場所。
ディックはどうだろう。さっきから無言なもんで、ちょっと気になる。
「……どしたの?」
ディックはやけに険しい顔をしていた。しきりに辺りを見渡していて、何かを警戒しているようだった。
「なんかあった?」
「いや、なんでもない。多分気のせいだよ」
「……ふーん」
まぁ何かあったとしても私が居るし、気にする必要はないかな。
それに問題はこの後だ。温室から出たら、バケットを突き出してやる。ただそれだけの事なのに、妙に緊張してくる。
悟られないようにしよう。折角頑張ったんだから、こいつを驚かせてみたいし。
やばい、反応が気になりすぎて緊張してきた。お願いばれないで。
「一度休憩しようか。広場も近いし」
「そ、そーね」
なんで心の声バレてんだろう。空気読め過ぎて逆に恐いんだけど。
好都合と言えば好都合か。おかげでバケットを出すタイミングも計りやすい。
……大丈夫、何度も練習したし、何度も作り直したし。指を怪我してまで作ったんだから、文句言ったら焼き殺すからね。
広場の場所取ったし、よし、言い出すなら今だ……!
「あ、あのっ! これ!」
勇気を出してバケットを突き出す。と同時に……温室が爆発した。
爆風でディックもろともひっくり返ってしまった。おまけに温室から悲鳴が聞こえてくる。
「何、これ。一体何が……!」
温室から無数の触手が生えてきている。他にも種子が弾丸のように飛んできたり、急激に成長して大木に育ったり、異常事態が起こっている。
「何よこれ……いや、それより避難させるわよ」
「ああ、急ごう!」
被害を出す前に対処しないと、四天王の名折れ。早急に避難を進めていると、
『あーはっはっは! 素晴らしい、素晴らしいぞこの効き目!』
温室から、高笑いが聞こえてきた。
※赤いバラの花言葉は「あなたを愛しています」。一輪のバラの意味は「一目惚れ」、「あなたしかいない」。
ディックの送ったプリザーブドフラワーは、「貴女だけを愛しています」という意味になります。
さらにプリザードフラワーには永遠に、という意味もあるので、一輪のプリザードローズは「永遠に貴女だけを愛しています」になりますね。
0
お気に入りに追加
3,382
あなたにおすすめの小説
Sランク冒険者の受付嬢
おすし
ファンタジー
王都の中心街にある冒険者ギルド《ラウト・ハーヴ》は、王国最大のギルドで登録冒険者数も依頼数もNo.1と実績のあるギルドだ。
だがそんなギルドには1つの噂があった。それは、『あのギルドにはとてつもなく強い受付嬢』がいる、と。
そんな噂を耳にしてギルドに行けば、受付には1人の綺麗な銀髪をもつ受付嬢がいてー。
「こんにちは、ご用件は何でしょうか?」
その受付嬢は、今日もギルドで静かに仕事をこなしているようです。
これは、最強冒険者でもあるギルドの受付嬢の物語。
※ほのぼので、日常:バトル=2:1くらいにするつもりです。
※前のやつの改訂版です
※一章あたり約10話です。文字数は1話につき1500〜2500くらい。
三十歳、アレだと魔法使いになれるはずが、異世界転生したら"イケメンエルフ"になりました。
にのまえ
ファンタジー
フツメンの俺は誕生日を迎え三十となったとき、事故にあい、異世界に転生してエルフに生まれ変わった。
やった!
両親は美男美女!
魔法、イケメン、長寿、森の精霊と呼ばれるエルフ。
幼少期、森の中で幸せに暮らしていたのだが……
【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
巻き込まれ召喚・途中下車~幼女神の加護でチート?
サクラ近衛将監
ファンタジー
商社勤務の社会人一年生リューマが、偶然、勇者候補のヤンキーな連中の近くに居たことから、一緒に巻き込まれて異世界へ強制的に召喚された。万が一そのまま召喚されれば勇者候補ではないために何の力も与えられず悲惨な結末を迎える恐れが多分にあったのだが、その召喚に気づいた被召喚側世界(地球)の神様と召喚側世界(異世界)の神様である幼女神のお陰で助けられて、一旦狭間の世界に留め置かれ、改めて幼女神の加護等を貰ってから、異世界ではあるものの召喚場所とは異なる場所に無事に転移を果たすことができた。リューマは、幼女神の加護と付与された能力のおかげでチートな成長が促され、紆余曲折はありながらも異世界生活を満喫するために生きて行くことになる。
*この作品は「カクヨム」様にも投稿しています。
**週1(土曜日午後9時)の投稿を予定しています。**
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
【完結】すっぽんじゃなくて太陽の女神です
土広真丘
ファンタジー
三千年の歴史を誇る神千皇国の皇帝家に生まれた日香。
皇帝家は神の末裔であり、一部の者は先祖返りを起こして神の力に目覚める。
月の女神として覚醒した双子の姉・月香と比較され、未覚醒の日香は無能のすっぽんと揶揄されている。
しかし実は、日香は初代皇帝以来の三千年振りとなる太陽の女神だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる