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5話 牢獄より愛をこめて。
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<シラヌイ視点>
「ごちそうさま」
私は丁度、朝食を食べ終えた所だ。
ソユーズのサンドイッチを食べてから、私はクッキーを受け付けなくなった。サンドイッチが美味しすぎたせいか、クッキーがまずく感じて食べられなくなってしまったのだ。
……最近の魔王軍は舌が肥えているらしく、支給されている非常食も餓死寸前にならないと口にしない者が多いらしい。魔王様も対策に頭を悩ませている所だ。
「でも、美味しいからいっか。気持ちもなんだか軽いし」
カキフライサンドを食べた後、私は思い切り泣いてしまった。
久しぶりに美味しい物を食べたせいだろうか。今までため込んでいた不安や苦痛が一気に噴き出してきて、涙が止まらなかったのだ。
でも号泣した後、胸の中がすっきりした。また頑張ろうって力が湧いて、元気も出てきた。
「ここ最近、体調もいいものね。そのせいか仕事の掃けもスムーズだし」
気に食わない事があるとすれば……ソユーズとメイライトの助けを受けてしまったって事かしら。
私は貸しを作るのが嫌いだ。ここ最近体の調子がいいのは他でもない二人のお陰だし、どうにかして貸しを清算しないと気が済まない。
ただ、もう一つ何か、裏があるような気がしてならない。
あの二人の思い付きにしては、あまりに気が回りすぎている。いくら私より余裕があると言っても四天王、それなりに忙しい立場にある。
そんな奴が、あんなたった一人の事を気遣った事を思いつくだろうか。
「私はどうにも思えないのよね……なんかこう、別の誰かが動いている気配を感じるのだけど、うーん……」
今は考えても仕方ないか。とりあえず、今日の仕事をこなすとしよう。
◇◇◇
そんなこんなで、一週間が過ぎていた。
この所、私の周りでは不思議な事ばかりが起こっていた。
部下達が随分明るく挨拶してくれるようになって、職場の雰囲気が妙に上向いているのだ。彼ら曰く、険が取れて話しやすくなったとの事。
言われてみれば、前は確かに目の下に隈を作って、寝不足からくる頭痛で常にしかめっ面、髪も手入れを怠ってぼっさぼさ……近づきがたい空気を纏っていたと思う。
ソユーズやメイライト、リージョンから妙に気の利く差し入れを贈られる事も多くなった。
気が安らぐお香だったり、安眠できる抱き枕だったり、お風呂に入れると効果がある薬草だったり。他にも部下からいくつか貰っていた。
おかげで生活習慣も大きく変わった。作業効率が上がって睡眠時間が確保できるようになったし、食事もきちんととれるようになった。自分が劇的に健康になっているのも実感している。
「……上手く行きすぎて逆に不気味ね」
慎重すぎる性格ゆえか、事が上手く行っている時程警戒してしまう。私の知らない所で、何か不愉快な事が起こっているんじゃないか。そう勘ぐってしまう。
「そもそも誰よ、連中にアイディアを送っているの」
差し入れは絶対誰かの入れ知恵だ。なので出所を探るべく、四天王の動向を探るとしよう。
と言っても、私は相手の動きを探る魔法が使えないから、地道に付け回すしか手段がない。部下は絶対連中とグルだ、あてにならない。
仕事の合間合間を縫って、必死こいて同僚達の動きを探っていると、ようやく動きを掴めた。
ソユーズとメイライトが地下牢へ入っていく姿を見つけたのだ。最高幹部の二人が同時に地下牢へ行くなんて、不自然極まりない。
「と言うか、あそこに収監されているのって確か……」
二人に気付かれないよう、私は息を殺して地下牢の階段を下った。
◇◇◇
<ディック視点>
この所、四天王がよく顔を出してくる。
僕はそう思いながら、やってきたソユーズとメイライトを見やった。
足しげく通ってくるせいか、最近は彼らと妙に打ち解けつつある。話してみると案外気さくな連中で、フェイス達よりもずっと優しい性格の持ち主だ。
奇しくも、共通の話題がある事だしな。
「またシラヌイの事か?」
「そうなのよぉディックちゃん。アイディアのお礼に近況報告もしてあげたいしぃ」
「……お前のお陰で、シラヌイは元気になりつつある。幾度も我らの話に耳を傾け、感謝する」
「別に礼を言われる事じゃない、僕がしたい事だからな」
それに三人からシラヌイの事を聞く度に、ますます彼女に興味を持てた。何しろ、聞けば聞く程母さんにそっくりだから。
牡蛎が好きで、白樺のお香が好きで、抱き枕で寝るのが好きで、薬草風呂が好きで……全部母さんが大好きだった物ばかりだ。
ここまで似ていると、まるで母さんが転生したみたいだ。
母さんが居なくなってから僕の世界はずっと灰色だった。でもシラヌイの力になる度に、僕の世界は牢獄の中に居ながら明るくなっていた。
牢を隔てて、母さんと一緒にいるような気がするから。
「他に母さ……シラヌイの事で出来る事はあるか。なんでも言ってくれ」
「今お母さんって言いかけたでしょう。そんなに好きなのねぇ」
「……そうだな、僕にとって母さんは絶対だから。母さんの事だけは、譲れないんだ」
「……なぜ母に執着する?」
「好きな事に理由が必要なのか?」
母さんが好きな事は、そんなにおかしいのか? 別に、好きな人だから好きなだけだ。それ以上に言葉はいらないだろう。
「母さんは僕の心の支えだ。強くなったのも、沢山の知恵を付けたのも、全部母さんのためなんだ。殺し屋になったのも、母さんの病気を治す金を手に入れるためだったから」
「まぁ。ここまで愛されたら、お母様も喜ぶでしょうねぇ」
「そう言ってくれると嬉しいよ。僕にとって、母さん以上の女性は居ないからな」
「……流石に行きすぎな気もするがな」
「何とでも言ってくれ。これはもう、僕にとって譲る事の出来ない軸なのだから。だから、シラヌイに出来る事があれば教えてくれ。彼女に尽くしていると、母さんと一緒だった頃を思い出すから」
「誰があんたの母さんだって?」
地下牢にシラヌイの声が響いた。
驚き、入り口を見やると……そこには腕を組んで、立腹しているシラヌイが。
「最近、妙に気の利く差し入れが多いと思ったら……あんたの入れ知恵だったわけね」
シラヌイは荒々しく歩み寄ると、牢を強く殴りつけた。
「気色悪いのよ。何かにつけて母さん母さん……私はあんたの母親じゃない、見ず知らずの男からわけわからない施しを受けて、胸糞悪い。それに何、私はそんな哀れまれる程惨めに見える? そう言う上から目線も気に食わないわ」
「……そんなつもりじゃ」
「煩い。もう私に関わらないで」
シラヌイは酷く怒った様子で出て行ってしまう。……気持ち悪いか、そう言われても仕方がない。面識のない男から贈り物が届くなんて、不気味だよな。
俺は彼女に母さんの影を追っていたからな。考えてみれば、失礼な話だ。シラヌイの事を考えず、独りよがりになっていたか。
「あらあらまぁまぁ、ごめんなさいねぇ。シラヌイちゃんってばプライド高いからぁ」
「……気にする事はない。責任は我らにある」
僕をフォローしてくれる魔王四天王。敵に対してなんて優しい連中だ、なんで人間滅ぼそうなんて物騒な事考えてんだこいつら。人間よりも良心的すぎるだろうが。
「……シラヌイのフォローは我らがしておこう、深く気にする必要はない。貴様がしてきた事は、決して間違っていない」
「だけど……」
「そうねぇ……頭を出しなさい」
言われた通りに頭を差し出すと、メイライトの手が伸びてくる。そのまま撫でられ、思わず飛び退った。
「なんだ? どうしていきなり」
「あら、お母様からよく撫でて貰ってたんでしょう。だからサービス♡」
サービスって、これはまた随分と受け入れられたものだな。
……出来る事ならシラヌイに撫でて貰いたかったが、あの様子じゃもう絶望的だろうな。
◇◇◇
<シラヌイ視点>
「全く、腹の立つ!」
私は壁を蹴り、怒りを発散していた。
今まで連中がしてきたのは、あのディックとか言う奴の入れ知恵だったんだ。
敵に情けをかけられるなんて、私の中で最悪の屈辱だ。私はそんなに惨めか? ふざけるんじゃない。
「おまけに私に母親の影を求めてるし……ああもう気持ち悪い!」
「随分ヒステリックだな、シラヌイ」
壁を殴っていると、リージョンが手を止めてきた。
我に返ると、手がボロボロになっている事に気付く。よっぽど強く殴りつけていたみたいね。
「何があったのか話してみろ、それだけでも違うぞ」
「実は……」
ディックに感じた憤りをリージョンにぶつけてみた。マザコン拗らせて気持ち悪いだの、私を母親みたいに思っていて気分が悪いだの。とにかくぶちまけるだけ不満をぶちまけてみた。
「成程な。それでディックが気に入らないと」
「ディックだけじゃなくて、メイライトとソユーズも気に入らないわ。あのマザコンとグルになって私を馬鹿にして……ふざけるのも大概にしなさい!」
「奴とグルになっていたのは俺も含まれるんだが?」
「あ」
そうだった。流れで忘れてたけど、リージョンもディックから入れ知恵されてたんだった。
「勢い任せに捲し立てるのはお前の悪い癖だな。人から施しを受けるのが嫌いなシラヌイだ、我慢ならない気持ちは分かる。ただ、奴がもたらした物をよく考えてみるといい」
「ん……」
いやまぁ、あいつが悪い事をしたかと言われると、困ってしまう。
ディックが三人を通して差し入れたおかげで、体調はかなり良くなっている。痛い所もないし、ストレスも大分減っている。以前に比べて、生活が上手くいっているのは確かだ。
……冷静に考えれば、あいつを怒るのは筋違いだって分かる。でもやっぱり、私にもプライドがある。
勝手に母親と姿を重ねられても、こっちは迷惑なだけなのよ。
「やっぱり認められないし、認めたくない。私は魔王四天王よ、それが人間如きに情けをかけられるなんて、末代までの恥だわ」
リージョンを押しのけ、部屋に戻る。もうディックの事なんて、考えるのやめましょう。
「ごちそうさま」
私は丁度、朝食を食べ終えた所だ。
ソユーズのサンドイッチを食べてから、私はクッキーを受け付けなくなった。サンドイッチが美味しすぎたせいか、クッキーがまずく感じて食べられなくなってしまったのだ。
……最近の魔王軍は舌が肥えているらしく、支給されている非常食も餓死寸前にならないと口にしない者が多いらしい。魔王様も対策に頭を悩ませている所だ。
「でも、美味しいからいっか。気持ちもなんだか軽いし」
カキフライサンドを食べた後、私は思い切り泣いてしまった。
久しぶりに美味しい物を食べたせいだろうか。今までため込んでいた不安や苦痛が一気に噴き出してきて、涙が止まらなかったのだ。
でも号泣した後、胸の中がすっきりした。また頑張ろうって力が湧いて、元気も出てきた。
「ここ最近、体調もいいものね。そのせいか仕事の掃けもスムーズだし」
気に食わない事があるとすれば……ソユーズとメイライトの助けを受けてしまったって事かしら。
私は貸しを作るのが嫌いだ。ここ最近体の調子がいいのは他でもない二人のお陰だし、どうにかして貸しを清算しないと気が済まない。
ただ、もう一つ何か、裏があるような気がしてならない。
あの二人の思い付きにしては、あまりに気が回りすぎている。いくら私より余裕があると言っても四天王、それなりに忙しい立場にある。
そんな奴が、あんなたった一人の事を気遣った事を思いつくだろうか。
「私はどうにも思えないのよね……なんかこう、別の誰かが動いている気配を感じるのだけど、うーん……」
今は考えても仕方ないか。とりあえず、今日の仕事をこなすとしよう。
◇◇◇
そんなこんなで、一週間が過ぎていた。
この所、私の周りでは不思議な事ばかりが起こっていた。
部下達が随分明るく挨拶してくれるようになって、職場の雰囲気が妙に上向いているのだ。彼ら曰く、険が取れて話しやすくなったとの事。
言われてみれば、前は確かに目の下に隈を作って、寝不足からくる頭痛で常にしかめっ面、髪も手入れを怠ってぼっさぼさ……近づきがたい空気を纏っていたと思う。
ソユーズやメイライト、リージョンから妙に気の利く差し入れを贈られる事も多くなった。
気が安らぐお香だったり、安眠できる抱き枕だったり、お風呂に入れると効果がある薬草だったり。他にも部下からいくつか貰っていた。
おかげで生活習慣も大きく変わった。作業効率が上がって睡眠時間が確保できるようになったし、食事もきちんととれるようになった。自分が劇的に健康になっているのも実感している。
「……上手く行きすぎて逆に不気味ね」
慎重すぎる性格ゆえか、事が上手く行っている時程警戒してしまう。私の知らない所で、何か不愉快な事が起こっているんじゃないか。そう勘ぐってしまう。
「そもそも誰よ、連中にアイディアを送っているの」
差し入れは絶対誰かの入れ知恵だ。なので出所を探るべく、四天王の動向を探るとしよう。
と言っても、私は相手の動きを探る魔法が使えないから、地道に付け回すしか手段がない。部下は絶対連中とグルだ、あてにならない。
仕事の合間合間を縫って、必死こいて同僚達の動きを探っていると、ようやく動きを掴めた。
ソユーズとメイライトが地下牢へ入っていく姿を見つけたのだ。最高幹部の二人が同時に地下牢へ行くなんて、不自然極まりない。
「と言うか、あそこに収監されているのって確か……」
二人に気付かれないよう、私は息を殺して地下牢の階段を下った。
◇◇◇
<ディック視点>
この所、四天王がよく顔を出してくる。
僕はそう思いながら、やってきたソユーズとメイライトを見やった。
足しげく通ってくるせいか、最近は彼らと妙に打ち解けつつある。話してみると案外気さくな連中で、フェイス達よりもずっと優しい性格の持ち主だ。
奇しくも、共通の話題がある事だしな。
「またシラヌイの事か?」
「そうなのよぉディックちゃん。アイディアのお礼に近況報告もしてあげたいしぃ」
「……お前のお陰で、シラヌイは元気になりつつある。幾度も我らの話に耳を傾け、感謝する」
「別に礼を言われる事じゃない、僕がしたい事だからな」
それに三人からシラヌイの事を聞く度に、ますます彼女に興味を持てた。何しろ、聞けば聞く程母さんにそっくりだから。
牡蛎が好きで、白樺のお香が好きで、抱き枕で寝るのが好きで、薬草風呂が好きで……全部母さんが大好きだった物ばかりだ。
ここまで似ていると、まるで母さんが転生したみたいだ。
母さんが居なくなってから僕の世界はずっと灰色だった。でもシラヌイの力になる度に、僕の世界は牢獄の中に居ながら明るくなっていた。
牢を隔てて、母さんと一緒にいるような気がするから。
「他に母さ……シラヌイの事で出来る事はあるか。なんでも言ってくれ」
「今お母さんって言いかけたでしょう。そんなに好きなのねぇ」
「……そうだな、僕にとって母さんは絶対だから。母さんの事だけは、譲れないんだ」
「……なぜ母に執着する?」
「好きな事に理由が必要なのか?」
母さんが好きな事は、そんなにおかしいのか? 別に、好きな人だから好きなだけだ。それ以上に言葉はいらないだろう。
「母さんは僕の心の支えだ。強くなったのも、沢山の知恵を付けたのも、全部母さんのためなんだ。殺し屋になったのも、母さんの病気を治す金を手に入れるためだったから」
「まぁ。ここまで愛されたら、お母様も喜ぶでしょうねぇ」
「そう言ってくれると嬉しいよ。僕にとって、母さん以上の女性は居ないからな」
「……流石に行きすぎな気もするがな」
「何とでも言ってくれ。これはもう、僕にとって譲る事の出来ない軸なのだから。だから、シラヌイに出来る事があれば教えてくれ。彼女に尽くしていると、母さんと一緒だった頃を思い出すから」
「誰があんたの母さんだって?」
地下牢にシラヌイの声が響いた。
驚き、入り口を見やると……そこには腕を組んで、立腹しているシラヌイが。
「最近、妙に気の利く差し入れが多いと思ったら……あんたの入れ知恵だったわけね」
シラヌイは荒々しく歩み寄ると、牢を強く殴りつけた。
「気色悪いのよ。何かにつけて母さん母さん……私はあんたの母親じゃない、見ず知らずの男からわけわからない施しを受けて、胸糞悪い。それに何、私はそんな哀れまれる程惨めに見える? そう言う上から目線も気に食わないわ」
「……そんなつもりじゃ」
「煩い。もう私に関わらないで」
シラヌイは酷く怒った様子で出て行ってしまう。……気持ち悪いか、そう言われても仕方がない。面識のない男から贈り物が届くなんて、不気味だよな。
俺は彼女に母さんの影を追っていたからな。考えてみれば、失礼な話だ。シラヌイの事を考えず、独りよがりになっていたか。
「あらあらまぁまぁ、ごめんなさいねぇ。シラヌイちゃんってばプライド高いからぁ」
「……気にする事はない。責任は我らにある」
僕をフォローしてくれる魔王四天王。敵に対してなんて優しい連中だ、なんで人間滅ぼそうなんて物騒な事考えてんだこいつら。人間よりも良心的すぎるだろうが。
「……シラヌイのフォローは我らがしておこう、深く気にする必要はない。貴様がしてきた事は、決して間違っていない」
「だけど……」
「そうねぇ……頭を出しなさい」
言われた通りに頭を差し出すと、メイライトの手が伸びてくる。そのまま撫でられ、思わず飛び退った。
「なんだ? どうしていきなり」
「あら、お母様からよく撫でて貰ってたんでしょう。だからサービス♡」
サービスって、これはまた随分と受け入れられたものだな。
……出来る事ならシラヌイに撫でて貰いたかったが、あの様子じゃもう絶望的だろうな。
◇◇◇
<シラヌイ視点>
「全く、腹の立つ!」
私は壁を蹴り、怒りを発散していた。
今まで連中がしてきたのは、あのディックとか言う奴の入れ知恵だったんだ。
敵に情けをかけられるなんて、私の中で最悪の屈辱だ。私はそんなに惨めか? ふざけるんじゃない。
「おまけに私に母親の影を求めてるし……ああもう気持ち悪い!」
「随分ヒステリックだな、シラヌイ」
壁を殴っていると、リージョンが手を止めてきた。
我に返ると、手がボロボロになっている事に気付く。よっぽど強く殴りつけていたみたいね。
「何があったのか話してみろ、それだけでも違うぞ」
「実は……」
ディックに感じた憤りをリージョンにぶつけてみた。マザコン拗らせて気持ち悪いだの、私を母親みたいに思っていて気分が悪いだの。とにかくぶちまけるだけ不満をぶちまけてみた。
「成程な。それでディックが気に入らないと」
「ディックだけじゃなくて、メイライトとソユーズも気に入らないわ。あのマザコンとグルになって私を馬鹿にして……ふざけるのも大概にしなさい!」
「奴とグルになっていたのは俺も含まれるんだが?」
「あ」
そうだった。流れで忘れてたけど、リージョンもディックから入れ知恵されてたんだった。
「勢い任せに捲し立てるのはお前の悪い癖だな。人から施しを受けるのが嫌いなシラヌイだ、我慢ならない気持ちは分かる。ただ、奴がもたらした物をよく考えてみるといい」
「ん……」
いやまぁ、あいつが悪い事をしたかと言われると、困ってしまう。
ディックが三人を通して差し入れたおかげで、体調はかなり良くなっている。痛い所もないし、ストレスも大分減っている。以前に比べて、生活が上手くいっているのは確かだ。
……冷静に考えれば、あいつを怒るのは筋違いだって分かる。でもやっぱり、私にもプライドがある。
勝手に母親と姿を重ねられても、こっちは迷惑なだけなのよ。
「やっぱり認められないし、認めたくない。私は魔王四天王よ、それが人間如きに情けをかけられるなんて、末代までの恥だわ」
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