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20話 脳筋おっさんとポンコツ吸血鬼

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 ヘイズ騒動が終わった翌日、エストはマルクと一緒に、再び故郷の跡地を訪れていた。仇を討った事や、自分は大丈夫だと、両親や友人達に報告するためだ。
 マルクと共に両手を合わせ、石碑に祈りを捧げる。お父様、お母様、皆様の無念を、この方が晴らしてくださいましたわ。

「話せたかい?」
「ええ、沢山。また時々、ここへ運んでもらっても?」
「任せておけ、いつでもひとっ跳びだ。はっはっは!」

 マルクは豪快に笑った。思えば彼の笑い声には、かなり助けられたっけ。
 帰り道もマルクのジャンプ力であっという間だ。無論顔が風圧でなまはげみたいになってしまったけど。
 いい人なのは分かってるけど、この有り余るパワー……どうにかならんもんか。やる事成す事脳筋すぎんだよこいつ。

「なんでも筋肉任せに解決する、鋼鬼の異名も納得ですわね」
「褒められて悪い気はせんな、はっはっは!」
「皮肉ですわよ皮肉。マジで無敵ですわね貴方」

 エストはため息を吐いて、空を仰いだ。
 復讐が終わった後って、こんなに虚しいものなんだな。
 何とも言えない喪失感だった。あれほどヘイズに怒りや憎しみを抱いていたのに、それが解決すると胸に大きな穴が空いたような虚無感があった。

 でもいつまでも呆けていてはいけない。ぼんやりしていても、過去は戻れないし戻ってこない。次に自分が何をするべきなのか、今一度見つめ直さないと。

「冒険者ねぇ……復讐のために始めた仕事ですけど、目的を果たした今となってはやる理由、無くなっちゃいましたわ」
「確かにそうだな。何かやりたい事は? 転職を希望するなら協力するぞ」
「んー……いえ、もう少し冒険者を続けてみますわ。悪人とか魔物とかを合法的にぶちのめしていい仕事ですから、ストレス解消になりますし。誰かの役に立つのも、嫌いじゃありませんわ」

 それにエストは、幼き頃読んだ童話で、冒険者に対しちょっぴり憧れていた。
 危険なクエストを華麗に解決した、物語の主人公のような生き方。危険で不安定で、お嬢様とは真逆の生活だが、長い人生の一時くらい、そんなスリルに身を投じてみてもいいだろう。

「何より貴方への報酬の支払いもありますし、お金を稼がなくては」
「支払いなんぞいいさ、生活指導などで報酬分以上の働きをしてくれたからな。これ以上もらっては罰が当たる」
「そうはいきませんわよ、高位種族であるヴァンパイアの誇りが許しませんわ。必ずお支払いいたしますから、無理やりにでも貰ってもらいますわよ」

「分かった、それならば受け取るしかあるまい。冒険者を続けるのなら、まだ俺の隊に入ってくれるのか?」
「じゃねーと私血が飲めねーですわよ。まだ呪いが解けてないの、分かってるでしょうに」

 自爆でかけてしまった従属の呪いは、未だエストを蝕んでいる。もうしばらくの間は、この男のくっそ不味い血を分けてもらわねばならないのだ。

「ならば、君の呪いが解けるまで、それと君がやりたい事を見つけるまで、俺が師事を施そう。俺の知っている事、教えられる事を、出来る限り君に伝えよう」
「Sランクの弟子……まぁ、特に断る理由もありませんし、鋼鬼のマルクの弟子の肩書も何かと便利でしょう。どうか、お願いしますわ」

 なんて話していたら、血を摂取する時間だ。エストはものっすごくいやーな顔をして、マルクに血を要求した。
 一滴、一滴飲み下せばいいんだ。これに耐えればいいんだ。念仏のように言い聞かせ、一滴舐めた。

「くぁwせdrftgyふじこlp!?!?!?!?」

 奇怪な悲鳴と共にどっからともなく帽子を出してつま先立ち! ビートを刻んで華麗なスピンからゼログラビティを披露! ムーンウォークからパントマイムに繋げるムーヴはまさしくキング・オブ・ポップのパフォーマンスだ!
 周りの人達拍手喝采! おひねりがあちこちから飛んできた! この道でも十分食っていけるぞこのお嬢様。

「ってぇ! 見せもんじゃねーですわよクソがっ! なんじゃあああこりゃああああ!!! 味が出会った当初に逆もどりんぐじゃねーかですわよっ!?」
「昨日久しぶりに本気を出したもんだから、流石に疲れが出ててなぁ。加えて久方ぶりに暴飲暴食したのも相まって、一晩で不健康に逆戻りだ。はっはっは!」

「歳ですのっ! やっぱ歳だから無理が体にダイレクトアタックしますのっ!? ふざけんじゃねーですわよこれまでの私の努力を返しやがれですわやっぱダメな奴はいくら頑張った所でダメなんですわこんちくしょうがああああああああ!!」

 エストは激怒した。同時に号泣した。このオッサン、どんだけ健康にしようとも、それを上回る速度で不健康になりやがる。
 こんな調子じゃ、美味しい血が飲めるようになるのはいつになる事やら……その前に殺されてまうわ!

「千里の道も一歩からと言うからな、また健康になるべく努力していくとしよう! はっはっは!」
「三歩進んだ所で百歩下がってんですわよ! 貴方って人はぁほんとにもぉぉぉぉぉ!」

 エストは頭を抱えて地団太を踏んだ。復讐の後の感傷に浸る間もなく、エストに次の試練が訪れていた。
 マルクの健康状態を見直して、血を美味しくする。それと同時にこのこんがらがった呪いを解除する方法を探し出す。彼女の命が掛かった、最大のミッションだ。

「む、伝書鳩か」

 なんて折に舞い降りた、ギルドからの伝令。エストは嫌な予感がした。

「ふむ、緊急クエストだ。俺達でなければ片付けられない案件が出たから、早速行くとしよう」
「あーくそまたまた不健康の元がぁー……キターーーーーー!(ヤケクソ) ええいこうなったらとっとと終わらせますわよ! さっさと終わらせりゃーいーんですわよくそったらぁ!」
「元気が良くていい事だ、はっはっはっはっは!」

 どったんばったんしながらも、エストとマルクはクエストへ向かった。
 脳筋おっさんとポンコツ吸血鬼の冒険者ライフは、まだまだ続くようである。
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