物理最強筋肉おっさん冒険者、吸血鬼を拾う~貴方の血ぃくっそまじぃですわ!?仕方ぬぇーから私がお世話して美味しい血にして差し上げますわよ!~

歩く、歩く。

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17話 嵐の前の静けさ

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 帰宅すると、丁度ウィードとセラも戻ってきていた。
 マルクを見るなり二人はサムズアップした。首尾よく事を済ませてくれたようだ。

「撒き餌はすませたぜ旦那、後はドブネズミがかかるのを待つだけだ」
「ただ、この程度の餌で釣れるでしょうか?」
「釣れるさ。後の事は俺で対処する、二人は周辺に人を近づけさせないようにしてくれ」

 二人は頷いた。ヘイズと対峙するのはマルクとエストだけで行く。ギルドや衛兵にも事情を説明し、バックアップに回ってもらっている。
 エストのために、大勢の人が味方になってくれていた。

「こうも沢山の人が動いてくれるなんて。やっぱりSランクって信用あるのですわね」
「漫然と仕事をしているわけじゃないからな、各方面へ太いパイプを作っているのさ」

 ただ、彼らは戦力としてカウントしていない。あくまでも、事後処理として手伝ってもらうために協力を呼び掛けていた。
 ヘイズを前に数を並べるのは危険だ。レベルが違いすぎると言うのもあるが、相手が技や能力を奪う力を持つ以上、余計な能力を与えるだけになるし、ヴァンパイアの特性上回復アイテムを用意するも同然。実際に戦うのは、マルク一人だけだ。

 ともあれ、これでマルクが暴れる土台が出来た。あとはヘイズが狙い通りに動いてくれるのを待つのみ。ギルドと衛兵がヘイズをマークしているから、動きがあればすぐに知らせが来る。

 改めて、エストはウィードとセラに頭を下げた。

「お二人もご協力して頂いて、感謝しますわ」
「いいっていいって! 君みたいな美人さんのためなら何だってやるよ!」
「にしても、素直に礼を言うなんて。明日はカエルでも降ってくるんじゃないかしら」

「私だってちゃんと感謝を示す礼節くらいありますわ。そう、まさしくヴァンパイアの誇り、ノブレスオブリージュと言う奴ですわー!」
「なんかすんごくムカつくけど、まぁいいか」

 調子を取り戻したエストに二人も安心したようだ。マルクは三人を優しく見守ってから、拳を握りしめた。
 ……ヘイズはここ最近の中では、手に余る相手だ。実力は確実にSランク相当、普段の力加減じゃあ手間がかかってしまう。
 となれば久しぶりに、思いっきり暴力を振るうとしよう。

「……倫理無き、善意のみで動く狂人が相手か……」

 ヘイズ・J・リークには欲がない。名誉も、金も、支配にすら興味が無く、ただひたすらに「善行の結果」のみに焦点を当てて動いている。
 その過程で、どれほどの命が失われても顧みず、己の善意のみを押し付ける。多くの涙が流れても、その全てを踏み躙り、善意を免罪符としてエゴを貫き通す。

 ……ヘイズよ、お前の行いには、到底「善」を感じんな。

 確かに、その場限りであれば助かった者は多かろう。だがうちのウィードは鍛冶師が死んで大層悲しんでいた、他にもお前が起こした善行により、当事者まで悲しませたケースがあまりにも多すぎる。
 お前は単なる大量殺人犯に過ぎん。そのような奴をのさばらせては、より多くの悲劇が広がってしまう。必ずや、この鋼鬼のマルクがお前を止めて見せよう。

 マルクが深く集中するごとに、部屋の空気が重たくなっていく。穏やかな呼吸に反比例して、マルクの闘気が増していく。
 エストは戦慄した。マルクは普段温厚で、いつも笑顔を絶やさない。でも今のマルクは、見た事がないくらい怒った顔をしていて、体が震えるほどに恐かった。

「ヘイズを本気で殴るつもりね、久しぶりに見るわ、マルク様の本気」
「本気……え? 普段のあれの、上があるんですの?」
「当然よ、ヘイズを仕留めきれなかったのは、私達が居たせいでもあるの。いつもはあれで、相当加減しているんだから」
「もし旦那が本気で戦ってたら、俺達とっくに死んでたぜ。旦那が全力を出したら周囲がどうなるかわかったもんじゃないからな」

 エストは唖然とした。二人は小さく頷き合い、

「エストちゃん、これは優しさから伝えておく。旦那が戦闘をおっぱじめたら、すぐに逃げろ。間違っても加勢しようとしたり、見届けようなんて考えちゃだめだ」
「マルク様の本気は最早、戦闘どころか戦争ですらないわ。一言で言えば災害、それも世界が終わる規模のカタストロフィよ。近づいたら塵すら残らないわ」
「そ、そんなにですの……?」

 これまで、マルクのでたらめ具合はたくさん見てきた。どれもが常軌を逸しており、エストをいつも驚かせ続けていた。
 それ以上のでたらめを、マルクはやろうとしているのか?
 と、窓に鳥が舞い降りた。セラが鳥に括り付けられていた手紙を取ると、マルクは拳を鳴らした。

「捉えたか、どうやら、餌にかかったようだ」

 そう言うマルクはいつものような、穏やかな表情を見せていた。でも心には、爆発寸前の想いを蓄えている。肉体も筋肉が隆起して鋼のように硬くなり、一回り大きくなっていた。
 まるで、鬼だ。鋼の鬼だ。

「では行こう、君との約束を果たしに」
「ええ、よろしくお願いしますわ」

 鋼の鬼に連れられて、エストは怨敵の下へ向かった。人外の域に達した者、Sランク冒険者。その中の頂点に立つ男の本気がいかほどの物か。この時のエストはまだ、理解していなかった。
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