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129 マッチョさん、怒髪天をつく
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魔王は強かった。フィンさんが言っていた通り五人だから勝てたのだ。一人でも欠けていたら倒せなかっただろう。
魔王は私から距離を取り、量と速射ができる魔法を片っ端から発動させた。
私は守備を仲間に任せ、とにかく距離を詰めに行った。攻撃が当たっても弾かれる。だが、私たちの攻撃を杖で受けているのだ。攻撃を食らっても効いているようには見えないが、食らうこと自体がなにかしら蓄積されたダメージになっているはずだ。打ち続けていればいつかは魔力が切れる。もしくはこちらのスタミナ切れか。
「攻撃し続けてください!攻撃を受け続ければ身体強化魔法もいつかは切れます!」
無尽蔵に魔力があるわけでは無いということは封印方法から分かっている。
私が空腹を感じる程度の時間の激闘だったから、五時間程度だろう。誰も欠けずに戦えたのは運が良かっただけだ。
ついに魔王が片膝をついた。魔力が切れたのだ。
「・・・やれ。だが封印しても我は蘇るぞ!必ずな!」
ギリギリ間に合ったな。私以外の四人からは光が消えた。
「マッチョさん、今です!」
「マッチョ殿、頼む!」
「マッチョ、イケるニャ!」
「マッチョさん、お願いします!」
場の空気的に流されて封印しそうになったが、私は引っかかっているものがあった。
「魔王。あなたはどこから召還されたのですか?」
なぜ言葉が通じる?なぜ寿命や若さや健康が気になる?まるで人間のような思考法ではないか。
「・・・そんなことを聞く勇者は初めてだな。私は20XX年、グンマという異世界から召還された。」
魔王というのは役割であって仕事だ。
目の前で封印を待つこの相手は、魔法が使える召還された人間だ。
相手が人間ならばやりようがある。
「封印はしません。要は魔物が人間を襲わなければいいんです。」
なるほど。だから私が勇者なのか。だから私が召還されたのか。私はほんの少しのあいだ目をつむった。
「マッチョ、なにを言っているニャ!」
私は目を開き、意を決して言葉にした。
「私は魔王に筋トレを教えます。」
「マッチョ、本当になにを言っているニャー!」
ミャオさんの叫び声が洞窟にこだました。
「筋トレだと・・・正気か貴様・・・」
無論正気である。
「この世界を魔物で満たすなどという発想の人が正気とは思えません。人間が使えない土地に魔物も生きればいいのです。なぜ分け合おうとしないのですか?」
「欲しいものなど奪えばいいではないか。ここはそういう世界ぞ。」
なにか私をイラっとさせるものが魔王の言葉にはあった。なんだ?
「いいですか。争う理由も無いのに戦うのは自分に自信が無いからです。虚勢を張るのは自分というものを持てないからです。あなたには私と一緒に筋トレをしてもらいます。自分の肉体がより強靭に、より大きく、より筋肉質になれば、自信を持ち自分というものを確立できます。」
「肉体を強くしたいのであれば魔法を使えばいいではないか。我は魔王ぞ。」
またなにか私をイラっとさせるものを感じた。私は魔王の何にイライラしているのだ?
「私がいたら魔法も使えないですし魔力も回復しないでしょう。私の力はそういうもののはずです。筋トレに必要な栄養や道具は持ってきますので、一緒に理想の肉体を目指してみませんか?」
「栄養?ふん・・・貴様のような肉体の人間が言う栄養とは肉のことか?運ばずとも奪えばいいではないか。」
私の頭の中でなにか切れる音が聞こえた。
気づいたら私は魔王の顔面を全力でぶっ飛ばしていた。
私は大きく息を吸って叫んだ。
「いいか?よく聞け魔王よ!この世界では明日食べる食事にも困っている人間が大勢いるのだ。私もこの世界に来てからタンパク質が取れなくて苦労した!トレーニングの直後に飛ばされたのにタンパク質が無かったんだぞ!それがどれほどの苦痛だったのかお前には分かるまい!どれだけ多くの人間が関わり、どれだけ多くの情熱と時間と労力を持ってこの世界のタンパク質を増やしたと思っているのだ?肉を奪うだと?お前がやりたいのは戦争か?戦争だな、よし。お前には封印してくださいお願いしますなんでもしますからと地べたをはいずって懇願したくなるようなエグ目の厳しいサーキットトレーニングを考えてやる。常に全身筋肉痛で常に関節が熱を持ち常に呼吸が荒立って常に顔面蒼白になるような素晴らしいメニューだ。喜べ!肉体を徹底的に追い込むその感覚にただただ喜べ!そのダブついた脂肪も燃やし尽くせるだろう。体脂肪率40%以上だと?フザけるにもほどがある!30kgも脂肪を抱えた己の肉体に恥も感じないというのか!恥じろ!自分を自分たらしめるその肉体こそがお前の本性だ!己の内側にある澱が肉体の表面に出てしまっているのがお前のその姿なのだ!」
私はこの世界に来て初めて心の底から怒った。
肉を奪うなどトレーニー同士が殺しあう世界だ。そんなもの認めるワケにはいかない。
「マッチョさん・・・魔王は聞いてませんよ・・・」
「マッチョがさっき魔王をぶっ飛ばしたから気絶したまんまなんだニャー・・・」
魔王は私の話を聞いてもいなければ納得もしていないかもしれない。だが私はその場で魔王に筋トレを指導する決意をした。魔王が人間と似たような肉体であるならば、トレーニングの成果は必ず表れる。肉体を鍛え上げてさえいたら、あんなひねくれた感覚など持てなくなるはずだ。
魔王は私から距離を取り、量と速射ができる魔法を片っ端から発動させた。
私は守備を仲間に任せ、とにかく距離を詰めに行った。攻撃が当たっても弾かれる。だが、私たちの攻撃を杖で受けているのだ。攻撃を食らっても効いているようには見えないが、食らうこと自体がなにかしら蓄積されたダメージになっているはずだ。打ち続けていればいつかは魔力が切れる。もしくはこちらのスタミナ切れか。
「攻撃し続けてください!攻撃を受け続ければ身体強化魔法もいつかは切れます!」
無尽蔵に魔力があるわけでは無いということは封印方法から分かっている。
私が空腹を感じる程度の時間の激闘だったから、五時間程度だろう。誰も欠けずに戦えたのは運が良かっただけだ。
ついに魔王が片膝をついた。魔力が切れたのだ。
「・・・やれ。だが封印しても我は蘇るぞ!必ずな!」
ギリギリ間に合ったな。私以外の四人からは光が消えた。
「マッチョさん、今です!」
「マッチョ殿、頼む!」
「マッチョ、イケるニャ!」
「マッチョさん、お願いします!」
場の空気的に流されて封印しそうになったが、私は引っかかっているものがあった。
「魔王。あなたはどこから召還されたのですか?」
なぜ言葉が通じる?なぜ寿命や若さや健康が気になる?まるで人間のような思考法ではないか。
「・・・そんなことを聞く勇者は初めてだな。私は20XX年、グンマという異世界から召還された。」
魔王というのは役割であって仕事だ。
目の前で封印を待つこの相手は、魔法が使える召還された人間だ。
相手が人間ならばやりようがある。
「封印はしません。要は魔物が人間を襲わなければいいんです。」
なるほど。だから私が勇者なのか。だから私が召還されたのか。私はほんの少しのあいだ目をつむった。
「マッチョ、なにを言っているニャ!」
私は目を開き、意を決して言葉にした。
「私は魔王に筋トレを教えます。」
「マッチョ、本当になにを言っているニャー!」
ミャオさんの叫び声が洞窟にこだました。
「筋トレだと・・・正気か貴様・・・」
無論正気である。
「この世界を魔物で満たすなどという発想の人が正気とは思えません。人間が使えない土地に魔物も生きればいいのです。なぜ分け合おうとしないのですか?」
「欲しいものなど奪えばいいではないか。ここはそういう世界ぞ。」
なにか私をイラっとさせるものが魔王の言葉にはあった。なんだ?
「いいですか。争う理由も無いのに戦うのは自分に自信が無いからです。虚勢を張るのは自分というものを持てないからです。あなたには私と一緒に筋トレをしてもらいます。自分の肉体がより強靭に、より大きく、より筋肉質になれば、自信を持ち自分というものを確立できます。」
「肉体を強くしたいのであれば魔法を使えばいいではないか。我は魔王ぞ。」
またなにか私をイラっとさせるものを感じた。私は魔王の何にイライラしているのだ?
「私がいたら魔法も使えないですし魔力も回復しないでしょう。私の力はそういうもののはずです。筋トレに必要な栄養や道具は持ってきますので、一緒に理想の肉体を目指してみませんか?」
「栄養?ふん・・・貴様のような肉体の人間が言う栄養とは肉のことか?運ばずとも奪えばいいではないか。」
私の頭の中でなにか切れる音が聞こえた。
気づいたら私は魔王の顔面を全力でぶっ飛ばしていた。
私は大きく息を吸って叫んだ。
「いいか?よく聞け魔王よ!この世界では明日食べる食事にも困っている人間が大勢いるのだ。私もこの世界に来てからタンパク質が取れなくて苦労した!トレーニングの直後に飛ばされたのにタンパク質が無かったんだぞ!それがどれほどの苦痛だったのかお前には分かるまい!どれだけ多くの人間が関わり、どれだけ多くの情熱と時間と労力を持ってこの世界のタンパク質を増やしたと思っているのだ?肉を奪うだと?お前がやりたいのは戦争か?戦争だな、よし。お前には封印してくださいお願いしますなんでもしますからと地べたをはいずって懇願したくなるようなエグ目の厳しいサーキットトレーニングを考えてやる。常に全身筋肉痛で常に関節が熱を持ち常に呼吸が荒立って常に顔面蒼白になるような素晴らしいメニューだ。喜べ!肉体を徹底的に追い込むその感覚にただただ喜べ!そのダブついた脂肪も燃やし尽くせるだろう。体脂肪率40%以上だと?フザけるにもほどがある!30kgも脂肪を抱えた己の肉体に恥も感じないというのか!恥じろ!自分を自分たらしめるその肉体こそがお前の本性だ!己の内側にある澱が肉体の表面に出てしまっているのがお前のその姿なのだ!」
私はこの世界に来て初めて心の底から怒った。
肉を奪うなどトレーニー同士が殺しあう世界だ。そんなもの認めるワケにはいかない。
「マッチョさん・・・魔王は聞いてませんよ・・・」
「マッチョがさっき魔王をぶっ飛ばしたから気絶したまんまなんだニャー・・・」
魔王は私の話を聞いてもいなければ納得もしていないかもしれない。だが私はその場で魔王に筋トレを指導する決意をした。魔王が人間と似たような肉体であるならば、トレーニングの成果は必ず表れる。肉体を鍛え上げてさえいたら、あんなひねくれた感覚など持てなくなるはずだ。
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