異世界マッチョ

文字の大きさ
上 下
126 / 133

126 マッチョさん、移動する

しおりを挟む
 小さめの木をロキさんとジェイさんが切り倒し、大物は私が切り倒す。そして馬車を進める。時速数キロというところか。こっちの方が進軍の効率は多少良くなる。
 ひたすら木を切り倒し、馬車を引いて進む。日も暮れて森の中で夜を過ごすことになった。けっこう深い森だな。
 焚火をして暖を取る。昼間はそうでも無かったが、日が傾き始めると寒いのだ。
 「魔王のいる場所までたどり着けないとなると、道を整備してからやり直しですね。」
 食料が切れた状態で魔王と戦いたくは無い。勇者であっても食べなければいけないのだ。
 「明日からは狩りも少しやってみるニャ。森があるならたぶん食べられる生き物もいると思うんだニャー。フィンがいるからたくさん獲れそうだニャー。」
 「水場も探してみます。立派な木がたくさんある森ですから水も美味しいと思いますよ。」
 水と食料があるなら一応は生きていける場所だということか。
 「魔物、来ないニャー。夜になったら襲ってくると思ったんだけれどニャー。」
 「マッチョ殿に近づけないのではないのかな。勝てぬ相手に魔物は襲ってこないだろう。」
 それにしても・・・
 「初代人間王のパーティって、どうやって魔王のところまで行ったんでしょうかね?」
 私のように馬車を引いて移動したとしても、森で引っかかるはずだ。徒歩では補給ができない。馬では水と草が必要になる。みんな考え込んでしまった。
 「・・・徒歩か馬か・・・いずれにせよ魔王がいる場所に到着しても戦える状態だとは思えないな。」
 「マッチョさんのように、ずっと精霊の恩寵が使えたのであればみんなで走って魔王のところまで行けたかもしれませんね。」
 あー、という同意の声が漏れる。
 「ロキさんが言うように、本来は魔王のところへ行くまで精霊が助けてくれたのかもしれません。これもまた精霊が弱っているということなのでしょうか・・・おいたわしい・・・」
 そうか。なにもかも初代王の時代よりも不利になってしまっているのだな。
 今日の分の進捗を手紙にして私はハトを飛ばした。
 久しぶりによく動いた。疲労感はそうでもないが勇者になっても眠い時は眠い。
 私は火の番を他の人たちに任せて眠ることにした。やはり筋肉に良くないと分かっていることは、勇者になったといえども私にはできそうも無いのだ。

 朝食を摂り行軍を進める。
 ミャオさんとフィンさんは狩りに出た。三人で進めるところまで馬車を進めた。風景が変わった。樹木以外のなにかが見える。
 「マッチョさん!」
 やっと森を抜けた。
 茫漠とした岩地だ。気合いの入った樹木がいくつか岩地でも茂っているが、そもそも土となるものが無い。死んでいる土地だな。とても動物が住める場所ではない。
 「龍族の里の近くにある限界領域と同じような光景だな。生き物は住めぬだろう。」
 「リクトンさんという人は魔物のためにある場所のようだ、と言っていました。」
 「たしかにそういう感じがしますね。ふつうの生き物が住める場所には見えません。」
 障害物が無くなった。魔王のところまで馬車を引いて進めるな。
 「二人が帰って来たら一緒にお昼にしましょう。お茶の用意をしておきます。」
 準備中に二人が帰ってきた。顔色が悪い。
 「どうしたんですか?そんな真っ青になって・・・」
 「この森・・・おかしいニャ・・・」
 「動物が居ないんですよ。水場はあったのですが、飲めるものではありませんでした。樹木を生かすためだけの水です。」
 「これだけの樹木があっても、水がダメなら動物も住まぬか。」
 「・・・たぶんそういう事だけでは無いと思います。」
 「・・・どういう意味ですか?」
 「この森は時間をかけて作ったのだと思います。生き物がいない森なんて信じられませんよ。」
 フィンさんは誰が作ったのかまでは言わなかったが、勇者の全員がその言葉を理解した。
 魔王が勇者を足止めするための森をわざわざ作ったのだろう。魔王というのはそんなことまでやれてしまうようだ。初代王の時代には無かった天然の要塞というところか。

 昼食を摂って食休みもしっかり取り、私はまた馬車を引いた。
 道は無いが馬車を遮るものも無い。私は主にミャオさんの指示通りに走った。引いて走った方が乗っている人たちの負担も少ないのだろう。四人の勇者は私へ指示を出さない間はなにかと語り合っていた。故郷について、勇者という役割について、戦い方について、彼らが信じる精霊について、各種族への印象について、食事や生活習慣や家族について、伝えられている魔王の話について。たまに私も会話に参加した。馬車を引いて走っていてもたいして疲れないのでヒマなのだ。負荷が小さすぎてまったくトレーニングとしての体を成していない。
 ロキさんとジェイさんとは長い付き合いになるが、ミャオさんやフィンさんはそこまで長い付き合いでも無い。我々は一蓮托生である以上、相手をより理解しなくてはいけないのだ。ドロスさんの話によれば、フィンさんは後衛として弓に特化した戦い方を選んだそうだ。けん制役がミャオさんとフィンさん、中衛に長物使いのジェイさん、前衛は二人そろって斧を使うロキさんと私だ。本来なら全体を見渡せる後衛か中衛が指揮を出すべきなのだろうが、大精霊から私が指揮を学んでしまったので私が指揮をとることになってしまった。

 「マッチョ、速いニャー・・・魔王を封印したあとは、馬車を引いて大儲けできそうだニャー。」
 「この早さですと、明日には魔王のところに着きますよ。魔王が移動していなければですけれど。」
 「マッチョさん、そろそろ日も暮れます。適当なところで野営しましょう。」
 いい感じの高台を見つけた。私は馬車を静かに止め、勇者たちと火を囲み夕食を摂ることにした。
 「ハム、炙っても美味しいですね。」
 「この焼印がマッチョの背中なんだニャー。」
 にぎやかな食事が終わると、なんとなく皆の口数が少なくなってきた。誰かが焚火にさらにマキを加えた。マキが弾ける音がする。
 明日には魔王のところに到着する。ということは、この五人で過ごす時間はこれが最後になるのだ。少なくとも私は帰れない。目の前に居る何人かも命を落とすかもしれない。
 私はいくつか大切なことを仲間に打ち明けることにした。
 私が異世界人であること、魔王の封印に成功したら私だけは帰れないということ、そして魔王が復活したら次は封印ができないかもしれないということ。
 目の前にいる彼らは知っておかなくてはいけないし、知る立場にある人間だろう。
 おそらく初代王もこうやって仲間に伝える瞬間があったのだと思う。 
 愉快な時では無い。だが、魔王のところに到着する前に言っておかなければ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています

水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。 森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。 公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。 ◇画像はGirly Drop様からお借りしました ◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

処理中です...