異世界マッチョ

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114 マッチョさん、エルフ国へ向かう

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 私の筋肉にひとつ朗報がある。
 委託したこと自体すっかり忘れていたが、ブロッコリ-が朝食に出てくるようになった。ソフィーさんのおかげでうまいこと王家の薬草園で栽培できるようになったのだ。勇者と私に優先的に回してもらっている。茹でると栄養価を損なうので、蒸してもらうか焼いてもらって美味しくいただいている。
 筋肉に関わるほとんどすべての重要なものが異世界でも揃った。
 タンパク質と緑黄色野菜を中心とした栄養、トレーニング機材、定住地。
 足りないのは私の健康状態だけである。
 ならば新しい治療法というものも試す価値というものがあるだろう。王城の私の自室のトレーニングマシン。いつか使う日が来るのであろうか?治療がうまくいけば使えるようになるかもしれない。

 私たちは国賓としてエルフ国へ馬車で向かった。
 国として外交をしろということではなく、勇者を発見する努力だけでもして来いということのようだ。本命は私の肘の治療だ。どういう恰好で行ったらいいのか分からなかったので、いつものように鎧と、小さいほうの両手斧を持っていくことにした。
 一緒にエルフ国に行くメンバーは、勇者の三人にルリさんとツイグ。それに護衛隊にスクルトさんとその小隊が来るそうだ。やはり勇者が移動するとなると警護も厳重にはなるか。私とルリさん、それにツイグが同じ馬車に乗った。それにしてもルリさんはエルフ国と繋がりがあるのは分かるが・・・
 「ツイグは何をしにエルフ国まで行くんですか?」
 「何って・・・なんか俺には当たり強くないっすか?」
 国賓とツイグという単語が繋がらないのだ。
 「私が推薦したんです。ツイグが上達してきたら私が教えられることも無くなったので、もっと上手な人たちに囲まれたらツイグの弓もさらに上達するだろうと思いまして。」
 「へぇー。ツイグはずいぶんと強くなったんですね。そういえばドロスさんも褒めてましたね。」
 「って言われても、やっぱりマッチョさんの業績には敵わないっす。弓の威力で固有種を倒せるかって言われたら、大弓でも難しいんすよね。小回りの利く狩り弓で目を狙うしか無いカンジっす。ま、固有種と戦うなんて珍しい場面に出くわすことなんて無いっすけれどね。」
 固有種を倒せる手前のところまで行っているのか。
 「まぁどれだけ上達しても弓ですからねぇ。固有種ともなると身体強化魔法持ちとかいますからね。私が大弓を使ってもけん制するのがせいぜいってところです。技量のある魔物であれば近接武器で矢を弾いちゃいますからね。やはり前衛の火力が無ければとても固有種は倒せないですね。」
 「マッチョさん、怪我をしたっていう話は聞きましたけれど、大丈夫なんすか?お見舞いに行こうかと思ったんすけれど、なんか王城に住んでいるって聞いたら行けなくて。」
 「日常生活なら大丈夫ですが、戦闘は無理ですね。まぁ今回はなにかあってもスクルトさんも勇者のお三方もいますから。戦わなくても大丈夫でしょう。」
 斧自体、お守り代わりに持っていくようなものだ。今回の最大の目的は治療なのである。
 「そういやマッチョさん、ミャオさんでしたっけ?ニャンコ族の勇者の方なんすけど。」
 「ええ。ミャオさんがどうかしましたか?」
 「・・・いや、マッチョさん肝心のところが抜けてますから。粗相とか無いのかなーとちょっと思っただけっす。」
 ミャオさんに粗相?まぁあの性格だから、なにか言ったところでたいして気にはしないと思うのだが。うーん・・・うん?
 「もしかして・・・」
 「ミャオさん、女性っすよ。」
 やっぱり分かっていなかったか、というツイグの視線が痛い。
 そういえば龍族の時もきちんと性別を見分けていたな。ツイグはソロウからほとんど出たことが無かったはずなのに、なぜ異種族の性別まで分かるのだろうか?というよりも、斥候というのはこういう観察眼に長けた人間がやる事なのかもしれない。どうも私は筋肉にしか目がいかないからなぁ・・・

 エルフ国までは街道が敷かれていた。いちおう国交はあるが、エルフ国自体はとくに貿易をしなくても国内で必要なものはだいたい手に入るらしい。矢じりを多少人間国から入れている程度のようだ。国境から先には巨大な原生林があり、エルフはこの樹上で生活をしているのだそうだ。ここからは馬を引いて徒歩で移動する。
 「どこに行くにも木を登っていかなくてはいけませんから、エルフ族の弓衆についていくのはけっこう大変ですよ。でも木の上ですから魔物が襲ってくることはあまり無いです。」
 魔物が出たとしても最初から上を取っているのだから、あとは矢さえ撃っていればだいたいどうにでもなるということのようだ。しかし日常生活をどうやって行っているんだろうか?トイレとか。ちょっと気になるな。
 「水はどうやって補給しているんでしょう。それに火は使わないんでしょうか?」
 「広場があって、火を使った調理はそちらで行いますね。水も広場の近くに川が流れてきています。燃え広がったら大変ですからね。」
 樹上生活というのは絵で想像すると美しそうなのだが、実際に行うとなるとなかなか大変そうだ。
 ふーむ。最大の疑問が湧いてきた。タンパク質である。
 エルフ豆自体はサバスを作る工程を見た時に食べたことがある。だがあれだけでタンパク質が十分に摂取できるのだろうか?サバスは加工しているから補助食品として補給できるのだ。
 「動物の肉は狩りで手に入れているんでしょうか?」
 「狩り自体はやっていますが、毛皮とか骨とかツノだけ取ります。肉は塩漬けして人間国に輸出してお金にしていますね。エルフ族は基本的に肉を食べません。」
 ・・・やはりなにかが栄養学的観点からおかしい。動物性タンパク質を摂取しないで樹上生活をする筋肉というのは、エルフが特別な種だとしてもなかなか考えづらい。エルフ豆だけでタンパク質を摂取するとなると、とんでもない量の豆が必要になる。大量摂取するのも大変だが、どう考えても豆の方が足りない。しかも農耕で豆を作っているのではなく、エルフ豆はすべて野生のものを採取するのだと聞いている。もしや・・・
 「ルリさんはエルフ族と個人的に親交が深いんですよね?」
 「ええ。やはり弓と言えばエルフ族ですから。ギルド本部のメンバーがエルフ国に弓を指導してもらいに行くこともありますよ。」
 「その・・・エルフ国から持ち出しができない食料とかあるんでしょうか?」
 「あれっ!私そんなこと言いましたっけ?ここだけの話ですがありますよ。でも他の方には言わないでくださいね。ツイグもね。」
 「ういっす。」
 「もしかして、その食料を食べていると病気にならないとか丈夫になるとか言われていませんか?」
 「マッチョさんなんで知っているんですか!?」
 ・・・これは・・・あるな!あるぞ!
 おそらく普通の食物ではない。異世界における究極のタンパク質のような食物があるのだ。
 私は前に居た世界の高タンパクな食料を手に入れようとか作ろうとか増やそうとして奔走していた。私の仕事の大半がこれに当たった。
 しかし別の考え方もあった。
 ここは異世界なのだ。
 であるならば、ファンタジーな未知のタンパク質源があっても不思議ではないではないか。
 ガチのマジで超食べてみたい。
 エルフ国。ものすごく楽しみになってきた。
 
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