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109 マッチョさん、戦線離脱する
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「ドロスさん、勇者の二人は・・・」
「ワシらのために時間を稼いでいる!とてもではないが加勢できる相手では無い!」
勇者の二人が得物を打ち付ける音が聞こえ、魔物が地面に腕を叩きつける音が聞こえる。ちらりと音のする方向に目をやると、ゴリラを大きくしたかのような魔物だ。
「剣聖!勇者を置いたまま橋を焼くんですか?」
「かまわん!あの二人になにか考えがあるのじゃろう。あの魔物がこちら側に渡ったらすべてが終わる!焼け!」
ドロスさんとタカロスさん、それにニャンコ族の二人が橋を渡ったら、手はず通りに橋に火がかけられた。ミャオさんを包んでいた光は小さくなり消えていった。気を失っているようだ。
バキバキと音を立てながら橋が落ちる。対岸からはまだ勇者の二人が戦っている音がする。
対岸に目を向けたら勇者の二人が谷を飛んで渡って来る姿が見えた。50mも飛ぶのだから、もはや跳躍ではなく飛行にしか見えない。得体の知れない魔物も飛行して二人を追いかけて来た。
一体あれはなんなのだ?
「タカロス、全軍撤収準備じゃ。ワシが時間を稼ぐ。ライノスとともに部隊を砦まで撤収させろ。マッチョ君とミャオ殿を頼む。」
「私も残ります!」
「ならん!誰がマッチョ君とミャオ殿を守るのだ?」
「・・・了解です。」
ドロスさんはここで死ぬ気のようだった。
だが、ドロスさんがあの魔物と戦うことは無かった。勇者の二人が限界領域から戻って来て精霊の光を失うと、得体の知れない魔物は力を失い崖下へと落ちていった。
魔物が崖に落ちてからも、ドロスさんが鬼の形相で警戒を解かずにいる。ひどい汗だ。
「・・・まずは状況確認じゃ。ミャオ殿は気絶しているだけじゃな。マッチョ君の怪我は?」
「肘から上腕に繋がっている腱が切れたようです。最後の音を聞きました。」
「・・・そうか・・・最後の音か。」
不思議なほどに私は落ち着いていた。痛みはあってもまだ現実感が湧かないのだろう。
勇者の二人は汗だくで息も上がっていた。
「・・・僕らは大丈夫です。少し消耗しただけですから。」
「・・・マッチョ殿とドロス殿との鍛錬が効いたな。あれだけ精霊の力を借りても、消耗しただけで済んでいる。なんの準備もなく精霊に力を借りていたら、こんなものでは済まなかっただろう。」
「タカロス。ニャンコ族の二人は?」
「無事です。よく生きて戻って来られましたね・・・」
ようやくわずかにドロスさんの表情が緩んだ。
「なんなのだあの魔物は。気配すら無かったぞ。いきなりマッチョ君の面前に出てきおった・・・」
「あれは魔物ではありません。ゴーレム、というらしいです。精霊が教えてくれました。」
ロキさんの言葉に、ジェイさんもうなづいていた。
「罠を仕掛けるのは人間だけではないということです。あれは魔王の力の幾ばくかを与えられた人形。生き物では無いのだから気配などありません。」
「たぶんですけれど、精霊の力に反応するような魔法が込められていたんです。それまではただの石とか岩だったはずです。」
「あれで魔王の力の一部なのか・・・」
とてもじゃないがあれは人間が太刀打ちできるものでは無い。実際に戦ってしまった私の肘の方が壊れてしまった。
「魔王の力だったからこそ、我らに精霊の恩寵が与えられたのです。ロキ殿と我とどちらが欠けていても全滅していたでしょう。」
「じゃろうな・・・」
ドロスさんが汗をぬぐいながら同意した。
タカロスさんの部隊やニャンコ族が集まってきた。
衛生兵がやって来て、私の肘の状態を確認され肘を固定された。
「指先にしびれやマヒはありますか?」
「ありません。」
「感覚は?」軽く針のようなもので突かれた。
「あります。ちゃんと痛いです。」
ドロスさんがほっとした顔をした。
「神経は無事なようじゃの。たまに大きい得物を使う人間にあることじゃ。運が良ければ日常生活には支障は無い程度にもとに戻るじゃろう。」
運が良ければ、か。
「戦闘行為のようなものは・・・」トレーニングを再開できるかどうかはこの雰囲気では聞きづらい。
「・・・マッチョ君。日常生活に戻れるかどうかをまずは考えてくれ。」
日常生活に支障が無いという状態に持っていくことも、運次第ということか。
本当に終わったのだな。
「マッチョさんがいなければ、我々は三人目の勇者を失っていました。あの場でミャオさんを守れる人間はマッチョさんしかいませんでしたから。」
たしかにその通りだ。だが、失ったものがあまりにも大きい。
「ミャオ殿はまだ寝ているのか?」
「恐ろしいものを見たんです。僕らも同じものを見ました。」
精霊が共鳴した時に、ミャオさんに見せられた映像を共有したらしい。
「漆黒の食物を吸い込み、溶岩のような黒い飲み物を飲んでいた。魔王の食事の風景だ。」
「休ませてあげてください。心身ともに鍛えられたから僕らは平気ですが、いきなりあれだけ見せられたら・・・とても・・・」
「うむ。ロキ殿の言う通りだ。とても同じ大陸に生きる生物の食事の風景では無かった。見るからに邪悪で想像を絶する光景だった。」
食事か。
私の食事量も少しずつ減らしていかないといけないな。運動量や代謝に対してカロリーが高すぎる。
もはや私はトレーニーでは無い。
ただの怪我人なのだ。
「ワシらのために時間を稼いでいる!とてもではないが加勢できる相手では無い!」
勇者の二人が得物を打ち付ける音が聞こえ、魔物が地面に腕を叩きつける音が聞こえる。ちらりと音のする方向に目をやると、ゴリラを大きくしたかのような魔物だ。
「剣聖!勇者を置いたまま橋を焼くんですか?」
「かまわん!あの二人になにか考えがあるのじゃろう。あの魔物がこちら側に渡ったらすべてが終わる!焼け!」
ドロスさんとタカロスさん、それにニャンコ族の二人が橋を渡ったら、手はず通りに橋に火がかけられた。ミャオさんを包んでいた光は小さくなり消えていった。気を失っているようだ。
バキバキと音を立てながら橋が落ちる。対岸からはまだ勇者の二人が戦っている音がする。
対岸に目を向けたら勇者の二人が谷を飛んで渡って来る姿が見えた。50mも飛ぶのだから、もはや跳躍ではなく飛行にしか見えない。得体の知れない魔物も飛行して二人を追いかけて来た。
一体あれはなんなのだ?
「タカロス、全軍撤収準備じゃ。ワシが時間を稼ぐ。ライノスとともに部隊を砦まで撤収させろ。マッチョ君とミャオ殿を頼む。」
「私も残ります!」
「ならん!誰がマッチョ君とミャオ殿を守るのだ?」
「・・・了解です。」
ドロスさんはここで死ぬ気のようだった。
だが、ドロスさんがあの魔物と戦うことは無かった。勇者の二人が限界領域から戻って来て精霊の光を失うと、得体の知れない魔物は力を失い崖下へと落ちていった。
魔物が崖に落ちてからも、ドロスさんが鬼の形相で警戒を解かずにいる。ひどい汗だ。
「・・・まずは状況確認じゃ。ミャオ殿は気絶しているだけじゃな。マッチョ君の怪我は?」
「肘から上腕に繋がっている腱が切れたようです。最後の音を聞きました。」
「・・・そうか・・・最後の音か。」
不思議なほどに私は落ち着いていた。痛みはあってもまだ現実感が湧かないのだろう。
勇者の二人は汗だくで息も上がっていた。
「・・・僕らは大丈夫です。少し消耗しただけですから。」
「・・・マッチョ殿とドロス殿との鍛錬が効いたな。あれだけ精霊の力を借りても、消耗しただけで済んでいる。なんの準備もなく精霊に力を借りていたら、こんなものでは済まなかっただろう。」
「タカロス。ニャンコ族の二人は?」
「無事です。よく生きて戻って来られましたね・・・」
ようやくわずかにドロスさんの表情が緩んだ。
「なんなのだあの魔物は。気配すら無かったぞ。いきなりマッチョ君の面前に出てきおった・・・」
「あれは魔物ではありません。ゴーレム、というらしいです。精霊が教えてくれました。」
ロキさんの言葉に、ジェイさんもうなづいていた。
「罠を仕掛けるのは人間だけではないということです。あれは魔王の力の幾ばくかを与えられた人形。生き物では無いのだから気配などありません。」
「たぶんですけれど、精霊の力に反応するような魔法が込められていたんです。それまではただの石とか岩だったはずです。」
「あれで魔王の力の一部なのか・・・」
とてもじゃないがあれは人間が太刀打ちできるものでは無い。実際に戦ってしまった私の肘の方が壊れてしまった。
「魔王の力だったからこそ、我らに精霊の恩寵が与えられたのです。ロキ殿と我とどちらが欠けていても全滅していたでしょう。」
「じゃろうな・・・」
ドロスさんが汗をぬぐいながら同意した。
タカロスさんの部隊やニャンコ族が集まってきた。
衛生兵がやって来て、私の肘の状態を確認され肘を固定された。
「指先にしびれやマヒはありますか?」
「ありません。」
「感覚は?」軽く針のようなもので突かれた。
「あります。ちゃんと痛いです。」
ドロスさんがほっとした顔をした。
「神経は無事なようじゃの。たまに大きい得物を使う人間にあることじゃ。運が良ければ日常生活には支障は無い程度にもとに戻るじゃろう。」
運が良ければ、か。
「戦闘行為のようなものは・・・」トレーニングを再開できるかどうかはこの雰囲気では聞きづらい。
「・・・マッチョ君。日常生活に戻れるかどうかをまずは考えてくれ。」
日常生活に支障が無いという状態に持っていくことも、運次第ということか。
本当に終わったのだな。
「マッチョさんがいなければ、我々は三人目の勇者を失っていました。あの場でミャオさんを守れる人間はマッチョさんしかいませんでしたから。」
たしかにその通りだ。だが、失ったものがあまりにも大きい。
「ミャオ殿はまだ寝ているのか?」
「恐ろしいものを見たんです。僕らも同じものを見ました。」
精霊が共鳴した時に、ミャオさんに見せられた映像を共有したらしい。
「漆黒の食物を吸い込み、溶岩のような黒い飲み物を飲んでいた。魔王の食事の風景だ。」
「休ませてあげてください。心身ともに鍛えられたから僕らは平気ですが、いきなりあれだけ見せられたら・・・とても・・・」
「うむ。ロキ殿の言う通りだ。とても同じ大陸に生きる生物の食事の風景では無かった。見るからに邪悪で想像を絶する光景だった。」
食事か。
私の食事量も少しずつ減らしていかないといけないな。運動量や代謝に対してカロリーが高すぎる。
もはや私はトレーニーでは無い。
ただの怪我人なのだ。
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