109 / 133
109 マッチョさん、戦線離脱する
しおりを挟む
「ドロスさん、勇者の二人は・・・」
「ワシらのために時間を稼いでいる!とてもではないが加勢できる相手では無い!」
勇者の二人が得物を打ち付ける音が聞こえ、魔物が地面に腕を叩きつける音が聞こえる。ちらりと音のする方向に目をやると、ゴリラを大きくしたかのような魔物だ。
「剣聖!勇者を置いたまま橋を焼くんですか?」
「かまわん!あの二人になにか考えがあるのじゃろう。あの魔物がこちら側に渡ったらすべてが終わる!焼け!」
ドロスさんとタカロスさん、それにニャンコ族の二人が橋を渡ったら、手はず通りに橋に火がかけられた。ミャオさんを包んでいた光は小さくなり消えていった。気を失っているようだ。
バキバキと音を立てながら橋が落ちる。対岸からはまだ勇者の二人が戦っている音がする。
対岸に目を向けたら勇者の二人が谷を飛んで渡って来る姿が見えた。50mも飛ぶのだから、もはや跳躍ではなく飛行にしか見えない。得体の知れない魔物も飛行して二人を追いかけて来た。
一体あれはなんなのだ?
「タカロス、全軍撤収準備じゃ。ワシが時間を稼ぐ。ライノスとともに部隊を砦まで撤収させろ。マッチョ君とミャオ殿を頼む。」
「私も残ります!」
「ならん!誰がマッチョ君とミャオ殿を守るのだ?」
「・・・了解です。」
ドロスさんはここで死ぬ気のようだった。
だが、ドロスさんがあの魔物と戦うことは無かった。勇者の二人が限界領域から戻って来て精霊の光を失うと、得体の知れない魔物は力を失い崖下へと落ちていった。
魔物が崖に落ちてからも、ドロスさんが鬼の形相で警戒を解かずにいる。ひどい汗だ。
「・・・まずは状況確認じゃ。ミャオ殿は気絶しているだけじゃな。マッチョ君の怪我は?」
「肘から上腕に繋がっている腱が切れたようです。最後の音を聞きました。」
「・・・そうか・・・最後の音か。」
不思議なほどに私は落ち着いていた。痛みはあってもまだ現実感が湧かないのだろう。
勇者の二人は汗だくで息も上がっていた。
「・・・僕らは大丈夫です。少し消耗しただけですから。」
「・・・マッチョ殿とドロス殿との鍛錬が効いたな。あれだけ精霊の力を借りても、消耗しただけで済んでいる。なんの準備もなく精霊に力を借りていたら、こんなものでは済まなかっただろう。」
「タカロス。ニャンコ族の二人は?」
「無事です。よく生きて戻って来られましたね・・・」
ようやくわずかにドロスさんの表情が緩んだ。
「なんなのだあの魔物は。気配すら無かったぞ。いきなりマッチョ君の面前に出てきおった・・・」
「あれは魔物ではありません。ゴーレム、というらしいです。精霊が教えてくれました。」
ロキさんの言葉に、ジェイさんもうなづいていた。
「罠を仕掛けるのは人間だけではないということです。あれは魔王の力の幾ばくかを与えられた人形。生き物では無いのだから気配などありません。」
「たぶんですけれど、精霊の力に反応するような魔法が込められていたんです。それまではただの石とか岩だったはずです。」
「あれで魔王の力の一部なのか・・・」
とてもじゃないがあれは人間が太刀打ちできるものでは無い。実際に戦ってしまった私の肘の方が壊れてしまった。
「魔王の力だったからこそ、我らに精霊の恩寵が与えられたのです。ロキ殿と我とどちらが欠けていても全滅していたでしょう。」
「じゃろうな・・・」
ドロスさんが汗をぬぐいながら同意した。
タカロスさんの部隊やニャンコ族が集まってきた。
衛生兵がやって来て、私の肘の状態を確認され肘を固定された。
「指先にしびれやマヒはありますか?」
「ありません。」
「感覚は?」軽く針のようなもので突かれた。
「あります。ちゃんと痛いです。」
ドロスさんがほっとした顔をした。
「神経は無事なようじゃの。たまに大きい得物を使う人間にあることじゃ。運が良ければ日常生活には支障は無い程度にもとに戻るじゃろう。」
運が良ければ、か。
「戦闘行為のようなものは・・・」トレーニングを再開できるかどうかはこの雰囲気では聞きづらい。
「・・・マッチョ君。日常生活に戻れるかどうかをまずは考えてくれ。」
日常生活に支障が無いという状態に持っていくことも、運次第ということか。
本当に終わったのだな。
「マッチョさんがいなければ、我々は三人目の勇者を失っていました。あの場でミャオさんを守れる人間はマッチョさんしかいませんでしたから。」
たしかにその通りだ。だが、失ったものがあまりにも大きい。
「ミャオ殿はまだ寝ているのか?」
「恐ろしいものを見たんです。僕らも同じものを見ました。」
精霊が共鳴した時に、ミャオさんに見せられた映像を共有したらしい。
「漆黒の食物を吸い込み、溶岩のような黒い飲み物を飲んでいた。魔王の食事の風景だ。」
「休ませてあげてください。心身ともに鍛えられたから僕らは平気ですが、いきなりあれだけ見せられたら・・・とても・・・」
「うむ。ロキ殿の言う通りだ。とても同じ大陸に生きる生物の食事の風景では無かった。見るからに邪悪で想像を絶する光景だった。」
食事か。
私の食事量も少しずつ減らしていかないといけないな。運動量や代謝に対してカロリーが高すぎる。
もはや私はトレーニーでは無い。
ただの怪我人なのだ。
「ワシらのために時間を稼いでいる!とてもではないが加勢できる相手では無い!」
勇者の二人が得物を打ち付ける音が聞こえ、魔物が地面に腕を叩きつける音が聞こえる。ちらりと音のする方向に目をやると、ゴリラを大きくしたかのような魔物だ。
「剣聖!勇者を置いたまま橋を焼くんですか?」
「かまわん!あの二人になにか考えがあるのじゃろう。あの魔物がこちら側に渡ったらすべてが終わる!焼け!」
ドロスさんとタカロスさん、それにニャンコ族の二人が橋を渡ったら、手はず通りに橋に火がかけられた。ミャオさんを包んでいた光は小さくなり消えていった。気を失っているようだ。
バキバキと音を立てながら橋が落ちる。対岸からはまだ勇者の二人が戦っている音がする。
対岸に目を向けたら勇者の二人が谷を飛んで渡って来る姿が見えた。50mも飛ぶのだから、もはや跳躍ではなく飛行にしか見えない。得体の知れない魔物も飛行して二人を追いかけて来た。
一体あれはなんなのだ?
「タカロス、全軍撤収準備じゃ。ワシが時間を稼ぐ。ライノスとともに部隊を砦まで撤収させろ。マッチョ君とミャオ殿を頼む。」
「私も残ります!」
「ならん!誰がマッチョ君とミャオ殿を守るのだ?」
「・・・了解です。」
ドロスさんはここで死ぬ気のようだった。
だが、ドロスさんがあの魔物と戦うことは無かった。勇者の二人が限界領域から戻って来て精霊の光を失うと、得体の知れない魔物は力を失い崖下へと落ちていった。
魔物が崖に落ちてからも、ドロスさんが鬼の形相で警戒を解かずにいる。ひどい汗だ。
「・・・まずは状況確認じゃ。ミャオ殿は気絶しているだけじゃな。マッチョ君の怪我は?」
「肘から上腕に繋がっている腱が切れたようです。最後の音を聞きました。」
「・・・そうか・・・最後の音か。」
不思議なほどに私は落ち着いていた。痛みはあってもまだ現実感が湧かないのだろう。
勇者の二人は汗だくで息も上がっていた。
「・・・僕らは大丈夫です。少し消耗しただけですから。」
「・・・マッチョ殿とドロス殿との鍛錬が効いたな。あれだけ精霊の力を借りても、消耗しただけで済んでいる。なんの準備もなく精霊に力を借りていたら、こんなものでは済まなかっただろう。」
「タカロス。ニャンコ族の二人は?」
「無事です。よく生きて戻って来られましたね・・・」
ようやくわずかにドロスさんの表情が緩んだ。
「なんなのだあの魔物は。気配すら無かったぞ。いきなりマッチョ君の面前に出てきおった・・・」
「あれは魔物ではありません。ゴーレム、というらしいです。精霊が教えてくれました。」
ロキさんの言葉に、ジェイさんもうなづいていた。
「罠を仕掛けるのは人間だけではないということです。あれは魔王の力の幾ばくかを与えられた人形。生き物では無いのだから気配などありません。」
「たぶんですけれど、精霊の力に反応するような魔法が込められていたんです。それまではただの石とか岩だったはずです。」
「あれで魔王の力の一部なのか・・・」
とてもじゃないがあれは人間が太刀打ちできるものでは無い。実際に戦ってしまった私の肘の方が壊れてしまった。
「魔王の力だったからこそ、我らに精霊の恩寵が与えられたのです。ロキ殿と我とどちらが欠けていても全滅していたでしょう。」
「じゃろうな・・・」
ドロスさんが汗をぬぐいながら同意した。
タカロスさんの部隊やニャンコ族が集まってきた。
衛生兵がやって来て、私の肘の状態を確認され肘を固定された。
「指先にしびれやマヒはありますか?」
「ありません。」
「感覚は?」軽く針のようなもので突かれた。
「あります。ちゃんと痛いです。」
ドロスさんがほっとした顔をした。
「神経は無事なようじゃの。たまに大きい得物を使う人間にあることじゃ。運が良ければ日常生活には支障は無い程度にもとに戻るじゃろう。」
運が良ければ、か。
「戦闘行為のようなものは・・・」トレーニングを再開できるかどうかはこの雰囲気では聞きづらい。
「・・・マッチョ君。日常生活に戻れるかどうかをまずは考えてくれ。」
日常生活に支障が無いという状態に持っていくことも、運次第ということか。
本当に終わったのだな。
「マッチョさんがいなければ、我々は三人目の勇者を失っていました。あの場でミャオさんを守れる人間はマッチョさんしかいませんでしたから。」
たしかにその通りだ。だが、失ったものがあまりにも大きい。
「ミャオ殿はまだ寝ているのか?」
「恐ろしいものを見たんです。僕らも同じものを見ました。」
精霊が共鳴した時に、ミャオさんに見せられた映像を共有したらしい。
「漆黒の食物を吸い込み、溶岩のような黒い飲み物を飲んでいた。魔王の食事の風景だ。」
「休ませてあげてください。心身ともに鍛えられたから僕らは平気ですが、いきなりあれだけ見せられたら・・・とても・・・」
「うむ。ロキ殿の言う通りだ。とても同じ大陸に生きる生物の食事の風景では無かった。見るからに邪悪で想像を絶する光景だった。」
食事か。
私の食事量も少しずつ減らしていかないといけないな。運動量や代謝に対してカロリーが高すぎる。
もはや私はトレーニーでは無い。
ただの怪我人なのだ。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説


元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる