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107 マッチョさん、トレーニーの心得を思い出す
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ドロスさんが固有種に打ち込む音が聞こえる。
だがよそ見などしている余裕など無い。私もタカロスさんも目の前の敵を倒すだけだ。四体目のオーガを倒した。
「剣聖が時間を作ってくれてありがたいですね。」
まったくだ。
勇者の二人も順調にオーガを倒していっている。前衛と後衛を入れ替えながら器用に戦うあたり、連携した戦闘訓練も行っていたのだろう。精霊の恩寵が出てくる兆しは無い。まだ人間だけで片が付くレベルの魔物だということか。
背後から叫びながらオーガがやってきた。部隊では引きつけられなかったか、あるいは頭が攻められているところを本能で知って戻って来たのか。
「背後から来たやつは私がやります。マッチョさんは周辺のオーガを頼みます!」
返事をする間もなくタカロスさんは背後にいたオーガに突っ込んで行った。
なんとかやれそうだな、などと思っていたら二体が連携してきた。こういう戦い方もできるのか。いや、勇者二人の戦い方を見て学習したのか?タカロスさんが戻るまでなんとか時間を作るしかないな。
くっ・・・マズいな・・・押されかけている・・・私一人で持つか?
熱を持ってきた肘の状態が気になってきたら、急に大斧が重く感じられた。オーガの一撃が来る。捌ききれるか?いや、捌かなければ。
気づいたら目の前のオーガの首が飛んでいた。
「待たせたの、マッチョ君。固有種は倒した。ここからは掃討戦じゃ。」
ドロスさんの合図で待機していた部隊が一気に襲い掛かった。
弱らせたオーガなら弱兵でも勝てるということなのか。頑強なオーガの肉体に弓矢は通らなかったが、大剣なら通るようだ。罠で絡めとったオーガを大剣使いがトドメをさしていく。
「終わったの。」
部隊は盛り上がっているが、見た目以上に辛勝だった。固有種がもう一体いたらおそらく撤退命令が出ていただろう。
「ウチの部隊で魔物を片づけますね。」
「ニャンコ族も掃除をするニャ。魔物の血が汚ニャいと、またここには住めないニャ。」
「タカロス。確実にトドメを刺してから、いちおう全個体の腑分けをしておけ。あの強さなら魔石持ちかもしらん。」
「了解です。終わったものから崖に落としますね。」
肘の状態が気になるな。まだ熱を持っている。冷やしたいが氷など手に入るワケがないか・・・
「マッチョ君、肘が気になるかな?ムリをさせてしまってすまんの。」
「少し熱がありますね。肘を冷やせればいいのですが・・・」
「オイラが水場に案内するニャ。ニャンコ族を代表して感謝しますニャ。」
流水につけるだけでも少しはマシになるだろう。水分も補給したい。命がけではあったが、なかなかいいトレーニングになった。
ドロスさんのところに戻ると、勇者の二人と軽く補給をしていた。
「マッチョ君、連戦で悪いが橋を渡って限界領域の奥に入るぞ。精霊の祠というものを見つけなければならんからの。タカロスが部隊に指示を与えているが、タカロスが戻ったらすぐに出発する。」
「それっぽい場所まではプール兄弟とオイラが案内するニャ。もともと三人で遊んでいたときに見つけたんニャ。」
これが今回私が巻き込まれた理由なのだ。とっとと片づけて本格的に補給をしたい。やったことは戦闘だが、トレーニング内容としての出来は少しオーバーワーク気味だ。
「分かりました。行きましょう。」
私は革の肘当てを締め直した。
オーガに突っ込んだ私を含めて五名、それにニャンコ族三名で限界領域を超えていく。
フェイスさん、仕事とはいえなんだかすみません・・・
これがニャンコ王の話に出てきた橋か。
・・・なぜここまで完成度が高い立派な橋なのだ?
吊り橋かなにかだと思っていたら、木製の立派な橋ではないか。全長50mもある木製の橋梁など作れるものなのだな。
私はあまり経験したことがない腹の立て方をしていた。魔物を引き入れた橋を立派に作られると、こうまで腹立たしいものなのか。
「・・・呆れるほど立派な橋じゃのう。ニャンコ族はなにを考えていたんじゃ。」
「ニャンコ族は遊ぶと決めたら徹底的にやるニャ。」
何故に自慢げな顔ができるのだ。
それにしてももう少し簡単な橋でいいだろう。遊びとして注力すべきところも間違っている気がする。勇者の二人も呆れているな。
「高低差にして7、いや10m以上はありますか?」
「そのくらいはあるだろうな。しかしこれは工事も大変だったと思うのだが・・・」
「橋を作るというのも遊びの一部ニャんだから、あんまり苦労したっていうカンジじゃ無かったニャ。」
ジェイさんがかける言葉が無い信じられないものを見るかのような目でミャオさんを見ている。たしかに龍族とニャンコ族は相いれない存在のようだ。
50mの木製の橋を作っておいて遊びの一言で片づける。これがニャンコ族なのだな。
放埓にして怠惰と龍王はニャンコ族を評していたが、なにか違う気がする。
ふと自分のことに置き換えてみた。
やると決めたらやるのだ。
それはトレーニーでも同じである。トレーニングもやると決めたらやり抜く。それがたとえ肘を壊すような愚行であったとしても、トレーニーの意志だけで止めることは難しいのだ。
ふーむ。
トレーニーの発想や行動というものも、私がこの橋に感じた不快感と同じようなものを誰かに与えることがあるのかもしれないな。留意すべきことであろう。
久しぶりにランドクルーザー岡田の言葉を思い出した。
”トレーニングそれ自体は素晴らしい。筋肉の美しさも素晴らしい。だがいかに筋肉を褒められたとしても、その喜びやトレーニング方法をひけらかすべきではない。”
以前からピンと来なかった言葉だったが、引っかかっていたものがようやく腑に落ちた。
トレーニーでは無い人たちのほうが多数派なのだ。
自己研鑽の結果や過程をひけらかすようでは、育ってくれた筋肉に申し訳が立たないではないか。堂々と自慢ができる相手とは、きちんと筋肉について理解ができる人たちだけだ。
我々トレーニーの世界の常識は、他の人たちにとっても常識であるとは限らないのだ。
だがよそ見などしている余裕など無い。私もタカロスさんも目の前の敵を倒すだけだ。四体目のオーガを倒した。
「剣聖が時間を作ってくれてありがたいですね。」
まったくだ。
勇者の二人も順調にオーガを倒していっている。前衛と後衛を入れ替えながら器用に戦うあたり、連携した戦闘訓練も行っていたのだろう。精霊の恩寵が出てくる兆しは無い。まだ人間だけで片が付くレベルの魔物だということか。
背後から叫びながらオーガがやってきた。部隊では引きつけられなかったか、あるいは頭が攻められているところを本能で知って戻って来たのか。
「背後から来たやつは私がやります。マッチョさんは周辺のオーガを頼みます!」
返事をする間もなくタカロスさんは背後にいたオーガに突っ込んで行った。
なんとかやれそうだな、などと思っていたら二体が連携してきた。こういう戦い方もできるのか。いや、勇者二人の戦い方を見て学習したのか?タカロスさんが戻るまでなんとか時間を作るしかないな。
くっ・・・マズいな・・・押されかけている・・・私一人で持つか?
熱を持ってきた肘の状態が気になってきたら、急に大斧が重く感じられた。オーガの一撃が来る。捌ききれるか?いや、捌かなければ。
気づいたら目の前のオーガの首が飛んでいた。
「待たせたの、マッチョ君。固有種は倒した。ここからは掃討戦じゃ。」
ドロスさんの合図で待機していた部隊が一気に襲い掛かった。
弱らせたオーガなら弱兵でも勝てるということなのか。頑強なオーガの肉体に弓矢は通らなかったが、大剣なら通るようだ。罠で絡めとったオーガを大剣使いがトドメをさしていく。
「終わったの。」
部隊は盛り上がっているが、見た目以上に辛勝だった。固有種がもう一体いたらおそらく撤退命令が出ていただろう。
「ウチの部隊で魔物を片づけますね。」
「ニャンコ族も掃除をするニャ。魔物の血が汚ニャいと、またここには住めないニャ。」
「タカロス。確実にトドメを刺してから、いちおう全個体の腑分けをしておけ。あの強さなら魔石持ちかもしらん。」
「了解です。終わったものから崖に落としますね。」
肘の状態が気になるな。まだ熱を持っている。冷やしたいが氷など手に入るワケがないか・・・
「マッチョ君、肘が気になるかな?ムリをさせてしまってすまんの。」
「少し熱がありますね。肘を冷やせればいいのですが・・・」
「オイラが水場に案内するニャ。ニャンコ族を代表して感謝しますニャ。」
流水につけるだけでも少しはマシになるだろう。水分も補給したい。命がけではあったが、なかなかいいトレーニングになった。
ドロスさんのところに戻ると、勇者の二人と軽く補給をしていた。
「マッチョ君、連戦で悪いが橋を渡って限界領域の奥に入るぞ。精霊の祠というものを見つけなければならんからの。タカロスが部隊に指示を与えているが、タカロスが戻ったらすぐに出発する。」
「それっぽい場所まではプール兄弟とオイラが案内するニャ。もともと三人で遊んでいたときに見つけたんニャ。」
これが今回私が巻き込まれた理由なのだ。とっとと片づけて本格的に補給をしたい。やったことは戦闘だが、トレーニング内容としての出来は少しオーバーワーク気味だ。
「分かりました。行きましょう。」
私は革の肘当てを締め直した。
オーガに突っ込んだ私を含めて五名、それにニャンコ族三名で限界領域を超えていく。
フェイスさん、仕事とはいえなんだかすみません・・・
これがニャンコ王の話に出てきた橋か。
・・・なぜここまで完成度が高い立派な橋なのだ?
吊り橋かなにかだと思っていたら、木製の立派な橋ではないか。全長50mもある木製の橋梁など作れるものなのだな。
私はあまり経験したことがない腹の立て方をしていた。魔物を引き入れた橋を立派に作られると、こうまで腹立たしいものなのか。
「・・・呆れるほど立派な橋じゃのう。ニャンコ族はなにを考えていたんじゃ。」
「ニャンコ族は遊ぶと決めたら徹底的にやるニャ。」
何故に自慢げな顔ができるのだ。
それにしてももう少し簡単な橋でいいだろう。遊びとして注力すべきところも間違っている気がする。勇者の二人も呆れているな。
「高低差にして7、いや10m以上はありますか?」
「そのくらいはあるだろうな。しかしこれは工事も大変だったと思うのだが・・・」
「橋を作るというのも遊びの一部ニャんだから、あんまり苦労したっていうカンジじゃ無かったニャ。」
ジェイさんがかける言葉が無い信じられないものを見るかのような目でミャオさんを見ている。たしかに龍族とニャンコ族は相いれない存在のようだ。
50mの木製の橋を作っておいて遊びの一言で片づける。これがニャンコ族なのだな。
放埓にして怠惰と龍王はニャンコ族を評していたが、なにか違う気がする。
ふと自分のことに置き換えてみた。
やると決めたらやるのだ。
それはトレーニーでも同じである。トレーニングもやると決めたらやり抜く。それがたとえ肘を壊すような愚行であったとしても、トレーニーの意志だけで止めることは難しいのだ。
ふーむ。
トレーニーの発想や行動というものも、私がこの橋に感じた不快感と同じようなものを誰かに与えることがあるのかもしれないな。留意すべきことであろう。
久しぶりにランドクルーザー岡田の言葉を思い出した。
”トレーニングそれ自体は素晴らしい。筋肉の美しさも素晴らしい。だがいかに筋肉を褒められたとしても、その喜びやトレーニング方法をひけらかすべきではない。”
以前からピンと来なかった言葉だったが、引っかかっていたものがようやく腑に落ちた。
トレーニーでは無い人たちのほうが多数派なのだ。
自己研鑽の結果や過程をひけらかすようでは、育ってくれた筋肉に申し訳が立たないではないか。堂々と自慢ができる相手とは、きちんと筋肉について理解ができる人たちだけだ。
我々トレーニーの世界の常識は、他の人たちにとっても常識であるとは限らないのだ。
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