異世界マッチョ

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105 マッチョさん、補給に注意する

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 ニャンコ族の興奮は冷めないようだ。あれだけ元気なら明日からの戦闘でもよい戦力になってくれるだろう。
 砦の壁を見ていたらふと初代人間王のことを思い出した。精霊の祠も近くなるし、ここまで古い建物だとなにか初代人間王に関係するものが出てくるのではないだろうか?
 「タカロスさん、この砦っていつ頃作られたものなのか分かりますか?」
 「私は古い建物だとしか分かりませんが・・・剣聖はなにかご存じですか?」
 「知らんのう。しかしこの立地と建物を見るに防衛拠点としては場所がよろしくない。人間国に攻め入る立場であったならば砦自体を無視してもいいじゃろう。この砦はあくまで人間国がニャンコ国と戦うために作った拠点か中継基地と考えた方がいいの。」
 ニャンコ国を攻めるための砦か。
 「ニャンコ国に攻め入ったという話は・・・」
 「それこそ初代王の時代か、それよりも前の時代なんじゃないかのう。」
 「へぇー、古いものだと思っていたんですがそこまで古いんですか。この周辺の山に入る時に便利なので、なんとも思わずに利用していましたよ。」
 タカロスさんも知らなかったようだ。やはり後日ここを調査する必要があるな。
 「・・・少し僕の中の精霊がなにか言いたそうですね。」
 「・・・我も同じだ。共鳴、という言い方のほうがいいかもしれんな。精霊が落ち着いていないようだ。」
 「ふぅむ、精霊に選ばれた勇者というのはそういう感じ方をすることもあるのか。」
 ドロスさんがアゴをこすっている。考え事をしている時のドロスさんのクセだ。
 「マッチョ君、この作戦が終わった後にこの砦をしっかり調べた方がいいかもしれんの。」
 「私もそう思っていました。作戦が終わったら人間王に許可をもらいます。」
 精霊までもが落ち着かない場所なのだとしたら、初代王どころか魔王のヒントも見つかるかもしれない。

 砦からニャンコ族の集落までは徒歩での移動になる。
 私の封印したほうの大斧をタカロス隊に預けるつもりだったのだが、私以外に大斧を背負って移動できる人間がいなかったので小さいほうの両手斧を預けた。
 ライノス中将の部隊は後詰として今日中にも砦に入ってくるそうだ。ニャンコ族の若衆とギルド本部の精鋭、それにタカロスさんの部隊の三つの中隊はすべてタカロスさん旗下として扱われる。
 「行軍速度はギルドのメンバーに合わせます。いちばん消耗が少ないでしょうからね。」
 ニャンコ族もタカロスさんの部隊も動きが軽い。山の方が平地よりもラクだとでも言うかのようだ。
 ここから先、我々の仕事はニャンコ国までの兵站の確保が最優先である。ニャンコ国を襲ってきた魔物を数で圧倒するのであれば、後詰のライノス隊が押し上げてくるのを待つことになる。
 「うーむ・・・トレントか。」
 「なにか気になりますか?」
 「トレントは森の魔物と呼ばれておる。見た目も昨日見た通り、暴れて歩く木じゃしの。森を離れてまで人間国を襲うというのが引っかかるのう。ミャオ殿。ニャンコ国を襲った魔物の姿というのは憶えているじゃろうか?」
 「襲ってくるから逃げろと言われただけなので、どんな魔物なのか分からないニャ。たぶん若衆のみんなも分からニャいと思うけれども、聞くだけ聞いた方がいいかニャ?」
 「ぼんやりとした記憶では困るのう。まぁ斥候がどんな敵か教えてくれるじゃろう。」

 「隊長、伝令です。ニャンコ国の魔物を確認しました。数は30ほどですが未知の魔物です。」
 「未知?特徴は?」
 「推定2mほどの青みがかった肌、二足歩行に原始的な片手武器、頭部にツノも生えています。」
 「・・・知らんな。なんだその魔物は。」
 「ツノか・・・昔話に出てくるオーガかもしれんのう。」
 「剣聖・・・昔話ですか?私も小さい頃にオーガの話は親から聞きましたけれど・・・」
 「ああいうものは馬鹿にはできんものだよ。とりあえずその未知の魔物はオーガと名付けるのが良かろう。ミャオ殿、ここからニャンコ国に着くまでの間に部隊が休める場所はあるかの?」
 「うーん、三部隊が固まってとなると難しいニャ。あーでも二部隊ならどうにかなるかニャ。ニャンコ族は木の上で待機もできるニャ。」
 「タカロス、悪いがここからはワシが仕切るぞ。未知の魔物のようじゃからの。」
 「了解です!」
 「タカロスの部隊の斥候にワシとタカロスがついていく。ニャンコ族にも斥候が得意な人はおらんかの?」
 「プール兄弟がいるニャ。案内させるニャ。」
 「タカロス。罠を作れる部隊はいるな?」
 「はい。山岳部隊ですから。」
 「ギルド隊、タカロス隊、ニャンコ族隊それぞれにミャオ殿が指示した場所で待機。タカロス隊は対大型魔物用の罠をいくつか用意してくれ。戻ってからどれを使うか選ぶ。ギルド隊はいちおう全方面に斥候を展開。他の魔物が出ないとも限らないからな。」
 「各部隊長、聞こえたな。剣聖の指示通りに待機。それと軽めに補給もしておけ。山岳戦は補給戦でもあるからな。状況によっては一気に戦闘になる可能性もある。戦闘準備も忘れるな。」
 身をもって知っている。山中行軍はカロリー消費が大きく、あまりに肉体がキレすぎるのだ。私は指示通りにしっかりと多めに補給をすることにした。

 タカロスさんとドロスさんが凄い速さで山を走っていく。
 「・・・未知の魔物と戦う時も精霊は力を貸してくれないんでしょうかね?」
 「貸してもらえればラクはできますが・・・精霊の持つ力ってあまり大きいものではない感じもするんですよね。」
 「あんなに強くなるのにですか?」意外だな。
 「我もロキ殿と同じ感覚だ。おそらく使えば使っただけ消耗し、最後には消えるものであろうという感覚がある。うまくは説明できないが・・・」
 「僕らがもともと持っている力を強くしている、という感覚なんです。」
 「うむ、我もそう感じる。勇者が弱くては精霊の恩寵があってもあまり意味が無いのではないかな。」
 なるほど。精霊が力を使い果たしたガス欠の状態で魔王と戦うワケにもいかない。
 持っている力を強くするというのが精霊の恩寵なのか。だったら二人がより強くなれば精霊が力を貸した時には今の数倍もの力を手に入れることになる。
 二人の肉体を改めて見てみる。
 出会った頃とは別人のような締まりだ。体脂肪率も一桁をキープしているようだし、会うたびに大きくなってゆく。単純に筋肉を大きくするだけなら私でも可能だが、戦闘となると肉体のバランスが肝要なのだ。まぁそういう側面のチェックはドロスさんがやっているだろう。私は筋肥大のサポートだけをしっかりとやればいい。
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