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101 マッチョさん、ニャンコ族に会う
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「ニャンコ族の代表者は城に来ているのか?であれば急ぎ話を聞きたい。」
「謁見の間での拝謁準備ができています。」
「マッチョ、すまんがこの部屋で待っていてくれ。お前の意見も聞きたい。謁見が終わったら戻る。」
「分かりました。」
いつ終わるか分からない謁見となるとけっこう時間を持て余すな。私はすぐにその場でできるトレーニングメニューを頭の中で組み始めた。ストレッチを行ったのちに空気椅子とスクワットでいいだろう。
じっくりと本日分の下半身のトレーニングができた。上半身をどう鍛えるのか考えていた頃に、人間王がニャンコ族の代表とおぼしき人を連れてきた。見たことがある大臣も一緒だ。
「ニャンコ王、こちらがマッチョだ。マッチョ、こちらはニャンコ王だ。どうにもお前がいないと話が進まないようでな。王の方にこちらへ来てもらった。」
短パンにタンクトップという姿で謁見するワケにはいかなかったし、着替えるヒマも無かった。
「マッチョです。平服で申し訳ありません。お目にかかれて光栄です、ニャンコ王様。」
「ニャンコ族族長、ミッケだ。こちらも着の身着のままに逃げて来た。気にするでニャい。しかしニャんで汗をかいているのかニャ?」
「私の信仰上必要なものでして・・・」
「ふむ・・・そういう宗教ならば仕方ないニャ。」
これが獣人か。ニャンコの顔をして、言葉を話し、しっぽがある。
身長180程度、体脂肪率17%というところか。キレてはいないが美しい肉体だ。骨格も筋肉も人族とは違うのだろう。敏捷性に大きく偏った筋肉のようだ。トレーニングで鍛えた肉体では無く、種として生まれ持った肉体なのだろうな。
「なぜ私が必要になったのでしょう?」
「ニャンコ族にもまだ勇者が出ていないのだ。勇者の登場に出くわすマッチョの意見が聞きたいとのことでな。」
「先に私から少し説明を・・・」
顔見知りの大臣だ。
「改めてマッチョ様、人間国大臣デゥアイです。今回のお話はハイネスブルク卿の救援という内政面、軍による魔物の討伐という軍事面、ニャンコ族との調整という外交面という非常に複雑な状況にあります。誰が指揮を取るべきなのかすらややこしい話です。元をただせば魔物だということで、王家が主導することになりましたが、記録や各所への根回しや伝達等は我々が補佐するということになりました。」
「王家が使える通信網や衛兵だけでは足りなくてな。今回は人間国の軍もギルドの人間も投入することになった。ハイネスブルク卿の領地もやられているようだしな。」
要するに今回は特別ややこしい作戦になっているということのようだ。
「まずは今回の顛末から話そうか。我らニャンコ族の領土は人間国で言うところの限界領域のすぐ近くでニャ。とは言っても深い崖が幅50mほどあり、限界領域になにかが居ても我らの領土には入れニャいはずだったのだがニャ。」ふむふむ。
「ところがある日、誰かがニャンとなく対岸に行きたいと思ってしまってニャ。縄を編んで崖を渡ろうとしたのだ。結局その誰かは渡れなかったのだが、ニャンコ族特有の好奇心に火がついてしまってニャ。縄が長くなっていくうちについに限界領域へ渡れてしまったのだ。」
族長は当然の帰結のように話しているが、私は少し混乱している。
わざわざ魔物のいると言われている場所に行きたいと思ってしまったのか?道具を作ってまで。
行けば危険だと分かっていて、行くなと言われていたところに行ったのか?
「マッチョ。ニャンコ王の言っていることが分かるか?」
「たぶん分かっていると思いますが・・・魔物が住んでいるかもしれないところに崖を超えて行きたくなったという話ですよね。」
「それであっているニャ。」
「俺もさっき聞いたが一瞬なにがなんだか分からなかった。だがニャンコ族というのは興味を持ってしまったらどういう危険があるのか考えられなくなるらしい。」
きっと楽しくなって周りが見えなくなってしまうのだろう。私がいた世界のニャンコもそんな感じだった。二足歩行で言葉も話すが、見た目の通り中身もニャンコなのだなとこの場では納得することにした。強引にでも納得しないと話が進まない。
「で、その縄を伝ってだニャ、限界領域まで行って遊んだり探検ごっこをしたりするというのがニャンコ族で流行ってしまったのだニャ。ニャンコ族としてはこれは仕方のない話ニャのだ。」
「それで、その縄を伝って魔物が襲ってきたんでしょうか?」
「いや、縄で崖を渡ると怪我人が出て危ニャいということになってな。橋を作ったのだニャ。」
本格的になにを言っているのか分からなくなってきた。魔物がいる土地と崖で隔たれているというのに、わざわざ橋を作ったのか?遊びのために。
「橋ができたら大量の魔物が渡ってきて襲ってきてニャ。我々は集落から追い出され、ここまで逃げて来たニャ。」
なんという顛末だ。
滅んで当然の種族という気がしてきた。いままでよく種族まるごと滅ばなかったものだと感心してしまった。よっぽど運に恵まれた種族なのだろうか。
「本題はこちらニャ。崖を超えた限界領域の先に、初代人間王が残したと思われる石碑のようなものを確認しているニャ。人間王が言うにはどうやら勇者に関するものだということは分かったが、実際のところよく分からニャいのだ。」
「魔物と戦えてあの文字が読める人間というのはお前しかいないのだ。ハイネスブルク卿の領地の魔物退治は軍が行う。ニャンコ族の集落の奪還はギルド本部の方へ頼むことにした。お前はタカロスやニャンコ族の戦士とともに、限界領域の調査を行ってもらえないか?戦闘自体はタカロスたちに任せてもらえればいい。」
また面倒な依頼が来てしまった。
こういうことになるなら、軍にも古代語を教える許可でも貰っておけば良かったな。
しかしそういう事情なら仕方ない。いまさら逃げるわけにもいかないだろう。
「分かりました。限界領域での調査依頼として受けます。」
とりあえずは本日分の上半身のトレーニングと体幹トレーニングの続きだ。
ややこしい仕事の準備はその後でもいい。
「謁見の間での拝謁準備ができています。」
「マッチョ、すまんがこの部屋で待っていてくれ。お前の意見も聞きたい。謁見が終わったら戻る。」
「分かりました。」
いつ終わるか分からない謁見となるとけっこう時間を持て余すな。私はすぐにその場でできるトレーニングメニューを頭の中で組み始めた。ストレッチを行ったのちに空気椅子とスクワットでいいだろう。
じっくりと本日分の下半身のトレーニングができた。上半身をどう鍛えるのか考えていた頃に、人間王がニャンコ族の代表とおぼしき人を連れてきた。見たことがある大臣も一緒だ。
「ニャンコ王、こちらがマッチョだ。マッチョ、こちらはニャンコ王だ。どうにもお前がいないと話が進まないようでな。王の方にこちらへ来てもらった。」
短パンにタンクトップという姿で謁見するワケにはいかなかったし、着替えるヒマも無かった。
「マッチョです。平服で申し訳ありません。お目にかかれて光栄です、ニャンコ王様。」
「ニャンコ族族長、ミッケだ。こちらも着の身着のままに逃げて来た。気にするでニャい。しかしニャんで汗をかいているのかニャ?」
「私の信仰上必要なものでして・・・」
「ふむ・・・そういう宗教ならば仕方ないニャ。」
これが獣人か。ニャンコの顔をして、言葉を話し、しっぽがある。
身長180程度、体脂肪率17%というところか。キレてはいないが美しい肉体だ。骨格も筋肉も人族とは違うのだろう。敏捷性に大きく偏った筋肉のようだ。トレーニングで鍛えた肉体では無く、種として生まれ持った肉体なのだろうな。
「なぜ私が必要になったのでしょう?」
「ニャンコ族にもまだ勇者が出ていないのだ。勇者の登場に出くわすマッチョの意見が聞きたいとのことでな。」
「先に私から少し説明を・・・」
顔見知りの大臣だ。
「改めてマッチョ様、人間国大臣デゥアイです。今回のお話はハイネスブルク卿の救援という内政面、軍による魔物の討伐という軍事面、ニャンコ族との調整という外交面という非常に複雑な状況にあります。誰が指揮を取るべきなのかすらややこしい話です。元をただせば魔物だということで、王家が主導することになりましたが、記録や各所への根回しや伝達等は我々が補佐するということになりました。」
「王家が使える通信網や衛兵だけでは足りなくてな。今回は人間国の軍もギルドの人間も投入することになった。ハイネスブルク卿の領地もやられているようだしな。」
要するに今回は特別ややこしい作戦になっているということのようだ。
「まずは今回の顛末から話そうか。我らニャンコ族の領土は人間国で言うところの限界領域のすぐ近くでニャ。とは言っても深い崖が幅50mほどあり、限界領域になにかが居ても我らの領土には入れニャいはずだったのだがニャ。」ふむふむ。
「ところがある日、誰かがニャンとなく対岸に行きたいと思ってしまってニャ。縄を編んで崖を渡ろうとしたのだ。結局その誰かは渡れなかったのだが、ニャンコ族特有の好奇心に火がついてしまってニャ。縄が長くなっていくうちについに限界領域へ渡れてしまったのだ。」
族長は当然の帰結のように話しているが、私は少し混乱している。
わざわざ魔物のいると言われている場所に行きたいと思ってしまったのか?道具を作ってまで。
行けば危険だと分かっていて、行くなと言われていたところに行ったのか?
「マッチョ。ニャンコ王の言っていることが分かるか?」
「たぶん分かっていると思いますが・・・魔物が住んでいるかもしれないところに崖を超えて行きたくなったという話ですよね。」
「それであっているニャ。」
「俺もさっき聞いたが一瞬なにがなんだか分からなかった。だがニャンコ族というのは興味を持ってしまったらどういう危険があるのか考えられなくなるらしい。」
きっと楽しくなって周りが見えなくなってしまうのだろう。私がいた世界のニャンコもそんな感じだった。二足歩行で言葉も話すが、見た目の通り中身もニャンコなのだなとこの場では納得することにした。強引にでも納得しないと話が進まない。
「で、その縄を伝ってだニャ、限界領域まで行って遊んだり探検ごっこをしたりするというのがニャンコ族で流行ってしまったのだニャ。ニャンコ族としてはこれは仕方のない話ニャのだ。」
「それで、その縄を伝って魔物が襲ってきたんでしょうか?」
「いや、縄で崖を渡ると怪我人が出て危ニャいということになってな。橋を作ったのだニャ。」
本格的になにを言っているのか分からなくなってきた。魔物がいる土地と崖で隔たれているというのに、わざわざ橋を作ったのか?遊びのために。
「橋ができたら大量の魔物が渡ってきて襲ってきてニャ。我々は集落から追い出され、ここまで逃げて来たニャ。」
なんという顛末だ。
滅んで当然の種族という気がしてきた。いままでよく種族まるごと滅ばなかったものだと感心してしまった。よっぽど運に恵まれた種族なのだろうか。
「本題はこちらニャ。崖を超えた限界領域の先に、初代人間王が残したと思われる石碑のようなものを確認しているニャ。人間王が言うにはどうやら勇者に関するものだということは分かったが、実際のところよく分からニャいのだ。」
「魔物と戦えてあの文字が読める人間というのはお前しかいないのだ。ハイネスブルク卿の領地の魔物退治は軍が行う。ニャンコ族の集落の奪還はギルド本部の方へ頼むことにした。お前はタカロスやニャンコ族の戦士とともに、限界領域の調査を行ってもらえないか?戦闘自体はタカロスたちに任せてもらえればいい。」
また面倒な依頼が来てしまった。
こういうことになるなら、軍にも古代語を教える許可でも貰っておけば良かったな。
しかしそういう事情なら仕方ない。いまさら逃げるわけにもいかないだろう。
「分かりました。限界領域での調査依頼として受けます。」
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