100 / 133
100 マッチョさん、急報を聞く
しおりを挟む
「ふーむ、魔物については書かれているが、魔王については分からぬままか。」
「勇者の人たちが精霊に教えてもらったことを頼りにするしか無いですね。」
初代人間王の手記の翻訳作業、その最終説明を私ひとりで人間王に行っている。ペンスとイレイスも説明をする予定だったが、内容が魔王に関することでもあり異世界人としての私の知見を聞きたいとのことだったので、人間王と二人だけで話し合うことになった。
魔王についての理解が深まる、あるいは魔王に対抗する力についてなにか書いてあればと翻訳作業を進めていたのだが、結局は分からなかった。ペンスとイレイスが言うには自分たちが知らなかった先祖の歴史が分かっただけでも価値があるというのだが、私や人間王が求めているのはもう少し実用的な知識だ。
「ドワーフ国にあった手記も魔王とは直接には関係のない知識ばかりだったな。」
「初代人間王なりの独自の肉体鍛錬法などが書かれていれば良かったのですが、そういう記述も無かったですね。ほぼ初代人間王の個人主観による歴史書です。簡略化された日記みたいなものですね。」
「魔王の封印方法どころか、魔王の居場所も特徴も分からなかったか。広範囲高威力の魔法が相手となると軍隊で魔王と対峙することはできぬな。だからこその勇者パーティという少数精鋭で魔王を封印したということか。それにしても、いったい魔王はどこに封印されているというのだ・・・」
落胆しているというほどでは無いが、魔王の封印場所のヒントくらいあっても良かったという言い方だな。
魔王そのものの話ではないが、気になることがあった。
「初代王は本のように綴じられた紙に文章を書いていたのですが、最後の書き込みから余白がかなりあるんです。」
「・・・つまり魔王を封印した後に戻ってきたにも関わらず、なにも残さなかったということか?」
「そこが気になるのです。なにも書かなかったのか、なにも書けない状況だったのか。本当に初代人間王は魔王封印後に人間国へ戻ってきたんですか?」
「王家の言い伝えでは初代王のパーティが戻ってきたことになっている。他の国に勇者が出たと伝わっているのも、勇者たちが戻ってきたからだろう。・・・マッチョは初代人間王が魔王のもとから戻って来なかったと思っているのか?」
私はずっと引っかかっているものがあったのだ。
「土地土地で初代人間王の話や大陸内戦の話を聞いていると、初代人間王の最後についての話が少しずつ違うんです。いなくなったという言い方をする人たちもいれば、死んだという人もいます。初代人間王の最期を見た人間というのはいるんでしょうか?」
「初代王の墓はこの城内にあるが看取ったという話は聞かないな。大陸内戦で記録が失われたのだろうと思っていたが・・・まさか・・・」
「初代人間王は、戻って来られなかったのかもしれません。それが大陸内戦に繋がったように思えました。」
「・・・いや、その可能性もあるな。どういう理由なのかは分からないが・・・」
ふぅーと人間王は大きく息を吐いた。
「大陸内戦の始まりについては諸説あってな。初代王の跡目争いが発端であることには間違いないだろうが、その初代人間王は亡くなったという説もあれば消えたという説もあるのだ。消えたという言い方は死んだという意味そのものと捉えることができるからな。考えたことも無かったが、初代王が魔王のもとから戻って来なかった可能性は否定できないな。そもそも魔王の封印から大陸内戦までにどれほどの時間が空いたのかすら分かっていないのだ。」
魔王自体も謎が多いが、そもそも初代人間王自体が謎の塊みたいなものなのだ。
「まぁ考えたところで仕方があるまい。勇者が魔王を封印しに行って帰って来れるかどうかなど、精霊のみが知ることだ。」
人間王の言う通りだ。分からないものに時間をかけるというのはムダなことだろう。
「私は魔王を封印したら何事もなく平和でみんなが幸せになるものだと思っていました。」
「所詮は人の世だ。跡目争いも起これば内戦も起こるだろう。勇者として精霊に選ばれたのであれば、魔王と戦って命を落とすなり帰って来られなくなる程度の覚悟はあるだろう。精霊に選ばれし勇者とはそういうものだと俺は思っている。」
成功して帰って来られれば生きた英雄、帰って来られなくてもそれは勇者ということか。
「魔王についても分からず、魔王が封印された場所についても分からず、魔王を封印する方法についても分からず、さらに初代王が人間国へ帰ってきたかどうかも分からないということか。」
「精霊が勇者となった人たちに謝ったというのも、やはり意味が分かりませんね。それに勇者の数も足りません。ニャンコ族、エルフ族、人間族から勇者が出ないと魔王を封印する条件が揃わないかと思います。」
「分からぬことが増えただけか。いや、少なくとも初代王の時代にどう統治したのかは分かったが・・・うーむ・・・」
そもそもは魔王対策として初代王の手記の翻訳が進められたのだ。人間王としてはここまで魔王について分からないとは思ってもみなかったのだろう。
「まぁ唸っても仕方が無いか。やれる事と言えば勇者を集め、精霊の恩寵によって肉体に及ぼす疲労を和らげるために鍛え上げる。ヒトがやれる事などその程度かもしれないな。」
ロゴスとドワーフ族の仕事が効いてきた。トレーニングマシンがあれば短期間でそれなりの肉体が作られるだろう。そしてそれを指導することが私にできることだ。
部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「どうした?緊急事態以外では二人きりにしておけと伝えただろう。」
見知った顔の大臣だ。だが顔色から察するに、いい報告では無さそうだな。
「申し訳ありません。その緊急事態です。」
「なんだ?」
「ニャンコ族の集落が魔物によって潰されました。生き残ったニャンコ族が人間国での保護を求めています。またニャンコ族の領土に近いハイネスブルク卿から軍の出動依頼が来ました。」
魔王について話していたと思ったら魔物の襲撃か。
「勇者の人たちが精霊に教えてもらったことを頼りにするしか無いですね。」
初代人間王の手記の翻訳作業、その最終説明を私ひとりで人間王に行っている。ペンスとイレイスも説明をする予定だったが、内容が魔王に関することでもあり異世界人としての私の知見を聞きたいとのことだったので、人間王と二人だけで話し合うことになった。
魔王についての理解が深まる、あるいは魔王に対抗する力についてなにか書いてあればと翻訳作業を進めていたのだが、結局は分からなかった。ペンスとイレイスが言うには自分たちが知らなかった先祖の歴史が分かっただけでも価値があるというのだが、私や人間王が求めているのはもう少し実用的な知識だ。
「ドワーフ国にあった手記も魔王とは直接には関係のない知識ばかりだったな。」
「初代人間王なりの独自の肉体鍛錬法などが書かれていれば良かったのですが、そういう記述も無かったですね。ほぼ初代人間王の個人主観による歴史書です。簡略化された日記みたいなものですね。」
「魔王の封印方法どころか、魔王の居場所も特徴も分からなかったか。広範囲高威力の魔法が相手となると軍隊で魔王と対峙することはできぬな。だからこその勇者パーティという少数精鋭で魔王を封印したということか。それにしても、いったい魔王はどこに封印されているというのだ・・・」
落胆しているというほどでは無いが、魔王の封印場所のヒントくらいあっても良かったという言い方だな。
魔王そのものの話ではないが、気になることがあった。
「初代王は本のように綴じられた紙に文章を書いていたのですが、最後の書き込みから余白がかなりあるんです。」
「・・・つまり魔王を封印した後に戻ってきたにも関わらず、なにも残さなかったということか?」
「そこが気になるのです。なにも書かなかったのか、なにも書けない状況だったのか。本当に初代人間王は魔王封印後に人間国へ戻ってきたんですか?」
「王家の言い伝えでは初代王のパーティが戻ってきたことになっている。他の国に勇者が出たと伝わっているのも、勇者たちが戻ってきたからだろう。・・・マッチョは初代人間王が魔王のもとから戻って来なかったと思っているのか?」
私はずっと引っかかっているものがあったのだ。
「土地土地で初代人間王の話や大陸内戦の話を聞いていると、初代人間王の最後についての話が少しずつ違うんです。いなくなったという言い方をする人たちもいれば、死んだという人もいます。初代人間王の最期を見た人間というのはいるんでしょうか?」
「初代王の墓はこの城内にあるが看取ったという話は聞かないな。大陸内戦で記録が失われたのだろうと思っていたが・・・まさか・・・」
「初代人間王は、戻って来られなかったのかもしれません。それが大陸内戦に繋がったように思えました。」
「・・・いや、その可能性もあるな。どういう理由なのかは分からないが・・・」
ふぅーと人間王は大きく息を吐いた。
「大陸内戦の始まりについては諸説あってな。初代王の跡目争いが発端であることには間違いないだろうが、その初代人間王は亡くなったという説もあれば消えたという説もあるのだ。消えたという言い方は死んだという意味そのものと捉えることができるからな。考えたことも無かったが、初代王が魔王のもとから戻って来なかった可能性は否定できないな。そもそも魔王の封印から大陸内戦までにどれほどの時間が空いたのかすら分かっていないのだ。」
魔王自体も謎が多いが、そもそも初代人間王自体が謎の塊みたいなものなのだ。
「まぁ考えたところで仕方があるまい。勇者が魔王を封印しに行って帰って来れるかどうかなど、精霊のみが知ることだ。」
人間王の言う通りだ。分からないものに時間をかけるというのはムダなことだろう。
「私は魔王を封印したら何事もなく平和でみんなが幸せになるものだと思っていました。」
「所詮は人の世だ。跡目争いも起これば内戦も起こるだろう。勇者として精霊に選ばれたのであれば、魔王と戦って命を落とすなり帰って来られなくなる程度の覚悟はあるだろう。精霊に選ばれし勇者とはそういうものだと俺は思っている。」
成功して帰って来られれば生きた英雄、帰って来られなくてもそれは勇者ということか。
「魔王についても分からず、魔王が封印された場所についても分からず、魔王を封印する方法についても分からず、さらに初代王が人間国へ帰ってきたかどうかも分からないということか。」
「精霊が勇者となった人たちに謝ったというのも、やはり意味が分かりませんね。それに勇者の数も足りません。ニャンコ族、エルフ族、人間族から勇者が出ないと魔王を封印する条件が揃わないかと思います。」
「分からぬことが増えただけか。いや、少なくとも初代王の時代にどう統治したのかは分かったが・・・うーむ・・・」
そもそもは魔王対策として初代王の手記の翻訳が進められたのだ。人間王としてはここまで魔王について分からないとは思ってもみなかったのだろう。
「まぁ唸っても仕方が無いか。やれる事と言えば勇者を集め、精霊の恩寵によって肉体に及ぼす疲労を和らげるために鍛え上げる。ヒトがやれる事などその程度かもしれないな。」
ロゴスとドワーフ族の仕事が効いてきた。トレーニングマシンがあれば短期間でそれなりの肉体が作られるだろう。そしてそれを指導することが私にできることだ。
部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「どうした?緊急事態以外では二人きりにしておけと伝えただろう。」
見知った顔の大臣だ。だが顔色から察するに、いい報告では無さそうだな。
「申し訳ありません。その緊急事態です。」
「なんだ?」
「ニャンコ族の集落が魔物によって潰されました。生き残ったニャンコ族が人間国での保護を求めています。またニャンコ族の領土に近いハイネスブルク卿から軍の出動依頼が来ました。」
魔王について話していたと思ったら魔物の襲撃か。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説


元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる