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97 マッチョさん、トレーニングマシンを手に入れる
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完成したトレーニングマシンは一度分解され、カイトさんによって人間国で最終組み立てと調整を行うことになった。ドワーフ国の若い人たちも筋トレは楽しんでいるようなので、ドワーフ国でも多くの人が使えるようにトレーニングマシンが設置されることだろう。
行く先々で筋トレが流行りだしているというのはいいことだ。実際に魔王やら魔物の集団と戦うことになっても、トレーニングをした分だけ生存率も上がるだろう。
ロゴスの翻訳も大詰めである。ドワーフ国にあった手記はだいたい最後まで翻訳は終わったが、対魔物用の古代兵器のようなものは出てこなかった。
そもそも魔王に兵器など効かないから、勇者などという選ばれた人たちがいるのであろう。魔王に対抗するには精霊の恩寵という人知を超えた力に頼るしかないという結論から、こういう世界なのだ。
久しぶりの人間国である。
王城の私の自室にカイトさんと若いドワーフの人たち数人で私のトレーニングマシンを搬入してくれた。組み立て作業を終え、試験運転をしてみる。
うーむ、いい。
やはり自前のトレーニングマシンがあるというのは素晴らしいことだな。トレーニングマシンの存在自体がトレーニーに安心感を与えてくれる。
物珍しさから人が集まってきたが、すぐに衛兵に追い払われた。いちおう私の自室なのだから、プライベートは尊重してほしい。
だが、そういうワケにもいかなかった。この世界の人間にとっては最新のトレーニングマシンであり、魔物や魔王を倒すための肉体が手に入るかもしれない機械なのだ。ドロスさんやロキさんやジェイさんがトレーニングマシンを試しに来たと思ったら、噂を聞きつけてフェイスさんやアルクまでもが私の自室のマシンを試しにやって来た。重ねて強調したいが、間借りしているとはいえ、ここは私の自室なのだ。
完全に段取りを間違えたな。トレーニングマシンに人が集まってくることは少し考えれば分かることだった。軍あるいはギルドへの献上を先にして、私のマシンはあとにすれば良かった。
数日のあいだ、私は自室でゆっくりとトレーニングをするというワケにもいかず、訪ねて来る人たちのトレーニングを補助・指導することになった。
多くの人たちと語り合いながらトレーニングするのも悪くは無い。だが、私はトレーニングは自室でしっかりと追い込みたい派なのだ。ジム通いがしたいタイプでは無いし、私の部屋を共用のジムにする気も無い。
私個人で買った買い物なのだから、あとはギルドでも軍でも王家でもいいから、お金が出せる組織で買ってくれとやんわりと言ったら、だいたい納得して帰ってくれた。
いよいよ私自身が本格的にマシントレーニングをしてみようかと思ったら、人間王までやってきた。
自前のトレーニングマシンがあるというのに、アルクから最新型のトレーニングマシンがあると聞いたらどうにもたまらなくなったそうだ。私自身のトレーニングが出来なくなるので来客にいい加減イラっと来たが、人間王が訪ねて来た理由がトレーニーっぽいのでしぶしぶ納得した。
一通り説明して納得するまでマシンを使ってもらった。
「ふむ。このソーイングマシンというのは素晴らしいな。王家にも一台欲しいものだ。」
言われてみると王家はソーイングマシンを持っていなかった気がする。バーンマシンがあるならそっちで十分だと思うのだが。初代人間王がソーイングマシンを設計だけして作らなかったのも、近接格闘用の肉体を作るにはあちらの方が有利だと思ったからだろう。
だが、新しいトレーニングマシンができたら試してみたくなったり欲しくなったりするのがトレーニーという人種である。王家のトレーニング部屋にもそのうちソーイングマシンが導入されるであろう。
「マッチョ。このたびは大儀であったな。ドワーフ国に残っていた手記の翻訳も終わると聞いている。冒険者としてこの大陸を見て回るのもいいが、なにかの折にお前がいたら心強い。しばらくは客人として王宮に滞在してくれないだろうか?」
身の振り方か。次々と私以外には適任者がいないという仕事があったため、あまり先のことは考えていなかった。
「まだ翻訳も残っていますし、王都に残るつもりでした。」瓶詰の進捗確認もある。しかしカニ缶に賭けるスクルトさんの情熱を見る限り、ほっといてもそれなりのものが出来そうでもある。
「ふむ。そうしてくれるとありがたい。アルクも懐いているようだしな。王という手前、あまりあれに構ってもやれなんだ。ドロスのようにアルクの肉体も鍛えてもらえると嬉しいのだが・・・」
若くて優秀なトレーニー候補だ。
「アルクは優秀です。私も指導しますが、私の指導などなくとも王子として立派に王家の仕事を果たすでしょう。」
「そうか。お前が言うならアルクの時代も安泰だろう。それとだな・・・」
どうにも言いづらそうだ。また厄介な仕事を頼まれるのだろうか。今回のトレーニングマシンの仕事はけっこう疲れたので、しばらくはゆっくり過ごしたいのだが。
「俺もアルク同様、筋肉について指導を受けさせてもらえないだろうか?手が空いた時だけでいい。どうにもお前の肉体を見るかぎり、俺の知らない異世界のトレーニング方法というものがあるような気がしてな。前々から気になってはいたのだ。」
トレーニングの指導の話か。なるほど。あれほど立派なトレーニングルームというものがあっても、あれは初代王の時代から受け継がれていたものなのだ。すべてを使いこなせるほどトレーニング方法が伝わっているかどうかとなると、相当に怪しいな。
まぁそれくらいはやってもいいだろう。王家にどの程度トレーニング方法が伝わっているのか興味もある。
「分かりました。週に一度ほどやってみましょうか。」
人間王らしからぬ笑顔で喜んでいる。やはり王である前に、目の前の人間は一人のトレーニーなのだ。
行く先々で筋トレが流行りだしているというのはいいことだ。実際に魔王やら魔物の集団と戦うことになっても、トレーニングをした分だけ生存率も上がるだろう。
ロゴスの翻訳も大詰めである。ドワーフ国にあった手記はだいたい最後まで翻訳は終わったが、対魔物用の古代兵器のようなものは出てこなかった。
そもそも魔王に兵器など効かないから、勇者などという選ばれた人たちがいるのであろう。魔王に対抗するには精霊の恩寵という人知を超えた力に頼るしかないという結論から、こういう世界なのだ。
久しぶりの人間国である。
王城の私の自室にカイトさんと若いドワーフの人たち数人で私のトレーニングマシンを搬入してくれた。組み立て作業を終え、試験運転をしてみる。
うーむ、いい。
やはり自前のトレーニングマシンがあるというのは素晴らしいことだな。トレーニングマシンの存在自体がトレーニーに安心感を与えてくれる。
物珍しさから人が集まってきたが、すぐに衛兵に追い払われた。いちおう私の自室なのだから、プライベートは尊重してほしい。
だが、そういうワケにもいかなかった。この世界の人間にとっては最新のトレーニングマシンであり、魔物や魔王を倒すための肉体が手に入るかもしれない機械なのだ。ドロスさんやロキさんやジェイさんがトレーニングマシンを試しに来たと思ったら、噂を聞きつけてフェイスさんやアルクまでもが私の自室のマシンを試しにやって来た。重ねて強調したいが、間借りしているとはいえ、ここは私の自室なのだ。
完全に段取りを間違えたな。トレーニングマシンに人が集まってくることは少し考えれば分かることだった。軍あるいはギルドへの献上を先にして、私のマシンはあとにすれば良かった。
数日のあいだ、私は自室でゆっくりとトレーニングをするというワケにもいかず、訪ねて来る人たちのトレーニングを補助・指導することになった。
多くの人たちと語り合いながらトレーニングするのも悪くは無い。だが、私はトレーニングは自室でしっかりと追い込みたい派なのだ。ジム通いがしたいタイプでは無いし、私の部屋を共用のジムにする気も無い。
私個人で買った買い物なのだから、あとはギルドでも軍でも王家でもいいから、お金が出せる組織で買ってくれとやんわりと言ったら、だいたい納得して帰ってくれた。
いよいよ私自身が本格的にマシントレーニングをしてみようかと思ったら、人間王までやってきた。
自前のトレーニングマシンがあるというのに、アルクから最新型のトレーニングマシンがあると聞いたらどうにもたまらなくなったそうだ。私自身のトレーニングが出来なくなるので来客にいい加減イラっと来たが、人間王が訪ねて来た理由がトレーニーっぽいのでしぶしぶ納得した。
一通り説明して納得するまでマシンを使ってもらった。
「ふむ。このソーイングマシンというのは素晴らしいな。王家にも一台欲しいものだ。」
言われてみると王家はソーイングマシンを持っていなかった気がする。バーンマシンがあるならそっちで十分だと思うのだが。初代人間王がソーイングマシンを設計だけして作らなかったのも、近接格闘用の肉体を作るにはあちらの方が有利だと思ったからだろう。
だが、新しいトレーニングマシンができたら試してみたくなったり欲しくなったりするのがトレーニーという人種である。王家のトレーニング部屋にもそのうちソーイングマシンが導入されるであろう。
「マッチョ。このたびは大儀であったな。ドワーフ国に残っていた手記の翻訳も終わると聞いている。冒険者としてこの大陸を見て回るのもいいが、なにかの折にお前がいたら心強い。しばらくは客人として王宮に滞在してくれないだろうか?」
身の振り方か。次々と私以外には適任者がいないという仕事があったため、あまり先のことは考えていなかった。
「まだ翻訳も残っていますし、王都に残るつもりでした。」瓶詰の進捗確認もある。しかしカニ缶に賭けるスクルトさんの情熱を見る限り、ほっといてもそれなりのものが出来そうでもある。
「ふむ。そうしてくれるとありがたい。アルクも懐いているようだしな。王という手前、あまりあれに構ってもやれなんだ。ドロスのようにアルクの肉体も鍛えてもらえると嬉しいのだが・・・」
若くて優秀なトレーニー候補だ。
「アルクは優秀です。私も指導しますが、私の指導などなくとも王子として立派に王家の仕事を果たすでしょう。」
「そうか。お前が言うならアルクの時代も安泰だろう。それとだな・・・」
どうにも言いづらそうだ。また厄介な仕事を頼まれるのだろうか。今回のトレーニングマシンの仕事はけっこう疲れたので、しばらくはゆっくり過ごしたいのだが。
「俺もアルク同様、筋肉について指導を受けさせてもらえないだろうか?手が空いた時だけでいい。どうにもお前の肉体を見るかぎり、俺の知らない異世界のトレーニング方法というものがあるような気がしてな。前々から気になってはいたのだ。」
トレーニングの指導の話か。なるほど。あれほど立派なトレーニングルームというものがあっても、あれは初代王の時代から受け継がれていたものなのだ。すべてを使いこなせるほどトレーニング方法が伝わっているかどうかとなると、相当に怪しいな。
まぁそれくらいはやってもいいだろう。王家にどの程度トレーニング方法が伝わっているのか興味もある。
「分かりました。週に一度ほどやってみましょうか。」
人間王らしからぬ笑顔で喜んでいる。やはり王である前に、目の前の人間は一人のトレーニーなのだ。
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