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89 マッチョさん、トレーニングマシンに近づく
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「うわぁ・・・マッチョさん、待ってました!」
久しぶりに見たロゴスは少し痩せたように見える。
「仕事ばかりでちゃんと食べていないんじゃないんですか?少し痩せたように見えます。」
「そりゃ仕事が面白いからですよ!こんなに多くの機械の図面なんて、この大陸のどこにも無いですよ!」
それはそうだろうなぁ。大陸内戦で失われたものは多そうだ。
「では私はこれで。外に使いを用意させておきますので、御用がありましたら遠慮なく呼んでください。」
「ロイスさんありがとうございました。」
「で、マッチョさんその包みはなんですか?」
「ロゴスのために、ペンスとイレイスの二人が写本を作ってくれたんですよ。王都の解読状況も知りたいだろうと言って。」
「うわー!見たいです!」
私が手記の翻訳の写しを渡したら、ロゴスは食い入るように見ている。
(マッチョさん、なんだか話し合うカンジの雰囲気じゃないですね。)
(外に出ましょうか。)
「ロゴス。私とカイトさんは大食堂でお話をしていますので、気が向いたらこちらに来てください。」
「分かりました。ちょっと熟読させてください。すぐに読み終わりますので。」
写しから目も外さずに返事をした。この集中力が彼の仕事の結果につながるんだろうな。
「ロゴスがあの調子では、カイトさんにもご迷惑をおかけしているんじゃないでしょうか?」
「いやー、毎日楽しいですよ。なにかしら作っては改良し、良くなったら楽しいし、なんだか実用的だし使えば肉体まで変化しますし。」
大食堂で話しているなどと言ったのは失敗だったな。カイトさんが作ったトレーニング機材を早く見たくなってしまった。大食堂に私が来ると、なにも言わなくてもお茶は温かいものが出てくるようになった。すっかりこの里にも馴染んでしまっているなぁ。
「で、ロゴスと話しても分からなかったというのは、軸受けのことなんですよ。強い力がかかるせいか、どうもドワーフが知っている軸受けでは故障しがちなんですよね。」
なるほど。トレーニングマシンというものは多くの軸受けから出来ている。重量物にかかる重さの方向を変化させ、自重トレーニングでは鍛え上げるのが難しい箇所にまで効かせるのがトレーニングマシンだ。
「金属製の軸受けというものは作れないんでしょうか?」
「試してはみたんです。ですが、音が大きくなる、高い精度で作れない、軸か軸受けが削れて回転しなくなるといったあたりが課題ですね。」
それは困る。きちんと動かないトレーニングマシンなど、怪我のもとにしかならない。ふーむ。
「里長には相談しましたか?」
「それがそのー。大親方は高炉の方に夢中になってしまって。山を削って作っている最中です。そろそろ目途がついてもいい頃なんですけれどね。」
思い出した。あの大親方は仕事になると周りが見えなくなるんだった。カイトさんが助言を求めてもたぶん脳みその中は高炉でいっぱいだろう。
「あの状態の大親方に助言を求めるというのはちょっと・・・」
まぁ怖いだろうなぁ。私だって怖い。
ふーむ。軸受けか。
「こういうもの、作れませんかね?真球に近い形状の金属がたくさん必要なのですが。」
私はベアリングを提案してみた。溝のある輪っかの外側に球状の金属をたっぷり。さらにその内側に輪っか状の軸受けをはめ込む。音と強度に関してはこれで解決するはずだ。問題はドワーフがこれを作れるかどうかである。
「うーーーん・・・」
カイトさんが黙ってしまった。今は話しかけてはいけないタイミングだな。
「この、球状のものに力が分散するようになっているのですか。見事な発想です。馬車の軸受けなどにも使えそうですねぇ。」
言われてみてはっと気づいたが、どうも私はこの世界の文明のレベルを少し上げてしまっている気がしてきた。大量生産技術、缶詰、ベアリング。どれも自動車が作られた当たりの時代に考案されたものだった気がする。この世界では蒸気機関すら無く、水車や風車が回転を運動に変化させているだけだ。しかもやたら効率が悪い。こういう知識を広めて大丈夫なのだろうか?
いや、ここは悩むところでも引くところでもない。
缶詰もベアリングも、よい筋肉を作るために必要なものなのだ。ちょっとくらい文明が発展したところでなんだと言うのだ。
「作れそうでしょうか?それ。」
「強度が問題ですね。外側の玉受けの部分は特に強い力がかかるので。真球も難しいです。研磨に新しい技術を入れる必要があるかもしれませんが・・・あれ。そういえばたまに大親方が作っていましたね。こういうやつ。」
そうか。王家が所有しているマシンのメンテナンス用に、ドワーフ王がベアリングも作っていたのだな。
そこから特にどうという事も無くこの世界が回っているのであるならば、ベアリングのひとつやふたつで文明が崩壊するようなことも無いだろう。
「やっぱり大親方に聞いてみた方がいいですね。実際に作っている人に聞いた方が僕が作るよりもいいですよ。」
カイトさんの言う通りだ。まだ顔を見ていないが、私はいちおう人間国の代表として来ているのだ。
ドワーフ王に聞けばなにかしら解決法も分かるだろう。
久しぶりに見たロゴスは少し痩せたように見える。
「仕事ばかりでちゃんと食べていないんじゃないんですか?少し痩せたように見えます。」
「そりゃ仕事が面白いからですよ!こんなに多くの機械の図面なんて、この大陸のどこにも無いですよ!」
それはそうだろうなぁ。大陸内戦で失われたものは多そうだ。
「では私はこれで。外に使いを用意させておきますので、御用がありましたら遠慮なく呼んでください。」
「ロイスさんありがとうございました。」
「で、マッチョさんその包みはなんですか?」
「ロゴスのために、ペンスとイレイスの二人が写本を作ってくれたんですよ。王都の解読状況も知りたいだろうと言って。」
「うわー!見たいです!」
私が手記の翻訳の写しを渡したら、ロゴスは食い入るように見ている。
(マッチョさん、なんだか話し合うカンジの雰囲気じゃないですね。)
(外に出ましょうか。)
「ロゴス。私とカイトさんは大食堂でお話をしていますので、気が向いたらこちらに来てください。」
「分かりました。ちょっと熟読させてください。すぐに読み終わりますので。」
写しから目も外さずに返事をした。この集中力が彼の仕事の結果につながるんだろうな。
「ロゴスがあの調子では、カイトさんにもご迷惑をおかけしているんじゃないでしょうか?」
「いやー、毎日楽しいですよ。なにかしら作っては改良し、良くなったら楽しいし、なんだか実用的だし使えば肉体まで変化しますし。」
大食堂で話しているなどと言ったのは失敗だったな。カイトさんが作ったトレーニング機材を早く見たくなってしまった。大食堂に私が来ると、なにも言わなくてもお茶は温かいものが出てくるようになった。すっかりこの里にも馴染んでしまっているなぁ。
「で、ロゴスと話しても分からなかったというのは、軸受けのことなんですよ。強い力がかかるせいか、どうもドワーフが知っている軸受けでは故障しがちなんですよね。」
なるほど。トレーニングマシンというものは多くの軸受けから出来ている。重量物にかかる重さの方向を変化させ、自重トレーニングでは鍛え上げるのが難しい箇所にまで効かせるのがトレーニングマシンだ。
「金属製の軸受けというものは作れないんでしょうか?」
「試してはみたんです。ですが、音が大きくなる、高い精度で作れない、軸か軸受けが削れて回転しなくなるといったあたりが課題ですね。」
それは困る。きちんと動かないトレーニングマシンなど、怪我のもとにしかならない。ふーむ。
「里長には相談しましたか?」
「それがそのー。大親方は高炉の方に夢中になってしまって。山を削って作っている最中です。そろそろ目途がついてもいい頃なんですけれどね。」
思い出した。あの大親方は仕事になると周りが見えなくなるんだった。カイトさんが助言を求めてもたぶん脳みその中は高炉でいっぱいだろう。
「あの状態の大親方に助言を求めるというのはちょっと・・・」
まぁ怖いだろうなぁ。私だって怖い。
ふーむ。軸受けか。
「こういうもの、作れませんかね?真球に近い形状の金属がたくさん必要なのですが。」
私はベアリングを提案してみた。溝のある輪っかの外側に球状の金属をたっぷり。さらにその内側に輪っか状の軸受けをはめ込む。音と強度に関してはこれで解決するはずだ。問題はドワーフがこれを作れるかどうかである。
「うーーーん・・・」
カイトさんが黙ってしまった。今は話しかけてはいけないタイミングだな。
「この、球状のものに力が分散するようになっているのですか。見事な発想です。馬車の軸受けなどにも使えそうですねぇ。」
言われてみてはっと気づいたが、どうも私はこの世界の文明のレベルを少し上げてしまっている気がしてきた。大量生産技術、缶詰、ベアリング。どれも自動車が作られた当たりの時代に考案されたものだった気がする。この世界では蒸気機関すら無く、水車や風車が回転を運動に変化させているだけだ。しかもやたら効率が悪い。こういう知識を広めて大丈夫なのだろうか?
いや、ここは悩むところでも引くところでもない。
缶詰もベアリングも、よい筋肉を作るために必要なものなのだ。ちょっとくらい文明が発展したところでなんだと言うのだ。
「作れそうでしょうか?それ。」
「強度が問題ですね。外側の玉受けの部分は特に強い力がかかるので。真球も難しいです。研磨に新しい技術を入れる必要があるかもしれませんが・・・あれ。そういえばたまに大親方が作っていましたね。こういうやつ。」
そうか。王家が所有しているマシンのメンテナンス用に、ドワーフ王がベアリングも作っていたのだな。
そこから特にどうという事も無くこの世界が回っているのであるならば、ベアリングのひとつやふたつで文明が崩壊するようなことも無いだろう。
「やっぱり大親方に聞いてみた方がいいですね。実際に作っている人に聞いた方が僕が作るよりもいいですよ。」
カイトさんの言う通りだ。まだ顔を見ていないが、私はいちおう人間国の代表として来ているのだ。
ドワーフ王に聞けばなにかしら解決法も分かるだろう。
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