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87 マッチョさん、王子を鍛える
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「さて。今から始めるものは、自分の身体の重さを使った鍛え方です。あの部屋にあるようなものは使いません。」
マット代わりに大き目の毛布を用意してもらった。
「アルク君は木登りなどは得意でしょうか?」
「小さい時はやっていたそうですが、今はやれるかどうか分かりません。」
ふむ。もともとの体幹の使い方、カウンターバランスのとり方といったあたりは平均レベルと言っていいのだろう。
「走るのは好きですか?」
「あまり好きでは無いですが、走らなくてはいけないというなら毎日走ります。」
敏捷性や持久力は弱い可能性があるな。
「木刀などを使った素振りはやっていますか?」
「ドロスさんに教わってから、毎日やっています。」
ならば体幹は平均レベルを超えているだろう。素振りにしてもフォームや精度というものが必要なのだ。
「素振りの姿勢に関して、きちんと指導は受けましたか?」
「・・・力任せにやらず、きちんと背筋を伸ばして同じ場所に当てるようにと、ドロスさんに言われました。同じ事を何度も言われます。」
道具を肉体の延長として使うにはまだ早いというあたりか。道具というのは回数さえこなせば手に馴染んでくるものだ。私も異世界に来てから素振りなどをするようになったが、結局はフォームと回数と意識の問題だった。この辺はトレーニングと変わらない。
「まだまだ学ばなければいけないことがたくさんありそうですね。私もです。」
「マッチョさんは大きいじゃないですか!王宮に入ってくるハムの焼き印みたいに!」
あれはもともと私の背中なのだ。デカいと言われて悪い気はしないが、あまりに認知度が高すぎると恥ずかしさとデメリットしか感じなくなってくるな。
「鍛錬に終わりというものはありません。ドロスさんを見ていれば分かるはずです。じゃぁ始めましょうか。」
「よろしくお願いします!」
筋肥大をこの年からやらせるには酷というものだ。だいたい筋トレの適正年齢については私が居た世界でもしっかりとしたエビデンスが出ていなかったはずだ。個人差もある。今のアルク君には体幹と素振りと走り込みだけをやらせておけばいいだろう。
トレーニーを目指すかどうかは、彼の成長次第である。
「あ、アルク君すごいですね・・・」
私は息が上がっているのだが、アルクは平気な顔をして体幹トレーニングを続けている。自重が軽いから楽々とこなせるというのもあるだろうが、これは日ごろの鍛錬が効いているのだ。
「・・・マッチョさんよりもできてしまっていることにビックリしています。」
王宮の王子育成チームは優秀だ。体幹に関しては同世代のはるか上を行っている。同じ体重で関節技や寝技といったものを多用するスポーツであるならば、アルクに勝てる者などいないのではないだろうか?
「私ができないやつ、やってみますか?」
右手右足のみの膝プランクである。
「あ、できました・・・」
肘と膝はしっかりと正中線に起き、ぐらつきも起きない。綺麗なフォームである。
「これで30秒やってみましょう。これを三セットです。」
「はい!」
なんなくクリアした。左手左足のみの膝プランクも試してみたら無事に成功である。
やはり素振りの習慣がいいのだろう。広背筋だけでなく、体幹で木刀を振る。振る時は括約筋をしっかりと閉める。この習慣だけでこのバランスの良い体幹が作れるのだ。いや、王子の才能もあるか。
「難易度をさらに上げます。膝ではなく、つま先で止めて膝をしっかり伸ばしてください。」
「こうですか?」
完璧な片手片足プランクである。若いとはいえ、なんというセンスだ。
「これも30秒三セットです。」
「はい!」
綺麗なフォームだな。
「たまに鏡を見て姿勢を確認してください。綺麗な姿勢です。」
「はい!」
鏡を見ても軸がブレないし、動かない。人間王の次を担う人材として、肉体のほうは完全に作り込まれている感じだ。
「お終いです。お疲れ様でした。」
息切れをしているな。初めての体幹トレーニングで、ほぼ最高難度のものをこなしたのだ。あとは重量物を増やすか時間を増やすしか負荷の上げ方は無い。
「あ、ありがとうございました!」
「十二分に優れた肉体です。一部の能力は私や王を超えているかもしれません。」
素質は人間王以上かもしれない。
「ありがとうございます!なんだかいつもと違う感じで、少し楽しかったです!」
うん。やはりまだ少年なのだ。焦りもあれば、息抜きも必要だろう。
「今日やったことをいつもやっていることに追加してやってみてください。素振りも安定してくると思います。できそうだと思ったら、セット数ではなく時間を長くしてみてください。」
しかしなぜこの身体で素振りが安定しないのだ?雑念があるというか集中力不足なのだろうか?
「・・・あの、マッチョさん。ちゃんと基礎ができたら、身体を大きくする方法も教えてもらえませんか?」
なるほど。身体の大きさや筋肉の大きさに憧れているのか。気持ちはすごく分かるが、まだ早い気がする。
「もう少し身長が伸びてからにしましょうか。あまり身長や体重が無い時に身体を大きくしようとすると、身体が壊れてしまう事もあるんです。人間王様やソフィーさんもその辺をしっかりと考えていると思いますよ。」
そう。王子の身体は作られた肉体である。きちんとした訓練と栄養摂取と運動によって、計画的に作られた肉体なのだ。この辺を考えていないワケが無い。
「・・・分かりました。今日はありがとうございました。」
「じゃぁまた別の機会に。私も部屋でやらなくてはいけないことがあるので、今日はこの辺で。」
「あの!」
「なんでしょう?」まだなにかあるのか?
「また教えてもらってもいいでしょうか?」
「ええ。姿勢の確認とかしっかりやりましょう。」
「ありがとうございます!失礼します!」
アルクが部屋から出ていった。
教える側もしっかりと鍛えないとな。体重差があるとはいえ、対角線の片手片足膝プランクくらいはしっかりとできるようにしておきたい。もう一度ストレッチからやり直す。
ん?
「ははっ」
アルクは私にトレーニングを教えてもらいたかっただけではない。
あれは少年らしく大人に懐きたかったのだ。
どうにも筋トレが絡んでくると、私はこういう一般的な発想や心情の機微に疎くなってしまうな。これもまたトレーニーの性分であろう。
マット代わりに大き目の毛布を用意してもらった。
「アルク君は木登りなどは得意でしょうか?」
「小さい時はやっていたそうですが、今はやれるかどうか分かりません。」
ふむ。もともとの体幹の使い方、カウンターバランスのとり方といったあたりは平均レベルと言っていいのだろう。
「走るのは好きですか?」
「あまり好きでは無いですが、走らなくてはいけないというなら毎日走ります。」
敏捷性や持久力は弱い可能性があるな。
「木刀などを使った素振りはやっていますか?」
「ドロスさんに教わってから、毎日やっています。」
ならば体幹は平均レベルを超えているだろう。素振りにしてもフォームや精度というものが必要なのだ。
「素振りの姿勢に関して、きちんと指導は受けましたか?」
「・・・力任せにやらず、きちんと背筋を伸ばして同じ場所に当てるようにと、ドロスさんに言われました。同じ事を何度も言われます。」
道具を肉体の延長として使うにはまだ早いというあたりか。道具というのは回数さえこなせば手に馴染んでくるものだ。私も異世界に来てから素振りなどをするようになったが、結局はフォームと回数と意識の問題だった。この辺はトレーニングと変わらない。
「まだまだ学ばなければいけないことがたくさんありそうですね。私もです。」
「マッチョさんは大きいじゃないですか!王宮に入ってくるハムの焼き印みたいに!」
あれはもともと私の背中なのだ。デカいと言われて悪い気はしないが、あまりに認知度が高すぎると恥ずかしさとデメリットしか感じなくなってくるな。
「鍛錬に終わりというものはありません。ドロスさんを見ていれば分かるはずです。じゃぁ始めましょうか。」
「よろしくお願いします!」
筋肥大をこの年からやらせるには酷というものだ。だいたい筋トレの適正年齢については私が居た世界でもしっかりとしたエビデンスが出ていなかったはずだ。個人差もある。今のアルク君には体幹と素振りと走り込みだけをやらせておけばいいだろう。
トレーニーを目指すかどうかは、彼の成長次第である。
「あ、アルク君すごいですね・・・」
私は息が上がっているのだが、アルクは平気な顔をして体幹トレーニングを続けている。自重が軽いから楽々とこなせるというのもあるだろうが、これは日ごろの鍛錬が効いているのだ。
「・・・マッチョさんよりもできてしまっていることにビックリしています。」
王宮の王子育成チームは優秀だ。体幹に関しては同世代のはるか上を行っている。同じ体重で関節技や寝技といったものを多用するスポーツであるならば、アルクに勝てる者などいないのではないだろうか?
「私ができないやつ、やってみますか?」
右手右足のみの膝プランクである。
「あ、できました・・・」
肘と膝はしっかりと正中線に起き、ぐらつきも起きない。綺麗なフォームである。
「これで30秒やってみましょう。これを三セットです。」
「はい!」
なんなくクリアした。左手左足のみの膝プランクも試してみたら無事に成功である。
やはり素振りの習慣がいいのだろう。広背筋だけでなく、体幹で木刀を振る。振る時は括約筋をしっかりと閉める。この習慣だけでこのバランスの良い体幹が作れるのだ。いや、王子の才能もあるか。
「難易度をさらに上げます。膝ではなく、つま先で止めて膝をしっかり伸ばしてください。」
「こうですか?」
完璧な片手片足プランクである。若いとはいえ、なんというセンスだ。
「これも30秒三セットです。」
「はい!」
綺麗なフォームだな。
「たまに鏡を見て姿勢を確認してください。綺麗な姿勢です。」
「はい!」
鏡を見ても軸がブレないし、動かない。人間王の次を担う人材として、肉体のほうは完全に作り込まれている感じだ。
「お終いです。お疲れ様でした。」
息切れをしているな。初めての体幹トレーニングで、ほぼ最高難度のものをこなしたのだ。あとは重量物を増やすか時間を増やすしか負荷の上げ方は無い。
「あ、ありがとうございました!」
「十二分に優れた肉体です。一部の能力は私や王を超えているかもしれません。」
素質は人間王以上かもしれない。
「ありがとうございます!なんだかいつもと違う感じで、少し楽しかったです!」
うん。やはりまだ少年なのだ。焦りもあれば、息抜きも必要だろう。
「今日やったことをいつもやっていることに追加してやってみてください。素振りも安定してくると思います。できそうだと思ったら、セット数ではなく時間を長くしてみてください。」
しかしなぜこの身体で素振りが安定しないのだ?雑念があるというか集中力不足なのだろうか?
「・・・あの、マッチョさん。ちゃんと基礎ができたら、身体を大きくする方法も教えてもらえませんか?」
なるほど。身体の大きさや筋肉の大きさに憧れているのか。気持ちはすごく分かるが、まだ早い気がする。
「もう少し身長が伸びてからにしましょうか。あまり身長や体重が無い時に身体を大きくしようとすると、身体が壊れてしまう事もあるんです。人間王様やソフィーさんもその辺をしっかりと考えていると思いますよ。」
そう。王子の身体は作られた肉体である。きちんとした訓練と栄養摂取と運動によって、計画的に作られた肉体なのだ。この辺を考えていないワケが無い。
「・・・分かりました。今日はありがとうございました。」
「じゃぁまた別の機会に。私も部屋でやらなくてはいけないことがあるので、今日はこの辺で。」
「あの!」
「なんでしょう?」まだなにかあるのか?
「また教えてもらってもいいでしょうか?」
「ええ。姿勢の確認とかしっかりやりましょう。」
「ありがとうございます!失礼します!」
アルクが部屋から出ていった。
教える側もしっかりと鍛えないとな。体重差があるとはいえ、対角線の片手片足膝プランクくらいはしっかりとできるようにしておきたい。もう一度ストレッチからやり直す。
ん?
「ははっ」
アルクは私にトレーニングを教えてもらいたかっただけではない。
あれは少年らしく大人に懐きたかったのだ。
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