84 / 133
84 マッチョさん、アテが外れる
しおりを挟む
「・・・使えないんですか、あの部屋。」
「・・・すまぬな。マッチョだけならともかく、勇者とはいえ他種族に王家の秘密を解放するというのはずいぶんと抵抗があってな。」
王都へ帰って来たらジェイさんと王家のトレーニングルームを使えるものだと思い込んでいたのだが、アテがはずれてしまった。
王の強さの秘密でもあるのだ。ドワーフ以外にあんな機材は作れないとはいえ、他種族に真似をされたら人族の力が弱まるという懸念があってもおかしくは無い。魔王に対する警戒心よりも他種族に対しての抵抗の方が強かったのか。
「マッチョだけなら使ってもいい、ということになった。お前だけ使うか?」
「・・・いえ。私だけというのも納得し難いものがあります。」正直なところトレーニングの機会を逸するのは惜しいが。
「・・・そうだな。私の鍛錬方法についてもマッチョの意見は欲しかったのだが。引き続き反対派の説得は試みてみるつもりだ。精霊が大陸に勇者を与えてくれたというのに勇者を鍛えられないというのは、俺も納得のできない話だ。魔王が出てくる前にやれる事はすべてやっておくべきだ。だがな。やはり魔王の脅威というものを実感できぬ者の方が多数派なのだ。」
魔王や固有種に対しての危機感の差がものごとを進める上で邪魔になっている。いきなり数百年前と同じ危機感を持てと言われても難しいだろう。
「仕方がありません。とりあえず翻訳の仕事をまとめたあとに、ドワーフ国に行きたいと思います。よろしいですよね?」
「うむ。引き続き解読を頼む。」
人間王にも調整のための時間が必要なのだ。王を責めるワケにもいかないだろう。
「・・・・しかしその、褐色の肌というのはいいものだな。」
やはり筋肉に目が行くか。王もまたトレーニーなのだ。
「より精悍に逞しく見えますからね。スジまで綺麗に見えます。」
「初代王はそこまで狙ってリベリを保養地としたのか。うーむ・・・俺も焼いてみるか?しかしこの状況下でリベリに行くとなると・・・うーむ・・・」
人間王の肌は青白い。王というのはデスクワークを中心とした管理職なのだ。部下に丸投げしない程度に几帳面な性格の人間王の仕事っぷりでは、日焼けをする余裕など無いだろう。なにか私だけ出し抜いたようで人間王には悪いが、いつかの肩の筋肥大の出し抜かされっぷりに比べたらたいしたことは無い。
「あまり筋肉の見え方に拘ると、本質から外れてしまいますよ。」
我々トレーニーはカッコいい筋肉を身につけることが目的であり、カッコよく見せるにはその本質である筋肉が大きくなければいけないのだ。日焼けはあくまで筋肉をよりカッコよく見せるための方法であり目的では無い。
「分かっている。分かってはいるが・・・やはり良いものは良いのだ・・・」
そう。良いものは良い。
人間王もまた一人のトレーニーなのだ。
暗号解読の研究室に戻ると、それなりに仕事が貯まっていた。
仮訳の精度がまた上がっているように思える。
「なにか大きな発見はありましたか?」
「うーん。以前にマッチョさんが見つけた、魔物が腐臭を放つという点くらいですかねぇ。魔物が出たきっかけなどもほとんど分かりません。魔王についてもまだ解読が進んでいませんね。」
初代人間王が人間国を統一したあたりから魔物が出始めてたらしい。
当初は害獣を倒すレベルの話だったのだが、魔物が多くなってきて軍を対魔物用に再編した話などが書かれていた。
当初は少なかった魔物の出現。固有種の撃退。魔石の発見と研究。魔物が消えずに腐臭を放つので焼いて処分した話。対固有種用に軍とは別にギルドという飛び抜けた強さを持った人間の召集と訓練。初めての魔物災害とこれの撃退。ギルドへの軍属の配備。魔物撃退数からの魔物災害の予測。都市の数を減らして人を散らせて魔物災害を減らす工夫。魔物災害対策としての遊軍の設立。魔物の王たる魔王の存在を仮定する話もあった。
やはり初代人間王は前線に立つことを好んでいたようだ。いや、好んでいたという感じではないな。この違和感はなんだ?
「初代王が前線に立つということにすごく違和感を感じます。ペンスとイレイスはこの辺をどう読みましたか?」
「私は軍を鼓舞するためのものだと思いました。違和感なんてありましたか?」
「いや。軍を鼓舞するにしても、やはり総大将が前線に立つというのは危険なことだと思う。討たれたら総崩れになってもおかしくないからね。総大将とは別に指揮官を立てていたようですが、それでもあまり良策という感じはしませんね。」
「それもそうか。初代王が前線に立つほど飛びぬけて強かったにしても、言われてみると引っかかるものがあるな。」
そう。前線に立つ理由や動機がイマイチしっくり来ないのだ。魔王とは直接的な関係がある話なのかどうかも分からないが。
「前線に立つ理由ではなく、前線に立つ動機というものは思いつきますか?」
「うーん・・・戦うことがスキだったとか・・・」
「魔物と直接戦わないと分からないことがあったとか。」
なにか動機としては弱いな。二人とも自信なさげだ。
「ロゴスにも聞いてみましょう。近々ドワーフ国にまた行くことになりそうなので。あちらの解読状況も気になりますし。」
「でしたらこちらの写本も持って行ってあげてください。翻訳の方も一山ありますので。」
「アイツもこちらの状況が気になっていると思いますよ。部外秘なのであまり手紙に書くこともできませんからね。」
優秀な同僚である。そんなものまで用意していたのか。
「・・・すまぬな。マッチョだけならともかく、勇者とはいえ他種族に王家の秘密を解放するというのはずいぶんと抵抗があってな。」
王都へ帰って来たらジェイさんと王家のトレーニングルームを使えるものだと思い込んでいたのだが、アテがはずれてしまった。
王の強さの秘密でもあるのだ。ドワーフ以外にあんな機材は作れないとはいえ、他種族に真似をされたら人族の力が弱まるという懸念があってもおかしくは無い。魔王に対する警戒心よりも他種族に対しての抵抗の方が強かったのか。
「マッチョだけなら使ってもいい、ということになった。お前だけ使うか?」
「・・・いえ。私だけというのも納得し難いものがあります。」正直なところトレーニングの機会を逸するのは惜しいが。
「・・・そうだな。私の鍛錬方法についてもマッチョの意見は欲しかったのだが。引き続き反対派の説得は試みてみるつもりだ。精霊が大陸に勇者を与えてくれたというのに勇者を鍛えられないというのは、俺も納得のできない話だ。魔王が出てくる前にやれる事はすべてやっておくべきだ。だがな。やはり魔王の脅威というものを実感できぬ者の方が多数派なのだ。」
魔王や固有種に対しての危機感の差がものごとを進める上で邪魔になっている。いきなり数百年前と同じ危機感を持てと言われても難しいだろう。
「仕方がありません。とりあえず翻訳の仕事をまとめたあとに、ドワーフ国に行きたいと思います。よろしいですよね?」
「うむ。引き続き解読を頼む。」
人間王にも調整のための時間が必要なのだ。王を責めるワケにもいかないだろう。
「・・・・しかしその、褐色の肌というのはいいものだな。」
やはり筋肉に目が行くか。王もまたトレーニーなのだ。
「より精悍に逞しく見えますからね。スジまで綺麗に見えます。」
「初代王はそこまで狙ってリベリを保養地としたのか。うーむ・・・俺も焼いてみるか?しかしこの状況下でリベリに行くとなると・・・うーむ・・・」
人間王の肌は青白い。王というのはデスクワークを中心とした管理職なのだ。部下に丸投げしない程度に几帳面な性格の人間王の仕事っぷりでは、日焼けをする余裕など無いだろう。なにか私だけ出し抜いたようで人間王には悪いが、いつかの肩の筋肥大の出し抜かされっぷりに比べたらたいしたことは無い。
「あまり筋肉の見え方に拘ると、本質から外れてしまいますよ。」
我々トレーニーはカッコいい筋肉を身につけることが目的であり、カッコよく見せるにはその本質である筋肉が大きくなければいけないのだ。日焼けはあくまで筋肉をよりカッコよく見せるための方法であり目的では無い。
「分かっている。分かってはいるが・・・やはり良いものは良いのだ・・・」
そう。良いものは良い。
人間王もまた一人のトレーニーなのだ。
暗号解読の研究室に戻ると、それなりに仕事が貯まっていた。
仮訳の精度がまた上がっているように思える。
「なにか大きな発見はありましたか?」
「うーん。以前にマッチョさんが見つけた、魔物が腐臭を放つという点くらいですかねぇ。魔物が出たきっかけなどもほとんど分かりません。魔王についてもまだ解読が進んでいませんね。」
初代人間王が人間国を統一したあたりから魔物が出始めてたらしい。
当初は害獣を倒すレベルの話だったのだが、魔物が多くなってきて軍を対魔物用に再編した話などが書かれていた。
当初は少なかった魔物の出現。固有種の撃退。魔石の発見と研究。魔物が消えずに腐臭を放つので焼いて処分した話。対固有種用に軍とは別にギルドという飛び抜けた強さを持った人間の召集と訓練。初めての魔物災害とこれの撃退。ギルドへの軍属の配備。魔物撃退数からの魔物災害の予測。都市の数を減らして人を散らせて魔物災害を減らす工夫。魔物災害対策としての遊軍の設立。魔物の王たる魔王の存在を仮定する話もあった。
やはり初代人間王は前線に立つことを好んでいたようだ。いや、好んでいたという感じではないな。この違和感はなんだ?
「初代王が前線に立つということにすごく違和感を感じます。ペンスとイレイスはこの辺をどう読みましたか?」
「私は軍を鼓舞するためのものだと思いました。違和感なんてありましたか?」
「いや。軍を鼓舞するにしても、やはり総大将が前線に立つというのは危険なことだと思う。討たれたら総崩れになってもおかしくないからね。総大将とは別に指揮官を立てていたようですが、それでもあまり良策という感じはしませんね。」
「それもそうか。初代王が前線に立つほど飛びぬけて強かったにしても、言われてみると引っかかるものがあるな。」
そう。前線に立つ理由や動機がイマイチしっくり来ないのだ。魔王とは直接的な関係がある話なのかどうかも分からないが。
「前線に立つ理由ではなく、前線に立つ動機というものは思いつきますか?」
「うーん・・・戦うことがスキだったとか・・・」
「魔物と直接戦わないと分からないことがあったとか。」
なにか動機としては弱いな。二人とも自信なさげだ。
「ロゴスにも聞いてみましょう。近々ドワーフ国にまた行くことになりそうなので。あちらの解読状況も気になりますし。」
「でしたらこちらの写本も持って行ってあげてください。翻訳の方も一山ありますので。」
「アイツもこちらの状況が気になっていると思いますよ。部外秘なのであまり手紙に書くこともできませんからね。」
優秀な同僚である。そんなものまで用意していたのか。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説


元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草
ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)
10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。
親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。
同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……──
※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました!
※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる