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83 マッチョさん、龍族の勇者の訓練に付き合う
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ロキさんとスクルトさんに挨拶をして、最後にリベリのギルドへ行ってリクトンさんに挨拶をした。
お世話になった期間は短いが、関節の保護という面でとても参考になる日々だった。
ロキさんからは子牛が大きくなる頃につがいになる牛の運搬作業を、スクルトさんからは瓶詰の魚を王都に送るので瓶詰事業の助言を頼まれた。リクトンさんからはついでだということで木斧までもらった。
行きは牛に引かせていたのでずいぶんと時間がかかったが、帰りは馬車で二日三日程度の距離である。本当に保養地の距離感だなぁ。
王都に到着したのち、私はギルド本部へと向かった。
ドロスさんに事情を話すと、快く大斧を預かってくれるとのことだった。事実上の封印である。
「リクトンは元気にしていたかね?」
「ええ。短時間だけでしたら斧を振るうにも支障がないようでした。」
もう少しリクトンさんの話を聞いてみたかったが、ギルドマスターと街の長を両方兼任しているのだ。勇者の連れだからあそこまで時間を割いてもらえたのだろう。
「ふむ。腕巻に手首巻か。痛みがあるなら言えばいいじゃろうに。」
「気にするほどの痛みでもないと思っていたんです。リクトンさんにも厳しく言われました。」
実際のところ、股関節でもやらかしたらエラいことになるな。私が居た世界でも股関節を痛めたら、安静にするか股関節周りを手術するしか手は無かったはずだ。
「それを巻いていれば勝負になるかもしれんのう。マッチョ君。時間があるならちょっとジェイの相手をしてやってくれんかね?」
そうか。ジェイさんはずっとこの剣聖ドロスに鍛えられていたのか。仕上がりが気になるな。
「やらせてもらいます。私も実戦形式の稽古は久しぶりです。」
いきなり木斧が役に立つ時が来た。リクトンさんに感謝しないとな。
「マッチョ殿。ご無沙汰しております。」
闘技場に居たジェイさんはずいぶんと体形が変わっていた。しっぽがあるので分かりづらいが・・・いや。しっぽが大きくなっているんじゃないだろうか?あと足が太くなった気がする。
「ジェイさん、ご無沙汰です。ジェイさんのしっぽってそんなに大きかったでしたっけ?」
「鍛えたんですよ。まぁ見ててください。」
「ふむ。では始めるか。十本勝負だ。始め!」
ギャラリーが多いな。まぁ勇者と本部付け冒険者との練習試合だ。それなりに注目はされるだろう。
ジェイさんの長棒を木斧で捌いたり様子を見ていたら、ジェイさんが回転をし始めた。
ん?なんだ?
一瞬戸惑ったスキにしっぽが私のこめかみを狙ってきているのが見えた。急いで木斧で防御しようとしたが、木斧ごと私は吹っ飛ばされて木斧が折れてしまった。もらったばかりだというのに・・・
「ジェイ、一本!」
おおう、と歓声が上がる。なるほど。しっぽを使った戦い方をドロスさんと練っていたのか。いきなり死角から蹴りが飛んでくる印象だ。
「どうですかなマッチョ殿。我の新技は。」
「初見ではかわせないですね。せっかくいただいた木斧が壊れてしまいましたよ。」
「もともと龍族はしっぽで下半身を安定させていたからのう。完全に二足歩行になるように訓練をして、しっぽを第三の足として使えるようにしたんじゃよ。実戦でも使えそうじゃろう?」
私に一撃を食らわせたのが痛快と見える。ドロスさんは嬉しそうだ。
さて。一撃もらったしどうするかな。
「次、お願いします。木刀お借りします。」
「よし、では二本目始め!」
「ふーむ、勝ち切れると思ったんじゃがのう・・・」
「申し訳ありません、師匠・・・」
危なかった。十本勝負はなんとか6-4でしのいだ。私とスクルトさんくらいの差になるか。この程度の差などジェイさんの鍛錬であっという間に消えてなくなるな。
「マッチョ君は木斧ではなく木刀でさらに腕巻というハンデがあったのじゃ。せっかく斧の扱い方をリクトンから学んだ成果を出したかったじゃろうに。すまんのう。」
「いえ、斧でも結果は似たようなものだと思いますよ。威力重視でしっぽを振ってきたので二回目からは対策が練れましたが、改良点があるとすれば使いどころじゃないでしょうかね。速度重視で相手の意識が下に向いたら上から槍で攻めるとか。いずれにしろ初見でどうにかなるものでは無いですね。」
「ふむふむ。それはいい考えじゃのう。上と下を同時に意識させるというのはマッチョ君ならではの発想じゃのう。今度はフェイスで試してみるとするか。」
ドロスさんがあの初見殺し技をみっちりと再訓練するのか。お試しで模擬戦をすることになるフェイスさんが無事だといいのだが。
それにしてもジェイさんは強くなったな。龍族の里で身体強化型の固有種に吹っ飛ばされていた姿はもう過去の話だ。肉の付き方も変わってきた。
「どうにも龍族というのは発想も動きも硬くてのう。同じ魔物を相手にし続けている弊害かもしれん。勝ち筋が決まった動きしかできなくて、鍛え上げるのも苦労したわい。」
「ずーっと基本、基本の繰り返しだったが、これが龍族にとって最良の戦い方なのかどうにも我には自信が持てなかったのだ。マッチョ殿との訓練でしっぽの使い方がだいぶ分かるようになってきた気がする。」
しっぽの速度に筋力か。
うーん。うん?
しっぽの筋トレってどうやればいいのだろうか?
いや、しっぽだとしても筋肉であれば鍛え方というものがあるはずだ。事実ジェイさんのしっぽは大きくなったのだ。後日ジェイさんに鍛え方を聞いてみて、私のトレーニーとしての知見と王家のトレーニング機器の力を合わせれば、ジェイさんは勇者としてさらに強くなるだろう。
お世話になった期間は短いが、関節の保護という面でとても参考になる日々だった。
ロキさんからは子牛が大きくなる頃につがいになる牛の運搬作業を、スクルトさんからは瓶詰の魚を王都に送るので瓶詰事業の助言を頼まれた。リクトンさんからはついでだということで木斧までもらった。
行きは牛に引かせていたのでずいぶんと時間がかかったが、帰りは馬車で二日三日程度の距離である。本当に保養地の距離感だなぁ。
王都に到着したのち、私はギルド本部へと向かった。
ドロスさんに事情を話すと、快く大斧を預かってくれるとのことだった。事実上の封印である。
「リクトンは元気にしていたかね?」
「ええ。短時間だけでしたら斧を振るうにも支障がないようでした。」
もう少しリクトンさんの話を聞いてみたかったが、ギルドマスターと街の長を両方兼任しているのだ。勇者の連れだからあそこまで時間を割いてもらえたのだろう。
「ふむ。腕巻に手首巻か。痛みがあるなら言えばいいじゃろうに。」
「気にするほどの痛みでもないと思っていたんです。リクトンさんにも厳しく言われました。」
実際のところ、股関節でもやらかしたらエラいことになるな。私が居た世界でも股関節を痛めたら、安静にするか股関節周りを手術するしか手は無かったはずだ。
「それを巻いていれば勝負になるかもしれんのう。マッチョ君。時間があるならちょっとジェイの相手をしてやってくれんかね?」
そうか。ジェイさんはずっとこの剣聖ドロスに鍛えられていたのか。仕上がりが気になるな。
「やらせてもらいます。私も実戦形式の稽古は久しぶりです。」
いきなり木斧が役に立つ時が来た。リクトンさんに感謝しないとな。
「マッチョ殿。ご無沙汰しております。」
闘技場に居たジェイさんはずいぶんと体形が変わっていた。しっぽがあるので分かりづらいが・・・いや。しっぽが大きくなっているんじゃないだろうか?あと足が太くなった気がする。
「ジェイさん、ご無沙汰です。ジェイさんのしっぽってそんなに大きかったでしたっけ?」
「鍛えたんですよ。まぁ見ててください。」
「ふむ。では始めるか。十本勝負だ。始め!」
ギャラリーが多いな。まぁ勇者と本部付け冒険者との練習試合だ。それなりに注目はされるだろう。
ジェイさんの長棒を木斧で捌いたり様子を見ていたら、ジェイさんが回転をし始めた。
ん?なんだ?
一瞬戸惑ったスキにしっぽが私のこめかみを狙ってきているのが見えた。急いで木斧で防御しようとしたが、木斧ごと私は吹っ飛ばされて木斧が折れてしまった。もらったばかりだというのに・・・
「ジェイ、一本!」
おおう、と歓声が上がる。なるほど。しっぽを使った戦い方をドロスさんと練っていたのか。いきなり死角から蹴りが飛んでくる印象だ。
「どうですかなマッチョ殿。我の新技は。」
「初見ではかわせないですね。せっかくいただいた木斧が壊れてしまいましたよ。」
「もともと龍族はしっぽで下半身を安定させていたからのう。完全に二足歩行になるように訓練をして、しっぽを第三の足として使えるようにしたんじゃよ。実戦でも使えそうじゃろう?」
私に一撃を食らわせたのが痛快と見える。ドロスさんは嬉しそうだ。
さて。一撃もらったしどうするかな。
「次、お願いします。木刀お借りします。」
「よし、では二本目始め!」
「ふーむ、勝ち切れると思ったんじゃがのう・・・」
「申し訳ありません、師匠・・・」
危なかった。十本勝負はなんとか6-4でしのいだ。私とスクルトさんくらいの差になるか。この程度の差などジェイさんの鍛錬であっという間に消えてなくなるな。
「マッチョ君は木斧ではなく木刀でさらに腕巻というハンデがあったのじゃ。せっかく斧の扱い方をリクトンから学んだ成果を出したかったじゃろうに。すまんのう。」
「いえ、斧でも結果は似たようなものだと思いますよ。威力重視でしっぽを振ってきたので二回目からは対策が練れましたが、改良点があるとすれば使いどころじゃないでしょうかね。速度重視で相手の意識が下に向いたら上から槍で攻めるとか。いずれにしろ初見でどうにかなるものでは無いですね。」
「ふむふむ。それはいい考えじゃのう。上と下を同時に意識させるというのはマッチョ君ならではの発想じゃのう。今度はフェイスで試してみるとするか。」
ドロスさんがあの初見殺し技をみっちりと再訓練するのか。お試しで模擬戦をすることになるフェイスさんが無事だといいのだが。
それにしてもジェイさんは強くなったな。龍族の里で身体強化型の固有種に吹っ飛ばされていた姿はもう過去の話だ。肉の付き方も変わってきた。
「どうにも龍族というのは発想も動きも硬くてのう。同じ魔物を相手にし続けている弊害かもしれん。勝ち筋が決まった動きしかできなくて、鍛え上げるのも苦労したわい。」
「ずーっと基本、基本の繰り返しだったが、これが龍族にとって最良の戦い方なのかどうにも我には自信が持てなかったのだ。マッチョ殿との訓練でしっぽの使い方がだいぶ分かるようになってきた気がする。」
しっぽの速度に筋力か。
うーん。うん?
しっぽの筋トレってどうやればいいのだろうか?
いや、しっぽだとしても筋肉であれば鍛え方というものがあるはずだ。事実ジェイさんのしっぽは大きくなったのだ。後日ジェイさんに鍛え方を聞いてみて、私のトレーニーとしての知見と王家のトレーニング機器の力を合わせれば、ジェイさんは勇者としてさらに強くなるだろう。
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