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77 マッチョさん、リベリに着く
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牛たちが満足するまで牧草を食べ終えてから、私たちはリベリへと向かった。
保養地だというのにこの街には城門がある。なるほど、魔物災害への対策もしっかりしている。
「もともとは初代王が保養地として用いていたらしいです。だから防衛もしっかりしているんですよね。」
この気候といい風景といい、王族の骨休めにはちょうどいい土地なのだろう。
「ここの長の方というのはどういう方なのでしょう?」
「以前話したギルドマスターが街の長も兼任しています。まずは挨拶に行きましょうか。」
街の長とギルドマスターを兼任しているのか。どれだけ優秀な人なのだろうか。
城門をくぐると眼下にはレンガ造りの町、そして白い砂と海だ。
街の入り口で牛を預ける。この辺の連絡はしっかりと行き届いていたらしい。ロキさんはなにかを牛に語りかけながら別れていた。
街に入ると眼下には海と砂浜が見える。海など学生時代以来だな。なるほど程よい日差しと湿気だ。これならタンニングで火傷の心配も無さそうだ。潮風にさらされた白いレンガ造りの低層の建物が味わい深く、どれもガラス窓がはめ込まれている。色と高さとガラス窓が統一感を作り出し、街の美しさを際立たせているのだろう。
そして驚いたのは筋肉濃度だ。タベルナ村ほどではないにしても、なかなかいい筋肉を持った人たちをちらほらと見かける。ギルド本部の上級者と比べても遜色が無い。そして肌はしっかりと褐色に日焼けしていて精悍な印象を持たせている。うーむ、羨ましい。私も早く焼きたいものだ。
「まずはギルド支部に行きましょう。」
「師匠というお話でしたが、やはりスクルトさんと同様に片手剣を使うのでしょうか?」
「いえ、斧使いです。たぶんこの大陸で一番の斧使いですよ。」
ドワーフ以外に私と同じ武器を使う人がいたのか。
リベリのギルドも周囲の建物と同様に白いレンガ造りだ。規模はソロウよりやや小さ目というところだが、中の調度品はソロウよりも高そうだった。
ギルドマスターの部屋へ行くと、樽のような大きな男性が居た。
身長178cm、体重75kg、体脂肪率14%というところか。
「久しぶりだなスクルト。なんとかやっているみたいだな。」
「ご無沙汰しています、リクトン師匠。」
「そちらのデカいのがマッチョで、ややデカいのが勇者ロキ殿だな。リベリを代表して歓迎する。」
私とロキさんはリクトンさんに挨拶をした。
「牛を育てたいという王家の意向は聞いている。この街に来る前に牧草地があっただろう?あそこを人間王は使いたいのだろうな。見た感じどうだった?」
「なんとかなりそうです!牛たちも喜んで牧草を食べていましたよ。」
がっはっは、とリクトンさんは大声で笑った。
「そうかそうか!肉と魚が食えるなんて最高だな!街を挙げて全面協力をするからロキ殿が必要なものはなんでも俺に言ってくれ!」
肉と魚が食える街か。いい響きだが緑黄色野菜も欲しいところだ。
今後の畜産やロキさんの仕事の段取りについて一通り説明を受けたあとに、私の武器の話になった。リクトンさんもやはり斧使いとして気になるのだろう。
「で、それが噂の斧か・・・どえらい得物を使うんだな。マッチョ、ちょっと持ってみていいか?」
「はい、どうぞ。」
「ふおっ、重っ!」
とはいいつつも、両手持ちをした時のリクトンさんの姿は堂に入っている。
「これを片手で振り回すのか・・・」
感心しているというよりも、なにかが気になっているような口ぶりだ。
「マッチョ。お前、どこか身体がオカしくなってないか?」
関節のことか。さすがに分かる人には分かるだろう。
「最近は肘が気になりますね。」
「えっ!そうだったんですか!?」
「いや、そうだろうな。人間が片手で振り回していい重さじゃないぞ、これ。フェイスの手紙で聞いていたが、とんでもねぇことやってるな・・・」
リクトンさんの指摘の通りだ。このままではいつか筋トレに支障が出てしまうだろう。
「俺が引退したのも、関節の痛みが理由なんだよな。メシ食って安静にしていたらだいぶ痛みも減ってきたが、本格的な戦闘や冒険というのはもう無理なんだよな。」
関節が強い負荷に耐えられなくなって冒険者を引退してしまう人もやはりいるのか。リクトンさんが冒険者を終えたように、私にもいつかは筋トレを終える日が来る。そして今のまま戦闘を続けていたら、それはあまり遠くない未来の話だ。
「ちょっと待ってろ。たしかこの辺に・・・ああ、あった。大斧を使うやつが来るって聞いてたから、昔使っていたやつを探しておいたんだよ。」
肘と手首に巻き付ける、革のサポーターだ。それが意味するところに気づいて私は愕然とした。
「俺が冒険者を引退する前に使っていたやつだ。これを肘や手首に巻くことで関節を圧迫して負担を減らす。」
いやそれだけでは無い。可動域を減らすことによって関節への負担も減る。以前にいた世界でバーベルを用いる時に、私も腰に革のサポーターをつけていたではないか。なぜこんな初心者のようなことに気づけなかったのだ?
よくよく考えてみると理由はやや複雑だな。これは冒険者として戦うことと、トレーニーとして肉体を鍛えることを別のことをだと私が思い込んでいたためだ。私の場合は戦闘と筋トレにあまり差が無い。いや、じょじょにその差が失われていったことに私は気づかなかったのだ。マシントレーニングを行える環境にいたらこういう落ち度は無かっただろうが、やはり失態は失態である。
リクトンさんから手渡されたサポーターは明らかに私には小さすぎた。
「うーん、使えないか・・・俺よりデカいからなぁ・・・」
「いえ・・・よろしければこれ、いただけないでしょうか?」
「うん?いいけれど何に使うんだ?」
「お守りにします。」
「がっはっは、そうか!そりゃいいな!」
大きさは問題ではない。私は自分の筋肉を第一に考えているようで、いつの間にかトレーニングを優先してしまっていたのだ。
なぜ私は自分の筋肉を、関節を労わろうとしなかったのだ?
この異世界で私は私の身体に何度助けられた?
己を見失わぬためにも、これはありがたくお守りとして貰っておきたい。
私の慢心を戒めるには、この使い込まれた小さなサポーターが最適だ。
保養地だというのにこの街には城門がある。なるほど、魔物災害への対策もしっかりしている。
「もともとは初代王が保養地として用いていたらしいです。だから防衛もしっかりしているんですよね。」
この気候といい風景といい、王族の骨休めにはちょうどいい土地なのだろう。
「ここの長の方というのはどういう方なのでしょう?」
「以前話したギルドマスターが街の長も兼任しています。まずは挨拶に行きましょうか。」
街の長とギルドマスターを兼任しているのか。どれだけ優秀な人なのだろうか。
城門をくぐると眼下にはレンガ造りの町、そして白い砂と海だ。
街の入り口で牛を預ける。この辺の連絡はしっかりと行き届いていたらしい。ロキさんはなにかを牛に語りかけながら別れていた。
街に入ると眼下には海と砂浜が見える。海など学生時代以来だな。なるほど程よい日差しと湿気だ。これならタンニングで火傷の心配も無さそうだ。潮風にさらされた白いレンガ造りの低層の建物が味わい深く、どれもガラス窓がはめ込まれている。色と高さとガラス窓が統一感を作り出し、街の美しさを際立たせているのだろう。
そして驚いたのは筋肉濃度だ。タベルナ村ほどではないにしても、なかなかいい筋肉を持った人たちをちらほらと見かける。ギルド本部の上級者と比べても遜色が無い。そして肌はしっかりと褐色に日焼けしていて精悍な印象を持たせている。うーむ、羨ましい。私も早く焼きたいものだ。
「まずはギルド支部に行きましょう。」
「師匠というお話でしたが、やはりスクルトさんと同様に片手剣を使うのでしょうか?」
「いえ、斧使いです。たぶんこの大陸で一番の斧使いですよ。」
ドワーフ以外に私と同じ武器を使う人がいたのか。
リベリのギルドも周囲の建物と同様に白いレンガ造りだ。規模はソロウよりやや小さ目というところだが、中の調度品はソロウよりも高そうだった。
ギルドマスターの部屋へ行くと、樽のような大きな男性が居た。
身長178cm、体重75kg、体脂肪率14%というところか。
「久しぶりだなスクルト。なんとかやっているみたいだな。」
「ご無沙汰しています、リクトン師匠。」
「そちらのデカいのがマッチョで、ややデカいのが勇者ロキ殿だな。リベリを代表して歓迎する。」
私とロキさんはリクトンさんに挨拶をした。
「牛を育てたいという王家の意向は聞いている。この街に来る前に牧草地があっただろう?あそこを人間王は使いたいのだろうな。見た感じどうだった?」
「なんとかなりそうです!牛たちも喜んで牧草を食べていましたよ。」
がっはっは、とリクトンさんは大声で笑った。
「そうかそうか!肉と魚が食えるなんて最高だな!街を挙げて全面協力をするからロキ殿が必要なものはなんでも俺に言ってくれ!」
肉と魚が食える街か。いい響きだが緑黄色野菜も欲しいところだ。
今後の畜産やロキさんの仕事の段取りについて一通り説明を受けたあとに、私の武器の話になった。リクトンさんもやはり斧使いとして気になるのだろう。
「で、それが噂の斧か・・・どえらい得物を使うんだな。マッチョ、ちょっと持ってみていいか?」
「はい、どうぞ。」
「ふおっ、重っ!」
とはいいつつも、両手持ちをした時のリクトンさんの姿は堂に入っている。
「これを片手で振り回すのか・・・」
感心しているというよりも、なにかが気になっているような口ぶりだ。
「マッチョ。お前、どこか身体がオカしくなってないか?」
関節のことか。さすがに分かる人には分かるだろう。
「最近は肘が気になりますね。」
「えっ!そうだったんですか!?」
「いや、そうだろうな。人間が片手で振り回していい重さじゃないぞ、これ。フェイスの手紙で聞いていたが、とんでもねぇことやってるな・・・」
リクトンさんの指摘の通りだ。このままではいつか筋トレに支障が出てしまうだろう。
「俺が引退したのも、関節の痛みが理由なんだよな。メシ食って安静にしていたらだいぶ痛みも減ってきたが、本格的な戦闘や冒険というのはもう無理なんだよな。」
関節が強い負荷に耐えられなくなって冒険者を引退してしまう人もやはりいるのか。リクトンさんが冒険者を終えたように、私にもいつかは筋トレを終える日が来る。そして今のまま戦闘を続けていたら、それはあまり遠くない未来の話だ。
「ちょっと待ってろ。たしかこの辺に・・・ああ、あった。大斧を使うやつが来るって聞いてたから、昔使っていたやつを探しておいたんだよ。」
肘と手首に巻き付ける、革のサポーターだ。それが意味するところに気づいて私は愕然とした。
「俺が冒険者を引退する前に使っていたやつだ。これを肘や手首に巻くことで関節を圧迫して負担を減らす。」
いやそれだけでは無い。可動域を減らすことによって関節への負担も減る。以前にいた世界でバーベルを用いる時に、私も腰に革のサポーターをつけていたではないか。なぜこんな初心者のようなことに気づけなかったのだ?
よくよく考えてみると理由はやや複雑だな。これは冒険者として戦うことと、トレーニーとして肉体を鍛えることを別のことをだと私が思い込んでいたためだ。私の場合は戦闘と筋トレにあまり差が無い。いや、じょじょにその差が失われていったことに私は気づかなかったのだ。マシントレーニングを行える環境にいたらこういう落ち度は無かっただろうが、やはり失態は失態である。
リクトンさんから手渡されたサポーターは明らかに私には小さすぎた。
「うーん、使えないか・・・俺よりデカいからなぁ・・・」
「いえ・・・よろしければこれ、いただけないでしょうか?」
「うん?いいけれど何に使うんだ?」
「お守りにします。」
「がっはっは、そうか!そりゃいいな!」
大きさは問題ではない。私は自分の筋肉を第一に考えているようで、いつの間にかトレーニングを優先してしまっていたのだ。
なぜ私は自分の筋肉を、関節を労わろうとしなかったのだ?
この異世界で私は私の身体に何度助けられた?
己を見失わぬためにも、これはありがたくお守りとして貰っておきたい。
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