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70 マッチョさん、休暇が終わる
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翌日には人間王に王都で謁見した。勇者が来るということでかなり派手なものだった。
ジェイさんはただ堂々としていた。精霊に認められたという自信があるから、ああいう立ち居振る舞いを自然と勇者らしくできるのだろう。ツイグはビビりまくっていたが、粗相が無くて良かった。初めての王都でこの程度なら上出来だろう。適当に褒賞を取らす的な話を聞いた気がする。お咎めは無しか。少しほっとした。
例の別室に連れていかれた。
「まったく・・・消えたと思ったら勇者を連れて帰ってくるとはな・・・怒るに怒れないではないか。心配したぞ、マッチョよ・・・」
「申し訳ないです。流れで巻き込まれてしまって・・・」
「まぁ龍族を助けた上に国交を回復させ、龍族の勇者殿を迎え入れられたのだ。人間王としては感謝の言葉しかない。フェイス、マッチョ、ツイグ君だったか?よくやってくれたな。」
「は、はいっす!」
ツイグはまだビビっている。カッチカチだなぁ。下手に喋ってボロを出すよりはマシか。
「いやー、今回も危なかったですよ。龍族の勇者が出なければ死んでたのは俺たちかもしれません。」
「龍族を代表して、人間族に改めて御礼を申し上げる。」
「龍族の勇者殿はやはり魔王に関する手がかりを探しに来たのですかな?」
「うむ。我ら龍族の知見だけでは魔王までは遠く及ばぬ。力量もだ。とにかく勇者として強くならなくてはならないし、他の種族が知る魔王の話も知りたい。」
「ジェイさんが精霊に教えてもらったんですが、魔王も一応人間っぽい恰好をしているみたいですよ。」
「・・・そうか。魔王の姿を見たのか。とりあえず見た目だけでも分かったというのは収穫だ。勇者として強くなりたいというのであれば、ドロスに預けるのが一番だろうな。」
「そうですね。師匠に任せましょうか。」
「もしや・・・剣聖ドロス?本当にいたのか・・・ぜひともお願いしたい!」
剣聖ドロスの名前はあんな僻地にある龍族にまで知られているのか。
衛兵に案内されて懐かしい顔が部屋にやって来た。ロキさんだ。
うーむ、しっかりと鍛え上げたな。ドワーフの体格と巾はそのままに、筋肉自体の大きさが際立っている。体脂肪率15%をしっかり切ってきた。
「マッチョさん、ご無沙汰しています。」
「ロキさん、いい身体になりましたね。」
「マッチョさんが指導してくれたおかげです。里長と五分で戦えるだけになりました。僕ってけっこう強かったんですね。」
これはロキさんの資質によるところも大きい。勤勉な人間だから筋肉がきちんと育ったのだ。
「紹介しよう。ロキ殿はドワーフ国に顕れた勇者だ。土の精霊の恩寵を賜ったのだったな。いま話していたのだが、ロキ殿もドロスに預けようと思っている。」
二人の勇者が挨拶を交わす。伝説の通りであるならば、あとはニャンコ族にエルフ族、そして人間族か。
「しかし、危険を冒してまでなぜ限界領域まで旅に出たのだ?なにも無いだろう。」
「一応ありましたよ。初代人間王がここから先には行くなって暗号文で書いた石碑が。」
「ふーむ、それだけか。」
「まぁあの先に魔王がいるかもしれませんからね。いちおうマッチョには見せておこうと思いまして。なにが書かれていたのか気になりましたしね。」
やはり西の廃墟の墓標には触れないのか。
「あの先に魔王がいると言われると、信じそうになりましたね。そういう場所でした。」
「そうか。俺は行った事が無いが話には聞いていた。フェイス。あそこから魔物の大軍がやって来たら抑えられるか?」
「完全にどうにかするってのは無理ですね。膠着状態を作って押し留めるくらいならできるでしょうが、ワリに合わないでしょう。山の稜線がああも険しいと防衛線を作ることも難しいですよ。」
・・・あれ?黙っていると思っていたら、なんだかツイグがおかしいな。
「ツイグ!」
「おい、ツイグどうした?」
「緊張しすぎて引きつけを起こしたみたいですね。」
「あー、コイツはソロウから出たこと無かったんだな。初めての王都に初めての謁見、勇者二人に会った上で人間王と話しているんだ。白目をむいてしまうことだってあるか・・・」
私は衛兵にお医者さんを呼ぶように頼んだ。
ただの緊張のし過ぎなら、お医者さんに任せておけばいいだろう。
なんだか気が削がれたせいか、王との面会はグダグダのままに終わった。
王城内の自室に久々に戻ったら、部屋に大型の鏡が設置されていた。
以前にちょっと欲しいという話を王にしたことを憶えていてくれたらしい。高炉の近くで作った腹筋台まで置いてある。
文明というか、人間がいるところというのは素晴らしいな。食料があり、タンパク質があり、水があり、トレーニング用具がある。服を脱いで鏡の前でポージングをしてみる。
ふむ。ふむ?
少しデカくなった気がする。肩や上腕二頭筋が以前よりも大きくなったようだ。
・・・そうか。脂質を少し増やしたあとに戦闘をしたため、筋肉がついてしまったのだな。山歩きが続いたせいかふくらはぎも肥大化したように見える。
ふーむ・・・
ここが考えどころだ。以前なら手放しで喜んだが、全体のバランスを考えると少し重すぎる気がする。肩や肘や腰が痛むこともあるが、日常的な動作には問題が無かったので深く考えたりはしなかった。しかし実際に鏡で見てみるとやはり自分の筋肉に向き合い考えなくてはならない。
関節の痛みか・・・加齢だな。
いつかは筋肉に限界が来る。いつだって今が一番若いが、体脂肪率を下げてカットまで行える時間はそれほど残っていない。あと数年というところだろう。それは冒険者として私が働ける期限でもある。関節に痛みを抱えたまま魔物と戦うなどできるはずが無い。
いや、まずは目先の筋肉のバランスだな。全体的に重心が上に来ているのが気になる。山を歩くだけではふくらはぎ周辺しか鍛えられないか。
こういう時にマシンが無いという状況はなかなかツライ。鍛えたいところを鍛えるべき時に鍛えられない苦しみというのは、トレーニー以外には分かってもらえないだろう。
ロゴスとドワーフ王はトレーニング機器のひとつでも再現できたのだろうか?できるだけ早く作ってもらいたいのだが。
ジェイさんはただ堂々としていた。精霊に認められたという自信があるから、ああいう立ち居振る舞いを自然と勇者らしくできるのだろう。ツイグはビビりまくっていたが、粗相が無くて良かった。初めての王都でこの程度なら上出来だろう。適当に褒賞を取らす的な話を聞いた気がする。お咎めは無しか。少しほっとした。
例の別室に連れていかれた。
「まったく・・・消えたと思ったら勇者を連れて帰ってくるとはな・・・怒るに怒れないではないか。心配したぞ、マッチョよ・・・」
「申し訳ないです。流れで巻き込まれてしまって・・・」
「まぁ龍族を助けた上に国交を回復させ、龍族の勇者殿を迎え入れられたのだ。人間王としては感謝の言葉しかない。フェイス、マッチョ、ツイグ君だったか?よくやってくれたな。」
「は、はいっす!」
ツイグはまだビビっている。カッチカチだなぁ。下手に喋ってボロを出すよりはマシか。
「いやー、今回も危なかったですよ。龍族の勇者が出なければ死んでたのは俺たちかもしれません。」
「龍族を代表して、人間族に改めて御礼を申し上げる。」
「龍族の勇者殿はやはり魔王に関する手がかりを探しに来たのですかな?」
「うむ。我ら龍族の知見だけでは魔王までは遠く及ばぬ。力量もだ。とにかく勇者として強くならなくてはならないし、他の種族が知る魔王の話も知りたい。」
「ジェイさんが精霊に教えてもらったんですが、魔王も一応人間っぽい恰好をしているみたいですよ。」
「・・・そうか。魔王の姿を見たのか。とりあえず見た目だけでも分かったというのは収穫だ。勇者として強くなりたいというのであれば、ドロスに預けるのが一番だろうな。」
「そうですね。師匠に任せましょうか。」
「もしや・・・剣聖ドロス?本当にいたのか・・・ぜひともお願いしたい!」
剣聖ドロスの名前はあんな僻地にある龍族にまで知られているのか。
衛兵に案内されて懐かしい顔が部屋にやって来た。ロキさんだ。
うーむ、しっかりと鍛え上げたな。ドワーフの体格と巾はそのままに、筋肉自体の大きさが際立っている。体脂肪率15%をしっかり切ってきた。
「マッチョさん、ご無沙汰しています。」
「ロキさん、いい身体になりましたね。」
「マッチョさんが指導してくれたおかげです。里長と五分で戦えるだけになりました。僕ってけっこう強かったんですね。」
これはロキさんの資質によるところも大きい。勤勉な人間だから筋肉がきちんと育ったのだ。
「紹介しよう。ロキ殿はドワーフ国に顕れた勇者だ。土の精霊の恩寵を賜ったのだったな。いま話していたのだが、ロキ殿もドロスに預けようと思っている。」
二人の勇者が挨拶を交わす。伝説の通りであるならば、あとはニャンコ族にエルフ族、そして人間族か。
「しかし、危険を冒してまでなぜ限界領域まで旅に出たのだ?なにも無いだろう。」
「一応ありましたよ。初代人間王がここから先には行くなって暗号文で書いた石碑が。」
「ふーむ、それだけか。」
「まぁあの先に魔王がいるかもしれませんからね。いちおうマッチョには見せておこうと思いまして。なにが書かれていたのか気になりましたしね。」
やはり西の廃墟の墓標には触れないのか。
「あの先に魔王がいると言われると、信じそうになりましたね。そういう場所でした。」
「そうか。俺は行った事が無いが話には聞いていた。フェイス。あそこから魔物の大軍がやって来たら抑えられるか?」
「完全にどうにかするってのは無理ですね。膠着状態を作って押し留めるくらいならできるでしょうが、ワリに合わないでしょう。山の稜線がああも険しいと防衛線を作ることも難しいですよ。」
・・・あれ?黙っていると思っていたら、なんだかツイグがおかしいな。
「ツイグ!」
「おい、ツイグどうした?」
「緊張しすぎて引きつけを起こしたみたいですね。」
「あー、コイツはソロウから出たこと無かったんだな。初めての王都に初めての謁見、勇者二人に会った上で人間王と話しているんだ。白目をむいてしまうことだってあるか・・・」
私は衛兵にお医者さんを呼ぶように頼んだ。
ただの緊張のし過ぎなら、お医者さんに任せておけばいいだろう。
なんだか気が削がれたせいか、王との面会はグダグダのままに終わった。
王城内の自室に久々に戻ったら、部屋に大型の鏡が設置されていた。
以前にちょっと欲しいという話を王にしたことを憶えていてくれたらしい。高炉の近くで作った腹筋台まで置いてある。
文明というか、人間がいるところというのは素晴らしいな。食料があり、タンパク質があり、水があり、トレーニング用具がある。服を脱いで鏡の前でポージングをしてみる。
ふむ。ふむ?
少しデカくなった気がする。肩や上腕二頭筋が以前よりも大きくなったようだ。
・・・そうか。脂質を少し増やしたあとに戦闘をしたため、筋肉がついてしまったのだな。山歩きが続いたせいかふくらはぎも肥大化したように見える。
ふーむ・・・
ここが考えどころだ。以前なら手放しで喜んだが、全体のバランスを考えると少し重すぎる気がする。肩や肘や腰が痛むこともあるが、日常的な動作には問題が無かったので深く考えたりはしなかった。しかし実際に鏡で見てみるとやはり自分の筋肉に向き合い考えなくてはならない。
関節の痛みか・・・加齢だな。
いつかは筋肉に限界が来る。いつだって今が一番若いが、体脂肪率を下げてカットまで行える時間はそれほど残っていない。あと数年というところだろう。それは冒険者として私が働ける期限でもある。関節に痛みを抱えたまま魔物と戦うなどできるはずが無い。
いや、まずは目先の筋肉のバランスだな。全体的に重心が上に来ているのが気になる。山を歩くだけではふくらはぎ周辺しか鍛えられないか。
こういう時にマシンが無いという状況はなかなかツライ。鍛えたいところを鍛えるべき時に鍛えられない苦しみというのは、トレーニー以外には分かってもらえないだろう。
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